ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第309話: あ、急いで秋山さんに電話しないと!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 個人で取引するとなればどう頑張っても(身体を壊す勢いなら別)消費しきれる量ではないが、知り合いを集めてしまえば、その限りではない。

 

 ましてや、それが祝いの席であり、タダ酒であると明示すれば、そりゃあもう喜んでやってくる者は少なくなかった。

 

 幸いにも、だ。

 

 時は5月初め。

 

 

『祝! タマモクロス号 天皇賞(春)勝利!!』

 

 

 という名目で開く理由があった。

 

 今がその時だと思った千賀子は、すぐさまロボ子を通じて関係者一同が利用できる料亭を一日貸し切った。

 

 

 ……料亭を? 

 

 

 令和育ちの若い世代は想像しにくいと思うが、1988年……というか、昭和の時代、料亭旅館貸し切りというのはけして珍しくはなかった。

 

 令和では経費削減の下でそういった事が行われる事はほとんどなく、コンプライアンスの関係から客足も遠のいて。

 

 料亭側も、そういった変化から大人数の対応が出来るところが減って、量より質が人気になったこともあって。

 

 そういうおめでたい席を設けるにしても、せいぜい十数人程度くらいで、大きな個室を貸切るという程度になっていた。

 

 まあ、それはあくまでも、令和の話。昭和の頃は、まだ違う。

 

 一度に数十人~百人超えなんて規模の団体予約がちらほらあって、貸し切りでもしないと入りきらなかったのである。

 

 バブルが弾けたにしても、それ以前の高度経済成長期からの設備投資なども相まって、まだまだ建物の方は健在であった。

 

 そう、令和ではそもそも対応できる建物が無いという物理的な問題があるのだけど、この頃はまだ、建物などが老朽化していなかったこともあって、対応できる店の数も多かったのである。

 

 

 ……で、話を戻すのだけど、これまた千賀子は……事前に料亭に頼み、料理の質を上げた。

 

 

 普通は、事前とは言っても一日や二日なんて話じゃなく、一ヵ月も二ヵ月も前から話を通さなければ難しいのだけど、そこはまあ、さすがの秋山千賀子である。

 

 実は、兄の和広から連絡が来る前に、既に千賀子は料亭旅館に予約を取っていたのだ。

 

 また、千賀子は和歌山の港の関係者(漁師など)にも伝手がある。

 

 千賀子自身にも巫女的シックスセンスによる目利きがあるけれども、それを抜きにしても、ケチらず高値で取引してくれることもあって、新鮮な素材の手配も出来た。

 

 つまり、料亭は本来の取引先に加えて、千賀子が伝手で集めた食材も使って料理を出してくれ……と、したわけである。

 

 当然ながら、ちゃんと技術料として調理費用は別個に支払いである。

 

 料理長などからは最初、ちょっと嫌そうな顔をされたのだけど。

 

 自分たちの伝手では手に入りにくい新鮮な素材が使えるだけでなく、余った分は自由に使って良いよ……と話せば、料理長の顔に笑顔が生まれた。

 

 

 ……そうして、最終的には、だ。

 

 

 歪なバブル期とは違う、ちゃんと経済成長していた頃を思わせる豪華な料理が並べられた、それはそれは立派な宴会になったのであった。

 

 その席には、タマモクロスの生産者である牧場主(家族や、近しい親族含め)も招待した。

 

 

 そのうえで、千賀子はさらに。

 

 

 タマモクロスを始めとして、馬たちの世話のために離れられない人たちのために、料亭の人たちに特注弁当を用意させ、それをロボ子に運ばせた。

 

 この弁当、なんと一つ2万円超えの、高級食材てんこ盛り弁当である。そのうえで、頑張っているご祝儀にと金一封も合わせた。

 

 ……で、宴会が始まった。

 

 千賀子としては、いちいち挨拶などせず気楽にしてほしいと思ったのだけど、こういうのはむしろ、そうした方が周りも気楽ということなので、千賀子はそうした。

 

 

「──皆様、タマモクロスが勝ちました」

 

「ノーザンテーストや、パーソロンではなく、シービークロスの子は走ると信じた彼の子が勝ちました」

 

「おそらく、彼の夢を信じなかった人もいるでしょう。走らないと思っていた人もいるでしょう」

 

「彼は間違っていませんでした。彼の子は、確かに走ったのです」

 

「彼が信じたシービークロスの子は、白いイナズマと呼ばれ、天皇賞(春)を制しました」

 

「レースに絶対はありません。今後、タマモクロスが勝てないかもしれません」

 

「ですが、私は信じました。彼が信じたシービークロスを、私も信じました」

 

「信じた先が、今です。タマモクロスは、走ります。走ると私も信じております」

 

「そして、そんなタマモクロスの勝利を手助けした騎手を私は信じております」

 

「私が言えるのは、そう多くはありません」

 

「本当に、ありがとうございます」

 

「シービークロスを信じて、タマモクロスを私に出会わせて牧場関係者様、ありがとうございます」

 

「シービークロスを信じて、天皇賞(春)の勝利を授けてくれた調教師と騎手と厩務員一同、ありがとうございます」

 

「そして」

 

「恐怖を乗り越え、身体の小ささというハンデを乗り越え、走り抜けたタマモクロスへ……ありがとうございます」

 

「この席は、そんな私の感謝を少しでも皆様に返したいという思いから開きました」

 

