ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
お正月、初めての外泊。
残念(?)ながら彼氏ではないけど、初めての外泊は、なんだかとってもドキドキした。
まあ、外泊とは言っても、だ。
友達の家ではなく、友達が利用しているホテルだし。
基本的に私物を持たないようで、部屋には彼女の気配がいつも少なくて……まあ、ホテルだし。
ていうか、ホテルだから私物を置いたって撤去されちゃうだろうし。
生活感は皆無だったけど、親の目が届いていない場所で一夜を過ごすというのは、本当に不思議な気持ちであった
ちなみに、未成年だから普通は親の許可なく外泊出来ないけど、そこらへんは彼女がなんとかしてくれた。
「貴女のお母さん、料理上手ね。初めて食べたけど、おせちってあんなに美味しいモノだと思わなかったわ」
「そうでしょ? お母さん、料理もすごく上手なの。私も色々と習っているけど、全然追い付けそうにないんだ」
「それは仕方ない、女として20年くらいは先輩でしょ」
「そうだけど、悔しいじゃない」
エマがそう話せば、彼女は首を傾げながらも否定はせず……そっと、カセットコンロをどこからともなく取り出した。
普通は、というか、ホテルに限らず、火を使うのを想定しない場所でそんなものを使ったら普通にアウトである。
万が一天井にスプリンクラーがあれば大惨事だし、状況によっては天井に熱気が溜まって……という場合があるからだ。
なのに、彼女は気にした様子もなく、ベッド傍のサイドテーブルにてコンロをセットし、当たり前のように鍋を置いて湯を沸かし、蕎麦を茹でる。
台所以外で料理をするという感覚が無かったエマは、それはもう不思議な感覚であった。
別に、悪い事じゃない。ただ、常識には無かった行為に、エマは目を瞬かせた。
母が作る時はキッチリ茹でる時間を計るし、そばつゆだってキッチリ分量を計る。
しかし、彼女の作り方は雑だ。
茹でる時間は壁に設置された時計を見て雑に決めるし、蕎麦の量だって雑に決めるし、ザルに入れる時だって、箸でパパっと取って終わり。
それなのに、茹でた蕎麦を洗って冷ます時は、水道水ではなく瓶に入れた水(?)で冷やすとかいう謎のこだわりを見せる。
「あ、これ? 富山の水だよ。蕎麦は水が命、今頃の水道水だと雑味が混じるからね」
たとえば、蕎麦を茹でる際は水道水で茹でるのに、洗う時はわざわざ富山から用意した水を使うとか。
それでいて、蕎麦の具材を一部買い忘れたとかで、おせちの余りを入れたり……いや、これがまあ以外に美味しくて驚いたのだけど。
ただ、おせちを蕎麦の具材代わりに使うというのも考えたことがなかったので、目から鱗みたいな感覚であった。
なお、餅も焼いたのだけど、網に餅を乗せてコンロの火で直接炙るとかいう力技を見せた時は、ちょっと笑った。
なんでかって、エマの家ではトースターで焼くのが普通だったから、直に焼くという考えが無かったからだ。
……ちなみに、だ。
1988年の時点で一般家庭でトースターは普及していた。
ただ、置いていない家もあったし、火に掛けて焼くことにこだわりを持っている人もそれなりにいた。
千賀子は特にこだわりもなく、トースターで焼いたら楽じゃんってな感覚だったので、エマが軽いカルチャーショックを受けるのも致し方ない事であった。
……。
……。
…………そうして、正月が過ぎ去れば、また彼女は賭け事に精を出し始めた。
「オカネカシテクダサイ」
「えぇ……この前競馬で当てたお金、もう使っちゃったの?」
「宵越しの銭は持たない主義なので」
「それなのに、高校生の財布にタカルの?」
「ソレハイワネエヤクソクダヨ」
「恥ずかしいと思うなら、借りなければいいのに……」
とはいえ、本当に貸さないままだと、どこかで調達しない限りガチで絶食し続けたりするから、貸すけど。
というか、だ。
