ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第44話: しばらくして、巫女的なパワーが増大していることに気付く

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………目が覚めた時、千賀子は最初、その違和感に気付けなかった。

 

 天気は良く、体調は良い。どうやら時間が経ってから熱が出てくるようなこともなかったようで、気怠さの類もなかった。

 

 

「なんか、女神様から話しかけられてきたような……」

 

 

 なんか、早く起きてしまったような……むにゃむにゃと呟きながら、のそりと身体を起こす。

 

 二度寝してしまうと寝起きが最悪になる事が多いし、下手するとそのまま寝坊してしまう(小学生時代、それで何度かたたき起こされた)ので、気合で起きる。

 

 

「……20分早い。もう20分ぐっすり寝たかった」

 

 

 そうして、しょぼしょぼした目を擦りながら、目覚まし時計を取る。同時に、己の頭を起こすために無理やり掛布団を捲ると、片方の腕をぐるんぐるんと回す。

 

 特に医学的なアレがあるわけじゃないが、とりあえず肩でも回せば血が巡って頭もスッキリするだろうという、その程度の感覚である。

 

 

 ……感覚的な話だが、今生の身体は低血圧だなと千賀子は思っていたりする。

 

 

 たぶん、月経によって物理的に血が減るからだろうというのが千賀子の見解である。

 

 まあ、体質的な問題もあるだろうし、一概にそれが原因とは断定出来ないが、生理が始まってからそう感じる事が増えたのもあって、千賀子はそう思って……ん? 

 

 

「……?」

 

 

 違和感に気付いたのは、血が巡り始めて意識がハッキリし始めたあたりであった。

 

 何気なく、右手に持った目覚まし時計を見やる。

 

 何時も使っているそれは見覚えがあり、何時もの起床時間より20分近く早い時刻を示していた。

 

 何気なく、左手が掴んでいる掛布団を見やる。

 

 何時も使っているそれは見覚えがあり、先ほどまで身を包んでいたこともあって、ほのかに体温が残っていた。

 

 そして……仰け反るようにして、背後を見やる。すると、グルグルと、血を巡らせる己の両腕がチラチラと確認出来て……!!! 

 

 

(う、腕が増えてる──っ!!!???)

 

 

 声として出なかったのは、本当に幸運であった。

 

 まあ、単純に驚き過ぎて声に出なかっただけなのだろうが……と、とにかく、だ。

 

 眠気も何もかもが吹っ飛んだ千賀子は、それでも物音を立てないよう気を付けながら、急いで姿見の前へ……そこで、絶句した。

 

 なんでかって、今しがたの光景が錯覚ではなかったからで、千賀子の腕が2本……つまり、計4本の腕になっていたからだ。

 

 これの何が驚くべきかって、単純に腕が増えただけではない。

 

 まるで、生まれた時から腕が4本だったかのように、感覚が馴染んでいるのだ。そのうえ、触ればちゃんと温かい。

 

 つまり、神通力などの幻覚ではない。間違いなく、本物の両腕……血の繋がった、己の腕だ。

 

 

「どっ、どっ、どっ、どうし、どうしたら……!!」

 

 

 あんまりな状況に、それ以上の言葉が出てこない。2本の腕で頭を抱え、残った2本の掌を意味もなく擦り合わせながら……その場で、グルグルと回り続ける。

 

 

 ──ヤバい、非常にヤバい。

 

 

 そんな言葉が、千賀子の脳裏を埋め尽くす。

 

 現代(前世の話)ですら、腕が4本……それも、ただ生えているだけでなく、ちゃんと動かせる腕が2本も追加されている人間なんて見つかれば、大騒ぎになるだろう。

 

 それが、昭和のこの時代で起こればどうなるか──答えは、人の言葉を話す珍獣扱いである。

 

 なにせ、この頃は……常識から外れた行動、姿形を取る者に向けられる視線は、冷たいなんてレベルではない。

 

 ゲイやレズであるのが発覚しただけで、『頭のおかしいやつ』のカテゴリーに入れられ、周囲から変人扱いされるだけでない。

 

 文字通り、人間扱いされなくなる。

 

