ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第33話: 「フルーツ盛り合わせ? このくっそ忙しい時に頼むな馬鹿野郎!」

 

 

 

 ──1964年の8月初め……東京は、例年以上の空梅雨に見舞われ、大規模な水不足が生じていた。

 

 後に『東京砂漠』、あるいは『東京大渇水』と揶揄されるその問題が生じた理由は、実のところ空梅雨だけが理由ではない。

 

 

 純粋に、需要と供給のバランスが崩壊したのだ。

 

 

 以前、千賀子が『遊びに行こう』の誤作動によって東京に行った時にも同様の問題が発生していたが、それが更に悪化していた。

 

 オリンピック建設を間に合わせるために続々と掛けられる仕事の募集、それに伴い増加する他業種の募集、それらを目当てに集まる地方の人々。

 

 当然ながら、人口が増えれば増える程、水の使用量は必然的に増大する。

 

 対して、国もなんとか対策を取ろうとしていたし、多少なり動いてはいたようだが、まさしく焼け石に水にしかならなかった。

 

 そう、ただでさえ、時期的にもそうだが、東京はその発展に伴って水の使用量が増えていたのだ。

 

 水道の普及により、個人が水を手軽に考えるようになり、洗濯機や水洗トイレなどの普及が合わさってしまったこと。

 

 経済成長に伴う、工業用水の需要増大。合わせて、都市の無秩序な乱開発に範囲の拡大が、水の需要に拍車を掛けた。

 

 そこに、空梅雨が重なったことで、東京は記録的な水不足に陥ったわけである。

 

 

 ……現代の日本であれば、だ。

 

 

 災害時用に貯蔵してある物資(水)や、それに特化した給水車、大規模大量生産と張り巡らされた交通網によって、少なくとも、水不足による死亡事故はかなり稀な話である。

 

 しかし、昭和のこの頃には、そんな物はまだまだ用意出来ておらず、同じ水不足でも、その形相はかなり違う。

 

 

 特に、前述した通り、この年(1964年)の水不足は例年以上に酷いモノになっていた。

 

 

 それがどれぐらいかって、生命維持に支障を来たすレベルである。

 

 プールや水洗トイレは当然、使用禁止。

 

 水を使う様々な会社やお店なども、実質的に休業を余儀なくされ、医療機関なども水が使えないので手術などが出来なくなり、急患以外は診られなくなった。

 

 そこで生活している都民にいたっては、さらに深刻である。

 

 入浴は当然、炊事洗濯は出来なくなり、ポリバケツやタライや鍋、とにかく器になるものを片っ端から使って水の確保に奔走するようになっていた。

 

 会社を休んで給水車に並ぶ者が続々と現れ、水運びの重労働から過労で倒れた者、脱水による流産が何人も発生し、それ以外でも脱水による死亡者が続出した。

 

 また、水を求めて疎開する者もそうだが、水泥棒が多発し、水の奪い合いで殺傷一歩手前の喧嘩が幾度となく発生し(暑いので、すぐに鎮静化したらしいけど)、その混乱は言うまでもないだろう。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 それほどに治安が悪化した場所で、夏休み真っただ中の千賀子は店を始めたわけだが……正直、色々なことが想定外であった。

 

 まず、水不足なのだから、飲み物専門の店をやれば当たるだろうし、食事は後々思いついたら……という軽い気持ちで考えていた。

 

 だが、蓋を開けたら全くそうではなかった。

 

 

 ──悪い意味で? 

 ──悪い意味では、ないだろう。

 

 ──じゃあ、良い意味で? 

