ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
お舟の対決にてぼろっくそに負けてしまった後の糖分は、涙の味がする。
「すきっ腹に餡子が染みる……」
「大げさだなあ」
しかし、誰かの情けによって得られた糖分は、幸福の味によって上書きされ、さらに上等な味わいに変えてくれる。
しっかり食べ終え、ついでの情けで買って貰った牛乳をちゅ~っとストローにて飲み干した彼女は……むん、と力を入れた。
元気、復活である。コンビニ前でそれをやると、なんだか幼く見える。
そんな彼女を見て、エマも一安心だ。
なにせ、先ほどまでそのまま朽ちて砂埃になってしまうのではないかと思うくらいに、なんか気配が煤けていたし。
まあ、それはそれとして、だ。
この子はいったい、どういう子なのだろうかとエマは首を傾げた。
見たところ、自分より年下……いや、同い年くらい……う~ん、年上……なんとも判別しにくい顔をしているけど、雰囲気からしてそこまで歳が離れているようには……う~ん。
なんとなく、そう、ミステリアスな人だなとエマは思った。
どうにもつかみどころがないというか、目を離したらもうそこには居ないというか……ああ、そうだ。
どことなく、母の千賀子に似ていると思った。
見た目はまったく似ていないというのに、不思議なくらいに……なお、名前を聞いたら『恐怖の大王』だと名乗られた。ちょっと、エマは驚いた。
なんとも不思議な事に、それはエマの知るノストラ……の予言集に出てくる『恐怖の大王』の名に、よく似ていたからだ。
本名なのか、それともこの場限りの偽名なのか……いまいち判断がし辛い……っと、思ったその時であった。
何気なく、彼女が投げた牛乳パックが……不自然な軌道を描いて、コンビニのゴミ箱へと入ったのだ。
そう、その軌道は、偶然では説明不可能な不可思議なモノであった。
なにせ、山なりに飛んだかと思ったら、地面スレスレで一気に浮き上がり──そこから直角にカーブして、すとん、と入ったのだ。
(ちょ、超能力だわ……!!)
その瞬間、エマは驚きのあまり、声すら出なかった。
と、同時に、エマは……眼前の彼女が普通の人ではない、超能力を持つ特別な存在であることにも気付いた。
それは、エマにとっては……もしかしたら初めてとなる、母以外の……超常的な力を持つ第三者で──ん?
エマは、母の……千賀子の事に気付いているのかって?
そりゃあ、気付いているに決まっている。
さすがに、エマはそこまで鈍くはないし、無頓着なわけでもない。千賀子が知ったら卒倒する話だが、それが事実である。
ただ、母が自分に何も言わない以上、こちらから尋ねるのは……という、娘なりに色々察して控えているだけである。
だって、母の千賀子は……なんかこう、隠しきっていると本気で思っているし……そりゃあ、エマとしては気付いていないフリが、ね。
もちろん、普通は気付けない。母の分身は、本当に母そっくりであり、寸分の狂い無く母と同じであった。
でも、エマは気付けた。おそらく、春人も気付いていると思う。
気付けた理由は、エマ自身にも分からない。
ただ、千賀子の子供であるからこそ、気付けたのだと思う。この人は母そっくりな、母とは違う存在だ、と。
ただ、母はその、母そっくりな存在に信頼を置いているから、エマも春人も信頼を置いている……というわけである。
ちなみに、エマが考えている、母の超能力。
それは、分身みたいなモノを作れる超能力だと思っている。
でなければ昔から色々説明が付かない事が多すぎる。
文字通り、身体がいくつあっても足りないくらいの忙しさだったし……で、話を戻そう。
そんなエマにとって、実のところ、『超能力』はけして未知の事ではなかったのだ。
なにせ、母の分身という超能力な現象の実例を目にしているのだ。他の人たちよりは、受け入れやすいのだろうと思っていた。
「あ、あの、もしかしてあなたにも……超能力があるのですか?」
「ん? ん~、まあ、似たような力はあるんじゃない?」
でも、こうして、改めて超能力を持つ第三者の登場に……エマは、高鳴る鼓動を抑えることができなかった。
だって、これまで雑誌のお便りコーナーにハガキを送ったり、『力を持つ者、我がもとへ』と日中ずっと念じていたりしたけど、これまで一度としてそれらしい人物が寄って来ることがなかった。
自分に、超能力があるのは分かっていた。
でも、もしかしたら、自分が思っている以上に超能力を持つ者が少ないのでは……そんな不安を感じたことは、一度や二度ではない。
そんな時に、こうして目の前で……それも、己とは違ってごく自然体なままサイコキネシスを使ったのだ。
「あの、あ、あの、貴女の他にも、貴女みたいな力を使える人がいたりしますか?」
これで、声を振るわせるな……というのが無茶な話であった。
「……居るんじゃね?」
「ほ、本当に!?」
「程度の差はあるけど、それなりに居るよ」
「……いたんだ、本当に」
そして、まさかねと思っての質問に対して肯定されるとは思っていなかったエマは、それ以上の言葉が出てこなかった。
けして、疎外感を覚えていたわけではない。
ただ、母と自分以外に『力』を持った人が実在していると分かった事に、なんとも表現し難い感覚を覚えて、胸がいっぱいになったからだった。
「色々とありがとう。それじゃあ私は行くよ、またどこかで会えたらお礼させてもらうから」
「──あ、あの!」
「ん?」
だから──感動しているエマを他所に、何事もなく立ち去ろうとしている彼女を見て……エマは。
「お、お友達になりませんか?」
「はい?」
