ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
『Welcome to the world of AIDS』という言葉は、エイズを語るうえでは外せない有名な都市伝説……と、されている。
エイズによる色々な都市伝説は世界中で確認されており、別に日本に限った話ではなかったのである。
この都市伝説の影響は根深く、都市伝説だと言われても心のどこかで『でも、本当は?』という疑念を生み出してしまったのが……で、だ。
総理を通じて、『エイズ』に関する正しい知識を広報するように、そうしないとコレはかなり後にまで尾を引く問題になるからと忠告してから……千賀子は、エマにも話を通しておいた。
「──エマ、貴女に真面目な話があります」
「なに?」
居住まいを正す千賀子に、エマも背筋を伸ばして向き直った。
「エマも、高校生になりました。年頃ですし、そろそろ……異性とSEXをしてみたいという興味が湧いてくると思っています」
「……ママ、そういう事はズバッと真正面から聞いてくるのね? 真面目に言われると、けっこう恥ずかしい」
「大真面目にもなるって。まん〇にちん〇を入れて出したら妊娠するのだから、ここだけは恥ずかしかろうが曖昧には出来ません」
ほんのり頬を赤くしたエマ……だが、千賀子は大真面目にそう言葉を続けた。
「エマから見て、私は美人だと思う?」
「親子のひいき目を抜きに考えても、すごい美人だと思う。学生の時とか、周りが放っておかなかったんじゃないの?」
「想像のとおり、私はモテました。そりゃあもう、学校どころか近隣の男たちからも滅茶苦茶モテました」
「おお……」
「ぶっちゃけ、エマの想像しているよりも100倍はモテていたと思う。なにせ、干していた下着が汚されるのが当たり前なぐらいだったから」
「……えぇ?」
「ちなみに、比例するように同性からも滅茶苦茶嫌われました。私、何もしていないのに男を誑かす毒婦みたいな目で見られていました」
「えぇ……」
「まあ、私の事はいいの。大事なのは、エマの今後の事よ」
絶句するエマを他所に、千賀子は改めてエマに忠告する。
「エマ、別にSEXは悪い事じゃないわ。汚らしい事じゃないし、それ自体は生物が持っている当たり前の欲求で、気に入った異性……あるいは同性とSEXしたいと思うのも間違ってはいない」
「う、うん」
「でも、貴女は気を付けなくてはなりません。最悪の場合、男は出しても知らんぷり出来ますけど、女は出されたら孕みます。特に、エマぐらいの歳頃は本当にあっさり孕みます」
「……うん」
「ちなみに、中に出されなくてもちん〇を突っ込んだ時点で孕む可能性があるからね。外に出せば生でも大丈夫なんて過信は捨てるように」
「え、そうなの?」
再び絶句するエマを見て、千賀子は改めて性教育の難しさを痛感した。
千賀子が学生だった時に比べて少しずつ性教育は充実(?)していっているとは思うけど、受ける側の認識がコレなのだ。
まあ、致し方ないとは思う。
50代、60代なら半ば他人事として耳を傾けられるが、10代思春期ど真ん中に正しい性知識なんて、無茶なのだろう。
でも、一人の人間として生まれている以上は、避けては通れない道だ。
股が自動扉みたいに勝手に開いてしまうなら、あるいは無理やり開かされて強引に致されてしまったのであればともかく。
そもそも、望まぬ妊娠というのは強姦を除けば、避妊具を使ったのに失敗したという以外に無いというのが千賀子の持論である。
大なり小なり、『この人に好かれたい、気を引きたい』という思いから股を開くわけだから、当人にまったく責任が無いわけではない。
分別も知識も欠けている小学生の年頃ならともかく、中学生にもなればある程度の知識はちゃんと教えてくれる。
性教育自体は、それこそ中学生の時から受けているわけだし、最低でもヤル事ヤッたら妊娠するという知識はある。
恥ずかしがってあまり聞こうとしなかったにしても、最低限そこだけは覚えようとしないのは当人の責任だ。
だからこそ、それすら知らないとなれば、『あんた、恥ずかしがらずに授業は真面目に聞け』と、愛娘であろうと怒るところ。
それが高校生にもなって、この人ならばと許可を出して股を開いた時点で……長年に渡って男(一部、女からも)から性欲を向けられてきたからこその、千賀子なりの結論である。
「そして、これから先、避けて通れないのが……巷で話題になっているエイズです」
その言葉と共に、千賀子はそっと懐より……小さな長方形の箱を差し出した。
それは、何やら花のマークがしるされた箱で、大きさは……トランプより一回り大きいぐらいであった。
「なにこれ?」
手に取って首を傾げるエマに、千賀子はキッパリ告げた。
「コンドームよ」
「こ──っ」
瞬間、エマは顔を赤らめて箱を放り投げた──それを、神通力でスパッと受け取った千賀子は、真面目な顔で話を続ける。
「いい、エマ。現状、エイズを防ぐ効果的な道具はコレだけなの。だから、もしも貴女が異性とSEXしても良いと思った時の事を考えておきなさい」
それは、とても真面目な話であった。
このコンドームはロボ子が用意したものではない。
現代ではすっかり見かけなくなった、避妊具専用自販機より購入した、市販品である。
そう、昔に比べて自販機の数が減っているので知らない若者が多いと思うが。
実は昭和40年代半ば頃には、『明るい家族計画』というキャッチコピーが書かれたコンドーム自販機がチラホラあった。