 ただ、無視されるだけならマシだ。それが物珍しく、なにかしらの注目を集めるような類であるならば……その扱いは、悲惨である。

 

 朝な夕な、ジロジロと視線を向けられ、付け回されるのは当たり前。後々の話だが、芸能人の住所や電話番号が載った本が一般に販売されるような時代だ。

 

 この頃はプライバシーや個人情報保護なんて考えはないし、『全国の人達が知りたがっているんですよ!』という一報的な都合で秘所をまき散らすことに欠片の罪悪感も……いや、現代はそれが違うとは断言でき……とにかく、だ。

 

 そんな時代に、腕が4本になった事が露見してしまえば最後、千賀子の日常は一変し、どう足掻いても見世物扱いされるのは想像するまでもないことであった。

 

 なにせ、腕だ。

 

 生まれつき指の数が多いとか、耳の形が違うとか、手術で誤魔化せる範囲を逸脱してしまっている。

 

 さすがの神通力でも、ここまで明確に違えば誤魔化しきれない。

 

 千賀子の美貌への認識を不明瞭にするまでは可能でも、千賀子がそこに居ないと思い込ませるのは非常に負担が掛かる。

 

 それが1人や2人ならともかく、100人200人ともなれば……想像するだけでも、サーッと血の気が引いていくのを感じた千賀子は──そこでようやく、ハッとある事に気付いた。

 

 

(も、もしかして──アレは、夢ではなかった!?)

 

 

 それは昨晩に見た、『夢の中で女神様に話しかけられてガチャを回す夢』である。

 

 実は、以前から夢の中で女神様が姿を見せることは何度かあった。

 

 それが実際のモノなのか、千賀子が作り出した夢なのかは、まだ分かっていない。

 

 どちらにせよ、その夢はあくまでもお話に終始するし、目覚めたら細かい部分は忘れていたりするから、これまで特に気にした事はなかった。

 

 それに、色々あって疲れていたこともあり、てっきり昨日はそういう夢なのだろうと思っていたが……って、ことは、だ。

 

 

(これが夢なら──たぶん、感覚的にどうにか出来るはずだ!)

 

 

 これが『ガチャ』の結果であるならば、他の能力と同じく操れるはず。

 

 そう考えた千賀子は固く目を瞑り、能力を行使する時と同じく、己の内にあるはずの、これまでなかった『力』がないかを探り──すぐに、見つかった。

 

 

(な、なんとか戻れそう……だけど、もう1個あるじゃん……)

 

 

 と、同時に、千賀子は軽く絶望した。

 

 なにせ、戻れそうと分かって安心した途端、他にもう一つ見知らぬ力が己の内にある事に気付いたのだ。

 

 例えるなら、爆弾解体を無事に済ませたかと思えば、その起爆装置の傍にもう一つの爆弾が見つかったかのような……と、とにかく、だ。

 

 この姿を家族に見られてしまえば最後、縁切りが確定する。そうしなければ、家族全員がさらし者になってしまうから。

 

 

(ええっと、今のこの姿が……ん? 『変身:サラスヴァティー』? なにそれ、知らん……もう一つの方は、『変身:ククノチ』? こっちも知らん……まあ、とりあえず解除しないと!)

 

 

 なので、とにかく元の姿に戻るのが先決だと思った千賀子は、感覚を頼りに慣れ親しんだソレに手を伸ばし──直後、千賀子の身体は一瞬にして、見慣れた何時もの姿に戻っていた。

 

 

「……ヒュー、ナントカナッタヨ……」

 

 

 それを見た千賀子は……か細い呼吸音と共に、自分が発したとは思えないぐらいに小さく、安堵の溜め息を零したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………で、だ。

 

 

 そんな騒動があったとしても、何時ものように学校へ向かうしかない千賀子は、色々と覚悟を固めていたわけだが。

 

 

「なあ、秋山、次はどこ行く?」

「ごめんなさい、色々と用事が立て込んでいるから、しばらくは……」

 

「え~、ちょっとぐらいサボろうぜ。せっかくの青春なんだぞ」

「うふふ、ありがとう。お気持ちは受け取りますね」

 

「な、なあ、秋山……その、あの後大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫だよ、滝田く……滝田くん、どうしたの? なんかすごくやつれたというか、元気がないように見えるけど?」

