ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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ハーメルンの方です


第35話: ちなみに、勘当されたわけではない

 

 

 ──東京オリンピックも夢の跡。

 

 

 という言い方は少々悪意を感じ取るのかもしれないが、オリンピックを終えた後の空気は、そう表現しても仕方がないに悪かった。

 

 いったい何が……これはまあ、後の世にて(前世の話だが)オリンピック閉会後に例外なく起こった、大不況である。

 

 

 オリンピックが始まるまでは、良いのだ。

 

 

 建設もそうだし、インフラ整備もそうだし、それに合わせて様々な業種がその恩恵を受けて、良くも悪くも仕事が溢れかえっていた。

 

 人に限らず、大きな事業が動く時は、今も昔もそうなるのだ。

 

 しかし、いざオリンピックが終われば……待っているのは、一気に需要が冷え込んだ社会である。

 

 オリンピックというどデカい需要が消えれば、それを見越して動いていた建設業の仕事もごそっと消える。

 

 そうなれば、とにかく人手がと言わんばかりに集められた人たちが一斉に職を失った。

 

 そして、その動きに連動するようにして活発だった飲食業界、運送業界、並びに様々な業界の動きが目に見えて鈍化し、前へ前へと進み続けていた景気に特大のブレーキが掛けられる。

 

 結果、長らく続いた好景気の流れに乗って増大していた様々な会社にも多大な影響を及ぼし、連鎖的な倒産を引き起こしてしまい。

 

 その中には、まず倒産しないだろうと言われていた大企業も少なからずあり、後に『40年不況(昭和40年なので)』と呼ばれることになる、大不況に陥ったのであった。

 

 

 普通の好景気ならば、そこまでにはならなかっただろう。

 

 

 だが、今回の好景気は国が率先して誘導していたうえに、国民自身もまた、戦後の貧しさから逃れられるという『夢』に邁進(まいしん)していた。

 

 言うなれば、国の指示とマスコミの扇動によって、心配せずブレーキを掛けないまま坂道を自転車で下っているようなものだ。

 

 あらかじめ小まめにブレーキを掛けていたならともかく、ある日突然、『はい、安全なのはここまで!』と号令を掛けられ、慌ててブレーキを掛けたような状態だ。

 

 当然、止まれるはずもなく。

 

 自転車は突き当りのガードレールに真正面から突っ込んだような形になり、速度が出ていた分だけ、大きな怪我を負ってしまった……というのが、今の日本の現状であった。

 

 

 ……もちろん、国民全員がそうなったわけではない。

 

 

 何時の時代も、無い所はまったく無いが、有るところにはたっぷり有るのが、お金というものだ。

 

 白飯にメザシに味噌汁、あるいは、菜っ葉の漬物に菜っ葉の混ぜ飯を一ヶ月朝昼晩食べ続け、家電などもなく、服もツギハギだらけになっている者もいれば。

 

 週に一回はすき焼きを食べ、飲み屋へ通い、女遊びをして、家を建てて、三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)だけでなく、3C(カラーテレビ・クーラー・自動車)を揃えている者もいる。

 

 

 けれども、全体的には、けして良い空気ではなかった。

 

 それに、国も黙って静観していたわけではない。

 

 

 オリンピックの終了に合わせて起こると確実視されていた景気の冷え込みに対して、様々な対策を取った。

 

 とはいえ、それらがもたらす効能は、続々と増え始める失業者などの現状を劇的に回復させるには至らず。

 

 その影響は大なり小なり全国へと広がり、『岩戸景気』と『オリンピック景気』によってもたらされていた好景気の流れも、ここで一旦途絶える形になるのであった。

 

 この不況の流れから日本が持ち直し、再び好景気へと転ずるようになるのは、翌年の1965年の10月頃。

 

 景気テコ入れとして、建設国債と呼ばれる赤字国債の発行が閣議決定されたことをキッカケに発生した、戦後最大の好景気。

 