「ですので、皆さま遠慮なく飲み食いしていただいてけっこうです。あ、でも、飲み過ぎて羽目を外し過ぎないよう気を付けてください」

 

「せっかくの祝いの席で、酒で大失敗なんて話は残したくありませんので……では、皆様方、グラスを掲げて……乾杯!」

 

 

 そうしたら、なんか騎手とか牧場関係者から涙ながらに握手を求められ、中には号泣する人も……まあ、とにかく、だ。

 

 間の催しとして、和宏から購入している高級酒を始めとして、高級家電のビンゴ大会も行い。

 

 今回の宴会は、思っていたよりも大成功に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、それでひとまずバブル崩壊の余波を少し緩和出来たかと思っていた千賀子だが、まだまだ休めるわけではなかった。

 

 なんでかって、それは女神様……ではない。

 

 そちらを考えねばならないが、それよりも前に、CMの発注をしたテレビ界隈より、とある話が舞い込んできた。

 

 それは、『秋山オーナー、これを機に、もっと競馬をカジュアルなモノとして印象付けるタイミングでは?』というもの。

 

 

 ……要は、売れっ子のアイドルやら何やらをCMタレントに起用しませんか、という話である。

 

 

 これに対して、千賀子は難色を示した。

 

 理由は、千賀子の直感なのだけれども、それを行うのはあまりにも時期尚早だと思ったからだ。

 

 と、いうのも、だ。

 

 この頃の芸能界……名称は千賀子の前世のモノだけれども、若い世代に人気なアイドルグループと言えば、『光GENJI』である。

 

 特に、1988年は芸能事務所のジャニーズが大旋風を起こしていた年でもあった。

 

 その中でも『光GENJI』が大ブームになった時期で、オリコンシングルチャートの1位~3位を取り。

 

 4位にも、同じジャニーズ事務所所属の『男闘呼組(おとこぐみ)』がランクインしたという、とんでもない時期であった。

 

 ……で、そんな中で、どうして芸能事務所が千賀子に接近してきたのかというと……理由はいくつかある。

 

 まず、秋山千賀子の評判はとても良いこと。

 

 それまで、競馬は全体的にあまり好ましくない趣味であるという認識を持っている人が多かったのだけれども、千賀子の登場により、そういった考えを持つ人が減ったから。

 

 次に、千賀子からの金払いがとても良いこと。

 

 この頃の芸能界は華やかなイメージ通り、とても大きな金が日常的に動いていたのだけれども、だからこそ、スポンサーの威光はとても強かった。

 

 そんな中で、金払いの良さは以前から知られていることもあって、なんとか千賀子から仕事の発注を受けられないか……と考えている人はとても多かった。

 

 そして最後に……所属しているアイドルの、新鮮な一面をファンたちに見せたいという思惑もあった。

 

 

 つまり、だ。

 

 

 テレビ業界としては、視聴者層からの評判が良く、金払いだってとても良くて、所属アイドル達の新しい売り込み先を……という、一粒で三度美味しいという感じであった。

 

 

 ……まあ、とはいえ、だ。

 

 

 それはあくまでもテレビ業界側の話であり、千賀子としては……正直、必要以上に関係を繋げようとは考えていなかった。

 

 だって、千賀子は有名になりたいとは思っていないし、これ以上金持ちになりたいとも思っていないのだ。

 

 CM関連での付き合いはあるけれども、千賀子としては、それ以上でも、それ以下でもない……それだけであった。

 

 

「──ま、まあまあ、急な話でビックリさせちゃって申しわけありません」

 

 

 場所は、東京のとあるテレビ局内。

 

 CM関連の打ち合わせもひと段落し、ちょっと雑談……という時に、その話が出て来たのだけれども。

 

 

「実はですね、CM起用だけでなく、秋山様には、映画出演を是非にという話も出ておりまして」

「はあ、映画……」

「主演女優、興味ありませんか?」

「正直、あまり……」

 

 

 千賀子の反応は、薄かった。

 

 相手側は、これはマズイぞと話を切り替えられたのだけれども、それはそれで、欠片の興味もなかった千賀子の反応は薄かった。

 

 なんでかって、それは言葉通り、興味が無いだけだ。

 

 だいたい、女神様の事もそうだし、今後のバブル関係の対応もあるので、とてもではないが映画に出演なんてしていられる余裕が──っと、その時であった。

 

 

「──あの、すみません。秋山様宛てに電話がきております」

「え、私に? ここで?」

「は、はい。秋山様がこちらにおられるということでお電話したと……その、お繋ぎするべきか迷いまして……」

「誰から?」

「それが、とにかく『話せばわかるから』との一辺倒で……」

「なるほど、困った相手だわ」

 

 

 会議室の扉がノックされ、顔を覗かせた職員よりそう言われた千賀子は、普通に首を傾げた。

 

 心当たりはないけれど、千賀子がこっちに居ると分かっている相手ならば、職員が迷ってしまうのも分かる。

 

 なので、千賀子は向かいに座っている相手に了解を取ってから、室内に備え付けられている内線の……受話器を耳に当てた。

 

 

『──秋山さん、ビビッと来たのですが、映画に出るのですか!?』

「出ませんので、先走らなくて大丈夫ですよ、土師田さん」

 

 

 直後、声から相手を察した千賀子は通話を切った。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………うん、まあ、アレだ。

 

 

 興味が湧かない理由の一つを思い出した千賀子は、改めて……今回の打ち合わせ相手に、出演はしないと話をしたのであった。

 

 

 

 

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