「え、あ、いや、ちょっと上手く寝付けなかっただけだから……」

「そうなんだ、風邪は引かないようにね」

「ありがとう……その、ごめん」

「……?」

 

 

 一緒にボウリング場に行った男子たちから、それはもう熱烈な次回への誘いが掛けられ。

 

 

「…………ちっ」

「ちょっと、止めなよ」

「そうそう、何処で男子たちに告げ口するか分からないしね」

 

 

 隠してはいるが、それでも何処となく機嫌を悪くしている女子たちから睨まれ。

 

 

「はぁ、はぁ、秋山さんの谷間……」

「あのお尻を枕にしたい……」

「分かる、お姉さまって呼びたい」

「分かる、お姉ちゃんって呼ばれたい」

「分かる、髪に櫛を入れてほしい」

「分かる、髪に櫛を入れたい……」

「はっ?」

「おっ?」

「なんだおまえ、千賀子さんは私のお姉さまになる人だけど?」

「なに言ってんの? 私の妹なんだよ、忘れてない?」

「はっ?」

「おっ?」

 

 

 他には、なにやらタブーに目覚めようとしている女子もいたが……とにかく、気の休まらない日中を過ごした後。

 

 

 

「……女神様、不意打ちは無しだと思います!」

 

 

 

 神社の奥、自室の片隅に何時の間にか置かれている『女神像』へ向かって、千賀子は堪らず憤りをぶつけたのであった。

 

 

 ……ちなみに。

 

 

 この『女神像』は千賀子のような愛し子、あるいは神通力等による精神的なプロテクトを張らずに直視してしまうと、例外なく精神に影響が出てしまうので注意が必要である。

 

 具体的には、極度の緊張、強い倦怠感、強い吐き気、失禁のほか、その女神像から視線を自力で外すことが出来ないといった症状である。

 

 加えて、女神像をスケッチするなどして子供に見せると、例外なく全ての子供が引きつけを起こすほどに泣き喚くので注意が必要である。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、そんな感じで会話が通じているようで通じていないっぽい女神様との問答の後で、分かった事が幾つかある。

 

 

 まず、やはりというか、昨夜の夢だと思っていたアレは現実で、寝ぼけている間に『ガチャ』が回されていたということ。

 

 しかも、普通のガチャではない。

 

 シークレットミッションを達成した時にのみ回せる特別なガチャだったようだ。

 

 残念ながら、あの手この手で聞き出そうとしても女神様は教えてくれず、『お揃い、お揃い、うふふ……』と嬉しそうにするばかりだったが……でもまあ、全く未知というわけではない。

 

 他のスキルでもそうだったが、能力の発動のさせ方、解除の仕方は、教えられなくとも自然と理解出来ている。

 

 実際、朝のあの時、あれだけ混乱していたというのにアッサリ戻れたのが、その証拠だ。

 

 また、能力の細かいところを知っていくには慣れというか、とにかく使わなければ分からない。

 

 だから、客観的に考えたら、能力の有無を知るタイミングが遅いか早いかの違いでしかなく、そう思えばまあ……千賀子は、己を納得させたのであった。

 

 ……で、しばしの間、ウンウン唸りながら、己に宿った新たな能力を確認しつつ……改めて、『ガチャ』で得た能力をまとめると。

 

 

 ──得られた能力は、『変身能力』だ。

 

 

 だが、ただの変身ではない。変身する先は固定であり、それ以外に変身することは出来ないのだが……問題なのは、その変身したモデルにある。

 

 ──一つ、『サラスヴァティー』。

 

 千賀子の評価としては、『名前はどこかで聞いた覚えがあるけど、それだけで、他の部分は知らないか覚えていない』、である。

 

 見た目の変化は、主に腕が4本になるということ。4本ともが生まれた時から生えていたのかと思うぐらいに馴染んでいる。

 

 顔や身体は……正直、ほとんど変化はない。

 

 たぶん、筋力的な意味でもそのように感じるし、試しに御神木の傍にある石を持てば、それがよく分かった。

 

 ただ、大きく違う点もある。

 

