ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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ハーメルンの方です、台風は嫌ですね


第53話: 昭和の常識・平成の常識・令和の常識

 

 

 ──気絶から目覚めた千賀子は最初、己は夢を見ているのだろうと思った。

 

 

 しかし、膨らんだ腹と、その重み。中で息づく命の気配と脈動を感じ取った千賀子は、それが紛れもない現実であることを改めて認識させられた。

 

 

(ここは……神社の自室かな?)

 

 

 どうやら、2号はそのまま介抱してくれていたようだ。腹の重みを考慮してか、仰向きではなく横向きの姿勢の姿勢になっていた。

 

 気配を探るが、神社に2号の気配はない。何処へ向かったのか、軽く思念を送る。

 

 神通力が使えるまで回復しているおかげか、『鏡の中の私』の能力が説明されなくても理解出来ていた。

 

 

 ──2号、今どこ? 

 

 

 ただ、理解出来たからといって、すぐに使いこなせるわけではない。

 

 『遊びに行こう』も『巫女』としての能力も、最初の頃は上手く使いこなせなかった。慣れるまでは、2号の言う同期とやらは出来ないだろう。

 

 

 ──起きたのね、本体の私。すぐに戻るから、待っていて。

 ──なにか急ぎの用事でもあったの? 

 ──すぐに分かるから、待っていて。

 

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 なにやら含みのある言い方だったが、すぐに分かると言うのであれば、そうなのだろう。

 

 とりあえずは、だ。

 

 ゆっくりと……腹筋を使うと、張った腹が強張って苦しい(あと、物理的に邪魔)ので、横向き姿勢のまま腕を使って……それで、ようやく身体を起こせた。

 

 だが、それはそれでどうにも腹が邪魔をして居心地が悪い……というか、ちょっと苦しい。

 

 なので、横座りから、ぺたんこ座り……これも、どうにも圧が掛かるのか苦しい。胡坐を掻いてみれば、けっこう楽。

 

 ただ、胡坐を掻いてしまうと身動きが取り辛い。

 

 姿勢もお腹に圧を掛けないよう意識すると、どうしても重心が後ろの方へ傾いてしまう……と、なれば、だ。

 

 

(……ずっと正座は辛いけど、短時間ならこれが一番楽かも)

 

 

 試しに正座の姿勢を取れば、意外な事にそれが一番楽だった。

 

 間接や筋肉などが柔らかい千賀子でも、長時間は出来そうに……いや、可能と言えば可能なんだけど、痺れが、ね。

 

 ただ、前屈みにならない限りは一番圧が掛かり難いのか、ようやく千賀子はふうっと身体の力を抜くことが出来た。

 

 次いで、布団の枕元に、盆に載せられたコップが目に留まる。水滴がガラスに浮かんだそれは、カルピスであった。

 

 

(……こんな時でも、普通に美味いもんなんだな)

 

 

 自覚はなかったが、けっこう喉が渇いていたようで……あっという間に飲み干した千賀子は、溜め息と共にコップを盆に戻した。

 

 ……そうして、ようやく、だ。

 

 改めて寝間着をめくり、でーんと張り出した腹部を摩った千賀子は……何とも言えない気持ちで、そこを見つめた。

 

 やはり、そこには命がある。

 

 前世を含めて(当たり前だが)、初めての感覚だ。自分の身体の中で赤子が生きている、その事実に、どうしていいか分からなかった。

 

 なにせ、昨日の今日だ。

 

 寝て起きたら一目で分かるぐらいにお腹が大きくなっていて、中で赤子が動いているのが分かるのだ。

 

 これで妊婦として実感しておけというのが無理だ

 

 大前提として、行為すら行っていないのだ。寝耳に水という言葉では足りないぐらいの始まり方であり、取り乱さないだけ千賀子は冷静であった。

 

 

(……中絶は、いや、でも、人間じゃないらしいから、もしも人外の見た目だったら……)

 

 

 何時に産まれるのかは分からないが、とりあえず、腹の中の子は元気なのは分かる。ポコポコと、何とも表現し難い感覚が伝わってくるからだ。

 

 

 ……相手の男は、誰なのだろうか。

 

 

 ふと、千賀子は考える。

 

 2号曰く『精霊の一種だろう』というらしいので、相手は人間では……いや、そもそも、これって行為が行われた結果……ああ、いや、そこは関係ない。

 