気のせいかもしれないけど、なんだか以前に比べて金遣いが荒いというか、後先考えないようになっている気がする。
いや、まあ、以前はそうではなかったと問われたら、前とそんなに変わっていないと答えるけど。
それでも、以前よりもそう感じる頻度が増えた。
そう、なんて言えば良いのか……なんというか、ナニカに焦っているというか、急いでいるというか。
あえて挙げるなら、表情が異なっているような気がした。
同じように賭け事をしていても、どこか上の空というか、かと思ったら、以前より必死な様子というか……そう。
なんというか、以前はあったはずの『ギャンブルを楽しむ』といった様子が無くなり……まるで、心残りを無くそうとのめり込んでいる、そのようにエマには見えた。
でも、エマは……その事について、触れることが出来なかった。
なんとなく、聞いてくれるな……と、言われているような気がして、どうしても尋ねられなかった。
それに、そんな彼女は……何だかんだ言いつつ、エマには優しかったのだ。
ある時は、バイクの後ろに無理やり乗せられて、道路を爆走したり。
ある時は、罪深いぞと夜にカップラーメンを作って、半分こしながら食べたり。
かと思えば、エマの『超能力』について、けして茶化さずに真剣にコーチをしてくれた。
必ず、練習前に『この力は、時には容易く人を殺す。感情に任せて使うな』と何度も何度も……そう。
けして、手本になるような人ではない。
ただ、手本にしてはいけない人でもない。
善人ではないけど、まるっきりの悪人でもない。
なんというか、ちゃらんぽらんに生きてはいるけど、投げやりに生きているわけでもない。
そんな彼女の生き方に憧れを抱く……というのとは、少し違う。
ただ、そういう生き方もあるのかと知った時は、とても不思議な気持ちになった。
彼女はいつも、エマを普通の少女として扱ってくれた。
せいぜい、ちょっと変わった力を持つだけの少女として。頭でっかちで、見た目が良いだけの、ただの子供として扱ってくれた。
それは、エマにとって……本当に初めての経験の連続であった。
「……エマ、今までありがとう、楽しかったわ」
「え?」
「実はね、わたし……ちょっと、遠くに行くことになったのよ」
「そんな……どこへ?」
「遠いところだよ、とってもね」
「……そう、なんだ」
「そう」
「何時から?」
「明日から」
「突然だね」
「伝えるべきかどうか、迷ったんだ」
「……そっか」
だから……だから、彼女からそんな事を言われた時、とてもショックだった。
本当に、本当の本当に、心からショックだった。
何時までも、彼女と一緒にいられるわけがないとは思っていた。
だって、彼女は明らかに普通の人じゃない、根無し草。対して、自分は秋山千賀子という母の庇護下にある、ただの高校生。
すべてを捨てて飛び出していけるほどの勇気は、エマには無い。それに、そこまでの間柄でもない。
そして、そんな事をしても彼女はけして喜ばないし、 りつけて元の場所へ帰れと叩き出されるだろう。
だけど、エマは彼女の事を友達だと思っていた。
おそらく、彼女も自分の事を似たように思っていたと思う。
だから、そのうち別れる話という話をしてくれたのだと思う。
だって、彼女の性格を考えたら、どうでもよい相手だったら何事も言い残さず、そのままどこかへ消え去っていてもなんら不思議ではないから。
でも、それでも……こんな突然な事ではなく、もっと前から話してほしかったなと思った。
「……どうしても、行くの?」
「どうしても」
けれども、ショックを受けた自分と同じく、彼女も思い悩んでくれたことが……せめてもの慰めに思えた。
「それじゃあ、さ」
「ん?」
「最後だし、お酒飲んでいいかな?」
「それはダメ」
「一口だけだよ?」
「あんたの母さんはあんたを信頼したから、見て見ぬふりをしてくれているんだ。その信頼を裏切っちゃあいけないよ」
「ケチ」
「ケチでけっこう」
