ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第282話: 遊びに、ではなくて

 

 

 

 ……千賀子の前世での1987年もまた、中々にハードな一年である。

 

 

 具体的には1月、年を明けて半ばぐらいに、なんと教師の体罰によって死亡者が出たというニュースが全国紙に載った。

 

 その動機は、『集中力を欠いている』、であった。

 

 小学生教師が生徒の頭を複数回殴り、それによって硬膜下血腫を発症し、死亡した……というのが一連の流れである。

 

 また、それまで日本国内でも確認され、潜在的に増えているとされた『エイズ感染者』……その中でも、初の女性患者が確認されたのも、この年であった。

 

 この女性患者は、いわゆる売春行為によって生計を立てていた人物だったそれ、調査を進めた結果、100人以上の男性と性交渉を行っていた事が明らかになった。

 

 

 いわゆる、『エイズ・パニック』である。

 

 

 この頃はまだまだエイズに関する知識も研究も不十分で、周知もまったく成されていない未知の病気としての意識が強かった。

 

 実際、エイズ感染が確認された患者に対して、病院側が『看護者や、他の患者が怖がるから』という理由で強制退院を行う事もあった。

 

 医療従事者なのに……と、現代感覚に洗練された一部の者たちは思うかもしれないが、これも致し方なかった。

 

 なにせ、『エイズ』という名はまだまだ外国の病気という認識であり、医療従事者であっても、名前しか知らないなんてのはなんら珍しい事ではなかった。

 

 現代では感染経路がしっかり確立され、どのような対策をすれば感染を防ぐことが出来て、発症を抑えられるのか……そこまで分かってきているが、この頃は手探り以前の状態。

 

 加えて、現代よりもまだ使用した医療器具などの取り扱いが徹底されていなかったこともあり、『もしも、自分が感染したら……』という意識が瞬く間に広がってゆき。

 

 それを含めて、都の各病院に連日連夜電話が殺到し。

 

 一日に平均して1000件以上も電話が掛かり、本来の業務が滞る事態となった。

 

 エイズ対策として都はテレホンサービスを設けたのだが、あっという間に回線がパンクし、一日の間に2万件以上もの電話が殺到したのだとか。

 

 また、社会不安を始めとした様々な要因から咳止め薬の過剰摂取が横行したり、霊感商法への集団告訴が行われたり、1万円札偽造グループが逮捕されたり。

 

 天皇が慢性すい炎にて緊急入院&手術のニュースが連日連夜流れたり、コインロッカーにバラバラ死体が見つかって連日連夜ニュースになったり。

 

 

 他にも、学校関係だけでも、だ。

 

 

 いじめによる自殺が毎月のように報道され、教師からの体罰もまた毎月のように報道され……特に、一部での行き過ぎた管理が問題視された。

 

 たとえば、生徒たちの下着の色を『派手過ぎない、白が望ましい』ということで抜き打ち検査が行われたなんて話や。

 

 教師の非行問題がニュースになり、飲酒運転、体罰、窃盗、わいせつ、様々な問題行動を起こしている事を踏まえ、対策をするべきだと声が上がる……等々など。

 

 エマの三者面談や、春人の授業参観、その他様々な家庭の通過儀礼を通りつつも、千賀子はそんな1987年を迎えて……そして、時は3月。

 

 

『──タマモクロス! タマモクロスは7着! 秋山オーナー最後の馬、タマモクロスは7着撃沈!』

 

 

 競馬新聞どころか、全国紙の新聞にそんな感じの見出しが載っているのを見た千賀子は、思わずツッコミを入れた。

 

 

「いや、いくらなんでも騒ぎすぎでしょ……いくら馬主だからって、こんな全国紙に載る?」

「むしろ、なぜ載らないと思ったのですか?」

 

 

 そんな千賀子に対して、ロボ子は冷静にツッコミを入れた。

 

 この場合、ロボ子の言い分が100%正しかった。

 

 千賀子が、一般的な馬主だったならば、まだそこまでではなかっただろう。だが、千賀子は一般的な馬主ではない。

 

 日本で唯一、個人所有の競馬場オーナー。

 

 これまで数々の名馬を見抜き、今もなお千賀子が所有している馬への種付け依頼などが続いている人物だ。

 

 そんな人物が、これで最後と定めた……走らないというジンクスが囁かれている、葦毛の馬。

 

 既に、カツラギエースは現役を引退した。本当に、千賀子にとっては最後の馬である。

 

 その葦毛の馬は、一般的な基準でみたら、そこまで馬主たちの気を引くような外見をしていなかった。

 

 葦毛という目立つ要素こそあるものの、身体は小さく、飼葉の食いも良い方ではない。

 

 これまで、掴む馬、掴む馬、軒並みG1馬、重賞馬として大成してきた……そんな千賀子が最後に選んだのである。

 

 そりゃあ、人気が出て当たり前である。

 

 最後の最後に、千賀子もまた他の多数の馬主たちと同じく、未勝利の壁を突破出来ないまま終わってしまうのか。

 

 それとも、最後の最後まで、名伯楽として終わるのか。

 

 それを見届けようと、重度の競馬ファンのみならず、名前くらいしか知らない競馬ファンだけでなく、周りが騒いでいるからと見始めた者まで。

 

 とにかく、そういった様々な理由から、その馬は周りから注目を集めているわけであった。

 

 

「……そうか、私もいつの間にか、何かやればニュースになっちゃう時の人の仲間入りか」

「え、今さらですか?」

「いや、ちゃんと自分が有名人だってのは分かっていたよ。でも、こんなちょっとした事でニュースになるほどだとは……」

「え、今さらですか?」

 

 

 何気ない千賀子の呟きに、ロボ子は思わずツッコミを入れる。

 

 

 この人、まだその段階なの? 

