ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
※ 更新遅れて申し訳ない、執筆用のパソコン使わな過ぎてバッテリー切れていてビックリしたよ
今回リハビリがてら短いよ
──時は流れ、10月末。
最強の葦毛はどちらか……そんなキャッチコピーと共に、『天皇賞(秋)』が開催された。
その名を、タマモクロス。
その名を、オグリキャップ。
葦毛は走らないというジンクスを打ち破り、小柄というハンデを打ち破り、連戦連勝を続け、既にG3を一つ、G2を二つ、G1を二つ制覇した白いイナズマか。
あるいは、地方レース時代では12戦10勝という驚異的な成績を残し、中央に来てからはタフなレースを続け、いまだ負けなし葦毛の怪物か。
どちらが強いのか……その結果は、タマモクロスの勝利で決着が着いた。
オグリキャップは強かった。間違いなく、これまでの勝利が幸運の一言では終わらせない、強い走りを見せた。
だが、タマモクロスはそれ以上に強く、速かった。
距離としては、1馬身と少し。
一見するだけでは、惜しいと思える走りに見えただろう。1馬身なら次は勝てるかも……文字だけを見たら、そう思えただろう。
しかし、実際に映像で、あるいはその目で見た者は、おそらく……そう思わなかったと思う。
何故ならば、縮まらなかったのだ。なにがって、最後の直線、1馬身と少しが縮まらないままゴールしたのだ。
これはつまり、タマモクロスがスタミナ切れを起こしていないということ。全力を出しているオグリキャップの速さとタマモクロスの速さが同じだということ。
ゆえに、その1馬身は見た目以上に遠く。
白いイナズマという異名に負けない走りを見せつけたタマモクロスは、小柄な馬だからというそれまでの常識を改めて打ち破ったのであった。
『──いえ、私は何もしておりません。すべては、タマモクロスと騎手が共に戦って得た勝利ですから』
そんな中で、インタビューを受けた千賀子は……向けられるいくつものカメラを前にして、いつものように笑顔で答えた。
『もっと詳しく言うなれば、牧場関係者と調教師と、厩務員などの関係者の皆様方……そう、私がやったことなど、お金を出しただけです』
『お金を出す、それ自体はとても大事です。お金が無ければ始まりませんし、まずお金があって物事が動くという事があるのも分かっております』
『ですが、お金があれば物事すべてが動くというわけではありませんでしょう?』
『競馬の世界って、特にお金が大事なのは分かっております。なにせ、走るのは生きている馬ですから。生き物を強く育てるというのは、とてもお金が掛かって根気を必要とします』
『でも、お金だけあれば勝てる世界ではないのです』
『札束を積むだけで勝てるのであれば、今頃全世界の富豪がこぞって競馬に出ているでしょう……でも、そうではない』
『絶対に勝てる馬はいません』
『レースに絶対はありません』
『だからこそ、これだけは言えます』
『私の力だけでは勝てません。お金を出しただけでは勝てません。みんなが協力して、みんなが全力を出して、初めて勝ち負けの土俵に立てるのです』
『だから、これを見ている皆様方も私に目を向けるのではなく、諦めず走り抜いたタマモクロスを褒めてください』
『紆余曲折を経てもなお諦めずに信じた牧場関係者たちを、厩務員の皆様方を褒めてあげてください』
『強い馬へと育て上げた調教師を、タマモクロスの力を発揮させた騎手を、よくやったぞと褒めてあげてください』
『そして、最後に』
『また、この女かよ……と、その程度に私の事を思い出してくれたら十分でございます』
その言葉を受けた現地の人たちは、テレビの向こうに居る人たちは、関係者たちは、思わず笑みをこぼした。
『……ああ、それと、この場を借りるというわけではありませんが、お客の皆様方にもお伝えしておきます』
けれども、その笑みもすぐに引っ込んだ。
『タマモクロスは今年いっぱい……年末の有馬記念を最後に引退する予定です』
何故ならば、天皇賞連覇したタマモクロスの引退予告をしたからである。
これには、客だけでなく、何も聞いていなかった……いや、違う。
