ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
さらに時は流れ、12月。
『タマモクロス! タマモクロスが来た! ついにタマモクロスが重賞制覇! そして、レコード達成! これで3連勝、ついに芽吹いたぞ、タマモクロス!!』
あの秋山千賀子が最後と定めた競走馬、『タマモクロス』が重賞を勝利した。
当初は馬体が小柄なこともあり、そのうえ、未勝利戦を勝利してから勝ちから遠ざかっていた。
これまで、買う馬、買う馬、軒並み重賞勝利したりダービー取ったりと、ヤバいレベルの名伯楽として知られていた千賀子の、最後の馬。
ついに、千賀子の目も曇ったのかと囁く者も居たが……それも、重賞を勝利したことで居なくなった。
『白いイナズマが轟いた!』
そんな見出しが競馬新聞に載り始めた頃……千賀子は、少し前よりどうにも拭えぬ違和感を覚え続けていた。
別に、極端に悪い事が起こっているわけではない。
時々、前後の経過がよく分からない流れで不運な境遇に至ったみたいな話が流れて来るけど、それくらいだ。
それとは別に、どうにも別の、違和感がある。
その違和感を、千賀子はうまく言葉には出来なかった。ただ、けして良い方向の違和感ではないな……と思った。
正直なところ、この違和感の原因に恐怖の大王が関与している……とは、いや、関与している、のか?
うっすらと、影響を受けているような感覚はするのだ。
ただ、これはアイツが積極的にナニカをやっている……とまでは思えないのだ。
むしろ、もっと大きな……なんだろうか。
女神様とは違う。女神様がナニカをやっているとか、そういう感じではない。
もっとシステムチックというか……なんだろう、浴槽に溜めていた水が徐々にあふれ出しているというか。
ロボ子に何か違和感を覚えるかと尋ねてみるも、『各種計器、不穏な反応はいっさい見られません』との事だった。
物理的なセンサーでも反応なし、自身の巫女的シックスセンスでも分からない……う~む。
(エマの事も気になるし、違和感の正体も気になるし……さて、どうしたものか?)
なんとなくだけど、そのうち……そう遠くない未来で、ナニカとんでもない事が起こるような気がしてならない。
ただ、何が起こるのかが分からない。検討すら付けられない。
『巫女的パワー』を用いても、ここまで見えないのは初めてで……だからこそ、千賀子は不安を拭いされなかった。
……とはいえ、だ。
ひとまず、『違和感の正体』はいくら考えたところで分からないので、後にするとして……今は、エマの事だ。
なんというか、ここ最近になって、エマの態度というか、反応というか、過ごし方が変わってきているのがはっきり見た目に現れ始めていた。
以前は、そう……『ぼく地球』を見て雑誌に投稿したり、木々に話しかけたりといった行動を取っていたのだけど。
あ、いや、『ぼく地球』は今も継続して購入して読んでいるっぽいのだ。掲載雑誌も当日購入しているから、その熱意は変わっていない。
でも、以前みたいに『私は超能力者だ!』といった熱意は感じられず、もっとこう……なんだろう、純粋に作品が好きだから購入しているファン、といった感じになっている。
いちおう、『自分は一般人』という感じではなく、超能力者という自覚をしつつも、以前と同じような振る舞いに戻りつつある……といった感じか?
要は、落ち着きを取り戻しつつある、か?