 ──良い意味かと言われたら、首を傾げる。

 

 

 千賀子としては、『野菜』に含まれている果物が大量にあるし、この頃にはもう、ジューサーだって一般に売られていた(くっそ高いけど)。

 

 果物ジュースもそうだが、ミックスジュースも、野菜ジュースも、なんならフルーツ盛り合わせなんてのもバンバン作れる、面倒だけど。

 

 元手は、0円だ。おまけに、輸送費も0円。

 

 おつり計算とか面倒だから、値段は基本的に統一。メニューも、ジュースとフルーツ盛り合わせ(あらかじめ作った分だけ)に限定。

 

 自分一人でやるわけだから、いきなり最初からメニューを増やして対応出来るわけがないし、そもそも作れない。

 

 席もカウンター席のみで、立ち見席のみ。テレビと扇風機は置いてあるが、それ以外は必要最低限。

 

 店の広さから考えたら、かなり無駄にしている部分は多い。けれども、収支がマイナスにはならないだけは稼げるかもなあ……と、考えていた。

 

 

「ミックスジュース3つ!」

「こっちはオレンジジュース4つ!」

「早くしろ! 待ってんだぞこっちは!」

 

 

 しかし、現実は違った。

 

 

「うるっさいなぁ! 準備してんだからちょっと待ってなさい!!」

「んだと!? 女のくせに生意気言いやがって!」

「その女の店に買いに来ているのに駄々を捏ねるんじゃない! いい歳した大人なんだから、ちょっとは我慢せい!」

「わははは、言われているぞー!!」

「あんたらもいちいち茶化すな! ほら、ミックスジュース3つ! そんで、オレンジジュース4つ!」

 

 

 思わず汚い言葉が千賀子の口から飛び出してしまうぐらいに、忙しくなってしまった。

 

 店を開いた最初……そう、開いてから30分ぐらいは、そうでもなかった。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 

 なにせ、その店はつい先日までは喫茶店で、『借金のせいで夜逃げした』という噂が流れていたし、実際に突然姿を見かけなくなった。

 

 そこに、その店の主人が戻ってきたのではなく、なんだか見知らぬ……それも、超の文字が5つは付くぐらいの美少女が、なんだか中で作業をしているときたもんだ。

 

 そして、何をするかと思えば、『営業中』の文字が書かれた小さな立て看板を置いて、呼び込みをするでもなく中へ引っ込んだ。

 

 ……その店(ビル)の2階と3階が、ここらでは有名な分、周りが警戒して当然である。

 

 しかし、時はまさに大渇水時代。

 

 炊事洗濯はおろか、今日生存するために必要となる水ですら中々手に入らず、喧嘩や泥棒が起きているほどに水が足りていない。

 

 

『──あんまり喉が渇いている時にジュースってのも身体に悪いし、駆け付け一杯の水と、水でちょい薄めたジュースのセット販売(抱き合わせ商法)でもするかな』

 

 

 そんな中で、特に深く考えたわけでもなくサラッと千賀子は決めて……そして、勇気を出して店に客が入れば……さあ、どうなるか。

 

 

 答えは──阿鼻叫喚、水が買えると思った客が殺到した、である。

 

 

 これには、さすがの千賀子も面食らった。

 

 まさか初日で、しかも開店してから30分ぐらいで客が押し寄せるとは考えていなかったからだ。

 

 しかし、せっかく来てくれたのだ。

 

 物珍しさで来ているにしても、小一時間もすれば……そんな軽い気持ちで、接客をしていた……わけなのだが。

 

 

(おわ、終わらない、客が、客が押し寄せて来る……!!!)

 

 

 想定外なのは、小一時間どころか2時間、3時間が経ってもなお、客が途切れる気配が皆無だったということだろう。

 

 おかげで、千賀子は誇張抜きで休みなしの接客である。

 

 『巫女』に加えて『ガチャ』の恩恵で、それぐらいなら全く堪えないタフネスを発揮できているが……正直、精神的に辛くなっていた。

 

 千賀子としては、こんなはずじゃなかった、である。

 

 想像していた忙しさよりも、10倍も20倍も忙しい。

 

 そのうえ、なんか臭い。いや、さすがに口にも態度にも出していないが、どいつもこいつも男も女も関係なく汗臭いというか、もう色々と臭い。

 

 おまけに、熱い。暑いではなく、熱い。

 

 いくら扇風機を点けているとはいえ、真夏の熱気だ。

 