気付けば、そう口走っていたのであった。
……。
……。
…………エマにとって、『恐怖の大王』と名乗る、謎に包まれた彼女は──これまで出会ってきた様々な人たちに比べて、明らかに未知の存在であった。
まず、金が無いと話していた彼女だけど……気付けば、彼女は大金を手にしていた。
いったい何をしたのか、エマにはよく分からなかった。
ナニカを、彼女は行った。
行き先も分からず一緒に歩いていると、彼女は急に立ち止まり。
何か、そう、たまたま近くを通った怖そうな女性……派手な格好のその女性をチラ見したかと思えば、女性を指差してスイっと指を動かした。
その直後──彼女の手は、帯が付いた札束があって。
先ほどまで派手な格好をしていた女性は、みすぼらしい恰好になっていて、化粧もしていない、生気のない顔になっていた。
いったい、何が起こったのか……驚愕の眼差しで彼女を見つめていると、視線に気付いた彼女は素直に教えてくれた。
──曰く、『因果を改変して、そいつが得た富をこちらに回しただけ』、との事らしい。
正直、説明されても意味が分からなかった。
ただ、彼女が『ナニカ』を行い、それで先ほどの女性が貧乏になり、苦労している……というのだけは分かった。
「あの、そういうのは、良くない事だと思います」
「そう? でも、このお金……結婚詐欺とか、美人局とかして稼いだお金だよ?」
「え?」
「私が因果改変をしたから、あの女に騙される男は居ないし、美人局で不幸になる男もいなくなった」
「…………」
「私が何もしなかったら、あの女性は裕福なままだった。その代わり、大勢の男たちが不幸になっていたけど、貴女はその方が良い、と?」
「それは……」
だから、エマは良心に従って咎めたのだけど、まさか、そんな事を言われるとは思っていなかったから……それ以上、何も言えなくなってしまった。
この世には善も悪もある。だが、その間には善でも悪でも計れない灰色の部分がある……というか、大半は灰色だ。
子どものうちは、何でも0か100かで何事も問題が解決すると考えてしまうが……それを受け入れてゆくのが、思春期である。
そして、思春期真っただ中のエマは……何も言えなくなってしまった。
……そうして、何も言えないまま、エマは彼女の後ろを付いて行き……そこでエマは強いカルチャーショックを覚えた。
いったい何が……それは、彼女には家が無かったということ。
最初、家が無いという事をエマは理解出来なかった。
なんでかって、エマにとって家があるのは当たり前な事で、戦争がある外国ならいざ知らず、日本で家を持たない人が居るというのが信じられなかった。
でも、実際に彼女に連れられてホテルの一室に案内されたエマは……強烈なカルチャーショックを覚えた。
いったい何が……それは、彼女が今日の宿と決めたその部屋は、いわゆるラブホテルというやつで……内装の全てが未知の世界であったからだ。
最初、エマは気付けなかった。
見た目は普通のホテルといった感じで、『ホテルに入るのって初めて』とドキドキしていたし、内装が異なる部屋を自分で選ぶという事が初めてで、新鮮な気持ちであった。
だが、実際に中に入ってみれば……これがまあ、思春期には刺激が強すぎた。
まず、ガラス張りのお風呂。当然ながら、外から丸見えである。この時点で、エマはここが普通のホテルでない事に気付き。
次いで、部屋のテーブルに置かれたメニュー表。気になって中を見てみれば、一般的なメニューの他に。
明らかにそういう目的のための栄養ドリンクとか、性器を模した道具だとか何だとか……中には、新品の下着までプリントされていて。
照明もほんのり怪しい色合いで、ベッドは大きめだが……よく見ると、枕元のティッシュのそばには……コンドームまでおかれていた。
そう、コンドームである。
自販機で何度か見かけた事はあるけど、実物を触るのは初めてで……しばし、エマは手に取ったソレを前に、あわあわと視線をさ迷わせることしかできなかった。
(こ、こここ、コンドームって、こんな感じなんだ……)
開けてもいいよと彼女から言われたエマは、好奇心に促されるがままパッケージを開けて……ぴろん、と伸びたゴムを前に、目を白黒させた。
(こ、これを、おちん〇〇に被せて……なんだよね?)
もう、この時点でエマはいっぱいいっぱいだった。
男性経験が無いエマは、これまであまり興味が無かったから男のアレやソレに目を向けたことがない。
エマにとっての男性のアレは、弟の春人の延長線。つまり、毛は生えていないし、皮が被っている、子どものソレであった。
と、いうか、だ。
母である千賀子から何度か話をされた事はあるけど、エマにとって男女のソレは、まだまだ他人事の意識があって。
ぶっちゃけてしまえば、だ。
コンドームという『SEX』をこれでもかと意識させられる実物を前にして、エマは……カーっと、頭が熱くなる感覚を覚え。
「……私はもう今日は休むけど、あんたはどうするの? 一緒に泊まるのなら、好きにすればいいよ」
「へ!?」
「いちおう、ホテルを出てしばらくは認識を阻害したままにしてあげるけど、どうする?」
「──か、帰りまひゅ!!」
「そう、それじゃあ、さよなら。また会いたいなら、明日の8時くらいにはホテルの入口で待っていてくれたらいいから」
「──ひゃ、ひゃい!!」
ついに、限界を迎えたエマは……わたわたと慌てたご様子で、その場を後にしたのであった。
(……あ、あそこって、そういう場所だから……通り過ぎた部屋で、その、男と女が、え、えち、エッチを──)
家に戻るまでの道中、カッカと脳天が茹りそうな羞恥心を覚えながら。