ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
この頃のテレビ番組は、良く言えば自由であった。
現代のようにコンプライアンスでガチガチに固められ、小物一つにもモザイクがさりげなく掛けられていたりなんて事は無く。
そこまで深夜でもないのに水着の女性が出てきたり、上半身裸の女性が出てきたり、股間を隠しただけの尻丸出しな男性が出たり。
バラエティという皮を被ればけっこう何でもあり(さすがに、流血はダメだったとか)で、ある意味、一番テレビ番組が元気な時代だったのかもしれない。
いや、かもしれない、なんて話じゃない。事実として、この頃のテレビは本当に元気であった。
それは単純に、テレビ業界が儲かっていて資金がいっぱいあった……というだけではないのかもしれない。
純粋に、組織が若かったのだろう。
現代のように、番組に出てくるタレントの平均年齢が50歳代なんて番組は、昼過ぎのワイドショーぐらいなもので。
もっとも視聴率が高かったゴールデンタイム(一般的に、19時~22時)のタレントの年齢は10代~30代だったのも大きいのかもしれない。
で、話を戻すが、この頃の番組はまあやりたい放題みたいなところがあり、面白ければOKみたいなところがあった。
……で、そんな中で、この頃はとにかくバラエティ番組が強く、視聴率20%超えが当たり前な中で……とある番組が放送されていた。
その名を、『天才・たかしの元気出る出るテレビ』である。
おや、どこかで聞いたことがあるような……と思う人がいるかもしれないが、それは千賀子の前世の話であって、この世界ではこうであった。
で、この番組だが、コンセプトは『日曜の夜に憂鬱な気分になる学生や社会人に元気を出してもらう』というもので、とにかく視聴者を巻き込んで一緒に楽しむバラエティであった。
その内容は様々で、たとえば狭い一本道の向こう側から一気に100人の通行人が道を完全にふさぐ形で走ってきたり。
または、『〇〇で怪しい動きで手打ちするソバ屋がいる!?』という名目でソバ屋に突撃したり、『〇〇で信じられないほどのお金持ちが実在した』みたいな感じで。
今ではそこまで珍しい手法ではなくなったが、この頃は画期的、革命的な番組として高く評価され、後々の番組に影響を与えたとされている。
……そんな番組に、なんと千賀子が出演することになった。
タイトルは『春木競馬場には、とんでもなく美人で金持ちであまりにも自由過ぎるオーナーがいる』というもので……まあ、うん。
ぶっちゃけ、どう考えてもあの人だろってな感じだけど、とにかく、千賀子はその番組に出演が決まった。
特に、千賀子の方でナニカをするわけではないらしい。さすがに、素人さんにいきなりそれをヤレなんて事はしないらしい。
正直、何か面白い事をヤレと言われても困るので、ちょっと安心した。
千賀子としては、とにかくお茶の間を楽しませて、全国的に負の念を一時的に減らせればOKである。
どうやるかは知らないが、結果がそうなるのであれば、千賀子としては万々歳であった。
ていうか、冷静に考えたら、世界初の競馬場がそのままバラエティ番組の舞台になるという、すごい話である。
その際、千賀子は基本的に脚本には関わらなかった。
自分にはその才能なんて無いし、そういうのはプロに任せておいた方が良いと思ったからだ。
……で、当日。
千賀子より事前に話を通していたので、職員たちは変に騒ぐような事はしなかった。さすがに客たちまでは徹底出来ないと話しておいたら、それぐらいは織り込み済みとのこと。
とりあえず、番組は番組で勝手にやるとの事で、千賀子は適当に過ごしていてください……との事であった。
……ちなみに、だ。
脚本家を始めとしてディレクターたちは、いつものバラエティ番組制作よりもはるかに、強い緊張感を覚えていた。
なにせ、相手は秋山千賀子だ。
舞台が競馬場というだけでも視聴率20%超えは硬いが、万が一にも千賀子の不況を買わないように……といった感じで。