 後に『いざなぎ景気』と名が付けられるソレが起こるまで、大国民の大半は青息吐息の日常を送る事になるのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………とまあ、それはそれとして、時は少し遡り、1965年の5月半ば。

 

 

 好景気と不況の影響が真っ先に出るのは東京であり、地方まで広がるのはかなり遅れてから。

 

 それが良いのか悪いのかは別として、まだ、千賀子の周辺には東京ほどの激変は起こっておらず、比較的静かなものであった。

 

 

 もちろん、全くの平穏かといえば、そんなわけもない。

 

 

 千賀子の周りでそこまでダメージを受けていないのは、地域に根付いた商売をしていた者たちばかりであり、良くも悪くも地産地消で治まっている人たちで。

 

 東京に限らず全国を移動して商売していた者、貿易を始めとした先物取引で稼いでいた者、オリンピック景気に乗って手広く仕事を広げていた者ほど、受けたダメージは甚大であった。

 

 

 まあ、それも致し方ないのだろう。

 

 

 上手くやれている時は、それはもう豪邸を建てたり新車を買ったり家電を一括で揃えたりと左団扇な生活を送れていた。

 

 しかし、ひとたび反転すれば、その生活は悲惨なモノだ。

 

 先月まで出来た事が出来なくなり、ガソリン代に苛立ち、家電もそうだが、食費も目に見えて貧しくなり。

 

 そこで持ち直せば良いのだが、今回の不況はそんなチャンスは巡らず。

 

 ある日突然、クラスメイトの姿を見なくなったかと思えば、両親が蒸発したとか、一家離散したとか、夜逃げしたとか、そんな話が流れるのも、一つや二つではなかった。

 

 実際、小学校時代の同級生が数名行方知れずというか、一家が夜逃げしてそれっきりとか……さすがに悲しい話過ぎるので、話を戻そう。

 

 

 

 ──中学校を卒業した千賀子は、無事に高校へと進学した。

 

 

 

 進学先は、千賀子が自宅から通える……というには些か不便ではあるが、なんとか通える範囲にある中でも一番評判が良い公立校となった。

 

 いわゆる進学校というやつで、通っている者たちが比較的中流家庭以上という感じの、そんな学校である。

 

 

 ……残念ながら、明美は別の高校に行くことが決まり、高校進学を機に明美ともちょっとばかり疎遠になった。

 

 

 念の為に言っておくが、交友関係はちゃんと続いている。ただ、前以上に顔を合わせる機会が減った……というわけである。

 

 明美も頭は良い方なのだが、さすがに一時期は暇が生まれた=勉強という日常を送っていた千賀子には成績が及ばなかったのだ。

 

 まあ、明美自身は『あたしの頭にゃあ分不相応ってやつ?』という感じだったので、涙ながらのお別れというよりは、成るように成ったといった感じでアッサリしたものだったが……で、だ。

 

 

 ──千賀子が通っている学校に向かうには、鉄道を利用する必要がある。

 

 

 この頃にはもう鉄道が発達し、蒸気機関車と電車が混合で線路を走っている。その中で千賀子が利用するのは電車の方である。

 

 さすがに都心とは違い、鮨詰めのような狭苦しさは無い。しかし、けして余裕があるわけではなく、朝の通勤時はそれなりに混雑していた。

 

 

(……相変わらず、めっちゃ見られているなあ)

 

 

 そんな中で、千賀子は……昨日と同じく周囲からチラチラと向けられる視線に、内心にて溜息を零していた。

 

 いったいどうして見られているのか……それはひとえに、千賀子が美人であるからだ。

 

 中学生の時ですらそうだったのに、高校生となった千賀子の美しさは、もはや美貌だけではない。

 

 

 そう、美貌はもはや、語るまでもないのだ。

 

 

 うっすらと光を跳ね返す艶やかな黒髪に、日焼けという言葉を知らないかのようなシミ一つない肌。

 

 胸を中から押し上げる制服、スカートから伸びる足は細く、傍に寄れば、香水とは明らかに違う甘い匂いがうっすらと嗅ぎ取れる。

 