現代とは違って、この頃はまだまだコンドームに対する認知が低かった事に加え、薬局で避妊具を買うという行為に多大な羞恥心を覚える人が多かった事から需要があったらしい。
ちなみに、キャッチコピーの由来はあまりにも急激に人口が増加していたので、それを抑えるため……というもの。
昭和1987年(昭和62年)のこの頃でも現役で、特に今年は『エイズ』という病が日本に来た事で、一躍脚光を浴びる事となった。
かつては『明るい家族計画』と呼ばれたソレは、『STOP! エイズ!』というキャッチコピーが新たに付けられた……というわけだ。
「いいわね? 一度でも罹ったら、エイズは治せない。少なくとも、今は……自分の身は自分で守るのよ」
「……うん」
「別に、SEXを怖がらなくてもいいの。ただ、生でしたいって言い出した時点で、相手は責任を取る気なんてほぼ無いって事は、頭の片隅に常に置いておきなさい」
「……はい」
いまだ羞恥心は消えずとも、母親が本当に真面目に案じているのは察したようで、エマは神妙な顔でソレを受け取った。
実際、この頃の唯一のエイズ予防策は、傷つきやすい粘膜を物理的にシャットアウトするコンドーム、それだけであった。
現代では抗HIV薬などを併用して、他人への感染確率を限りなく0%に抑えられるが……この頃には、当然ながらそんな薬は無いのだ。
もちろん、万が一エマが感染したら、千賀子は秘密裏に治療するつもりだ。
だが、『いざとなれば、母がなんとかしてくれる』と過信するのは間違いだ。
何度も言うが、自分の身は自分で守る……それをやろうとしないのは間違いだとも千賀子は思っているわけで。
(世のお母さん方は、娘に対してどうやって性教育をしているのかしら……う~ん、さすがに明美や道子にも聞けないわねえ……)
難しい事だけど、それは千賀子なりに娘にしてやれる、母心でしかなかった。
……。
……。
…………さて、そんな感じで1987年はいきなり不穏な幕開けとなったわけだが、けして暗いニュースばかりではない。
例えば、3月には任天堂が発売した『ファミリーコンピュータ』が1000万台の記録的売り上げを達成し。
4月には、大ヒット作品としてその名が知られていた『CITY HUNTER(シティーハンター)』がアニメ化された。
この世界では名称が異なっているが、ややこしいし発音しにくいので、便宜上このままの名前で呼ぶ。
これは後に4度もテレビアニメ化(+3度のスペシャルアニメ化)され、劇場版がいくつも作られ、外国にて実写映画化されるという記録的な作品である。
内容は、依頼を受けることで、警察でも手が出せない悪人を密かに掃除するシティーハンターの話。
その人気はすさまじく、ゲーム化され小説も書かれ、サウンドトラックまで作られただけでなく。
当時としてはけっこう直球的な下ネタや、下着やセクシーシーンなどがチラホラ出たのだけど、女性たちからの反応はけして悪くなかった……と聞けば、いかに人気だったかが察せられるだろう。
そんな作品だから、エマも春人も普通にソレを見ていた。後ろから、千賀子も見ていた。
エマは、ポツリとこぼした。
──こんな格好いい男がいたら、私からアプローチするのになあ、と。
それを見た千賀子は内心にて(そりゃあ、男が惚れる漢だからなあ……)と、頷いていた。
客観的に見たら、この作品の主人公は男が理想とする漢である。
エッチで下ネタもバンバン言うが、女性には優しく、男にだって誠実な相手にはちゃんと誠実な対応する。
顔はイケメンというよりは格好いい男性といった感じで、身体も大きく頼りがいがあり、いざという時はあっという間に悪党を倒してしまう。
そんな主人公だから、当時の一部の女性の初恋の相手は……というのも、けして誇張などではなかったのだ。
……で、まあ、うん。
この作品を語るうえで欠かせないのが、実はコレ……当時実際に有ったモノの中で、重要なパーツとして使われているモノがある。
それは、『伝言板』である。
伝言板とは、今みたいに液晶モニターやスマホや携帯電話が一人1台じゃなかった時代、駅からのお知らせや、客同士が連絡を取り合う時に使用されたものである。
もちろん、現代のように確実性は無い。時間が来たら、駅員が消してしまう。
しかし、それでもこの掲示板はけっこう役立つもので、けっこう重宝されていた。
で、この作品では、主人公に依頼をするには、その伝言板を利用するわけだが……ここまで言えば、察せられるだろう。
そう、この作品を見て、チラホラいたずら書きをする者が現れたのである。
「……あ、やっぱり書かれている!」
「あら、本当ね」
エマにせがまれて春人も連れて一緒に見に行ったら、やはりそこにはあった。
シティーハンターを呼ぶ、秘密の暗号が。
それを見て、エマも春人もキャッキャと喜んでいた。それを見て、千賀子は苦笑した。
まあ、致し方ないことで、わざわざ見に来るのは若さかと思いつつ、せっかく来たわけだし喫茶店でも寄って帰りましょうか……と、思った、その時だ。
「……ん?」
何気なく、伝言板の端っこに書かれた。
『──タマモクロスが負けた、お金返して(恐怖の大王)』
その文字を見つけて……ふと、伝言板横の通路……その先のベンチで力なく座っている彼女を見つけた千賀子は。
「あいつ、全額賭けたの……?」
あまりにも哀れな姿に、千賀子はそっと……神通力でお金を飛ばしたのであった。