ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
「お母さん、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
UMAたちから向けられる、『こいつ……』みたいな視線を無視してやり過ごして翌日。
千賀子は、笑みを浮かべて家を出て行ったエマを見送った。
時刻は、6時50分。
出かけるにしてはずいぶんと早い時刻だが、どうも、友達と朝一から遊びに行くらしく、今日は早出とのことだ。
千賀子としては気になるところだが、何でもかんでも尋ねるのはよろしくない。
いくら親子関係とはいえ、プライバシーがあるわけだし……子供のプライバシーというのを考えない人ほど、無遠慮にアレやコレやと聞き出そうとするけれども。
まあ、心配する気持ちは千賀子とて分かる。
年頃の娘だし、オオカミが寄って来るのも致し方ないし……まあ、それはそれとして、だ。
「ロボ子?」
「調べましたが、お嬢様の周囲に男の姿も気配もありません。また、昨日ご自宅に戻られる際にも、ありませんでした」
その言葉を聞いて、ひとまず、千賀子は安堵のため息をこぼした。
そう、娘のプライバシーは尊重するが、かといって、まったく知らぬ存ぜぬを通すつもりは毛頭ない。
要は、把握しつつも、把握している事を絶対に悟らせなければいいのだ。
ただ、最近は『力』に目覚めていることも相まって、勘の良さが以前とは段違いに上がっているので、ロボ子のスパイロボですら油断出来ない。
おそらく、己の内に眠っていた『力』を自覚し、それを意識してコントロールしようとしているからだろう。
さすがに千賀子ほどではないが、それでも、ロボ子ですら細心の注意を払わなければ見つけられてしまうのだから、なんとも。
とりあえず、千賀子としてはエマの周囲に変な男が近付いてさえいなければ、ひとまずは──。
「──ただし、昨日のデータを先ほど改めて確認いたしましたところ、一時的にエマお嬢様をロストしていたのが確認出来ました。前後のデータ照合を行った結果、ロストした場所はホテル街の一角です」
「はぁ?」
──安心したところに、ポツッと続けられたロボ子の報告に、千賀子はクワッと大きく目を見開いた。
…………ホテル。
……ホテル?
ホテル!?
「おち、おちち、おちちちち、おちっつきなさい、ロボ子。たまたま、たまたままああまままま、そこに居ただけでしょしょしょ」
「マスター、お気を確かに」
誰がどう見ても、動揺しているのは千賀子の方であった。
持っていた湯飲みどころか全身が震え、振動を受けたお茶が瞬く間に周辺に飛び散る……千賀子の顔は、真っ青になっていた。
そりゃあ、千賀子も覚悟していた。いずれ、エマが彼氏を作っていく姿を、その光景を。
だから、想像したくもないけどSEXの可能性を考慮して、コンドームも渡しておいた。
でも、当のエマは、受け取りはしたけど恥ずかしがって箱から出してもいないっぽいから、密かに安堵していたのだ。
それが、いきなりホテルだ。
段階を踏め、段階を。恋のABCのうち、まだAすらしていないっぽいので気楽に構えていたら、いきなりCまで到達している可能性が浮上したのだ。
あまりにも早過ぎるではないか、そう千賀子が思うのも無理は無かった。
……ちなみに、だ。
『恋のABC』とは、1980年代から平成初期くらいまで流行った恋愛の進み具合を示す隠語である。
Aは諸説あるが、一般的にはキスを意味する。つまり、最初のステップだ。
Bは、ペッティングのことで、身体的な接触や愛撫を示す2番目のステップで。
最後のCも色々諸説あるけど、一般的にはSEX……すなわち、最後の段階である性交渉を示している。
実はこの後にもDEFと続くらしいけど、この頃、一般的に知られているのはABCの三つである。
で、話を戻すが、あまりにも不意打ち過ぎる展開に、さすがの千賀子も平静を保てというのは無理があるというもの。
これでもまだ当人は冷静に振舞っているつもりなのが……あ、いや、だからこそ、千賀子の動揺が如実に表れていた。
実際のところ、千賀子はマジでパニック一歩手前であった。
万が一、そう、万が一にもエマがろくでもない男にナニカされてしまっていたら……想像するだけでもヤバい。
しかし、だからこそ、パニック一歩手前。
