ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
季節は少しばかり流れて、10月。
『──(=^ω^=)なにやら悶えている愛し子が可愛いので、ガチャをするべきか迷っております』
「しない方が私は嬉しいのですけど?」
『──(=^ω^=)でも、300話記念ですし』
「女神様、けっこうな頻度で意味不明な事を言い出しますよね?」
『──(=^ω^=)なので、とりあえずダイスを振ってください』
「ダイス……サイコロね、五つも?」
なにやら女神様より渡されたサイコロ。
見た目は普通のサイコロであり、1が赤色で2~6までが黒の、特に変な部分は無かった。
重さも不自然な点は無し、材質も違和感は覚えず、いちおうロボ子に見てもらっても、普通のサイコロという判定だった。
……まあ、致し方ない。
こういう時、下手に無視する方が怖いし……なので、千賀子はそっとロボ子が用意したお盆の上に、ポイっとサイコロを放った。
『6』『6』『6』『6』『6』
まさかのゾロ目に、千賀子はギョッと目を見開いた。
言っておくが、けして狙ったわけではない。
『巫女的パワー』とか、ロボ子が裏で手を回したとか、そんなの一切関係なく、意識せず振ったらゾロ目になったので、素直にビビった。
ちなみに、確率としては7776分の1の確率なので、一発成功はまず起こらなかったり……で、だ。
『──(=^ω^=)残念、今回はハズレましたね』
「ハズレって、いったいなに──」
女神様へと視線を戻した千賀子は──ひゅぅ、と喉を鳴らした。
いったいどうしてか……それは、いつの間にか女神様が手にしていたボードにあった。
──『1~29大当たり(300話記念・特別大サービス♡)』──
なんと、おぞましい言葉なのだろうか。
一般人からの言葉なら期待が膨らむけど、女神様からの言葉となれば、膨らむのは期待ではなく、不安である。
せめてもの救いは、ちゃんとハズレた場合は変更したりせず、素直に受け入れてくれるという点だろうけど。
言い換えれば、千賀子がどれだけ嫌がっても、当たりを引けば有無を言わさないのが女神様の恐ろしい点だけど。
とりあえず、そんな感じでガチャは見送りとなった千賀子だが……さりとて、千賀子の気掛かりは解決していなかった。
気掛かりとはナニカ……言うまでもなく、娘のエマの事である。
なんというか、思春期だけでなく、ちょっと反抗期が入りかけている気がしてならないというか、入ってきている気がするのだ。
こう、目に見える形で反抗的な態度を取るとかではない。
ただ、以前のように何でもかんでも自分に教えてもらえるといた感じではなくなり……なんと、勝手に部屋に入るのはダメとまで言われるようになったのだ。
まあ、それ自体は別に良いのだけど……気になるのは、クローゼットとか机の引き出しとかは絶対に開けてはダメと言われたこと。
それってつまり、そこには親である千賀子にも見せたくない物があるってことなわけで。
あと、以前に比べて……出かける際に、行き先を曖昧にする頻度がめちゃくちゃ増えてきているのだ。
いちおう、ロボ子にも話を通して、万が一体内からアルコールとか麻薬関係の成分や……あるいは異性のDNA(基準値以上)を検知したら、さすがに静観するつもりはないけど。
とりあえず、今のところはどれもアウトラインを超えていないので、見て見ぬふりをしているが……だからこそ、歯痒いわけだ。
口出ししたい。
母として、もうちょっと付き合う相手を考えなさい、と。
ただ、自分もかつては通った思春期だったから分かるのだけど、もしも母親からそんな事を言われたら最後、間違いなく待っているのは強烈な反発だ。
というか、思春期じゃなくても、面倒見ているから全部開示して当たり前なんて事をしたら、縁を切られても不思議じゃない。
エマはもう、赤ん坊ではない。
まだ子どもではあるけれども、子どもではない。大人になろうとしているけど、大人でもない。
ただ、千賀子にとってはカワイイ愛娘というだけのこと。
だからこそ千賀子は……内心では歯を食いしばりつつ、表面上は笑顔を保っていた。
……。
……。
…………そんな時に、だ。
千賀子の下に変わり種……という言い方はなんだけど、陳情みたいな感じで、とある話がスルリといくつも同時に入って来た。
それは、『春木競馬場』とは関係ない周辺というか、上は堺のあたりまで幅広く……で、その内容というのは。
『最近、飲食店などでいかがわしい形態で料理を提供する店が増えている。そろそろ、対策してほしい』
と、いうものであった。
なお、手紙は『春木競馬場』に届いた。正直に言わせてもらうならば、だ。
「え、なんで私に?」
というのが、千賀子の本音であった。
実際、客観的に見ても、千賀子に取り締まる権限などあるわけがない。場内や敷地内ならばともかく、敷地の外どころか、市の外の事に関与する権限など無いのだ。
なんで己に手紙を送ろうと思ったのかと、千賀子は本気で首を傾げた。日本語で書かれているのに、日本語の内容が分からなかった。
送る相手が違うとか以前の問題で……最初は悪戯の類かと思ったくらいである。
