ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
「母さん、ただいま」
「あら、どうしたの? 今日は平日でしょ?」
「ちょっと、ゴルフ場の工事の事でね」
「ああ、アレね……大変よね」
ちょっと買い物から帰って来たみたいな感じで顔を見せた千賀子に、千賀子の母は特に驚かなかった。
千賀子が普通じゃないのはとっくの昔から知っていたし、超常現象を当たり前のように引き起こすというのも知っている。
さすがに、自分で産み落とした娘だ。常人とはどこか違うってことぐらいは、千賀子がまだ小学生の頃からうっすら察していた。
まあ、そうでなくとも、今は亡き祖父から、実はこっそり色々と言われていたし……それもあって、母にとって千賀子の急な出現は今更感があった。
それは放任というよりは、信頼の証だ。
自分が産んだとは思えないくらい頑強に育ったが、この娘なら億が一にも自分を置いて死ぬことは絶対に無いだろうという謎の安心感が成せる事であった。
「ところで、エマと春人はどうしたの?」
なので、母の関心は娘ではなく、孫の二人に向かった。
生前の祖父母は良くしてくれていたが、やはりというか、孫に向けるそれよりは……であった。
当時は、孫だしねと軽く考えていたが……いやはや、実際に孫を持つ身になると、今さらながら祖父母の気持ちが良く分かる。
千賀子がしっかり躾をしているからなのか、可愛らしいのだ。
血が繋がっているとか、関係ない。そりゃあ、見た目からして日本人でないのは分かる。
でも、細やかな所作、ふとした所作が、やはり娘の千賀子に似ている。たとえば、歩き方も千賀子とエマは良く似ている。
春人は……男の子だからだろう。
時々似ているなと思うけど、そういう部分で違いがあるというか……あ、似ていると言えば、欠伸をした時の動きが……まあ、この話は置いといて。
「そんなの、平日だから学校に決まっているじゃないの」
「1日くらい休ませても良かったじゃない」
「ダメ、ちゃんと学校には行かせます」
「もう、ちょっと聞いただけでしょ」
母としては、孫の姿が無いのがガッカリであった。
それを見た千賀子は、『まあ、二人ともカワイイし……』と、母の内心を察しつつ……ふと、父の姿を探す。
「お父さんは?」
「ああ、お父さんなら、明美ちゃんのところよ。見張りとして来て欲しいって言われたって」
「え?」
「明美ちゃんの子供さん、女の子だから……まあ、まだまだ小さいのだけどね」
「……なるほど、分かりました」
一つ……千賀子の中で、千賀子ポイントを一つ足した。
三つになると、千賀子からの楽しい楽しいお仕置きをプレゼントである。ちなみに、慈悲は無い。
とりあえずは、だ。
せっかく戻ってきたのだから、祖父母の仏壇へと挨拶に向かい……線香を立てて手を合わせてから……改めて、千賀子は明美宅(銭湯)へと向かったのであった。
……明美のところの銭湯は、この周辺に限らず、知る人ぞ知る名所として人気があった。
それは、併設されている馬専用のプール(温浴)だけが理由ではない。
まず、温いのでボイラーにて温める必要があるのだけど、銭湯とは名ばかりで、実際は温泉が湧いていること。
それも、ただの温泉ではない。
ここは女神様の力というか、千賀子からの加護も合わさっているので、様々な効能を期待できる温泉である。
おかげで、ここの銭湯の効果を知っている近隣の者は週に1回は長湯をするために来るし、わざわざ月に一度は遠出して来る者もいる。
それに加えて、明美のところの銭湯は……色々あって全改装、新築同然な状態であり、内装も外装も綺麗であった。
……なんでそれで、知る人ぞ知る、その程度なのかって?