 そんな美少女がひょっこり電車に乗って来れば、視線が集まって当然である。

 

 ただ、そこに居るだけでハッと気持ちを持っていかれてしまうような、そんな美少女を前に……視線を向けるな、というのが無理な話であった。

 

 

(──あっ、あいつ、前に尻を触って来たやつだ)

 

 

 そして、皮肉にも、それに反比例するかのように、だ。

 

 

(移動&移動、逃げるっきゃない……女に触られるのも嫌だけど、男相手よりはマシ……)

 

 

 以前よりも明確にそういった被害に遭う頻度が増えているのを実感していた千賀子は、すっかり逃げる事に慣れてしまっていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………変化は、通学だけではない。

 

 

(し、視線が、凄いなあ……)

 

 

 高校一年生となった千賀子は、クラスメイトと共に校庭に出てバレー体育に参加していた……わけなのだが。

 

 

 ──結論から言おう、クラスメイトから向けられる視線が凄かった。

 

 

 男子は言わずもがな、女子も大概である。

 

 そう、女になって幾度となく実感した事だが、女は女で同性の身体を普通に見てくる。男でも、筋肉隆々の野郎を見て、おおっと感心して……いや、ちょっと違うか。

 

 女の場合、感心半分、嫉妬半分といった感じか。

 

 前者はまだしも、後者はネットリとした視線を向けられるので、すぐ分かる。男でも同性を見て嫉妬の目で見るが、どうも毛色が違う。

 

 特に酷いのが、体操着を押し上げる胸元へと視線を向けられる時だろうか。

 

 高校生になった千賀子の胸はもう、この時代の女性からすれば『巨乳の中でも大きい方』と呼んでも差し支えないぐらいのサイズになっている。

 

 全体的にふくよかな体形ゆえに、胸元が膨らんでいるのではない。並べば明らかにその細さが分かるからこそ、余計に目立ってしまっている。

 

 おかげで、視線が集まること、集まること。

 

 加えて、千賀子が目立つもう一つの……1965年の春……正確には、去年(1964年)の東京オリンピックの影響によって改めて生まれたモノが一つ。

 

 

 それは、『ブルマー』である。

 

 

 言っておくが、小学生と中学生の時に履いていたダボダボっとした漢字の提灯ブルマーではない。

 

 いわゆる、お尻にぴったりフィットするショーツタイプの、あのブルマーである

 

 そう、千賀子が通うことを決めた高校では、今年から女子はブルマー使用が原則になったのである。

 

 

 ぶっちゃけ、千賀子は恥ずかしかった。

 

 

 いまさらパンツの一つや二つといった感じだが、これはなんとうか……そう、感覚的には生地が分厚いボクサーパンツで外に出ている……そんな気持ちにさせられたからだ。

 

 しかし、そう思っているのはどうやら千賀子だけであった。

 

 驚くことに、他の女子たちからはかなり好評なのだ。

 

 誰も彼もがちょっと嬉しそうにしており、千賀子のように実は……という感じで嫌がっているような女子は、1人もいなかった。

 

 

 ……そう、実は、だ。

 

 

 千賀子の前世においてもそうなのだが、当時の女子たちにとって、ブルマーは女子オリンピック選手が履いていたユニフォームという認識が強く、憧れの一品だったのだ。

 

 実際、ブルマーの宣伝雑誌が売られていたし、ブルマーを履いているモデルの写真もあって、ブルマーが欲しいという女子もそれなりに居たらしい。

 

 ……けれども、だ。

 

 

(う~ん……こうしてみると、私の尻ってデカいんだな……)

 

 

 そんなユニフォームであろうとも、一回り近く大きく形の良い尻を持つ千賀子からすれば。

 

 無駄にデカい(と、千賀子は思っている)尻が変に強調されてしまうので、これならダサいと思われても提灯ブルマーの方が良かった……と、思っていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そんな千賀子の内心を他所に。

 

 