 重要なのは、ここに命が宿っていて、己は妊娠しているということだ。

 

 

 取れる手段は、2つ。

 

 産むか、中絶するか。

 

 

 どうするかは、そのどちらかを選んだ後。まず、そのどちらかを選ぶ必要があるわけだが──っと、その時であった。

 

 

(ん? 2号の気配と……え、これって、まさか──)

 

 

 境内に、2号がワープしてきた。どうやら、用事は済んだようだ。

 

 けれども、それを察知した千賀子だが、2号の他に二人、人の気配を感じ取り──その気配に覚えがあった千賀子は、ギョッと目を見開き──そして。

 

 

「待たせたわね、本体の私」

「お邪魔しまーす。それにしても、すごい立派な神社ね~」

「邪魔するわね……うわっ、本当に妊娠しているじゃん」

 

 

 サーッ、と。

 

 障子を開けて中に入って来た、2号の後ろから。

 

 以前よりも大人びたというか、日に焼けた明美と道子が、部屋に入って来たのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………二人を連れてきた2号の言い分は、単純明快。

 

 

 自分一人で考えてもドツボにハマるだけだから、友人に相談しろ、というものだ。

 

 既に、2号の方から諸々の事情というか、妊娠に至る経緯や、千賀子の身に起きたこれまでの事を簡単に話したらしい。

 

 ──もちろん、女神様の詳細は伏せておいたわよ。あくまでも、神様の寵愛を受けていて、普通の妊娠とは違うってのは話しておいたから。

 

 とのことで、既に最低限の説明をされたうえで、千賀子の下に来たようだ。

 

 それよりも、女神様のこの神社に他人が居ても大丈夫なのかと不安を覚えたが、千賀子の不安などが和らぐなら女神様は大目に見てくれるとは2号の弁である。

 

 とりあえず、立ったままなのも……ということもあり、明美も道子も布団の傍に座り。

 

 2号が全員分(千賀子のおかわり分含めて)のジュースを用意して……さて、と、場の空気が切り替わったのであった。

 

 

 

 

 

 まず、話を切り出したのは道子の方からだった。

 

 

「──千賀子は、どうするの? 産むつもりなの?」

 

 

 そして、単刀直入であった。

 

 意外と言えば意外かもしれないが、道子は喋り方こそ間延びするというか気の抜けるような口調だが、話をする時は回りくどい聞き方はしない。

 

 

「それは……」

 

 

 だから、千賀子も即答しようと思った。

 

 だが、不思議とそれが出来なかった。

 

 女神様からの強制力でも働いているのだろうか……そんな違和感を覚えたが、それは違うような気がすると千賀子はすぐに内心にて否定した。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 これまで幾度となく女神様のお節介(超絶マイルド表現)によて色々とされてきた千賀子だが……千賀子が泣いて嫌がるようなことはしていない。

 

 魅力UPを重ね過ぎてとんでもない事態を何度も引き起こしたが、それは別に千賀子を害そうとしたわけではない。

 

 あくまでも女神様なりの、千賀子への寵愛の証である。

 

 そりゃあ、女神様は事あるごとに千賀子へ子供が子供がと繰り返していたが……それでも、これまで最後の一線だけは越えなかった。

 

 その違和感が、どうにも気になってしまい……千賀子は、否定の言葉を出せなかった。

 

 

「……悩む必要あるの~? 千賀子、無理やり子供を作らされたんだよ~? 産んだとして、その子を愛せるの~?」

 

 

 とはいえ、だ。

 

 客観的に見れば、道子の言い分は間違いなく正しかった。

 

 どんな理屈であれ、どんな理屈であれ、千賀子の同意なく孕ませたのは事実だ。常識的に考えれば、中絶を選択するのは当然である。

 

 

「……病院なら、私に任せて。誰にも知られないし、みんな口が固いから安心して」

 

 

 そして、道子がそう話を続けたのにも理由があった。

 

 現代でも学生での妊娠(つまり、未成年)は色々な意味で視線を集める問題だが、1965年頃の妊娠は、現代とはワケが違う。

 

 現代のようにプライバシー保護法なんてないし、秘密裏にこっそり中絶というのは出来ない。

 

