ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──以前は冴陀等村の中で一番立派な建物の最上階が千賀子の部屋であったが、さすがにエマを連れて来るようになってからはそうではない。
千賀子一人で貸切るのはもったいないし、あまりにも広すぎて落ち着かないからだ。
なので、村の端の方に千賀子たちが寝泊まりする家を建ててもらい……つまり、別荘だ。
さすがに、今はエマも春人も居るわけだし……それからは、様子を見に来た時は基本的にそこで寝泊まりするようにしている。
いちおう、冴陀等村にも『神社』はあるのだけど、エマには普通の家での暮らしというやつを体験してほしいから、とある時期からはその家を使うようにした。
まあ、後は……見た目には分かりにくいけど、村全体が性風俗を生業にしている(いちおう、ソレ以外もある)わけだし。
ちゃんと事情が理解できる大人になってからならまだしも、まだまだ揺れ動きやすい思春期にあそこは……と、思ったわけである。
で、話を戻すが、その冴陀等村へとやってきた千賀子は、別荘にてまず2号と顔を合わせた。
「どうする、『同期』する?」
2号のその言葉に、千賀子は静かに首を横に振った。
効率性を考えたら『同期』が手っ取り早い。
ぶっちゃけ、一瞬で2号が把握しているすべての情報を千賀子が得ることが出来る……が、千賀子はもう分身たちとは『同期』をしていない。
明確な理由があるわけではないが……同期を行えば、分身たちの精神にも相応の影響を与える。
元は己ではあるけれども、細かい部分が己とは違う分身たちを、千賀子はそのままにしておきたいと思っていた。
「じゃあ、送りながら簡単に説明するから付いてきて」
「その前に、あの子たちに顔を見せに行くわ」
あの子たちとは、冴陀等村にて面倒を見ている……千賀子が最初の頃に購入した競走馬たちの事だ。
今ではすっかり過去の馬になってしまっていて、余生を送っている。
北海道の方で牧場が出来た後、そちらに移した馬もいるけど、この村に居る馬はその時点でけっこうな高齢であった。
ここは『神社』があるおかげで災害とも無縁なおかげで、とても穏やかな空気が流れている。
広いとはいえ、慣れていない北海道へと連れて行くよりも、肌に馴染んだ空気と水のここで余生を送るべきだと千賀子は思ったわけだ。
もちろん、馬たちにもちゃんと話を聞いたうえでのこと。
ここを気に入ってくれている彼らも、ここで最後を迎えたいとのことで……話を戻そう。
2号と共に別荘を出た千賀子は、2号に連れられるがまま……現在の冴陀等村について改めて話を聞いた。
大まかには、千賀子の知る冴陀等村からは変わっていないのだが、細かな部分が以前とは違うとのこと。
まず、売春を行う建物だけど何度か改装行った旧館と、新しく増設した新館とで分けられているとの事だ。
それを建てられるということは、それだけ商売繁盛だったというわけで……ちなみに、馴染みの客の中には旧館の方が好みだとして、そちらに好んで泊まる人も多いのだとか。
……で、現在問題になっているのは、客の数が目に見えて減っているということだ。
その理由は、先月ぐらいから騒ぎが広がっていた、『エイズ・パニック』のせいらしい。
まあ、無理もない。
SEXというのは、ぶっちゃけてしまえば互いの生殖器という名の粘膜をこすり合わせて行うモノだ。
ただ触れたぐらいで必ず感染するわけではないが、肌をすり合わせるよりは感染リスクが高い。
この頃のエイズは『不治の病』、『感染すれば必ず発症』、『苦しみ抜いて死ぬ』といったキャッチコピーが様々な場所で見られ、誤解が誤解を呼ぶ悪循環に陥っていた。
その影響はすさまじく、エイズ感染の疑いがあれば、即座に隔離された者が……さて、何度目かにもなるが、話を戻そう。
とにかく、冴陀等村は収入の大半を『売春』で稼いでいる。
それが一気に減ったとなれば、そりゃあ冴陀等村でなくとも、ちょっと相談をば……となるのも当たり前であった。
……。
……。
…………そうして、2号よりひととおり話を聞いた後。村長たちに出迎えられた千賀子は、そのまま……うん。
「ここはいつ来ても、キレイにしてあるのね」
「まあ、普段は私がここで寝泊まりしているし」
見慣れた内装……というか、一時期自分の部屋同然に使っていた、いつもの部屋へと通された千賀子は。
ズサーっと、一斉にこちらに向かって土下座な感じに頭を下げている村人たちを見やってから……改めて、千賀子はどうしたものかなと首を傾げた。
──正直なところ、冴陀等村が売春業に専念したのは、村人たちの特性と地形的な問題でもある。
結論からいえば、冴陀等村の人たちは諸事情から村から離れるのは精神的にマズイ。
かといって、冴陀等村の地理的に、外貨を得られるほど恵まれたナニカがあるわけでもない。
ぶっちゃけてしまえば、だ。
この村に引きこもったままだといずれジリ貧になって滅ぶしかなくなるから、外貨が欲しいわけだが。
(う~ん……でも、この人たちって精神的にヤバいレベルの仲間意識だからな……)
とはいえ、このまま見て見ぬふりというのも……ん?
「なにか、変な音が……」
空耳かと思ったけど、気になった千賀子はそそくさと窓へと……開けて、見下ろせば、だ。
──ありがとうございます!
──今日も良い子になりました!
──今日は悪い子になりました!
──明日はもっと良い子になりましょう!
──ありがとうございます!