そう言った彼女は、いつものように……へにゃっと笑うだけで、けしてエマに甘い顔はしなくて。
その事を悲しく寂しく思えても……それでも、エマは涙を見せず、彼女にお別れをして──翌日。
いつものようにホテルへと向かい……お昼を回っても、彼女が出てこない事を察し……そこで初めて。
エマは……静かに、涙を流したのであった。
……。
……。
…………そして時は少しばかり流れ……2月。
愛娘であるエマが、ある時を境にとても落ち込んでいるのを見た時、千賀子は察した。
たぶん、『恐怖の大王』と別れたのだという事を。
手酷く振るような形で別れたわけではない。たぶん、エマの事を想って優しく分かれたのだろう。
それくらいならば、千賀子にも察せられた。
その証拠に、落ち込んではいても、傷ついたといった様子ではなく。寂しそうにはしつつも、辛そうにはしておらず。
……いや、隠しているだけなのだけれども、それでも、ちゃんと受け入れているようであった。
それならば、千賀子からは何も口を挟むような事はしなかった。
何故ならば、ソレはエマにとって思い出の聖域だからだ。
たとえ母親であろうとも、おいそれと口を出すわけにも、踏み込むわけにもいかない。
エマはちゃんと自分で受け入れ、飲み込み、立ち止まりはしつつも座り込むような事はしてないのだから……だから、千賀子も見守る程度に留めたのであった。
そして……その日は来た。
(……っ!? なに、この気配!?)
変化に気付いたのは、やはり、千賀子が最初であった。
それは、以前より感じていたうっすらとした違和感が、はっきりと強烈な違和感となって、千賀子の探査網に引っ掛かったから。
違和感の出所は……以前、『真・恐怖の大王』がはっきりと世界に具現化し、千賀子と接触した、あの場所。
そう、東京タワーの頂点より上、高さ333メートルよりはるか上空……そこで、彼女は静かにたたずんでいた。
「……来たか」
彼女は、振り返りはしなかった。
「ずいぶんと、物騒な気配を漂わせているじゃないの」
ワープにて瞬時に姿を見せた千賀子。
その恰好は巫女服であり、全身から巫女パワーがビリビリと迸っている……本気だ。
それも、無理はない。
何故ならば、明らかに眼前の彼女の気配が、感じ取れる『力』が、以前とは別格だと思えるぐらい異なっていたからだ。
そう、本当に、桁違いに強くなっている。
その姿を目にした千賀子は最初、私に気付かれることなく力を隠し続けていたのかと警戒したが、すぐに違うことに思い至る。
隠していない。ただ、瞬く間に上昇し続けているだけだ。
秒単位なくらいに、ものすごい勢いで上昇し続けている。千賀子ですら、勝てない可能性を想像してしまうくらいに。
「いったい、どんな手品を使ったのかしら?」
「言ったでしょ。未来、現在、過去、すべてだって」
さて、どうしたものかと悩む千賀子をしり目に、彼女は──振り返る。
「理由なんて必要ないのよ。どんな形であれ、貴女がやったことなのだから──そして、もう私でも止められない」
そして、その言葉と共に──彼女の身体から、『力』が溢れ出る。
世界が、止まった。
時間が、止まった。
すべてが、止まった。
その中で、千賀子は聞いた。
それは、憎悪の声であった。
どうして自分が消えるのか、どうして、どうして、どうして、どうして。
それは、初めはただの感情であった。
でも、誰かがそこに憎悪だと思えば、それに呼応する形で感情が憎悪へと染まり、それが広がってゆく。
──その憎悪が、負の念が、彼女へと吸い込まれてゆく。それはまるで、乾いた身体に染み込むかのように。
……。
……。
…………沈黙が、二人の間を流れた。けれどもそれは、穏やかな空気ではなかった。
「さあ、止めてみせよ」
「──っ!」
そして、身構える千賀子に合わせて、ついに限界を超えた負の念は──彼女の全身を覆い隠し、カッ──っと、黒い光を放った。
放って──。
放って──。
放って──。
はな──あれ?