それは単純に宣伝していないからで、キャパシティ的にも現状の客数で定員いっぱいなくらいだったから、である。
なにせ、家族経営だ。
規模的にも設備的にも、人を増やしたところで広さに限度がある以上は……的な状態であった。
だから、そこに……一時的とはいえ、工事の作業員たちが客として押しかけてくるのは、けっこう困った状況なのである。
シャワーの数も、浴槽の広さも、限度がある。
せめて時間をずらしてくれるならばいくらか対応できるのだけど、工事の関係上……そうもいかず、翌日の仕事もあるから、一斉にやってくるわけだ。
これがまあ、騒がしい。
仕事上、荒っぽい性格の人が多いのか、勝手に酒を持ち込んだり、牛乳を取り出して冷やしたり、腰にタオルを巻いただけの恰好で平気でうろついたりする。
おかげで、女湯はすっかり人が来なくなってしまった。
男連中からしたら婆の裸なんぞ見たくもねえといった感想だと思うが、婆たちからしても、見られたくないのだ。
再三に渡って注意はしているのだが、バックがあまりよろしくないのを自覚しているのか、明らかになめくさっていて。
下手に出禁にするとどんな嫌がらせをされるか分からないので、現状では見張りを置いて牽制するぐらいしか出来ていない……との事だった。
「処す? 処しちゃう? 処すべきでは?」
「待って、待って千賀子、穏便に、穏便にだよ?」
そんな話を明美より直接聞いた千賀子は、子どもには見せられない顔で穏便な提案を……ん?
子どもには見せられない顔って、どんなのかって?
具体的には、一見すると笑顔だけど、額にビキビキと血管が浮ているし、口元は引きつっているし、なんかふわふわと意味深に髪の毛が逆立ち始めている……てな感じ。
千賀子の性格を知っている明美は、慌てて千賀子をなだめる。
基本的に穏健派で情が深く、ちょっとぐらい何かをされてもサラっと流してしまうけど。
自分以外がナニカされると、けっこう激しく怒るタイプだというのを知っている、親友ならではのフォローであった。
なんで迷惑を受けている自分が、迷惑を掛けているやつらを庇うのか、ちょっと不思議な気持ちになったが……で、だ。
とりあえず、千賀子が一喝すれば話はそれで終いの可能性が高いが……それでは、千賀子の気が治まらなかった。
もっと合法的に、大義名分を得て、真正面から……そう思った千賀子は、とある作戦を立てることにした。
その際、明美からは『いや、そこまで千賀子が身体を張らなくても……』との事だったけど、千賀子は笑顔で答えた。
「なめられたら、叩きのめす。この精神、大事だよ」
さすがは、秋山千賀子。
伊達に修羅場を幾度となく潜っていない女……うっすらと滲み出る迫力に、明美もそれ以上何も言えなかったのであった。
……。
……。
…………で、まあ、作戦とは言っても、そんな大したことではない。
作業員が番台から、あるいは、間違えたフリをしてチラチラ女湯を覗こうとするタイミングを見計らって、千賀子が中で裸になっていたらOKである。
相手がしらばっくれようが、現場責任者がしらばっくれようが、関係ない。
まったく事実無根であればともかく、ちゃんと見られたという主観的な事実さえあれば、千賀子は大手を振って真正面から動けるわけで。
手始めに、総理を通じて、あと角界にも話を通して、ついでに馬主界隈にも、後は寄付している大学界隈にも。
──〇〇の会社が派遣している作業員は酷い、帰省の時に私の裸体を覗き見した、二度とその名を聞きたくないし見たくもない。
そう、告げ口してやろうと思った。
明美とロボ子が止めなかったら、巫女的パンチで半年ほど入院させるぐらいになっていたので、かなり軽くしてやった……というのが、千賀子の正直な気持ちであった。
……客観的に見たら、だ。
政界・財界・角界・馬主界隈から睨まれる事よりも、半年入院で済んだ方がはるかにマシでは……と、思うかもしれないが。
残念ながら、それを指摘する者はおらず……作戦は決行されたのであった。
──そして、結果はと言うと。
まあ、作戦を立てた千賀子自身、ここまで分かりやすくあっさり引っ掛かるかと首を傾げるくらい、あまりにも想定通りに終わった。
なにせ、引っかけた千賀子の方が、『あの、即物的に動き過ぎでは?』と、ちょっと心配になったくらいに……まあ、とにかく、だ。
大義名分を得た千賀子は、しらばっくれるその男を殴り飛ばた後、意気揚々と電話を借りて……え、他の者たちは何もしなかったのかって?
もちろん、逆上して向かってきた者もいた。
当然、千賀子は動揺に殴り飛ばした。奥歯がガタガタするぐらい、見事なストレートパンチを叩き込んだ。
それを3,4回繰り返せば、相手もさすがに『この女、タダモノじゃない』と思うわけで……そこで、誰かが気付いたのだ。
──この人、秋山千賀子じゃないか、と。
一人、また一人、気付く者が増えていけば、彼らの反応は劇的であった。
まったく世間に無頓着な者たちばかりではない。
中には千賀子の事をテレビなどで見知っていて、千賀子がどういう立場で、どういう権力を持った人物なのかを察せられる者も居た。
ゆえに、彼らはよりにもよって『秋山千賀子の入浴を覗いた』という、とんでもない事を同僚がしでかしてしまった事に気付き……ついで、そのとばっちりが自分たちに来る可能性にも思い至ったのだ。
……なら、今度こそやけになって来ないのかって?