なんか、変な事を叫んでいる、パンツ一枚の謎の集団が居た。老若男女を問わず、なんか明らかに様子がおかしい。
いや、パンツ一枚の時点でおかしさ全力なのだけど、それ以上に、その集団……なんかこう、全員が怪我をしているように見える。
遠目にも分かるくらいで、一人の例外もなく、手足や頭や身体に包帯が巻かれ、血が滲んでいるのが確認できる。
あと、半数近くが毛髪が無くなっていて、目を凝らせば、歯が欠けている者も何人か……ていうか、なんか歩き方もぎこちない。
折れている……というよりは、なんだろうか。
まるで、歩き方をうまく思い出せず、なんとか頑張って歩こうとしているような……なんとも、不気味な動きをしている。
明らかに正気を失っているご様子で、もしも目の前に現れたら問答無用で殴り倒しているぐらいには……え、や、なにあれ?
「2号、ナニアレ?」
「良い子よ」
「は?」
「悪い子が、良い子になっただけって、女神様がね」
「……え、アレ、まだいるの?」
言われて、千賀子はようやく思い出した。
そう言えば、ずっと以前……冴陀等村にちょっかいというか、首輪を付けて裏からコントロールしようとしていた人たちとか、知る権利がどうのこうのって騒いでいた人たちがいたことを。
別に、彼ら彼女らに同情しているわけではない。
千賀子は以前、この村を管理していた者たちを通じて、『冴陀等村に無用なちょっかいを掛けるべからず』と強く、それは念を押した。
だから、その後に正義感なのか欲望なのかはさておき、手を出して来た以上はどうなろうが結果を受け入れろというスタンスで合った。
「てっきり、もう死んでいるか解放されたとばかり思っていたのだけど……」
そして、そこまで関心も無かったから、そのうち野に解き放たれて放置されるだろうと思っていたわけである。
「いえ、開放はされるわ」
「??? じゃあ、なんで?」
「悪い子になったと思って、また良い子になりにくるのよ」
「……??? あ、そう」
「ちなみに、私の顔を見るとこの世の地獄を前にしたかのように前後不覚になって何処かへ走り去っていくわ」
「…………」
それって、もしかしなくても、私が顔を見せたら同じ反応をされるのでは……と思ったが、千賀子はあえて口に出すような事はしなかった。
──で、話を戻すけど、事の発端は『エイズ・パニック』である。
これの何が恐ろしいって、見た目からはキャリアの有無が分からないということを。そして、感染しても初期の自覚症状が無いということ。
人によっては風邪に似た症状が数日程度出るらしいが、知識が無かったらほぼ100%の人が、ただの風邪だと思ってしまう。
そして、それが終われば数年以上も無症状が続く……つまり、後になって思い返そうとしても、どこで感染したのかが分からなくなる。
だから、一度広がってしまえばもう根絶は不可能に近く……とりあえず、現時点でやれるのは……エイズに関する正しい知識を啓蒙してやるぐらい……なのだろうけど。
(いやいや、まだまだ未知の話なのに、いきなりコレが正解ですって訴えて、はたしてどこまで通じるか……)
冴陀等村の人たちは信じるだろう。この人たちにとって千賀子は文字通りの神様であり、絶対不可侵の存在だから。
問題は、村の外。
間違いなく、『その情報は、どこから仕入れたのか?』と問われるだろう。なにせ、事が事だ。
いちおう、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通せばうやむやに出来るだろうけど……これは諸刃の剣過ぎて、正直使いたくはない。
(ぶっちゃけ、性産業を廃止するのがベターなんだろうけど、そんなゲームじゃあるまいし、はいそうですかってわけにもいかんのよなあ……)
千賀子も、『春木競馬場』を通して色々な人を面接してきたから分かっているが……誰しもがパッと身動きできるわけではない。
一か所に留まり腰を据えてやるのが性に合っている者もいれば、次々に上を目指したい人も居る。
どちらが正解かは、千賀子にも分からない。人間、どれだけキャリアを積んでも死ぬときは死ぬのだから。
それに、冴陀等村の人たちは、別に仕方なくやっているというわけではなく、自ら望んで誇りをもってやっているわけで。
それを、上から目線で『間違っている』 と言うのも……うむ。
『……ロボ子』
『はい』
扇子を出して、村人たちに聞こえないよう声を潜めての内緒話。
『いちおう聞いておくのだけど、この村ではまだエイズ感染者はいないんだよね?』
『はい、それはすでに確認済みです。現時点では、この人たちだけでなく、この村周辺にもエイズウイルスは確認されておりません』
啓蒙するにしても、今日明日でどうにかなる話じゃない。
一度広まったデマは、それこそ10年、20年……30年経ってもまだ真実を嘘と決めつけデマを信じる人が現れる。
なので、出来るならばこういう事はしたくないが……この村の人たちはこの村から出られない以上、千賀子が取れる手段は一つであった。
『適当にそれっぽく、この村の人たちはエイズ検査をパスしたっていう診断書とか作って……』
『はい』
『客たちも、事前に来る時は検査するよう徹底して。もしも感染していたら、その人は治療して……できる?』
『可能です、採血時や飲み物にナノマシンを投与して飲ませます』
それを聞いて、ひとまず千賀子は安堵のため息を吐いたのであった。
……。
……。
…………それが場当たり的な対応だというのは分かっていた。しかし、現状はそれぐらいしか手が無かった。
なにせ、悪戯でデマを拡散させる者が少なからず居るわけだし、デマをデマだと思わず善意で広める者も居る。
こればかりは、時間を掛けて少しずつ改善していくしかない……と、千賀子は思ったのであった。
──が、しかし。
まるで、そんな千賀子の内心をあざ笑うかのように。
『Welcome to the world of AIDS』
とあるホテルにて。
その言葉がデカデカと書かれた鏡の写真……行きずりの女性からエイズを移されたという男の嘆きが、週刊誌に掲載されたのであった。