ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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明日は忙しないので、今日は早めにです


第62話: 千賀子「いや、ほんと、私で良かったよ……」

 

 

 

 土地を(正確には、山だが)買えとの女神様の御所望だが、土地というのはそう簡単に手に入るものではない。

 

 何故なら、大昔ならばともかく、近代では所有者が不明(曖昧になっている)な土地を除いて、本当に誰の物でもない土地というのは無い。

 

 誤解されがちだが、所有権がはっきりしていない土地というのは現代(前世)でも数多くある。

 

 過去の登記簿などに記録が残っているが、現在では誰が所有権を持っているか(つまり、誰が相続したか)分からない……といった場合だ。

 

 

 ただ、そういう場合はちゃんと調査をすれば分かる。

 

 

 一番最近の所有権を持っている者が相続している事になるし、それでも不明な場合……つまり、相続人不明の場合は国有地になるだけで。

 

 はっきり言えば、誰の手も入っていない山奥の奥の奥の小さな一角ですら、誰かしら、あるいは国が所有している土地である。

 

 早々に人が入って来られないし入るだけでも大変だから放置されているだけで、所有者のいない土地は存在しないのだ。

 

 つまり、土地を買うというのは、所有者(個人であれ、国であれ)から買い上げる必要があるわけだが……で、だ。

 

 

(山を買うって言ってもねえ……私自身には伝手なんてないし、正直なところ、おやっさんから貰った『山』だけでもいっぱいいっぱいなんよなあ……)

 

 

 初っ端から、つまずいたわけである。

 

 理由としては、山というのは莫大な利益を生むことはあるが、同時に、相応のリスクを孕んでいるからだ。

 

 車や家と違って、処分しようと思ってもすぐに処分は出来ない。

 

 加えて、山の……というより、山に付属する森林などに関して、維持や管理が義務付けられている。

 

 まあ、これに関しては有って無いようなもので、交付金などを受けていなければ見逃されている場合が多いらしいが……なんでかって? 

 

 本当に法的に定めたレベルの維持管理を所有者へ強制的に求めたら、国に売り飛ばす者が一気に増えるからだ。

 

 なんでかって、観光名所にもなり得ない土地(山)を持っていたところで、固定資産税(安価とはいえ、だ)を取られるばかり。

 

 様々な理由から旨味のある『山』は、だいたい国や自治体が保有しているか、あるいは既に開発されて利益を生み出している。

 

 つまり、開発されないままずっと手付かずのままという時点で、なにかしらの問題を抱えている場合が多いのだ。

 

 だから、そんな山を何百万、何千万も掛けて保全しろと厳しく取り締まったら、さっさと国や自治体に売り飛ばそうとする所有者が増えるわけだ。

 

 

 ……で、ここで世知辛いのが、国や自治体も、そういう『山』というか、土地は欲しがらないのだ。

 

 

 大きくまとまっているのであれば、まだ良いのだ。というか、そういうまとまった土地はだいたい国や自治体が管理している。

 

 千賀子が買える可能性がある土地は、それ以外の……そう、ステンドグラスのようにツギハギになっている土地ばかりだろう。

 

 どこからどこまでを○○が、ここからここまでを××が所有し、車や重機を入れられないような……非常に開発しにくい場所。

 

 加えて、共同所有している場合は、全員の承諾を得るために何度も何度も交渉のために足を運ぶ必要が……っと、話がだいぶ逸れているので、戻そう。

 

 ──つまり、何が言いたのかと言うと。

 

 

(伝手も何もない私が動いてもなあ……子ども扱いされて門前払いが関の山だろうしなあ……)

 

 

 維持管理は別として、現状の己が売って貰える土地(山)なんて、問題を抱えているところしかないだろう……というのが、千賀子の見解であった。

 

 

(それ以前に、そんなにたくさん土地を持っても私に管理出来るとは思えないし、そんなのがバレたら面倒だし……どうしようか?)

