ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
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1987年と言えば、実はこの年……けっこうな人が知っている、とある現代口語短歌が収められた歌集が発表された年でもある。
それは、『サラダ記念日』である。
この味がいいねと君が言ったから……という出だしで始まるこの作品を含め、歌集が異例の売れ行きを記録していた時期だ。
現代ではすっかり小説業界は売れ行きが低迷し、出版社が生き残りを賭けて争っているが、この頃は程度の差こそはあっても、どこの出版社も元気であった。
ちなみに、この『サラダ記念日』なのだけど、実はこの味いいねと褒められたのはサラダではなく、カレー風味にアレンジした鶏のから揚げだったとか。
他にも、この頃にはいよいよレコードからカセットテープを経て、いよいよ市場の売れ行きはCDへと移り始めていた時期でもある。
家庭用のCDレコーダーが普及し始めただけでなく、磁気テープよりも音声がクリアだったり、最先端を意識した見た目の良さもあって、若者たちの間でCDが広がりつつあった。
また、音楽は十万枚を超える売り上げが次々に生まれ、邦楽洋楽問わず、音楽文化がさらに花開いていた時期でもあった。
特に、洋楽と言えば当時でも伝説的な立ち位置になりつつあったマイケルジャクソンの『BAD』がオリコンチャートに乗るぐらいで……今の人でも、名前くらいは知っているかもしれない。
洋楽と言えば、1986年より興行成績が好調を記録していた『トップガン』が日本でも人気が続いていて、その曲もまたオリコンチャートに乗っていた。
なお、現代ではハリウッド俳優として有名なトム・クルーズが一躍トップ俳優として輝くキッカケになった作品でもある。
あと、これまた実はな話なのだけれども、忠犬ハチ公の話を元に作られた『ハチ公物語』の映画が好評を得たのもまた、この年だったり。
……で、だ。
景気が良いのか悪いのか、よく分からない中でも、後世に名が残る映画や音楽が放送されたり放映されたりしている中で……千賀子はというと。
「これ欲しい!」
「え、あ、う~ん……」
いつも良い子な春人からのおねだりを前に、千賀子はけっこう困り果てていた。
場所は、おもちゃ屋だ。東京の、おもちゃ屋。
店内には軽快なBGMが流れていて、親子連れの客がチラホラ居て……チラチラっと千賀子と春人を見ていた……話を戻そう。
いったい、何が起こっているのか……それは、春人が手にしている玩具にあった。
それは、いわゆるエアガンと呼ばれる類の玩具で、千賀子の前世において、その名は。
『マルゼン コルト パイソン 357』
である。
もちろん、この世界においては名称が違うし、形状もちょっと違うのだけど、当然ながら詳しくない千賀子は気付かなかったし、気付けなかった。
で、どうして千賀子が困っているのかというと……それは、この銃の玩具は……いわゆるガス銃というやつで、ガスを使用して弾を打ち出すのだけど。
この弾が、これまたいわゆる『BB弾』と呼ばれる名称の、プラスチックで出来た球で……まあ、何が言いたいのかと言うと。
(……危なくない?)
