ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第285話: えらいこっちゃ……(まさか、通るとは……)

 

 

 ──『朝シャン』という言葉をご存じだろうか。

 

 

 これは、朝のシャンプーの略。

 

 つまり、朝にシャンプーで髪を洗うという行為なのだが、実は1987年頃……これが流行語に上がるぐらい、若い女性たちの間で大流行していた。

 

 これは当時放送されたCMを見た事がキッカケとして、若い女性たちの間で広まったとも言われていて……ん? 

 

 CMだけで、そこまで朝にシャンプーで髪を洗うという行為が流行るのかって? 

 

 これはまあ、色々と理由があって、同時に、様々な条件がかみ合った結果でもある。

 

 まず、新しいシャンプー製品が開発され、品質が向上し、毎日洗髪しても髪を痛めにくい朝専用シャンプーなどが販売され始めた事。

 

 同時期、女性の社会進出がますます活発化していたわけだが、そんな女性たちからのニーズが一つあった。

 

 それは、朝の身支度として手軽に洗髪したいということ。

 

 たまにならともかく、毎朝浴室でともなれば面倒に思う人が出てくるのは当然で、もっと気軽に……という要望が出ていた。

 

 そんな時に注目を浴びたのが、ブームを先取りした商品……洗面カウンターにシャワーが取り付けられた洗面台である。

 

 そう、実はこの頃はまだ洗面台は蛇口であり、シャワーが取り付けられたカウンターは最先端であり、家によっては洗面台ではお湯が出ない家も多かった。

 

 

 そんな中で、だ。

 

 

 これにより、身体を濡らすことなく頭だけを洗う行為が手軽に行えるようになり……そして、これの登場によって、女学生の間にも朝シャンが広まった。

 

 当時に限らず、校則などで化粧が出来ない中で、女生徒たちにとって数少ないおしゃれの一つが髪の美しさや洗髪の香りであった。

 

 これらがうまいタイミングでガッチリ噛み合った結果、流行語として知れ渡るぐらいに一台ブームとして広まったのである。

 

 

 ……もちろん、すべての家がそれをやれたかと言えば、そういうわけでもない。

 

 

 やっぱり、毎朝毎朝洗髪なんてされると、水道代金だけでなくシャンプー代も掛かるわけで、親から怒られる人も多かった。

 

 しかし、それでも、女性の美を求める熱意は何時の時代も変わらない。

 

 その時々によって流行の髪型があるわけだが、この頃はワンレングスと呼ばれた長髪をさらりと流すヘアースタイル、毛先から根本まで細かいウェーブを掛けるソバージュが流行していた。

 

 つまり、この時期の若い女性はロングヘアにしようとする女性が多く、それゆえに水道代がシャンプー代が……と、親たちが怒ったわけである。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 奇しくも……という言い方もなんだけど、千賀子もそうだけど、エマもロングヘアである。

 

 特に狙ったわけではない。

 

 千賀子は、単純に当時の常識で女の子だから比較的髪を長めにしていたからなのと、なんとなく髪を切る理由がなかったから。

 

 あと、これまでロングヘアを維持していたのに、今さらになってスパッと切っちゃうのはもったいないから……という理由から。

 

 エマの場合は、母親である千賀子のキレイなロングヘアを物心ついた時から見ていたから。

 

 別にショートヘアが嫌なわけではないのだけど、自分が髪を切った後の姿を想像出来ず、長いのが当たり前だという認識だったからだ。

 

 なので、本当に狙ったわけではない。髪型も近しいだけでワンレングスというわけではない。

 

 

 ……なのだけど、周りはそう捉えなかった。

 

 

 これまた、奇しくも千賀子もエマも評判になるぐらいの美女に美少女である。

 

 千賀子の場合は同性が見ても惚れ惚れしてしまうぐらいに艶やかな黒髪で。

 

 エマもまた、同性が見ても惚れ惚れしてしまうぐらいに艶やかな金髪で。

 

 現代でもそうだけど、この頃は海外のファッション=最先端という認識が強く、千賀子もエマも、流行の最先端の髪型にしている……というイメージを持たれるようになっていた。

 

 ……何度も言うが、別に千賀子もエマも狙っているわけではない。

 

 千賀子もエマも単純にお風呂が好きなだけで、シャワーで汗を流すとスッキリするからやっているだけで。

 

 なんなら、周りから『やっぱり、朝シャンしているのね』みたいな目で見られると、ちょっと首を傾げるわけで。

 

 

「ねえ、ママ」

「なに?」

「今日ね、学校で、あまり流行のファッションをしないように、周りが真似をして校則を破るようになるから……って、先生から注意されたんだけど」

「……とりあえず、子供の頃からずっとロングヘアなのになんで私が怒られなきゃならんのだって言っておけばいいんじゃない?」

「うん、そう言ったら、『まあ、そりゃあ、そうだけど……すまんな、うん、そうだよな……』って、なんか気まずい雰囲気になった」

「……先生も大変なのね。隙あらば校則の穴を突いてくるわけだし……でも、しつこく言ってきたら私に言いなさいよ」

「うん、わかった」

 