『お、おい、見ろよ……』

『うぉ、でっか……』

『秋山のやつ……相当に胸がデカいって思っていたけど……』

『ああ、尻もデカいな……』

『すごく……柔らかそうだな……』

『なんか、痴漢に遭って大変だって前に話していたよな』

『仕方ねえよ、あんなん触らねえやついねえよ』

『まったくだぜ……』

 

 

 知らぬ間に、クラスメイトたちの性癖の扉を開いていたりしていたのだが……当の千賀子が気付くことはなかった。

 

 

『秋山さん……すごく、良い匂いするね』

『うん……この前ぶつかった時、めちゃくちゃ柔らかかったよ』

『私もお尻で押されたことあるけど、もうね……』

 

 

 なお、女子も例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 ──とまあ、そんな感じで、高校生活をスタートさせた千賀子だが……一つだけを除いて、まあまあ順調であった。

 

 

 東京の店の方は相変わらずだが、なにやらヤクザの親分らしき人が来たけど、他の客に迷惑を掛けることはなく。

 

 不況の波も『秋山商店』にはほとんど影響はなく、少しばかり売り上げは下がったが、原価0円などで結局は大した影響もなく。

 

 神社にて得られる物資も途切れる気配はなく、時々だが『今日は行ってはならん日かも!?』という直感に従って行かない時もあるが、おおむね問題はなく。

 

 本当に、小学生時代、中学生時代に比べたら、千賀子にとっては平穏な日々であった。

 

 ……ただし、一つだけ。そう、一つだけ。

 

 

「──ただいま」

「あら、お帰り。今日は早いわね」

「そう?」

 

 

 自宅へと戻った千賀子は、店番をしている母に声を掛けてから……廊下を進み、自室へと入る。

 

 そう、自室だ。

 

 これまでのような、自室(共同)ではない。

 

 何故なら、兄の和広は実家を離れたからだ。

 

 

 ……なんで、実家を離れているのかって? 

 

 

 それは……チラリ、と。

 

 ふと、部屋の片隅。

 

 着替えをしながら、タンスの上に置かれた写真立てに何気なく視線を向けた千賀子は……幾度となく思った事を、この日もまた呟いた。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 そう、分かっていても、呟かずにはいられなかった。

 

 

「私が……うん、私が言うのもなんだけどさ……」

 

 

 今時流行りの角刈り系の髪に、なんだかレトロチックなジャケット(この時代では最先端)を身に纏い、エレキギターを構えた兄の写真を前に。

 

 

「音楽で食って行くとか……そういうフラグを立てて飛び出していくのだけは、止めてほしかったなあ……って」

 

 

 そう、口に出さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 










 愛し子の知ら  神 秘  その





 社(本殿なのだろうか?)にある千賀子の自室の押し入れの奥に、『おみくじ箱』がある。

 この『おみくじ箱』は特別製であり、いくら使用しても中のおみくじ棒が無くなることはない。

 そして、このおみくじには特殊な力があり、当たりの内容によって、千賀子に様々な効果を発揮する

 基本的に千賀子に害をもたらすモノは入っておらず、仮に『大凶』を引き当てたとしても、結果的には千賀子にとってプラスの結果になるように調整されている

 ……で、だ。

 ここからは千賀子も知らないのだが、千賀子は『巫女』であるがゆえに、この『おみくじ箱』を見た瞬間、おみくじをせずにはいられないのだ。

 なぜなら、『巫女』だから。

 そして、『巫女』であるがゆえに、運良く『大吉』あるいは『大大吉』を引き当てると、それはもう幸福に包まれる。

 だって、家族が増えるし。

 家族が増えるのだから幸せになるわけだし、愛し子もまた幸福の中にあるわけだし、それはもう誰がどう考えても幸せであるわけで。

 そう、愛し子が可愛いくて可愛くて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて──全て、愛し子が悪いのである。

 はやく、ああ、早く速くはやく──ややこを見せておくれ、可愛い可愛い、愛し子のややこを

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