ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──ノーパンで接客が行われる喫茶店に連れて来られた時、ぶっちゃけてしまえば、エマは異世界にでも迷い込んでしまったのかと思った。
だって、あまりにもエマの常識には無い、常識からかけ離れた光景が当たり前に広がっていたからだ。
もう、何もかもが滅茶苦茶だった。
喫茶店と明記されているのに酒類が提供されているし、提供される料理も明らかに喫茶店のソレというよりは、居酒屋系のソレだし。
ノーパンとかアピールしつつも、ノーパンじゃないし……あ、いや、ノーパンの人も居るのだ。
ただ、全員ではない。大半は制服を着ていて、ノーパンの人だけ服を着ている。
逆に、パンツを履いている……表に出てくる店員は全員女性だが、パンツを履いている人は逆にトップレスなのだ。
よく分からないが、ノーパンの人は服を着ている代わりにノーパン。
パンツを履いている人は、その代わりトップレス……といった感じだ。
そのパンツも多種多様で、セクシーなパンツもあれば、野暮ったいパンツもあり、中には……前張りをしただけの過激な人とか……そのうえ、だ。
エマが驚いたのは、店内の客は男性だけで、この店では女性入店禁止になっていたのだけど……女性OKなところもあると、彼女から教えてもらった
たとえば、夏場などではトップレスの女性たちがボクシングをするとか、ビキニでレスリングをするとか、ビアガーデンの出し物として行われていたとか。
にわかには信じがたい話だったけど、実物をこうして見せられてしまえば……まあ、それはそれとして。
(……店員さんたち、全然気にしてない)
そういう店があるのもそうだけど、働いている女性店員が……見られることに対して、あまり恥じ入る様子を見せていないことが、エマは信じられない思いであった。
そりゃあ、こういう店で働く以上は覚悟しているのだろうけど……そういうのも、慣れたりするのだろうか?
先ほど彼女から軽く説明を受けたのだけど、こういう場所での仕事は他に比べてかなり時給が良いのだとか。
でも、いくら時給が良いからといって……もしかして、けっこうそれくらいやれるのが普通なのだろうか?
(もしも私だったら……たぶん、恥ずかし過ぎて一歩も動けなくなると思う)
学校の、体育の際の着替えですら気恥ずかしさを感じるのに、異性の……それも、こんな大勢の人たちの前で……仮に頼まれても、絶対に自分は首を縦に振らないとエマは思った。
「──人それぞれだよ。たかがおっぱいの一つや二つ、さりとて、おっぱいの一つや二つってね」
そんなエマに対して、エマは……注文したオムライスをぱくぱくと食べていた。
曰く、『この店、オムライスが絶品なんだよね』、とのこと。
確かに、それは美味しかった。
人並みより舌が肥えているだろうと自覚していたエマが、もろ手を挙げて「あ、美味しい」と感想をすぐにこぼしたくらいには。
でも、『それだけでは、やっていけなかったんだろうね』らしい。
エマから見たら、『趣があって、良いお店』といった感じだが、一般的な評価は『古臭い店』といった感じらしい。
立地も、あまり良くはない。
昔は工場が近くにあって従業員やらタクシー運転手やらが寄ってくれたし、そこの家族が来たりもしたけど、それも閉鎖されてからは……。
最近の若者はもっと流行りの店に行くし、買い物帰りに寄って行くといった事も無いから、以前に比べて客足がかなり遠のているらしく。
苦肉の策として『ノーパン喫茶』をやっている、とのことらしい。
それを聞いた時、率直にエマが思ったのは……もったいないなあ、という気持ちであった。
だって、あれだけ美味しいオムライスが作れるのだ。もっと、他にやりようがあったのでは……そう、エマは思った。
でも、同時に、そう思うこと自体が傲慢なのかな、とも思った。
第三者の立場だから好き勝手言えるだけで、己の考えている程度、この店の人が考えて……で、だ。
店を出てから、彼女がこぐ自転車の荷台に腰を下ろして……行き先は、その時によって変わる。
彼女は、本当に自由なのだ。
