ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
千賀子の考え無しな行動と不注意によって月が想像妊娠し、大勢の青少年(少女、含む)の性癖をぐちゃぐちゃにしてしまった千賀子だが……そんな千賀子を他所に、世間の状況はかなり混沌を極めていた。
と、いうのも、だ。
過去、現在、未来、捨て去られた因果の果てよりやってきた負の念が『恐怖の大王』へと取り込まれる事はなかったのだけど、それはあくまでも、負の念だけ。
捻じ曲げに捻じ曲げて来た因果のツケ、それは彼女も女神様も特に何も対応していないこともあって。
千賀子の前世では3年後に起こったバブル崩壊の波が、この世界では今……つまり、1988年の今、前倒しで発生していた。
具体的には、小規模の金融機関(主に、地方銀行など)が一気に経営を悪化し始めたのである。
いったいどうしてか。
簡単にまとめると、バブル景気の最中、様々な企業が銀行を頼らなくなったことで、困った銀行はなんとか融資を受けてもらおうと動いた結果である。
返済を求めただけならば、まだそこまでではなかったのだろうが……ただ、タイミングが悪かった。
バブル崩壊の影響は銀行だけでなく、融資を行った企業にも広がっていた。むしろ、今こそ融資してほしいと多くの企業が銀行へ殺到したのである。
しかし、銀行側からしても、融資しようにも既に融資した分を回収しなくては無い袖が触れないわけだ。
そのうえ、地方銀行に限らず、バブル崩壊の影響で個人顧客もまたお金を引き出そうとする者が増えていたのだ。
つまり、銀行側からしたら、融資したお金の回収が出来ないどころか、担保の物件などを売却しようにも、買い手が付かなくなったわけだ。
そのうえ、ただでさえ厳しい状況に置かれた銀行を他所に、株や不動産のリスクを考え、最も安全とされる日本国債にお金を避難させる人が爆増した。
その結果、あっという間に地方銀行などは資金繰りがショートしてしまい、負債を抱えたまま破綻。
個人、法人、区別なく預けたお金が引き出せなくなり、それがさらに企業へダメージを与え、倒産が連鎖するという悪夢のようなことが起こったのである。
もちろん、それは後々の話である。さすがに、バブル崩壊が起こった翌日にいきなり破綻なんて事はなかった。
ただ、蓋を開けてみれば、状況を整理して確認すればするほど、バブルが弾けた影響の酷さが可視化され……それが余計に、人々の絶望を煽ったわけである。
実際、バブルが弾けてしばらくは余熱のおかげでそこまで影響を感じなかった人は多いけど。
金融機関に務めていたり、証券会社に勤めていたり、あるいは大企業中小零細の社長や幹部などは、バブル崩壊の影響を強く危惧していた。
……そんな中で、だ。
女神様の事が気掛かりだけど、それはそれとして、千賀子は動かざるを得ない状況になっていた。
負の念とか恐怖の大王とか関係なく、影響があまりにも広範囲過ぎて、このままだと連鎖的に千賀子の身近な人にまで食い込んでくるからだ。
なんでそう思ったのかって、それは道子から連絡が来たから。
内容は……遠回しな言い方だけど、要は『なにか、仕事は無いか?』というもの。
正直なところ、千賀子は道子の実家がどのような事業を成しているのかは知らない。不労所得が有るのかどうかも知らない。
しかし、どちらにせよ、千賀子のもとへ仕事の斡旋をお願いしに電話を掛けるくらい、困った状況になったというわけだ。
これが、バブル崩壊の恐ろしさである。
局所的な不況ではなく、不況が連鎖してゆく。何処も彼処も業績が伸びると思って借金を重ねた結果である。
しかも、経営不振になって会社や土地や資産を売却しようにも、買い手が付かないから資金調達が出来ないという……だから、救いが無かった。
もちろん、すべての業界がそうなったわけではない。
ただ、それでも遅かれ早かれな話であり、今は好調でも、いずれは……というような状況であった。
ゆえに、だ。
道子家のような資産家ですらダメージを負っているというわけで……これはもう、恐怖の大王がどうのとか言っていられる状況ではないと千賀子は察したのだ。