身構える千賀子を他所に、黒い光に包まれていた彼女から、黒い光がスーッと、消えた。
後には、なんかポーズを決めたまま固まっている彼女……その顔は、ぽかん、と呆けていた。
「……?」
あれ、なんか思っていたのと違う。
そう言わんばかりに目を瞬かせる彼女……当然ながら、千賀子もまた、何が起こったのか分からず目を白黒させていた。
傍から見たら、だ。
なんか、今にもラストバトルが始まりそうな、それっぽいポーズを決めて身構えている女が二人。
しかも、二人とも超が上に何個も付くくらいの美人で、πがデデーンと大きくて、腰は細いし尻はナイスとかいう、様々な人たちの嫉妬を買うような女が、だ。
「……え?」
「あれ?」
「……おかしいな」
「どういう事?」
なんか予定していた流れと違うぞ、みたいな様子で互いに顔を見合わせていた。
いったい、何が起こっているのか。
さすがに想定していなかった状況に、千賀子と彼女は一旦休戦し……近寄って、確認する。
彼女が語る恨みやら何やらの『負の念』は、千賀子にも感じ取れる。どこからともなく、集まってきているのが分かる。
でもそれは、千賀子以上に感じ取れる彼女が居る。その彼女ですら状況が分からないとなれば、千賀子に分かるはずも……いや、違う。
その時であった……『巫女』である千賀子は、『負の念』よりにじみ出る、混ざり合った憎悪の中にある……意思を聞き取った。
──っ。
(なんだ、これは?)
──っ。
(消え去った者たちの意思、なのか?)
──っ。
(消える間際の声?)
──っ。
(しかし、どういうことだ?)
──っ。
(たしかに、私に向けられている……けれども)
──っ。
(そのほとんどは、別の──そう、私の──)
背後に居る──そう。
──めがみ、こわい、ゆるせない。
(=^ω^=)
その意思の矛先は、千賀子の背後に居る──やつへと向けられていて──気付いた時にはもう、ヤツは、それらを取り込んでいた。
「え?」
「え?」
気付いた千賀子は、遅れて気付いた彼女も、まさかと思って──千賀子たちを見下ろす(=^ω^=)へと視線を向ければ。
『──(=^ω^=)ナンダカヨクワカラナイケレド、ワカリマシタ』
ナニカ、そう……勝手にナニカを納得した女神様は。
『──(=^ω^=)イツデモウケテタチマショウ、ア、ダメ、ソノカオモカワイイ……』
ナニカ、そう……勝手に納得して、なんか勝手に悶えていた。あと、どこからともなく取り出した看板には。
『愛し子が愛おしくて堪らな──うっ、これ以上は愛おしさのあまり出産しそう──身ごもりませんけど、実質身ごもっているに等しいので、とりあえず裏・恐怖の大王です』
と、書かれていた。
……。
……。
…………それを見た千賀子と彼女は、奇しくも。
ゾゾゾッ──と。
まったく同じ表情を浮かべ、まったく同じタイミングで、背筋を震わせ──かつてない状況に、恐れおののいたのであった。
千賀子の皮を被った『真・恐怖の大王』、うっかり勘違い発動。大事な時にしょうもないアホをやらかすのは、いったい誰に似たのか。
千賀子の方は、女神様への矢印だったので、うまく感知できず。女神様が関与するとほぼほぼ『巫女的パワー』が通じず、いったい誰のせいなのか。
女神様は『負の念』なんて効かないし、何が何だか分からないけれども、なんか千賀子(千賀子の皮を被った彼女も)が構ってくれそうだから、ラスボスに転じる。
こういうの、あると思います