 

 

 さりとて、女神様から直々に山を買えとお願いというかアピールされている現状、最初からNoと突っぱねるのも……と、思いもするわけである。

 

 

(……ん? そういえば、冴陀等村の土地って誰が管理しているんだ? やっぱり、自治体か?)

 

 

 そうして、ふと……気になったので、冴陀等村に居る2号を通じて、尋ねてみる。

 

 最近ではすっかり髪の毛が薄くなったうえに痩せ気味になったお偉いさん(夏バテかな?)は、どういうわけか今にも倒れそうなぐらいに顔を青ざめていた……が、小一時間もしないうちに書類を持ってきてくれた。

 

 

『──要約すると、冴陀等村を含めて、見える範囲の山や村への出入り口周辺も……神社所有になっているみたい』

 

 

 でも、意味が分からなかった。

 

 

(え、なんで? どういうこと? 判子とか押した覚えはないけど?)

『──そんなの私に聞かれても知らないわよ、サラスヴァティーの権能でも把握出来ないんだから』

 

 

 聞いてみれば、2号も理解出来ずに困惑しているようで、『同期』して確認した千賀子も、困惑した。

 

 

『本体の私も見たから分かるでしょ? 登記簿には、『性・冴陀等、名・神社』って記載されているのよ』

(えぇ……お偉いさんに聞いてみてよ)

『それは止めた方がいいかもね』

(なんで?)

『聞こうと思ったら、その場で失禁&脱糞して土下座されたから。許してください、勘弁してくださいって……』

(えぇ……(ドン引き))

『私の方がドン引きしたんだけど……まあ、とにかく、冴陀等村周辺の土地は神社所有ってことになっているから』

(ああ、うん、ありがとう)

 

 

 2号からの報告にお礼を告げて、テレパシーを解除した千賀子は……それから、ふと、二つ目の気になる事。

 

 

(……そういえば、こっちの『山』の状態って、どうなっているんだろう?)

 

 

 こっちの山というのは、おやっさんから貰った方の『山』である。

 

 たしか、山の保全や整備は『UR: 女神の囁き』を使い、女神パワーで一気に解決した覚えがある。

 

 あの後、この山のヌシという立場にもなっている千賀子は、ちゃんと問題が起こらない状態にまで整備されているのを巫女的なシックスセンスも応用して確認したが……思い返せば、それっきり一度も確認した覚えが無い。

 

 やろうと思えばすぐにでも確認出来るが、細部まで確認すると神経を使って疲れてしまうから、これまで面倒に思って放置していた。

 

 元々が、放置されて荒れ放題な場所だったのだ。

 

 わざわざ奥地まで入って状態を確認する物好きなんていないだろうし、観光名所とか、そういう場所でもない。

 

 何時ぞやの、『巫女服』の反動からくる、疲労困憊&完全ダウン状態になっていなければ、神社の近くにまで部外者が近づいた時点で、千賀子が山から離れていても分かるから、余計に気に留めていなかった。

 

 しかし……持ち主は己になっているわけだし、時々は確認した方が良いかも……せっかく、こうして目を向けられたわけだし。

 

 

 ──早速、やろう。

 

 

 そう決めた千賀子は……胡坐を掻いて、ふうっと身体の力を抜くと……感覚を『山』と同化し、範囲を自分から全体へと広げてゆく。

 

 この山のヌシである千賀子は、この山に限り、その感覚を全体に広げる事が出来る。

 

 言うなれば、この山は千賀子の中。

 

 『神社』や『牧場』を除き、どこへ潜もうが、どこへ隠れようが、どれだけ闇に紛れようが、千賀子は全てを知る事が出来るのだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、それで分かった事というか、問題が二つある。

 

 

 まず、一つ目は、千賀子がサボっている間に、山にけっこう人が入り込んでいるというか、入っていたということ。

 

 ただ、それは悪さをするというより……いや、悪い事だけれども……目的は、山菜を始めとした、山に自生している恵みである。

 