 この頃にはもう病院での出産が当たり前のようになっては来ているものの、自宅などでの出産も珍しくはなく、免許を持たない産婆などが対応するというのも珍しくはなかった。

 

 また、プライバシーというものへの意識が現代より無かったことに加え、病院の数がそもそも違うし、対応出来る医者の数も少なかった。

 

 加えて、だ。

 

 昭和のこの頃の中絶というのは、現代よりもはるかに印象が悪かった。一般的な家庭でも、問答無用の一発勘当だって珍しくはなかった。

 

 それこそ、『ふしだらな娘』と揶揄されることだってあり、誰にも知られたくないあまり、非合法な中絶処置を受けようとする女性が後を絶たなかった。

 

 まあ、無理やり行為をされたならともかく、だいたいは半分責任があるわけだが……話を戻そう。

 

 とにかく──道子は、すぐにでも中絶をした方が良い、との意見だった。それは間違いなく、一般的な基準で考えれば正解の選択肢である。

 

 

「……私からは何も言わない。でも、一つだけ聞いていい? 怒らせるつもりはないの、ただ、聞いておきたい事があるの」

 

 

 対して、ムスッとした表情で沈黙を続けていた明美は、自分の意見を述べず、千賀子へ質問をした。

 

 

「あのさ……千賀子、もしかして……ちょっと、ホッとしてない?」

「え?」

 

 

 ドキッと、千賀子は己の胸が高鳴ったのを認識する。

 

 

「そんなの、誰かに相談したらホッとするでしょ~」

「いやいや、違うって、道子。私が言いたいのは、そっちの意味じゃなくてね」

 

 

 そして、明美より続けられたその質問に、千賀子は1回目よりもずっと強く、心臓が音を立てたのを実感した。

 

 

「私の勘違いならいいんだけど……子供が出来てさ、千賀子……心の何処かで安心というか、良かったって思ってない?」

 

 …………千賀子は、何も言い返せなかった。

 

 

 言われて、実感したというか、自覚してしまったのだ。

 

 明美の言う、『身籠って良かった』という、偽りのない己の意志を。

 

 確かに、承諾無く子供を身籠らせたのは事実だし、客観的に考えたら中絶を視野に入れるのは当たり前だし、というか、普通に考えたら中絶を選択する状況だ。

 

 

 それは、千賀子も分かっている。

 

 

 分かっているが、同時に、千賀子は……子供がお腹の中に居ると分かった時、嫌悪感の他にも安堵感を覚えたのも、事実であった。

 

 というか、明美のその言葉に、遅れて千賀子は自覚した。だから、己はどこか冷静で、取り乱さずにいられたのかと……で、だ。

 

 

「……どうして?」

 

 

 そう、思ったのか……尋ねれば、明美は非常に言い辛そうに視線をさ迷わせ……道子からも視線で促されている事に気付いたので、観念して答えた。

 

 

「あのね、今の千賀子の顔、けっこう前にうちに来ていたお客さんとおんなじ顔をしているの」

「……同じ?」

「そう、ようやっと身籠れて針のむしろから出られたっていう、若い奥さんと同じ顔。千賀子、その人とそっくり、肩の荷が軽くなったって顔をしているよ」

「──っ!」

 

 

 言われて──千賀子は、またもやストンと己の中で気付かなかった、いや、気付いていても気付いていないフリをしていた罪悪感を、自覚した。

 

 

 ──そう、そうなのだ。

 

 

 言われて、千賀子はようやく自覚した。

 

 気付いていなかっただけで、己はずっと昔から罪悪感を覚えていたのだ。

 

 物心がついて、前世の事を思い出し、己を女であることを受け入れた幼少の時から、うっすらと抱いていた罪悪感。

 

 

 それは……親に、祖父母に、子供の顔を見せられないということ。

 

 

 己が女である事と、男を受け入れるかどうかは別の話で。

 

 時が進み、背丈や手足が伸びて、乳房が膨らみ、生理が始まった頃には特に……そう、無意識の奥底で、千賀子は罪悪感を抱いていた。

 

 己は、男をそういう目で見られない。思春期だとかそんな問題ではなく、根本的な問題なのだ。

 

 男と性行為なんてもっての他で……そのせいで、子供の顔を、孫の顔を、見せられない……それが、今まで無意識に目を逸らしていた罪悪感の正体であった。

 