ギリギリ持ちこたえた冷静な思考の部分が、『周囲に男の姿はなかった』というロボ子の報告を認識出来ていた。
おかげで、本当にギリギリなところで、千賀子は……本当にCの段階まで至っていないということに気付き、踏み止まっていた。
「……誰と居たの?」
「残念ながら、観測できませんでした」
「……まさか、レズの気が?」
「それは分かりませんが、お嬢様より平常時の平均値を超える膣分泌液や、血液反応は確認されませんでした」
「……つまり?」
「マスター、先ほども言いましたが、一時的にとはいえお嬢様をロストしたことを、つい先ほどまで気付けなかった」
「……と、なれば?」
「可能性としては、『恐怖の大王』が関与している可能性が極めて高いかと」
「あと、これは可能性の段階の話ですけど、今日エマお嬢様が遊びになるという相手……おそらく、恐怖の大王かと」
それを聞いた千賀子は、一つ、静かに頷くと。
「──〇〇す」
持っていた湯飲みを握りつぶして、立ち上がった──のだけれども。
「落ち着いてください、マスター。下手したら、お嬢様との仲が拗れますよ」
その前に、ロボ子が待ったを掛けた。
いったいどういう事か……思わず千賀子の視線が鋭くなる。それを真っ向から受けたロボ子は、真っ向から理由を説明した。
ロボ子曰く、『今のエマお嬢様は、とても難しく敏感な状況にある』とのこと。
まず、大前提として……エマ自身の身体にはなんの異常も見られない。
認識改変の可能性を考慮して、エマ自身の身体だけでなく、身体を預けた自室のベッドや、入浴時に肌に触れたお湯などを採取するなど、様々なアプローチを行った。
その結果、100%とまではいかなくとも、出来うる限り精度を上げることは出来た……そのうえで、だ。
少なくとも、エマは……暫定的な情報ではあるけれども、『恐怖の大王』との接触を拒んでいるわけではない。
むしろ、バイタル的には良い意味で落ち着いている。つまり、エマは彼女の事を、仲良くなりたい友人だと思っている可能性が極めて高い。
そんな状態で、千賀子があの手この手で理屈を付けて遠ざけようとしたら、どうなるか。
答えは考えるまでもなく、反発である。
それも、ただの反発ではない。
今まで言う事を聞いて良い娘をやってきた分だけの、強烈な反発である。下手したら、千賀子に対して強い不信感を抱きかねない。
だから、うかつに引きはがせない。
かといって、裏から話を回したり、脅したりなんて事をしたのがバレたら……取り返しがつかない。
「こっそりタコ殴りにしたら、いけると思う?」
「止めた方がよろしいかと。下手したら絶縁コースな勢いで拒絶されかねませんよ」
「わ、わたし、お母さんだよ? 母乳飲ませて育てましたよ?」
「それだけ愛情と信頼を置かれているからこそ、です」
「…………」
信頼されているからこそ、その信頼を裏切る形になれば……というやつだ。
なお、この時。
──箱入り娘が、ダウナーなお姉さんを見て憧れちゃうアレみたいだなあ。
と、ロボ子は考えていたりしたけど、ショックのあまり呆然とするしかない千賀子はまったく気付けていなかった。
まあ、うん。
実際のところ、『恐怖の大王』という点を除けば、エマのやっている事はそういうこと。
これまで自分の身の回りにいなかった、アウトローみたいで刺激的なお姉さんを見て、『かっこいい……』と熱に浮かされちゃうようなものだ。
言うなれば、ギターの生演奏を聴いて、俺も格好よく弾いてみたい……と考え始めている、あんな感じが近しいのかもしれない。
あるいは、何かしらの親近感を覚えた結果、心を開いたのか……まあ、どちらにせよ、だ。
恐怖の大王との接触が、エマにどのような影響を与えるのか……ロボ子もそうだけど、千賀子にも分からない。
正直なところ、千賀子からしたら不安しかない。
不安しかないのだけど、今の思春期真っただ中なエマの気晴らしというか、そういう影響を与えている可能性もあるわけで。
「……ロボ子」
「はい」
「脳が壊れそう」
「お労しや、マスター……」
結局のところ、千賀子が出来るのは……ロボ子を通じて静観に留め、エマから話してくれるまで……モヤモヤを抱えるしかないというわけであった。
アウトローダウナーギャンブルカス女 × 箱入りお嬢様
……こういうので良いんだよ、こういうので