 そこに、大勢の人間が一か所に集まれば……神通力でバリアを張っているとはいえ、下手に怪我を負わせたくないので出力も弱く……結果、我慢して接客をするしかなかった。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 千賀子は納得しないだろうが、この騒動……はっきり言って、千賀子の準備不足というか、調査不足が全ての原因といっても過言ではなかった。

 

 そう、千賀子は、東京の事をテレビ越しというか、新聞越しでしか見ていなかったうえに、つい数時間前に東京に来てすぐに開店したから気付いていなかったのだ。

 

 

 ──今の東京が、如何に危機的な水不足に陥っているのかを。

 

 

 川の水は干上がり、地面が剥き出しになってヒビが確認出来て、それなのに、絞り出されたかのような汚水とゴミだけが溜まっていく。

 

 飲める水どころか、身体を冷やす水すらまともに手に入らないし、出来ない状況……そんな時に、優良だが飲める水を出してくれるところが見つかれば……騒ぎになって当然だろう。

 

 

 そして……これは単純に思い込みというか、千賀子の無知が原因なのだが、設定した商品の値段が悪かった。

 

 

 ぶっちゃけると、相場と比べて、かなり安くしてしまっていたのだ。

 

 いや、平時で考えれば妥当な金額ではあるのだ。

 

 少なくとも、千賀子は実際に売られている果汁ジュースの値段を知っていたので、それを参考に、少しだけ安いぐらいにしていた。

 

 しかし、千賀子は失念してしまっていたのだ。

 

 今が、現代で言えば非常事態宣言が発令されるほどの、水不足だということに。

 

 非常時における……値段の吊り上げ問題への視点も掛けていたのだ。

 

 そう、前世でも今生でも、千賀子は運良く命に係わるレベルの給水制限が掛けられるような災害に遭う事がなく、本当の意味で水が手に入らないという経験をしたことがなかった。

 

 あの伊勢湾台風の時ですら、建物などの倒壊は間近で起こっても、その部分はまあなんとか無事であった。

 

 

 だからなのか、感覚が薄かったのだ。

 

 

 値段を上げるのは良い、労力が上がっているのだからと、上乗せするのも良い。需要が増せば、値段を上げる、それは極々当たり前のことである。

 

 だが、場合によっては死を招くような状況で、相手の足音を見て……という悲しい現実が、昭和では当たり前だということへの感覚が、千賀子は薄かったのだ。

 

 良くも悪くも、前世の現代の感覚が根っこにあるからか。

 

 それとも、出来うる限り誠実に取引を行う今生の両親を間近で見てきたからなのか……それは、千賀子も気付いていない部分であった。

 

 

 ……ちなみに、気付けなかった理由は他にもある。

 

 

 ワープであっという間に輸送を完了させてしまうので、東京の輸送費の相場を知らない。

 

 材料は全て『神社』で手に入るので、通常の値段にしてもなおぼろ儲けにしかならないから、ちょっと気後れしてしまう。

 

 そして、神社と店内を交互にワープしているだけなので、相場そのものへのリサーチがとにかく欠けていた。

 

 その結果、当人は相場通り売っているつもりでも、実際はかなり格安で売ってくれているという状況になったわけである。

 

 

「リンゴジュース、3つ! あ、水もおかわり!」

「順番に並びなさい! 横入りは許しません! コップ持ち帰ろうとしたやつ、顔は覚えたからな! 今返すなら許します!」

「こっちもリンゴジュース! ああもう、手際が悪いわね、貸しなさい!」

「──勝手に中に入るな糞ババァ! 次入ったら出禁よ、出禁!」

「あんたじゃ話にならん! 店長なり何なり連れて来い! 箱で注文するって言ってんだろ!」

「うるせえ、何度同じ事言わせるんじゃい! 店長は私だし、そういうのは受け付けないって言ってんでしょうが!!!」

 

 

 そして、駄目押しとばかりに、もう一つ……なんだかんだ軽く考えていた事がある。

 

 

 それは、この頃の都民というか、昭和の人間のモラルの低さである。

 

 

 危機的な水不足で気が立っているのは、分かる。

 