 

 ……現代人の感覚からすれば理解し難いだろう。だが、これが昭和の感覚なのだ。

 

 

 この頃はまだ、『女性は年頃になったら結婚して子供を産むのが常識であり当たり前』という社会意識が強く、25歳を過ぎれば嫁ぎ遅れと心配されるぐらいに強かった。

 

 ぶっちゃけると、その強さは比較にならない。

 

 男も女も例外なく結婚して家庭を築くのが常識であり、独身というだけで、誇張抜きで問題のある人として見られる。

 

 しかも、見られるのは当人だけでなく、当人の家族に対しても相応の視線を向けられる。

 

 冗談みたいな話だが、結婚予定の相手の家族に独身(30~40代)の兄弟や姉妹がいるだけで、『ちょっと、この話は……』という目で見られてしまう。

 

 良くも悪くもこの頃の日本はそういう時代で、結婚してからようやく一人前として扱われる時代で。

 

 それは年上であればあるほどに意識が強く、どうしようもないことで。

 

 相手が居なければ(居ても、問題が有ればアウト)、親を安心させるためにお見合いして結婚し、子供を儲けるということをほとんどの人が当然の事として認識していた時代でもあった。

 

 

(……ああ、そっか。だから私は、複雑な気持ちだったのか)

 

 

 そして、明美より、己ですら目を逸らしていた部分を指摘された千賀子は──受け入れるしかなかった。

 

 このお腹の子供が、人の姿をしていないのであれば、まだしも。

 

 もしも、人の姿をしていて、表面上は人間にしか見えないのであれば……少なくとも、安心させられると考えている事を。

 

 それは、とても勝手な考え方だとは分かっている。

 

 結局のところ、グダグダと考えている全ては、千賀子の勝手な思い込みだ。

 

 両親や祖父母から命令されたわけでもなく、勝手に千賀子がそうしてあげたいと思っているだけ。

 

 しかも、相手の男が存在しないから、事情を説明するしかない。

 

 理解して貰えるであろう範囲に限るが、それでも、己が普通の女ではなく、人知を超えてしまっている……そういう娘になっていることを、説明するしかない。

 

 本当に、勝手な事だとは分かっている。受け入れてもらえる保証は、全く無い。

 

 でも、それでも、してあげたいのだ。

 

 両親や祖父母に、子供を見せてあげたいのだ。

 

 コレを逃せば、おそらく己は2度と子供を見せる機会が無くなる。

 

 義務的に結婚して冷たい家庭を作る事になるぐらいなら、己が背負う。生まれてくるこの子には、罪は無いのだ。

 

 前世の己は、結局それを見せられなかったからこそ、余計に。

 

 そしてこれは、昭和のこの頃であれば、なんら責められるような考え方ではない。パッと見ただけでは、子供(孫)が増えるというだけのこと。

 

 けれども、そう考えていた事から目を逸らさず……千賀子は、明美を見やった。

 

 

「──産むつもり?」

 

 

 改めて、明美より尋ねられた千賀子は、頷いた。

 

 

「……それで良いの~? 私もそこまで詳しくないけど、それ以上大きくなると……中絶出来なくなるよ~」

 

 

 改めて、道子より念押しされた千賀子は……それでも、頷いた。

 

 

「普通の子じゃないかもしれないんだよ、それでも?」

「後悔しても、産んだ以上は責任を取るしかないんだよ~?」

「下手すれば家族と縁を切るかもしれないけど、その覚悟はあるの?」

「何から何まで自分勝手な考えなのは、分かっているのよね~?」

 

 

 それでも、千賀子は頷いた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それ以上、2人は何も言わなかった。

 

 

 今は離れているが、千賀子の性格は知っている。

 

 コレと決めた以上は、何を言っても頑固に進めるだろう。

 

 それを知っているからこそ、2人は。

 

 

「……相談ぐらいは出来るから、何時でも連絡しなさいよ」

「病院とか、何時でも手配するから連絡してね」

 

 

 それだけを、それだけしか出来ないけど、千賀子を応援することに決めたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その3人より離れて、部屋の隅にいる2号より。

 

 

「……そんなに心配しなくても、普通じゃないってところは薄々気づかれているような気はするんだけど」

 

 

 そんな呟きが零れていたが……誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

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