ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
千賀子の、もはや能力というか超常現象染みた『魅力』というのは、単純に見た目の美しさだけではない。
いや、『だけ』ではない。その見た目がまず大事である。
古今東西、次代に関係なく、女はその時代に合わせた『美』を追求していた。
たとえば、身体の頑丈さだったり、腰回りの大きさだったり、胸の大きさだったり、顔だったり……あるいは、権力だったり教養だったり、立場だったり。
例を挙げるならば、歴史的にもその名が知られているチンギス・ハーンの妻は、見た目で選ばれていたわけではない。
健康であること、教養があること、リーダーの妻として女たちを統率できるか、資本はどの程度か……そういった条件が重視されていた。
まあ、これは極端な例ではあるけれども……話が逸れたので戻そう。
『美』というのはその時代に合わせて形を変える。ただ、その中でも、実は基本的に変わらない部分があったりする。
それは、清潔感である。
性癖の関係から汚い方が好きなんて人もいるけど、それはあくまでもその人の基準が少しばかり異なるだけ。
仮に、本当に汚物が好きならば対象は生物である必要が無い。極論を言えば、排泄物そのものでも問題ないのだから。
でも、実際はそうではない。
そういう性癖があるかもだけど、前提として清潔であるはずの〇〇が不潔な状態になっているという事に興奮を覚えるだけであり。
根本的には、その落差にこそ、である。
だからこそ、基本的に人間というのはキレイ好きであり、清潔であるだけでも魅力を覚える人が多いのだ。
たとえば、髪型だ。
無造作に伸ばしただけより、櫛を入れて整えた髪の方がモテた。時代や場所によっては、美しい髪がそのまま美の象徴として扱われていたほどだ。
たとえば、肌だ。
時期や風俗によって異なるが、基本的に肌には吹き出物や痣、傷跡が無くて肌触りが良いのが美しさの基本とされていた。
もちろん、実際にキレイであるかと言えば、現代基準で考えれば近代以前は……なのだけど、問題はそこではない。
なお、日本でも同じである。ただ、日本の場合は少し違ったりする。
これは有名な話だけど、垢が抜けるという言葉は、江戸時代……銭湯が広まった時期に生まれた言葉だとされている。
これは、当時の江戸はとても乾燥していて、潮風の関係もあって砂埃がよく舞い上がった。
そのため、半日も経てば全身が砂埃で汚れてしまうため、手軽に身体をキレイにしたいという需要が生まれた。
そのため、人によっては、朝に1回、昼に1回、夕方に1回、好きな人によっては5回も6回も入浴する者がいたとか。
当然、そこまで頻繁に入浴するのは身体に……というか、肌に悪い。
いくら砂埃で汚れるとはいえ、限度というものがある。
けれども、潮風と乾燥の関係から、江戸に暮らす時間が長ければ長いほど、不快感を無くすためには必然的に入浴回数が増えるわけで。
その結果、入浴のし過ぎで肌がカサカサで薄皮が剥がれて真っ白になる……そこから、都会である江戸に馴染んできたことを=垢が抜けるという言葉で……である。
このように、美しさの基準は場所や風俗で異なりはするけど、総じて根底にあるのは『清潔感』である。
……その点を踏まえれば、秋山千賀子という女が放つ清潔感というのは、一線を凌駕《りょうが》していた。
まず、1000人中1000人が、秋山千賀子を不潔だとは思わないし、思えない。
それは、千賀子自身が常に良い匂いを放っているからだ。臭いというのは、判断を下すうえで大事である。
どれだけ美人でも、身体から生ごみの臭いが漂っていたら100年の恋も冷めるというものだ。
そう、千賀子の『魅力』というのは、視覚以外の部分が複合的に絡み合って作用することで何十倍、何百倍といった具合に引き上げられているのだ。
『──なので、効率よく人々から元気を集めるために、ジョギングしましょう』
「え、なんで?」
『──これまで愛し子が導いてきた(意味深)者たちの元気だけでは、私を倒せません。これからの者たちの元気も集めなければ』
「女神様の方から手を貸してくれるって、どういう状況なの、これ? 女神様、ちょっと気が狂った?」
『──なので、愛し子のためにジョギングのための衣装を用意しました。汗を掻くと揮発してナイスなスメルが……おぉ、良いですね(=^ω^=)』
「あっ、平常運転か?」
『──ここに、愛し子の使用済みの下着が365日分あります。これを扇風機に取り付けて、東京タワーの屋上から──( = ^ ω ^ = )』
「あっ、平常運転か(絶望)」
さて、脱線したり女神様の相変わらずなキショイ反応だったりは置いといて、だ。
女神様がやろうとしていることは単純明快。
千賀子のチャームポイントである『匂い』を利用して人々の元気(意味深)を集めようっていう話である。
まあ、理屈は分かる。
元気(意味深)を集めるうえで、手段を間違えるとヤバい後遺症を生み出しかねない映像作品やら何やらに比べて。
匂いというのはあくまでも一過性で、現物としてその場に残らない。だから、そういう意味での危険性は避けられるだろう。
ただし、必ずしも大丈夫かと問われたら、そういうわけでもない。
というのも、匂いというのは生理現象。
運動すれば汗が出て来るように、水を飲めばオシッコが出て、食物を体内に入れたら出るモノが出て来る。
当然ながら、それは千賀子にとっても変わらない。
巫女的パワーで作用を抑えてはいるけど、根本的に塞いでいるわけではない。あくまでも抑えているわけで、0ではない。
つまり、巫女的パワーをもってしても、完全に制御出来ているわけではないのだ。
だから、距離が近付けばその分だけ影響が強くなるし、汗だくになっている時はその分だけ影響範囲が広がるし、千賀子の体調によって違いも出る。
そんなわけだから、千賀子としては……リスクが低いのは分かっているけど、だからといって、即座に承諾して実行……とまでは、出来なかった。
「……とりあえず、試してみたら?」
でも、うだうだ考えたところで埒が明かないというか、ジリ貧になるのは目に見えているから……いや、ちょっと待て。
そもそも……仮にそれで多少なり効果があったとしても、それが己に繋がらないのでは?