 しかし、混雑しているからといってカウンター席の中へ入ろうとする者が続出するばかりか、それの何が悪いのかと文句を言って来る。

 

 コップを盗んで行こうとする者、料金を払わず逃げようとする者、こっそり金を盗んで行こうとする者、そんな者たちが混雑に紛れてけっこうな頻度で現れるわけである。

 

 そりゃあ、口も悪くなる。家族の前ではまず口には出せない汚い言葉が飛び出てくる。

 

 

 とはいえ、それも致し方ない。

 

 

 ただでさえ、歳若い女だからと男も女も……そう、女からもナメタ態度を取られやすいのだ。

 

 ゆえに、神通力のちょっとした応用による、微弱な威圧。

 

 それを常時展開していなかったら、今頃暴徒と化した客たちに押し入れられ、商品は根こそぎ奪われ、そのドサクサに紛れて千賀子は乱暴をされ、純潔を失っていただろう。

 

 それほどの、混乱の坩堝《るつぼ》であった。

 

 ちなみに、そうして気付かれない程度に威圧している客たちの何が恐ろしいって、そういう者たちの身なりが普通なのだ。

 

 そう、明らかに貧乏だとか、貧相だとか、雰囲気がそうとかではない。

 

 むしろ、こんな状況でもちゃんとした格好をしている者が、『それぐらいで!』と、逆に怒鳴ってくるのだから、如何に昭和の倫理観がカオスなのかが察せられるだろう。

 

 

 そう、今さらながら、千賀子は実感していた。

 

 

 己が暮らしていたあそこはまだ、コミュニティが根付いていた分だけ治安というか、一定のモラルが働いていたということに。

 

 言い換えれば、そのコミュニティに属せなかったら、ここ以上に酷い排他排斥に遭うわけだが……それを薄々察していた千賀子は、あえてその事は考えないようにした。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………で、だ。

 

 

 そんな想像以上の忙しさだが、商品が枯渇した時点でひとまず終わる。

 

 なんでもっと用意していないのかと怒鳴りつけられるが、『用意したけど売れたんだよ!』と怒鳴り返せば、グチグチ文句を言われたが、1人、また1人、サーッと波が引けて行くように客は出て行った。

 

 怒鳴ったところで、無い物は無い。それぐらいは、気が立っていても納得出来る程度には冷静である。

 

 その際に、またもや店の備品をポケットに忍ばせようとする不届き者がちらほら居たので、神通力でこっそり奪い返しながら、わざと転倒させて怪我をさせるというお仕置きも忘れずに。

 

 言っておくが、千賀子のお仕置きは、昭和の感覚からすれば、まだ軽い方である。

 

 店主の性格によっては、発覚次第ボコボコに顔が晴れるまで殴られてもなんら不思議ではない……昭和とは、そういう時代なのであった。

 

 

 

 

 

 ──夏休みの間、千賀子はそんな感じで過ごした。

 

 

 そして、8月末に待望の大雨が降ったことで、給水制限が解除されるという話が流れ、ようやく千賀子は嵐のような忙しさから開放されたのであった。

 

 さすがに、蛇口を捻れば水が出るようになれば、客入りも悪くなる。

 

 いくら物の質に比べて格安とはいえ、それでも、そう何度も通える値段ではない。来た時が一斉ならば、離れる時もまた、一斉にであった。

 

 しかしながら、それでも客が完全に途切れることなく……結果だけを語るならば、だ。

 

 千賀子の店は、給水制限が解除されるまで大繁盛。

 

 9月に入ってからは営業時間が前以上に短くなったが、開店すれば5分と経たずに客が入ることは変わらない。

 

 おかげで、それはもう仮に商売で生計を立てるつもりならば、笑いが止まらないぐらいの凄まじい利益であった。

 

 これはまあ、タイミングというか、状況が千賀子に味方をしたのが要因としては大きいだろう。

 

 なにせ、東京で開いた千賀子の店は、開店時間も閉店時間も特に定まっているわけではない。

 

 どちらも、千賀子の自由時間で賄われている。

 