そう、それに尽きた。
ぶっちゃけると、同じエアガンでも、プラモデル形式のキャップ火薬を使用したやつならば、千賀子も特に問題には思わなかった。
キャップ火薬とは、玩具の銃とセットで使う火薬で、使用するとパンパンと軽い音が鳴るだけの安全な玩具の銃だ。
しかし、春人がおねだりしたのは、それではない。
火薬ではなく、BB弾が発射されるタイプ。それも、撃鉄の力で打ち出すタイプのエアガンではない。
形状やデザインをより本物に近付けた、ガスを使用して発射するという……一番大人向けのエアガンである。
まあ、このエアガンはシリンダーが回転しないのだけど……とはいえ、問題はそこではない。
千賀子が難色を示したのは、それがガス銃だからである。
同じ玩具の銃でも、ガス使用は威力が違う。さすがにこれで出血とかはしないけど、目に当たれば大事になる玩具だ。
現代では年齢制限が掛けられているのだが、1987年のこの頃はまだまだ緩く、金額が高いという点を除けば、子どもでも買う事が出来たのだ。
「……それは重いし、こっちの軽いのにしない?」
「や! こっちがいい!!」
「でも、それってガスを使うのよ? 危ないでしょ?」
「大丈夫、ちゃんと説明書を読むから! 頑張って覚えるから!」
こっちならお母さんも安心よ~と促してみたのだけど、一言で切り捨てられてしまった。
ちなみに、だ。
千賀子がそっと用意したのは、エアガンではない。
それは、千賀子の前世の世界において1987年に販売された、赤外線装置を内蔵し、光線銃をイメージした玩具。
この世界では名前が違うが、千賀子の前世においては『サバイバーショット』と名付けられた玩具である。
遊び方は単純。
銃型の玩具から発射される赤外線を、頭にバンドで取り付ける装置が受信したら振動し、光線が当たった……といった感じである。
近未来をイメージしたサバイバルゲームの玩具だけど、出るのは赤外線である。
BB弾といった実弾が出ないので、より安全が配慮された玩具であり……いや、まあ、それはいいのだけど。
(ひぃぃ……良い子にしているから、買ってあげたい……あげたいのだけど、ガス銃はなあ……取り扱いがなあ……)
もうすっかり男だった時の感覚(つまり、前世の事)が失せてしまっている千賀子だけれども、それでも、春人の気持ちは良く分かる。
子どもだってバカじゃない。
そりゃあ、より本物に似せた重厚感たっぷりなガス銃の方が欲しいと思う、その気持ちは痛いほどわかる。
しかし、ガス銃はガス銃だ。
ガス銃の恐ろしさは、打ち出せる弾の威力が跳ねあがるという事。撃鉄だけの威力で打ち出すアレはまだ目で追えるが、ガス銃はよほど集中しなければ弾道すら認識出来ない。
さすがに改造なんてしないだろうけど、まともに目に当たれば失明してもおかしくない威力なのだ。
それと、基本的に不燃性のガスが使用されているはずだから、いきなり引火して……なんて事故は無いと思いたい。
……結論を先に語るならば、危ないから使ってほしくないなあ……である。
「その、どうして急に欲しくなったの?」
「アニメで見た! 僕も打ちたい!」
「……ああ、そう」
残念、無念。
ただ目について欲しくなったのならばともかく、明確にコレが欲しいと名指しされている以上、余計に説得が難しい。
……これが一般的な親だったならば、鶴の一声で有無を言わさず拒否してしまえば終いなのだけど。
千賀子としては、あまりそういう事はしたくなかった。
だって、春人は自分から覚えると言ったのだ。ちゃんと説明書を見ると言ったのだ。
それで説明書を見なかったり、危険な行為を覚えずに痛い目にあってから叱るのならばともかく、だ。
まだ何もしていないのに『どうせ痛い目を見るから』と断るのは、春人からすれば『あなたを信用していません』と真正面から言われたも同然である。
千賀子自身、二度も子供時代を経験しているから余計に分かるのだけど……それは、けっこう心苦しい。
失敗した結果、信用してもらえない……というのであればまだ、子供心でも納得することは出来る。
だが、特別信用を失うようなことはしていないのに、一方的にそんな対応を取られたら……子供心でも傷つくのだ。
──まだ早いと突っぱねるべきか。
──信用を前面に出して与えるべきか。
母として思うのであれば、事故の可能性とかを考えて与えたくないという気持ちが湧いてくる。
同時に、これもまた勉強で、痛みもまた成長に繋がる事もあると堪えて与えるべきか……む、むむむ!!