そんな疑念が過った千賀子は、率直に女神様に問い質した。
『──え? 匂いを嗅げば、今の愛し子がどういう体調なのかも分かるのが普通では?』
「中止、この作戦は中止ね」
案の定、いつもの女神様案件だった事が発覚したので、千賀子はすぐに作戦を……そこでまた、千賀子は疑問を覚えた。
──思いを力に変える……具体的に、どうやって?
よく考えたら、今までそんなことをした覚えはない。
感覚的に己の巫女的パワーの使い方は理解出来ているが、どうやらこの件に関しては勝手が違うというか、いまいちやり方というモノが見えてこない。
なんというか、集中して意識を研ぎ澄ませてみれば、感謝の念みたいなモノが己に集まっているっぽいのはうっすら感じ取れるのだけど……あくまでも、うっすらと、だけ。
コレを、集めるのだろうか?
でも、コレを集めるって……蒸気を素手で集めるってくらいに手応えが感じ取れなくて……いや、マジでどうやるの?
『──愛し子は遠慮し過ぎなのです。もっと、出せ、出せ、ひねり出せ、そんな勢いでやれば良いのです』
「え、そんな無理やり?」
『──生半可な力で私を倒せると思うのであれば、優しく引っ張り出しても問題ないと思います』
「……仕方がない、みんなには少しばかり我慢してもらおう」
『──その意気ですよ(=^ω^=)』
「あ、でも、いきなり元気を抜かれた方が事故を起こしたら嫌だし、そういうのって選別できるものなんですかね?」
『──そこらへんは、愛し子なりに元気を抜かれても問題ない人だけとイメージしながらやれば大丈夫です、私もアシストしますから』
「女神様がアシストするんだ……」
……冷静に考えてみれば、だ。
客観的に見たら、今から自分を倒そうとしている相手に、事細かくやり方を教えているとかいう意味不明な構図である。
でも、この状況に疑問を覚えている者はいない。そういうモノである。
とりあえず、半端な力では女神様を倒せないというのは分かっているので……さっそく、試してみる。
やり方は、特に複雑ではない。
両手を頭上へ掲げ、みんなの元気(意味深)を集まれ、女神様を倒せる力へと変われと念じて、凝縮するようイメージするだけ。
ただ、それだけ。
すべては感覚的な話だから、こういうふうにやればという正解を確認出来ないけれども……それでも、千賀子は真剣にイメージして、両手を空高く天へと広げたのであった。
──う、うわぁぁぁあああああ!?!?!?
──oh my god!!!! oh my god!!!! oh my god!!!!
──太色了!! 太色了!! 太色了!!
その時、どこかで誰かが悲鳴を……いや、悲鳴というよりは湿った感じの……とにかく、そんな声が上がったのだけれども。
「……おお! なんかパワーを感じる! なんか生暖かいっぽいエネルギーが……!!!」
『──では、試しにそれを私にぶつけてみてください』
「ヨシ! うぉりゃあああ!!! くたばれや──!!」
細かい事はどうでもいい、これで女神様をぶっ飛ばせるのであれば。
光り輝くエネルギーへと化したソレを、千賀子は思いっきり女神様へと投げた。それは剛速球と呼ぶほどに速く、寸分の狂いもなく女神様の顔面にぶち当たった。
でも、女神様はビクともしていなかった。そりゃあ、そうだろう。
今しがた集めた元気は、ちょろっと近場の人たちの分だけ。本気で倒そうと思ったら、もっと時間を掛けてエネルギーを集めなければ……なので。
「──みんな、私に元気(意味深)を分けてちょうだい!!」
今度はもっと威力を高めてみようと、千賀子は両手を掲げた。
──もう出ない!!?? もう出ないよぉぉ!!!
──No!! No!! I'm firing blanks!!!!!!!!
──一滴都没有了!! 一滴都没有了!!
再び、どこかで誰かがそんな悲鳴を……しかし、知る由もない千賀子は、集まったパワーを女神様へと叩きつけた。
『──うぅ、こんなに愛し子が愛されて……私の方が好きです』
「うわっ、まったく通じていないじゃん」
結果は、まったく堪えていなかった。
でも、方向性としては間違ってはいない。
少なくとも、攻撃手段を得ただけでも、ひとまず現状は一歩前進であった。
……。
……。
…………ちなみに、だ。
千賀子は知る由もないし、知ろうと思っても無意識に精神ガードが発動していたので、ロボ子と女神様以外は知る事は出来なかったのだろうけど。
実は、この技……みんなから元気(意味深)を徴収するたびに。
常人ならば腰が抜けるほどに心地よく、とてつもない心地良さ(意味深)を伴い、一切の苦痛を覚えない……なんとも優しい副作用があったりして。
(……お労しや、マスター。この事は、私の胸の奥に秘めておきます)
人によっては、人前では見せられない顔になるのだけれども……ロボ子はソレを、コラテラル・ダメージとしてそ知らぬフリに務める事にしたのであった。