「……ちょうど良かったわ。所有している土地の整備なんかをしないといけないって考えたから、仲介に入ってくれないかしら? できそう?」
『──それなら大丈夫、出来るわ~。ありがとう~、本当にありがとうね~、ごめんね~』
「いいのよ、そのうち、やらないと思っていたところだし」
『うん、うん、ありがとう、本当に助かったわ~』
千賀子の提案を受けた道子の声は、電話越しでも分かるくらい震えていて、不安が滲んでいた。
……。
……。
…………これは、マズいぞ。
「女神様、一旦ストップします!」
『──(=^ω^=)ミトメマショウ』
幸いにも、女神様は慌てている千賀子の姿が可愛らしいと思っているようで、あっさりOKを出してくれたのであった。
……で、だ。
バブル崩壊が起こった後の状況を表す言葉はいくつかあるが、当時の政府の言葉が一番分かりやすいと思う。
たとえば、『予算を増やしても増やしても、ザルに水を入れるかのように水が溜まらない』とか。
たとえば、『予算を引っ張って来たけど、何処も彼処も足りない足りないと話が出て来る』
といった感じで、対策しようとしたのだけど、傷口があまりにも大きすぎて、ガーゼを宛がう程度では気休めにしかならなかったのである。
この危機的状況を脱しようと思ったら、だ。
それこそ貿易黒字が何兆何十兆も毎年上昇し、諸外国がすべてを好意的に受け止めてくれる……なんて意味不明な状況にならない限り、不可能である。
つまり、千賀子が動かない限り、バブル崩壊により全国的な不況は抑えられず……しかし、だ。
千賀子は、あくまでも自分の両手で抱えられる範囲が不幸になって欲しくないだけで、影の支配者になりたいわけではない。
ここで『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を使えば、文字通り、千賀子は名実ともに日本という国の支配者になってしまう。
それは、嫌である。
さすがに、そこまで何もかもを国のために、人々のためにやりたいとは思っていなかった。
だが、しかし……ソレ以外に、どんな手があるだろうか?
『賽銭箱』より資金を出そうにも、理由もなく出したとなれば、『それならば俺たちに、私たちに』といった感じで、次から次に出て来るのは想像するまでもない。
なにかしらの、キッカケ。
あの秋山千賀子ならば、そうしてもおかしくはないという明確な理由……どうしたものかと考えていた、その時であった。
「……コレだ!!」
場所は、『春木競馬場』の私室。
考えても思いつかないので、気分転換がてら……職員が用意してくれている競馬新聞を開いて眺めていたのだけど。
「──オグリキャップ!! コイツだ! こいつは必ず、もっと強くなる! この馬ならば、申し分ない!!」
一面を飾っていた、ペガサスステークス勝利の文字と写真。
力強く走るその写真を見て……千賀子は、かつてないくらいにビビビッと背筋に震えが走ったのであった。
それは、言葉では説明できない感覚であった。
ただ、分かるのだ。この馬は強い、と。
それも、ただ強いわけではない。
今の時代……ドカンとやってきたバブル崩壊の閉塞感、日を追う事に増してゆく不景気の実態。
それらをまとめて吹き飛ばす、圧倒的なスター性、時代のアイドルホース。
1970年代、千賀子の助力を以てしても低迷しかけていた人々の心に一抹の勇気を与えた、ハイセイコーがそうだったように。
このオグリキャップもまた、80年代の今の苦しさを吹き飛ばしてくれる……そんな予感を千賀子に与えた。
……だが、まだ不十分だ。
アイドルというのは、個で完結するモノではない。
様々な要因や環境が重なった結果生まれるもので、言うなれば、アイドルはみんなの協力があって初めて形作られるのだ。
(ならば……私が動くしかない!)
それを、これまでの経験から気付いていた千賀子は……早速ロボ子を通じて、いつものように取材にやってきたテレビ関係者たちの前で、こう宣言したのであった。
──私の最後の愛馬を超えて見せよ、オグリキャップ……と。