いちおう、捨てに前に巫女的パワーにて手紙に宿った感情を読み取ったのだけど、それでも分からない。
なにせ、手紙の主は『もしも聞いてくれたら』とか藁にも縋るといった感じではなく、『ちゃんとしてくれないと困る』といった感じで、親切心で送っているっぽいのだ。
しかも、一通ではない。
同一人物が日を分けて送っているのではなく、複数人がたまたま同じタイミングで、似たような内容の注意書きを送って来たのだ。
これには、さすがの千賀子も困惑するというものだ。
千賀子へと送られてくる手紙やハガキは、事前にロボ子よりチェックが行われる。
ハガキはまだマシだが、封筒の場合は危険物が混入されている可能性があるので、その確認である。
言い換えれば、危険性が確認されなければ、基本的には素通りである。
というのも、千賀子より『危険物でない限りは、通して』と言われているからで……あ、役所とかの書類は全部ロボ子が処理しているけど。
……で、まあ、『いかがわしい形態で料理を提供する』とはどういう事なのか。
何かしらの隠語なのか、それは気になったので、ロボ子に調査させてみたら……まあ、うん。
結論から語るなら──本当に、その言葉通りであった。
要は、『ハレンチな格好をした女性店員(あるいは、女性コック)が接客を行う飲食店』というわけだ。
性風俗と何が違うのかって話だけど、性風俗とは違って、性的なサービスは行わないようだ。
つまり、客は見るだけ。偶発的に手が触れる事はあっても、それだけ。
隣の席に座ったりもしないし、触れ合ったりもしない、たまたま店員が薄着で接客をしているだけ……という形を取っている店とのことだ。
これはまあ、アレだ。
1980年前後に京都や大阪で流行った、『ノーパン喫茶』の延長線だ。『ノーパン喫茶』とは、その名のとおり、女性店員がパンツを履かないで接客する、というもの。
ちょっと前に風営法が厳しくなったことで絶滅したと思っていたが、どうやらアングラ化してこっそり復活していたようだ。
……まあ、だからなんだ、という話ではある。少なくとも、千賀子にとっては。
だって、客も店員も大人がやっているわけだし……警察に頼めって話でしかない。
そもそも、自分のお店で行われているわけではないし。
何度も言うけど、関係者ですらない、敷地外のお店の話をされても……で、あった。
……。
……。
…………それなのに、だ。
「……また?」
どういうわけか、また手紙が送られてきた。しかも、一通だけではない。
しかも、中身が以前とは異なり……今度は具体的に、『千賀子の関係者がいかがわしい店をやっている、なんとかしろ』とのこと。
いったい、どういう事なのか?
関係者とは言っても、知り合いにそういう事をする状況に陥った者は……寄付を行ったところも、個人ではなく団体だし……本当に、どういうことなのだろうか?
首を傾げながらも、千賀子は……ペラペラと封筒を開けてゆき……そして、千賀子は一枚の写真を取り出した。
そこには……おそらく、隠し撮りなのだろう。
ピントがズレているが、どこかの店内と、裸体の女性と、客らしきぼやけた姿が映っていた。
……これが、いったい何を意味しているのだろうか?
同封されていた手紙には店の住所が記載されている。つまり、ここへ行けってことなのだろうか……いや、待て。
「……ん?」
一番手前の客……ではなく、その奥。
店の端っこの端っこ、縮こまるようにして映っている、ぼやけた二つの塊に目を向けた千賀子は。
なんだろう、とても嫌な予感を覚えたので──ロボ子に、その店の近くの映像があるのか、あるのならば確認してほしいとお願いすれば。
「……あ」
「なに?」
「えっとですね、映像以外に音声も拾えました。どうやら『恐怖の大王』は、社会勉強という名目でエマお嬢様をノーパン喫茶に連れていっておりますね」
「は?」
「あくまでも客ですが……もちろん、お嬢様の身体は清いままです。おそらく、店側はエマお嬢様を認識出来ていないのでしょう」
「…………処す、処しちゃう」
「お、お待ちを、今にも相手を皆殺しにしちゃう恐ろしい顔になっております、エマ様のトラウマになりますよ」
そりゃあ、そんな顔になって当たり前である。さすがに、悪い遊びにも程があると千賀子が怒るのは当然であった。
「ていうか、変な手紙の数々ってアイツが因果改変した余波が私のところに来たってことじゃん……マジでアイツ、何しているの!?」
「──忌憚の無い意見ですけど、悪いお姉さんムーブってやつですかね」
「ぐぎぎぎぃぃぃ、マジで今すぐ飛び込んでぶっ飛ばしてやりたい……!!!」
「でも、エマお嬢様の様子は普段と変わらないのでしょう? ある意味、マスターが行えないアンダーグラウンドを彼女が教えているのでは?」
「知らないままでいる方が良いじゃん!!!」
「それを決めるのは、エマお嬢様です。彼女は、エマお嬢様には酒もたばこも教えていません、そういう世界があるということを見せているだけですし……」
「酒とたばこを教えていたら、マジ殺しだよ……っ!!!」
「アウトラインの上で反復横跳びをするとは……さすがは、恐怖の大王というやつですね」
ロボ子からのその言葉を、千賀子は……ギリギリと歯を食いしばって、耐えるしかなかった。