さすがに、千賀子自身にいつものようなバラエティ対応をするつもりはなかったし、下手に暴走してなあなあで誤魔化そうとするな……と、厳命していた。
……それがまあ、うん。
「──え、オーナーが居ない? いったいどこに?」
「オーナーなら、おそらく着ぐるみで競馬場内を練り歩いているかと思いますよ」
まさか、その当の千賀子が居ないとは、まさかのテレビ側も驚いた。思わずたまたま近くに居た職員に聞けば、そんな話が出たの。
あまりにも自由過ぎる行動に、さすがのテレビクルー側も……いや、そんな事では怖気づかない。
自由過ぎるというタイトルなのだから、これぐらいは想定の範囲内。
急遽流れを変更し、『秋山千賀子オーナーを探せ』といった感じで、千賀子を探す事にした。
それでまあ、ようやく……首から下が着ぐるみに収まった千賀子を見つけたわけなのだけど、問題はそこではなかった。
「……あの、秋山オーナー? その馬は?」
「せっかくのテレビ出演ということで、カツラギエース号を連れてきました」
「ひぇ……」
なんと、千賀子はテレビに合わせてカツラギエース号を連れて来るというとんでもない暴挙に出ていた。
日本有数に名の知られたオーナーが着ぐるみの恰好でG1馬を引いてくる……字面にしたら、冗談のような話に見えただろう。
この頃は競馬が人気で、競馬に行った事がある者は多かった……けれども、さすがに触れ合える距離で馬を見た者は少数だっただろう。
大人になった馬の体重は最低でも400kgは超える。そんな巨体の四足動物を前にして、身構えない人間はいない。
咥えて、G1など重賞を勝利する競走馬というのは、基本的に気性が荒いと言われている。
もちろん、性格はそれぞれだし、必ずしも気性が荒い馬が勝つわけではないのだけど、気性の荒さ=負けん気の強さということで、当時は好まれる傾向にあった。
だから、カツラギエースも見慣れぬ空気を身にまとった人たち(機材も含めて)を前にして、警戒を露わにした。
「めっ」
──ぶふふん。
けれども、千賀子が一声掛けただけで、おとなしくなった。
これには、さすがのクルーたちも驚き……そのうえ、メンバーの中で一番体重が軽かった者を乗らせてくれたのだ。
そりゃあ、スタジオよりVTRを見ていた者たちは『なんて羨ましいやつらだ、俺と変われ』みたいな声をあげるわけで。
奇しくも、自由過ぎる千賀子の行動がウケて、視聴率が20%超えを常にマークしたのであった。
……ちなみに、だ。
この日の放送で、もっとも視聴率が高かったというか、話題になったのは、このシーンではなく。
『──行け! 行け! 差せ! 差せ! そこだ! そこ! い──あああ──!!! お金返してぇぇええええ!!!』
競馬場の客席にて、馬券を握りしめて崩れ落ちている、謎の女の姿が映し出されたシーンと。
それからしばらくしてスタッフが様子を見に行ったら、客席ではなく、地面に体育座りのまま呆然としている姿が発見され。
あまりにも哀れな姿を見て思うところがあったのか、千賀子が近寄りに行って。
『──あんた、何やってんの?』
『……競輪で買った185万を全部つぎ込んだら負けた』
『あまりにもギャンブラー過ぎない?』
『この勢いなら行けると思ったのに……私が何をしたの?』
『欲望に突っ走ったからでしょ』
『あ、この前借りたお金、はい』
『そういうのは律儀なのね』
『──で、お金無くなったから貸して』
『ちょっと感心した私の気持ちを返してくれないかしら?』
なにやら千賀子の知り合いっぽい感じで、わちゃわちゃ言い合っているシーンだったりする。
……。
……。
…………これに対して、番組側はリベンジを千賀子へ申し出ることにした。
理由は、芸人顔負けの面白いシーンばっかりで、芸人としての矜持ってもんがあらぁ……といった感じであった。
今度のは、スタジオで行うクイズを主にしたバラエティ番組である。
ここならば、なんかこいつ狙ってやらなくても面白いという芸人泣かせな千賀子をなんとか出来るのでは……と、彼らは考えた。
なお、この企画を考えた『たかし』曰く。