 

 神妙に頷くエマに、千賀子はそう答えたのであった。

 

 

 ……ある意味、エマは運が良かった。

 

 

 もしもエマが高校生になっていたのが1990年代半ばだったならば、世はヘアカラー大流行の時期。

 

 髪を染める(茶髪・金髪)のが本当に大流行していた時期で、一目で金髪が地毛だと分かるのに、『髪を黒に染めてこい!』という教師の怒声が全国の学校で響き、もう諦められていた時期で。

 

 ある意味、エマはその前……あ、地毛が金色なのね……で、済ませられる時代であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、話を戻すのだけど、ブームもあってか、なんか千賀子はちょくちょくファッション関係から声を掛けられる事が増えた。

 

 

 言っておくが、千賀子は特に何かをしたわけではない。

 

 大したセンスが無い事を自覚していた千賀子は、だいたいロボ子チョイス(あるいは、女神様チョイス)の服か、巫女服かのどちらかだ。

 

 顔隠しのデザインもそのままだし、髪型も変えていない。なのに、どういうわけか声を掛けられる頻度が増えた。

 

 その中でも一番多いのが、ファッションモデルをやりませんか……といった感じのオファーだ。

 

 コレはまあ以前から絶えることなくあるわけだが、最近になって明らかに頻度が増えた。

 

 もちろん、千賀子は断っている。

 

 この手の話に一つでも乗ってしまったら最後、どこからともなく聞きつけたヤバいやつ(土師田)が姿を見せるからだ。

 

 まあ、それ以前に、千賀子はもう自分の歳というものを自覚している。

 

 そりゃあ、いくら若々しい見た目を維持しているとはいえ……自認はしっかりオバサンである。

 

 そんな自分に、ファッションモデルのオファーとか……相手を間違えているんじゃないよというのが、千賀子の正直な気持ちであった。

 

 

 ……まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 そういうオファーを受けるつもりはないが、バラエティとか、誰かを笑顔にするような話は……実はけっこう乗り気だったりする。

 

 なにせ、自ら着ぐるみを装備して宣伝するオーナーである。

 

 なんか周りから勘違いされているが、千賀子は令嬢なんて性格をしていない。場合によってはバラエティ芸人として出ていたとしても不思議ではない女だ。

 

 しかし、周りからしたら、そんな畏れ多いことなんてまず頼めるわけがないので、これまでそんな声掛けをする者はいなかった。

 

 千賀子自身も、昔は『魅力』を暴走させる危険性を考慮して避けていたが……さすがに40歳を目前にすれば、かつてよりはるかに力のコントロールは出来ている。

 

 テレビ業界と慣れ合うつもりはないけど、テレビを通じて人々を笑顔にさせて、結果的に恐怖の大王の力を削ぐのは……良いと思っている。

 

 だから、面白そうな話なら受けてもいいかなと思っていた。

 

 でも、既に固まってしまったイメージに加えて、日ごろから忙しく動いているので、誰もそんな声掛けをしなかった。

 

 ──だが、この日。

 

 

「あの、秋山オーナーって、バラエティ番組に興味ありませんか?」

 

 

 大げさな言葉だが、歴史が動いた瞬間であった。

 

 そう声を掛けて来たのは、定期的にやってくる取材……『春木競馬場』にてインタビューをしてきたテレビスタッフの一人。

 

 まだまだフレッシュな雰囲気を放っているADからで、その後ろには……恐る恐るといった様子でこちらを伺っているディレクターの姿があった。

 

 

 ……心を読むまでもない。

 

 

 たぶん、『とりあえず、聞いてこい』ってな感じで送り出されたのだろう。千賀子が悪意のない人(特に、若手)には優しいのを知っているから……という打算を働かせているのも察せられた。

 

 見やれば、ADは自分が何を言ったのかあまり理解していないようであった。

 

 これまでの社会常識的に考えたら、『お前は何を言っているんだ?』と怒られそうな話だけど、千賀子は怒らなかった。

 

 だって、ただ聞いただけだし。

 

 そんな偉ぶった存在になったとは思っていない千賀子にとって、明らかに悪意を持った下品な質問ではない限り、その程度の話でしかなかった。

 

 

「……バラエティ?」

「はい、なんかクイズやったり、色々やったり、楽しませる番組っすけど、興味あります?」

「水着には、ならないわよ」

「いや、そこまで過激じゃないっすよ」

「なら、お話を聞きましょう」

「ウッス、それなら話してきます」

 

 

 そんなわけで、千賀子は……初めて、お茶の間へのデビューが決まったのであった。

 

 なお、OKを貰った事を聞いたディレクターは、『くぴゃらおぴへ!!?!?』みたいな奇声をあげて、しばし硬直したのであった。

 

 

 

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