千賀子としては、一線を越えるような思春期の暴走にまで至らなくて……もう暴走していると言われたら、それまでだけど。
それ自体は、良いのだ。
ただ、それをやっているのが自分ではなく、恐怖の大王であるアイツがやっているというのが……どうにも腹が立つというか、何というか。
「言ってくれたら、私が教えたのに……」
「何でもかんでもマスターが指導なんてなさったら、間違いなくエマお嬢様の心が歪みますよ」
思わずこぼれた言葉に対して、ロボ子は忠告した。
「ロボットである私が言うのもなんですが、今のエマお嬢様はちゃんと心が成長している時なのです」
「分かっているわよ、それくらい……」
「失敗するのも経験でしょう。マスターだって、これまで幾度となく失敗してきたではありませんか」
言われて、千賀子は……ロボ子より視線を逸らした。
「……他人の子供なら冷静になれるのに、自分の子供だと、どうもね」
「それは、我が子ですからね」
「……まあ、うん」
「エマお嬢様にとって、恐怖の大王は気心知れたご友人という立場になりましたから」
次いで、ぐうの音も出ない正論を叩きつけられて……千賀子は、大きなため息を吐いたのであった。
……ちなみに、だ。
例年ならば秋山家でのお正月は実家に帰省するか、おせちを囲んでのんびり過ごすのが一連の流れだったのだけど。
「あ、お母さん。今年の正月は、その……友達と一緒に過ごしたいの」
「──っ!?」
「えっと、ダメ、かな?」
「……いちおう聞いておきますけど、彼氏では、ないのよね?」
「え、うん、友達だよ」
「向こうの親の了承は得ているの?」
「う、うん、それは大丈夫」
「…………」
「……ダメ?」
「……おせち、いくつか詰めるから、持って行きなさい」
「──うん!」
満面の笑みで喜ぶ娘の姿を見て、千賀子はギリギリと食いしばりそうになるのを必死にこらえるのであった。
分かってはいる、分かってはいるのだけど。
それでも、子どもがちょっとずつ離れてゆくのを感じるのは……身を切るより辛いのであった。
……。
……。
…………さて、そんな不穏な気配を他所に、1988年を千賀子がやる事はやはり変わらない。
ただ、以前に比べて、どうにも動きが読めなくなったような気がする……そう感じることが増えているように千賀子には思えた。
景気の動きも、いよいよ混沌とし始めている。誰も気付いていないが、ロボ子より寄せられるデータを見れば、一発で分かる。
なにせ、昨日まで景気が良かった会社が、今日になれば倒産し、翌日になれば別の企業が入っている……という、あまりにも意味不明な状況がチラホラ以前より確認出来る頻度が増えているのだ。
なんというか、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通した時のような現象がそこかしこで起こっている……といった感じだろうか。
これまでは起こす側だったけど、実際に第三者の立場で起こされる側を体感すると、終始困惑しっぱなしで。
本当に意味不明過ぎて……今さらになって、ロボ子があそこまで気持ち悪いと腰が引けていた理由を察したのであった。
……でもまあ、そんな中でも良いニュースは出ている。
たとえば、昭和天皇が公務に復帰したというニュースだ。1987年にて開腹手術が行われ、『ガン』が発覚したという。
その後、治療が行われ、今に至るといった感じだが……まあ、それは置いといて。
(おかしい……やはり、違和感がどんどん強くなっていっている)
年が明けて、冬休みも終わり、エマと春人を送り出した千賀子は……徐々に増してゆく不安に、困惑していた。
やはり、原因が分からない。
でも、ナニカが起こるというのだけは分かる。そして、それはもう間もなくだろうという直感も働いている。
……いちおう、これまでと同じではあるけれども、景気対策は行っている。
特別レースを開いたり、寄付を行ったり、法的グレー(あるいは、アウト)なやつらを蹴散らしたりして。
根本的な治療ではなく、対症療法でしかないのだけど、それでも着実に影響を抑えてはいる。
ロボ子を通じて調査範囲を拡大し、以前よりもセンサーや検査機器を増やして、少しでも異常な数値が観測されたら……といった対策もしている。
それでも分からず、違和感そのものへの感覚は途切れず……千賀子自身、どうしたら良いのか分からなくなっていた。
なにせ、UMAたちにも『なにか、変わった事が起きていないか?』と尋ねに回ったくらいである。
UMAたちも、あの千賀子がわざわざ頭を下げて尋ねに来たとなれば、誰もが居住まいを正して……それでも、分からないのだ。
正直なところ、手詰まりな状況に陥っている気がして……そんな時であった。
「──やあ、秋山千賀子」
「あんた……」
「──少し、話をしようか」
「……ここで?」
「『小川』で」