 言い換えれば、千賀子自身が私用で忙しければ、1,2時間で閉店というのも何度か起こったわけだ。

 

 普通に考えたら、そんな店はだいたい客が付かないのだが……そうならなかったのは、ひとえに千賀子が出している商品の質が高く、それに比べて値段が非常に安かったからだろう。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 この頃に売られていたジュースというのは、基本的に果汁が使用されていない。そのほとんどが、香料で香りが付いただけの飲料水だったのだ。

 

 どうしてかって、果汁を使用すると、庶民(特に、子供)の口には中々入ることのないぐらいに値段が上がってしまうからだ。

 

 それゆえに、食品関連の企業では『ズルチン』や『サッカリン』や『チクロ』といった安価な人工甘味料の使用が常態化していた。

 

 その中でも『チクロ』は他よりも値段は高いが、砂糖に味が近いのに砂糖の数十倍も甘みを感じられるとあって、あらゆる菓子や清涼飲料水に多用されていた。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 それらは、あくまでも砂糖の代用品……という認識は、昭和のこの時点でも、あったりする。

 

 何故なら、砂糖とは違って、人工甘味料の特徴の一つとして、なんとも表現し難い雑味が後味として残る。

 

 それは今も昔も同じであり、全員がそうではないが、この頃の人達も『やっぱり砂糖に比べたら……』と評価している者は多かった。

 

 実際、()()()()()()で、()()()()()()()で、()()()()()()()、人工甘味料特有の()()()()()()()()()からこそ、チクロが広く使われたのが、その証拠だろう。

 

 

 ──だからこそ。

 

 

 それ以上に高価である果物を贅沢にもジュースにし、そのうえ、その果物がまた信じ難いぐらいにみずみずしくて甘く、他の店とは明らかに味が違う。

 

 しかも、人工甘味料や、香料を溶かした水などの混ぜ物無し。

 

 さらに、客が空いている時は、フルーツの盛り合わせも受け付けてくれるし、それもまた格安である。

 

 目の前でジューサーに掛けるという物珍しさもあってか、9月に入ってからは客こそ減ったが、それまでの客よりも明らかにマナーの良い客が増えたのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………が、それも、夏の暑さが和らぎ、心地良い涼しさが感じられるようになった10月初旬。

 

 

 オリンピックまで、残り○○日! 

 

 という言葉が毎日どころか毎時間のようにテレビで聞くようになった……そんなある日であった。

 

 

「──邪魔するぜ」

 

 

 相も変わらず客の注文を受けてジュースを作ったり、フルーツ盛り合わせを作ったり、度胸試しという名目で野菜ジュースを作ったりしていた千賀子の店に。

 

 

「おう、嬢ちゃん、店長さん呼んでくれや」

 

 

 頬に古い傷痕がある、明らかに極道の者と思わしき風貌の男が2人……粗暴な態度を隠すことなく、入って来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 千賀子の知らない神社の秘密・その3





 千賀子の神社は実のところ、女神の加護という名の不可視の結界が常時張られている。

 とはいえ、これは別に他者を弾くモノではないし、悪しきモノを焼いてしまうものでもない。

 この結界は、千賀子がなんらかの理由で外界を嫌い、神社に引きこもってから一定の日数が経過することで自動的に発動する、ある種の隔離壁みたいなモノである。

 この隔離壁は非常に強力であり、一度発動すれば最後、千賀子が再び己の意志で外界へ出ようとしない限り、人類が持つあらゆる力を持ってしても内部に入る事はおろか、内部を確認することも不可能である。


 ……では、千賀子は1人きりになってしまうのだろうか? 

 ──安心してほしい、その心配は無用である。


 何故なら、引き籠ってから一定期間が経過すると、社の周りでは実に賑やかな祭りが開かれるようになる。

 その楽しさときたら、それはもう八百万の神々が声をあげて笑うしかないぐらいで……そこまできたら、もう大丈夫。

 気になって境内に出るしかない千賀子を出迎えるのは、女神のお目かねに叶った千賀子の夫。

 そして、夫婦が揃えば、そう、子供が出来るわけである。


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