 

 

 ロボ子の表情を言葉にしたら、まさにそんな感じで……これもまた、ロボ子の意見が100%……いや、でも、これにはいちおう理由はあった。

 

 まず、千賀子がいる『神社』にマスコミは入れない。

 

 女神的なアレの他にも、千賀子の巫女的パワー、『山の主』的なパワーなどによって、そういった者たちを軒並みシャットアウトしているからだ。

 

 他にも、そういった目立ち方を好まないことを知っている関係者が、極力マスコミを千賀子の前から排除する。

 

 この排除とは、千賀子の実家や地元に対しても同様である。

 

 例外は『春木競馬場』に居る時にオーナーとしてあいさつに出ている時ぐらいで、その時ですら、職員などがそれとなく制限を掛けて押しかける人を減らしていた。

 

 これは、政界・角界・経済界問わず共通しており、道子たちのような家柄の者たちからの共通認識として受け止められていたのも大きかった。

 

 いくらマスコミでも、そんな者たちから一斉に敵視されるのは敵わないと思うわけで。

 

 また、千賀子自身は『春木競馬場』内では比較的友好的にインタビューを受けてくれることもあって、バランスが取れていた。

 

 そんな諸々の事情もあって、いまだ千賀子自身の認識と、他者から向けられる実際の認識とが、うまくかみ合っていなかったのであった。

 

 

 ……まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 あまり注目を浴びさせてしまうのは申し訳ないなあ……と思っている千賀子の下に、とある人物よりお手紙が届いていた

 

 その手紙の差出人は、冴陀等村の村長だ。

 

 正確には村長からというより、代表をする形で村長名義で送られてきたのだけど……それを見た千賀子は最初、けっこう驚いていた。

 

 なんでかって、年末年始を始めとした例年の挨拶と、定期的に送られて来る『秋山千賀子を称えるお手紙』以外に、あそこから手紙が来たのはこれが初めてだったからだ。

 

 たまたま、今回は連続して送られてきたのか、それとも別件か……とりあえず、千賀子は手紙の中身を確認した。

 

 

 ……内容を、一言でまとめると、だ。

 

 

『エイズ・パニックによって冴陀等村の経営に大打撃が生じているので、何か知恵を貸してほしい』、とのことだ。

 

 さすがに、これだけだとどういう事だと首を傾げる人が多いと思うので、久しぶりに『冴陀等村』について軽く説明をしよう。

 

 冴陀等村とは、要はかなりヤベー歴史を積み重ねて熟成された、超ヤベーカルト因習村的な……そういう村である。

 

 まあ、カルトとは言っても、人を食ったり生贄に捧げたりとか、そういう方面でのカルトではない。

 

 この辺を説明し始めるととんでもなく長くなるので省くが、色々あった結果、この村は現在とある事業で生計を立てている。

 

 

 その事業とは、『性風俗』だ。

 

 

 アングラじゃないかと問われたら否定は出来ないが、この村では一般的なイメージにある性風俗とは根本から違う。

 

 関わったのであれば最後までという千賀子の方針の下、色々と手を貸したりはしたが……断じて、この村の者たちは強制されてやっているわけではない。

 

 彼ら彼女らにとって、間違いなく自ら望み、誇りを持って……それゆえに、千賀子もあえて口出しはせず、それでやっていこうと決めたのであればと静観していたのだけど。

 

 

「……エイズの話って、そんなところまで影響が出ていたの?」

「いちおう、少し前より風営法が改正されて性風俗への取り締まりが厳しくなったりはありましたが……それ抜きで、かなりイメージが悪化していると思われます」

「つまり?」

「大部分は性風俗にて生計を立てているので、かなりの大打撃なのは誇張抜きかと。実際、冴陀等村の収益を先ほど確認致しましたが、目に見えて客入りが減っているようです」

「おぉ……性欲も、さすがに病気の前には負けるか……」

 

 

 内容はなんであれ、このまま静観というわけにもいかない。

 

 

(……2号、冴陀等村の状況ってどうなっているの?)

(──既に手紙が届いているとおりよ。まあ、今すぐ焦る必要はないのだけど、これが年内ずっと続くとなれば、色々と手を考えないとダメだわね)

 

 

 現在、冴陀等村にて常駐みたいになっている2号へ念話を送れば、2号からはそんな返事が……うむ、仕方がない。

 

 

 ──少し、この目で様子を見に行くとするか。

 

 

 一つ、腰を上げた彼女は……冴陀等村へと行く準備を始めたのであった。

 

 

 

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