朝に競馬に行くと話していたかと思ったら、向かう途中で気が変わって商店街に行ったり。
そうかと思えば、雨が降ったから今日はもう休みとホテルにて、ずっとテレビゲームに勤しんでいたり。
中華が食べたいと言い出したら、わざわざ遠出して店に行ったり、蕎麦が食べたいと思ったら遠出したり……本当に、自由気ままである。
普段、この人が何を思って過ごし、何をしているのかも知らないけど……正直なところ、エマの目には、とても輝いて見えた。
思い返せば、己の前にはいつも母の背中があった。
己の背後には母の背中を追いかける人たちがいて、周りには母に感謝する、優しい人たちが大勢いた。
でも、そこに……エマだけの第三者はいなかった。
友達は居る。
でも、友達の親は、母の姿を見ていた。
友達も、親の影響を受けて、視線のどこかに母の背中が宿っていた。
その事を辛いと思った事は無いし、悲しいと思った事も無い。母の愛を疑ったことだって、一度としてない。
だけれども……自分だけのナニカを欲しいと思った事は、一度や二度ではなかった。
別に、母の事を嫌だと思ったことだってない。
ただ、何時の頃からなのか……母の影響の無い、友達が欲しいと思うようになっていた。
贅沢な悩みだとは自覚していた。
こんな自分を、愛情深く育ててくれたことには感謝しているし、いつか恩返ししたい、親孝行したいとも思っている。
でも、それはそれとして。
自分だけの、等身大の、そういう友達が居たらなあ……と、心のどこかで考えていた。
──そんな時にエマの前に現れたのが、『恐怖の大王』と名乗った彼女である。
彼女の事を、エマはいまだによく知らない。
出身地も、年齢も、何もかも……ただ、自分以上の『力』を持っていて、自分が知らない事、知らない世界をたくさん知っている、それだけ。
それとなく母の事を知っているかと尋ねたら、『ああ、あのおっぱいオバケね、そういえば、あんたそいつの娘か』と言われた時は、ちょっと笑った。
だって、あの『秋山千賀子』に対して、だ。
わざとらしく、悪意を持ってとかじゃない。
本当にこの人は欠片の悪意もなく、見たままをそのまま口に出しただけ……そんな感じで、エマが口に出すまで、千賀子の娘とすら忘れていたか、あるいは……。
それが、どうにもくすぐったくて、嬉しかった。
だって、彼女の目には、母の背中が宿っていないから。まっすぐ、己だけを見つめていたから。
不思議な人だと思った。
本当に、何もかもが不思議で……だからこそ、エマはもうちょっと一緒にいたいと常々考えるようになっていた。
たぶんそれは、世間的あるいは一般的な感性で見たら、まるでダメな人間である彼女が。
「タバコは止めとけ、身体に害しかない。自分の金で吸えるようになったら、自分の責任で吸いな」
「……? 止めないんですか?」
「止めているだろ、今はね」
「今は?」
「大人になってから吸いたいなら勝手に吸えって話だ」
それでも、エマにとって害になる行いだけは、最初は突き放しながらも、けしてOKは出さなかった。
「酒は……まあ、身体が出来上がってからにしな。酒に酔うなんて、好きな時に出来るわけだし」
「……自己責任で?」
「自分で飲むと決めて飲んだのならね。未成年に飲ませようとするやつは……貴女の場合は身体目当てだろうから、飲むなよ」
「え、そうなの?」
「貴女が男だったなら、仲間としてやれるかって意味でやってくるだろうけど、女の貴方に飲めと強要してきた時点で身体目当てだ、意地でも飲むな」
「……そ、そうなんだ」
「いざという時、自分の身は自分で守るしかないんだ、肝に銘じておけよ」
だからこそ、エマは……けして善人ではないのだろうと思いつつも、悪人だとは思い切れなかった。
「……オカネカシテ」
「あの、未成年の私にタカるのは良いんですか?」
「ショウブハマダハジマッタバカリ、マダマダコレカラダヨ」
「そうは言っても、今日持ってきたお金って3000円くらいで……じゃあ、500円分ね」
ただ、負けた時にくっそ情けない顔でお願いしてくるのは……その、本当に情けないから改めて欲しいな、とは思った。