それは、本当に生まれた時からヤバい環境で育って常識を学んだ者(あるいは、サイコパス)の行動で、日本においてはそこまでの者はまだ少ない。
言われずとも、『確実に、関係者が報復に動く』というのを知っているからこそ……彼らは動けなくなったのだ。
で、内心含めて震えあがっている彼らを他所に、千賀子は……さっさと心を読んで、大本の会社へと連絡を取った。
この場で一番立場が上の者に尋ねたら、なんかモゴモゴと言わなかったので、「あ、それなら〇〇組に電話するから」と告げての行動である。
……ちなみに、だ。
彼らからしたら、電話番号はおろか〇〇組からの仕事だと分からないはずなのに、いきなり本丸の名前を出したことで余計に……で、だ。
「もしもし、〇〇組? 私、秋山千賀子だけど、あんたのところの作業員、大した教育を施しているのね」
『え、は?』
「ゴルフ場の建設、よりにもよって私の地元でやるとは大した度胸じゃないの。それに加えて、私の入浴を覗く者まで……そうね、本気で私をなめくさって、やり合おうって事でいいのね?」
『は? 待て、何の話だ──』
「あなたのところの取引先の一つ、××議員の関係筋でしょ? 受けて立ちましょう」
『ちょっと待て、あんたいったい──』
「さようなら」
その言葉と共に、千賀子は電話を切った。
現代ならば、非通知設定をしていないと向こうに電話番号が通知されてしまうが、この頃にはまだそんなモノは無い。
なので、切った時点で向こうはもうどこから電話が来たのかを調べる術は……まあ、あてずっぽうでここを調べて電話を掛けてくるかもだけど……それはそれとして。
「……あんた達、何時まで私にその見苦しい姿を見せつけるつもり?」
千賀子の言葉に、男たちはいっせいに着替え──るどころか、隠すところも隠さず、我先にと先頭を飛び出して行った。
その際、たまたま気付いた3人が、気絶している男を抱えるようにして運んでいき……あっという間に、銭湯から全員離れて行った。
「……え~っと、その、ありがとうって言うべきかしら?」
一部始終をこっそり見守っていた明美より、そう言われた千賀子は……一つ、ため息を吐いた。
……正直なところは、だ。
覗いたやつを殴って、それで済ませようと思っていた。脅しとしては、それで十分だったから。
でも、今の電話の向こう……その先に居る者たちの心を読み取った千賀子の中で、そんな考えはすぐに消えた。
何故ならば……そいつら、作業員たちが近隣住民に多大な迷惑を掛ける(風呂場とか確保していない)のを知ったうえで、無視していたからだ。
しかも、既に立ち退きした者たちは相当な嫌がらせを受けたっぽくて……中には、襲われかけた者も居たのだとか。
警察が動こうにも、なにせ証拠が無く……そのうえ、どうやら作業員の中には、明美やその娘を……その、そういう目で見ている者までいたのだ。
正直、その時点で千賀子はかなり頭に来ていたが……まだ、耐えられた。
それなのに、そこに来てさらに千賀子が察知したというか、読み取ったのは……作業員たちの、工事のやり方だ。
(あいつら、『小川』に土砂とか放棄してたんだよね……『サラスヴァティ』の権能でも読み取ったから、まあ間違いない)
そう、それが千賀子には許せなかった。
『小川』は、千賀子にとって聖域……大切な思い出の地。
子どもがやるならともかく、処理の費用を誤魔化すためにやったとなれば……もはや、千賀子の我慢は限界を超えた。
本当に何も分かっていない者ならば、まだ堪えられる。
でも、明らかに分かったうえでやっているやつが居たのが分かったからこそ、千賀子は舌打ちしたくなるほどの憎悪を……この工事関係者へと向けたのであった。
『──(=^ω^=)──』
そして、そこまでの怒りを覚えた千賀子の姿を見て、本物のモンスターペアレントが黙っているかと言えば……まあ、そんなわけもなかったのである。