 それは感覚的な話だが、こう、なんと言えば良いのか……水というか、川というか……とにかく、流水に触れると様々なモノを感じ取る事が可能で、規模にもよるが、慣れない今でもある程度は操る事が出来るようだ。

 

 試しに、手水舎の水を汲みとり、そこに掌を向けて意識を集中すれば……なんとなくだが、その水がいつもより更に綺麗になっているような印象を覚えた。

 

 ……ちなみに。

 

 千賀子は知らないが、サラスヴァティーは日本の弁財天の事だったりするが……まあ、それだけ。

 

 他にも色々出来そうな感覚はあるが、長くなりそうなので次に移る。

 

 

「……おお、なんかすごい」

 

 

 サラスヴァティーと同じく、もう一つの力に意識を集中すれば、あっさりその姿は変わった。

 

 具体的には、頭に蔓を編んで作ったかのような冠が被さっており、髪の一部がなんと花に変わっていた。

 

 他にも、服で隠れて見えにくいが、皮膚のいたるところから細い蔓が伸びていて、それはまるで血管のように千賀子の身体全体に広がっていた。

 

 目の色は……緑色だ。

 

 顔立ちこそ変わっていないが、ある意味、先ほどの変身にも匹敵するぐらいに顕著な変化だろうか……ん? 

 

 

(……? これ、ここでは使っても意味なくないか?)

 

 

 実際に『ククノチ』とやらに変身したことで初めて能力を理解出来たが……結論は、ソレであった。

 

 と、いうのも、だ。

 

 千賀子は分かっていないが、『ククノチ』とは日本神話における『久久能智神《くくのちのかみ》』のことであり、あるいは『句句廼馳《くくのち》』とも言う。

 

 伊弉諾尊《いざなぎのみこと》と伊弉冉尊《いざなみのみこと》との間に生まれた木々の精霊、あらゆる木の神である。

 

 木の神だけあって、特に林業に関係する事柄に強い神徳がある……が、ここは女神様が作り出してくれた神社の中だ。

 

 言うなれば、ククノチが手を加えられる場所が何一つ無いのだ。

 

 感覚として能力は分かっているが、実際に使うとなれば、ここではなく神社の外……というか、この山の外にまで行く必要がある。

 

 さすがに、そこまでするのは面倒というか、また別の機会にどこかで確認出来たらいいかなって、千賀子は……いや、待てよ? 

 

 

(そういえば一昨日のテレビでやっていたけど、どっかで大雨が降って土砂崩れが起きたとか……ちょっと、試してみよう)

 

 

 復興の手伝いが出来たら良いかも。

 

 そう思った千賀子は、押入れに何故か置いてあった布作面《ふさくめん》を付けて顔を隠すと、さっそく『遊びに行こう!』を発動させ、ワープしたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 

 ──ブフフン? 

 

 

 なんか鼻息荒く神社に来たかと思えば、ウンウン唸り始め、その直後に姿が変わって、その次にはパッと神社から姿を消した千賀子を遠くから眺めていたロウシは。

 

 ……ヒヒン。

 

 とりあえず、千賀子の身に不利益が生じたわけでもないし、話しかけるタイミングを逃してしまったこともあって……しょぼん、とちょっと寂しく──。

 

 

『ぷっ、くくく……うふ、ふふふ(笑)』

 

 ──フヒヒン!? 

 

 

 思っていたのだが、何処からともなく聞こえてきた、なんか上から目線で勝ち誇っている笑い声を聞いて、思わず苛立って地面を蹴ったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、そんなしょうもない喧嘩を他所に、被災地にて思いのほか『ククノチ』と『サラスバティー』の能力が役に立ち、復興の足かがりを1人で作った千賀子だが。

 

 

『ありがとうごぜえます! ありがとうごぜえます!』

 

 

 その、数日後に、『仏様ですじゃ! 仏様が降臨して、ワシらの村を助けてくれたんじゃあ!』と鼻息荒くテレビのインタビューに答える村人の映像がテレビに流れ。

 

 

(ね、念のため、顔だけは見られないようにしておいて良かった……)

 

 

 隠れていたつもりが、けっこう目撃されていた事に……思わず、ブフッと味噌汁を咽てしまい、母親からはしたないと叱られてしまうのであった。

 

 

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