「……店長さん、どうしたら良いと思います?」
「え、ここで私に話を振るの?」
迷いに迷った千賀子は、商品棚の向こうより固唾を飲んで見守っている店長(スキンヘッド・男性)に声を掛けたのであった。
「……秋山オーナー、お金あるんでしょ? これぐらい簡単に買えるでしょ?」
「買えますけど、それとこれとは別です」
キッパリと、千賀子は告げた。
「お母さんとして、買ってあげたい気持ちはある。でも、これで怪我をしてしまったら私はとにかく悔やんでしまう。なので、店長さんのご意見を聞きたくなりまして」
「はあ、なるほど……秋山オーナーも、やっぱり人の親なんですねえ……」
素直に気持ちを吐露すれば、店長さんは苦笑しつつも朗らかな様子で屈むと……春人と視線の高さを合わせた。
「坊主、聞いたな。お前の母ちゃん、もしもそれでお前が怪我をしたら、とにかく辛くて悲しくて涙が出ちゃうそうだ」
「……お母さん、嫌なの?」
「嫌じゃないさ。ただ、坊主がちゃ~んと、これで怪我せず、誰も怪我させず、使っていたらお母ちゃんは泣かないよ」
「泣かない?」
「ああ、坊主がちゃんと約束を守ったら、な」
その言葉と共に、店長は指を一つ立てた。
「一つ、人には向けない事……ほら、繰り返して。一つ、人には向けない事」
「ひとつ、人には向けないこと」
「二つ、自分にも向けないこと。銃口の先は、必ず壁に向けたままにすること」
「ふたつ、自分に向けないこと。銃口は、壁にむけたままにすること」
「三つ、ガスを使う時は、必ず母ちゃんが傍に居る時にやること」
「ふたつ、ガスを使う時は、お母さんの傍で使うこと」
「四つ、BB弾は、必ず取り外しておくこと」
「よっつ、BB弾は、必ず取り外しておくこと」
「この四つを守っていたら、自分も他人も怪我をさせることはないさ。いいか、必ず、守るんだぞ」
「うん!!」
満面の笑みを浮かべる春人を見て、千賀子もまた……笑みを浮かべると、そのまま千賀子は──店長の頭をぎゅっと抱きしめた。
「──っ!?!?」
これには、店長(既婚)も顔を真っ赤にする。それも、無理はない。
100人居て100人が美人だと断言する美女から抱きしめられたのだ。それも、Lカップという超特大バストに包まれるようにして。
血気盛んな若人ならば、思わず鼻血が出てしまうほどのフェロモンに包まれて、平気でいられる男など皆無であった。
「店長さん……ナイスアシスト!!」
そのうえ、当の千賀子が感動してむにゅむにゅ押し付けるから、余計に……当然ながら、だ。
膨らみの隙間から零れ出る店長の顔は、それはもうだらしない感じになるわけで。
それを見ていた奥さん(店員)の目じりが瞬く間に吊りあがってゆく。この頃もそうだけど、夫婦で店を経営しているなんてのは、ごくありふれた光景であった。
「……秋山オーナー。そこらへんに──」
「奥さんも、ナイスアシスト!!」
これまた当たり前ながら、嫉妬で怒りを滲ませた奥さんが来たのだけど……千賀子の前では通じなかった。
なんと、千賀子さん……奥さんをも捕まえて、ダブルでむにゅむにゅするわけである。
これには、同性である奥さんも困惑した。
と、同時に、己のモノとは根本から異なる圧倒的な母性の象徴に、思わず身体の力が抜け……そして、理解した。
こ、これが、世界の秋山千賀子のπなのか、と。
あまりの破壊力に、一瞬にして奥さんの怒りも溶けてしまった。まあ、解放された直後、軽く旦那の腕をギュッと抓まれたくらいはしたのだけど、その程度であった。
ああ、恐ろしきは、Lカップの母性。
たまたま目撃していた者たちは『な、なんて羨ましいんだ』と思いつつも、同性ですら一瞬で虜にしてしまったソレを見て、ごくりと戦慄に喉を鳴らしたのであった。