『恐怖の大王』が、千賀子のもとへとやって来たのは。
冬の寒さが厳しい、平日の青天。
以前会った時と同じく、何を考えているのかよく分からない彼女は、クイッと千賀子を誘い出した。
ワープを使えば、数百キロメートルの距離も一瞬である。
──久しぶりにやってきた『小川』は、相変わらずの光景であった。
以前のゴルフ場問題でちょっと色々あったけど、そこらへんは千賀子が手直しした事もあって、今ではすっかり以前の光景に戻っていた。
やはり、平日の昼間な事もあり、辺りには人の気配が無かった。まあ、今は季節も悪い。
時期的にもそうだし、知る人ぞ知る穴場というわけでもないし、珍しい魚が取れるわけでもない。
昔に比べて若年層の数が減っている。今はお店で安く魚が買えることもあって、魚釣りをする人も減っている。
千賀子がまだ子供の頃は、魚目当てに釣竿を垂らしている人がチラホラ居たけど……っと。
「ここは、相変わらず同じ景色が続いているね」
河川敷にある、大きな岩に腰を下ろした彼女の隣に、千賀子は立った。
「……それで、何の話かしら?」
「そう怖い顔をするな……私はただ、貴女に忠告しようと思っただけだよ」
「はい?」
「私はね、秋山千賀子。今も、考え方は変わっていない。死は救済だと思っている」
「…………」
「人はね、貴女が思っているより強くはない。貴女も分かっているでしょ、この世は苦渋に満ちていて、幸せは貴女が思っているように儚いと」
「……何が言いたいの?」
無駄話を遮って、千賀子は問いかける。
「私が死を強制するんじゃない。人々が死を望むから、私は乞われたから与えるだけ……見方を変えれば、貴女はそんな人々の救済を邪魔する悪魔だろうね」
「……茶化しに来たの?」
「事実を伝えに来ただけだよ。人はどれだけ恵まれた環境に置いても、勝手に自分を不幸だと思い込む。大なり小なり、人はそういうモノを持っている……だから、私が生まれた」
「……何度も言わせるな、何が言いたいのかはっきり言え」
曖昧な言い回しに苛立った千賀子が再度問いかければ、彼女は……しばし眼前の『小川』を見つめた後で、ポツリとこぼした。
「恨みや想いには、時間や空間という概念は存在しない」
「は?」
「過去も今も未来も、すべて同じだ。過去に生じた恨みは今に続くし、存在していない未来への恨みが今に至る。距離を飛び越え、空間を飛び越え、時には次元の壁すらも飛び越える」
「……はい?」
「なあ、秋山千賀子……幾度となく、起こるはずだった未来を塗り替え、今へと繋ぎ、過去へと置いてきた」
「…………」
「でも、消えたわけじゃない。歴史は消えても、想いは、恨みは、消えない。必ず、どこかで帳尻を合わせようとする」
目を瞬かせる千賀子をしり目に、彼女は言葉を続ける。
「バブル景気が弾けたのは、何時だと思う?」
「今度は、なによ」
「もう、貴女の記憶から過ぎ去った異世界の記憶……その世界において、バブルが弾けたのは1991年の2月頃だと言われている」
「だから?」
「秋山千賀子、貴女が幾度となく世界に働きかけ、私を生み出さないようにし続けた結果……この世界では3年早くバブルが始まった」
「……だから?」
「そして、弾けるのも3年早い。私が生まれなかったとしても、この世界では1988年の2月に弾ける予定になっていた」
「…………」
「でも、そうなっていない。私が生まれたことで過去と今と未来が混じり、貴女が介入しなかった過去と今と未来が混ざり合い……少しだけ準備期間が生まれた……でも、それも間もなく終わる」
そこまで語ると同時に、彼女は……透明な眼差しを千賀子へと向けた。
「貴女が否定し、塗り替えて無かったことにした過去の恨みがやってくる」
「貴女が拒絶し、塗り替えて無かったことにした未来の恨みがやってくる」
「存在しない過去に追いやった恨みが、見えなくして忘れ去ろうとした現在の恨みが、未来に起こるはずだった恨みが、世界から追い払おうとした恨みが……追い付こうとしている」
「──そう、私の下へやってくる。数多の恨みが私と一つになる」
そうして──その言葉を言い終えるとともに、彼女は消えた。
それは、千賀子でも認識することすらできない一瞬の事で、その気配すら、もう千賀子には正確に捉えられなかった。
『──秋山千賀子、覚えておくといい』
でも、気配がある事だけはうっすら感じる。
そんな千賀子に、その声が……確かに、響いた。
『──不幸を生み出さないようにしたツケは、必ずやってくる。誰かを幸せにすることは、誰かを不幸にすること』
『──誰も彼もを幸せに、その対価は誰が支払う?』
『──貴女が変えた不幸な過去、悲しい現在、起こるはずだった未来……生まれるはずだった恨みが、やってくる』
『私は、乞われただけ。恨みを晴らすために……』
そして、その気配も……その言葉を最後に消えたのであった。