調教師を始めとして、一部の関係者は、臭わせる程度に耳にはしていたが……それでも、はっきりと『〇〇まで』と明言したのはコレが初めてであった。
人によっては、事前に一言……と思うのだろうけど、秋山千賀子という人物と大なり小なり付き合いがある者は、『あの人なら、まあ……』といった感じだったので、反発は皆無であった。
なお、千賀子個人との付き合いがない一般人からしても『また、あの人が唐突に言い出したぞ』といった感じなので、反応は似たような……さすがに、いきなり引退の話が出たのは驚いたのだけれども。
『理由は色々とありますが、タマモクロスはレース後の消耗が激しいので、全盛期を維持できるのは今年いっぱいだろうと私が判断したからであります』
でもまあ、あの秋山千賀子が言うのだ。
素人でも、ピークを過ぎたら怪我をしやすくなるというのは言われずとも察せられるから、惜しむ気持ちはあっても、引退させるなと口に出す者はいなかった。
『──なので、あと2回だけです』
というか、それ以前に。
『ジャパンカップと有馬記念。タマモクロスに勝つチャンスはこの2回だけです』
『レースに絶対はありません。勝てるかどうかは、その時にならなければ分かりません……ですが、勝負を挑めるのはあと2回だけです』
『ジャパンカップや有馬記念で勝てる保証はありません。大番狂わせで負ける可能性も普通にありますでしょう』
『ですが、それで良いのですか?』
『このまま世代最強馬として引退させたい気持ちがあると同時に、タマモクロスに勝利して、我こそ次代の馬だと見せて欲しい気持ちもあります』
『ですので、あと2回』
『白いイナズマを下せるチャンスは、あと2回だけ』
『私が皆様の心に留めて置いてほしいのは、それだけでございます』
こんな分かりやすい挑発を……挑発のつもりかは本当のところは分からないのだけれども、そこまで言われてしまった者たちは。
──あと、2回だけ。
そのチャンスを、強く認識したのであった。
……。
……。
…………さて、そんな感じで発破をかけてから数日後の11月6日。
千賀子は、こっそり京都競馬場へと来ていた。
実は神社やお寺に近付くと、火元が一切ないはずなのに突然不審火が発生したり、仏像などが砕けて壊れてしまうといった怪奇事件が発生してしまうという謎体質を自覚してから、千賀子はあまり京都の方へは足を向けなくなっていた。
なんでかって、京都は神社やお寺が多いからだ。
千賀子自身なにかをした覚えはないのだけど、『ガチャ』の副作用でナニカが起こっているのかと思える程度には察していた千賀子は、用が無い限りは避けるようにしていた。
……じゃあ、なんで京都に居るのかって?
それは、用があるから。具体的には、タマモクロスの……そう、おそらくは有馬記念でぶつかると思われる、有力馬の偵察であった。
別に、コンタクトを取りたいわけではない。
ただ、タマモクロスを最後の馬と定めた以上、今後は競馬の現場からは遠ざかる位置に向かうと千賀子は思っていた。
言ってしまえば、これまでのような自分の馬も出して盛り上げるという手法が使えなくなるからで。
もちろん、まったく離れるわけではない。でも、これまでとはいくらか関わり方が変わって来るわけで。
だから、その前にこれからの馬……すなわち、次代の最強馬候補を一目見て、自分が競馬の世界から遠ざかっても大丈夫なのか見ておこうと思ったわけである。
(……なるほど)
そして、11月6日のこの日……京都にて開かれた『菊花賞』にて、千賀子は確信をもって頷いていた。
(アレが噂に聞いたスーパークリーク……強い馬だ。騎手も、すごく良い……これからドンドン伸びていくぞ)
そう、自分が離れても大丈夫だと、新しい芽が生まれていることを見た千賀子は、密かに安堵したのであった。
……。
……。
…………ちなみに。
(この人、ぜったい秋山オーナーだ)
(この顔を隠している人、ぜったいオーナーだ)
(このπのデカさ、どう見てもオーナーだ)
(俺じゃなきゃ見逃しちゃうオーナーだ)
当人は隠しているつもりだったけど、周りの客たちからはバレバレであったし、競馬場関係者からもバレバレだったり……知らぬは当人だけであった。