『あの人、本当にズルイんだよね。俺たちが必死こいて毎晩面白い事、ウケる事をひねり出しているのに、あの人はトイレでクソするぐらいあっさり出しちゃうんだから』、との事らしい。
で、そんな感じで、何も知らない千賀子はせっかくだからとそれも受けて、テレビ出演となったわけだが……早速、問題が生じた。
なんと、千賀子は普通に顔を隠してきたのである。これにはまあ、テレビ側もビックリした……が、まあそこはいい。
それよりも、テレビ側が度肝を抜いたのは……千賀子の、もはや暴力的といっても過言ではないスタイルである。
兎にも角にも、πがデカすぎた。腰も細く、なのに腰から下も絶妙なむっちり具合。
今さら見られる事に慣れきっている千賀子は普段通りの恰好だったから、余計に千賀子のスタイルが……うん。
関西の人たちというか、競馬場周辺の人たちはもう見慣れていたので、スゲーとは思いつつもそこまで騒ぎにはならないが……関東のテレビ局では、そうではなかった。
「本日はよろしくお願いします」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「あ、顔は出した方がいいですか?」
「え、まあ、はい、可能でしたら……(うっわ、すっごい美形!)」
そのうえ、顔を出したら出したで、美男美女を見慣れている業界人すらも、思わず目を見張ってしまうぐらいだったのだから……で、だ。
一部の者たちにとって、なんとも不穏な始まりだったわけだが……幸いにも、番組はつつがなく進んだ。
千賀子が前に前に出るタイプではなかったこともあって、調子を取り戻した──そんな時であった。
「秋山オーナーは、これまでの人生でヤバかったなあ……みたいなご経験はありますか?」
視界から、そのように話を振られた千賀子は……普通に答えた。
「ヤクザに銃で撃たれた時ですね、死ぬかと思いましたよ」
これには、お茶の間も冷え冷えである。
しかしまあ、悪い意味で冷え冷えではなく、『秋山オーナーは場数を踏んでいる……サスガダァ』みたいな感じであった。
だが、これで困るのは芸人たちである。
なにせ、場の空気を完全に持って行かれた。
これに危機感を覚えた芸人たちは、クイズのコーナーだった事もあって、なんとか場の流れを持って行こうとした。
「MCさん、これ私が不利です」
「え、そう?」
「見てくださいよ、ボタンを近くに寄せちゃうと、コレが邪魔をして見えないんですって」
ぱしん、ぱしん、ぱしん。
自分のπをまるでボールのように叩く姿に、思わずMCも、スタッフたちも、ゲストだけでなく、芸人たちもちょっと笑う。
これで少しでも恥じらう様子があったら逆効果だったけど、あまりにもあっけらかんとした様子だったから、不思議とおかしさが前に出た。
「え~っと、やっぱり邪魔になったりするんですか?」
普通ならかなりダイレクトな質問だけど、千賀子は気にしていなかった。
「普段は邪魔になりますけど、けっこう役立つ時はあります」
「へえ~、例えばどんな?」
「ちょっとぐらい怒っている相手でも、立っているだけで怒りが和らぎます」
「そんな、身も蓋も無いことを(笑)」
そのうえ、サラっと話を流してしまうのだから……これがまあ、芸人泣かせであった。
……。
……。
…………ちなみに、だ。
実は、この番組の最後には、熱湯風呂を使って、女性たちが水着になってクイズを受けるというコーナーがあったのだけど。
『……さすがに、これは若いやつが可愛そうだからやめとけ』
と、既に大御所芸人になっていた人たちが待ったを掛けたおかげで、そのコーナーは収録されたけれどもお蔵入りになったのであった。
なお、その収録されたシーンは、千賀子の水着姿があったのだけれども。
『馬鹿野郎! こんなの出したら番組終わっちゃうだろ!! どんだけ苦情が来ると思っているんだ!!』
『それと、間違っても流すなよ! 未来のグラビアアイドルがどれだけ自信を無くすと思ってんだ、相手が悪すぎる!!!』
これを見た大御所芸人の鶴の一声で、その映像が日の目を浴びることは無くなったのであった。