 以前にも恵みを取れてはいたのだろうが、『女神の囁き』によって、山の環境は劇的に改善した。

 

 

 しかも、女神パワーによるものだ。

 

 

 普通ならば気温や天候などによって悪化するのは当たり前、定期的に手を入れなければあっという間にそういった恵みも手に入らなくなるのだが、この山に限り、そうならない。

 

 ぶっちゃけると、『牧場』からのおこぼれみたいなモノなので、下手すれば、人の手で育てられた商品よりも質が良い場合も……これに関して、千賀子は特に何かをしようとは思わなかった。

 

 さすがに奥地にまで入られるのは危険だし、最悪は神罰的なアレが下されかねないので、そうなりそうな時は止めるが……木を切り倒すとか、そういうレベルの悪行をしない限りは、見て見ぬふりにしておくことにした。

 

 おやっさんなら、そうするだろうなあ……と、思ったからである。

 

 ちなみに、法的には立ち入り禁止などが明示されていなければ、勝手に山へ入っても不法侵入は適用されなかったりする。

 

 ……で、話を戻して二つ目……なのだが、千賀子としては、こっちの方が問題である。

 

 

(……これ、不法投棄だよな?)

 

 

 いったいなにが、一言でいえば不法投棄だ。

 

 何がキッカケなのかは分からないが、どうやら一部の者たちより『秘密の投棄場所』として知られているらしく、山に入ってすぐの場所に放棄されている。

 

 

 ……山の周囲には住宅街が広がっているけれども、ビッシリと立ち並んでいるわけではない。

 

 

 隙間というか、抜け道はいくらでも見つかるだろうし、下手すれば地元の誰かがこっそり手引きしている可能性が……で、だ。

 

 捨てられているゴミの内容は、土砂や瓦礫が多く、その次に合成樹脂クズや廃油など。普通の山だったなら悪臭が広がっていただろうが……皮肉にも、この山だから誰にも気付かれていないようだ。

 

 廃棄される理由はおそらく、高度経済成長期の影響だろう。

 

 一度はオリンピック閉幕によってブレーキが掛かった景気には既に、再びアクセルが踏まれている。建設ラッシュも再開し、次から次に新しい建築物が立ち始めている。

 

 そう、不景気とは言っても、その期間は約1年。

 

 その1年でそのまま沈みきってしまった者はいたけど、無事に耐えきって浮上した者も多いのだ。

 

 実際、千賀子の実家の周辺でも、家を建て替えるとか、新築に引っ越すとか、そんな話がチラホラと……で、だ。

 

 そうなると出てくる問題が、産業廃棄物の処理だが……もう、勘の良い人はお分かりだろう。

 

 そう、既存の処理施設では足りず、また、処理施設の機能も現代に比べて低かったこの頃は……日本中のいたるところへの不法投棄が横行していたのである。

 

 

 この頃の一般庶民の感覚の話だが、現代とは比べ物にならないぐらいに環境に対する意識が低いせいだろう。

 

 

 大企業も見て見ぬふりをしていたし、客側も自分のところでさえなければ無視していたし、捨てる方もそれが前提の報酬と日程しか用意されていないから、当たり前の事として行われていた。

 

 実際、こういう環境意識の低さはこの時に始まった事ではないせいで、『公害』がいよいよ顕在化されてしまうのだが……話を戻そう。

 

 

(柵でも作るべきなんだろうか……でもなあ、そうしたら他の人達も入れなくなるし……)

 

 

 色々と迷うところだが、とりあえず、不法投棄は許すまじ。

 

 理由が何であれ、人様の土地をゴミ箱代わりに使われて、黙っている千賀子ではない。

 

 

「……せいや!」

 

 

 胡坐を掻いたままの姿勢で、千賀子は仕返しを行う。

 

 山のヌシとしての能力で、不法投棄を行った者の魂を把握。

 

 『ククノチ』の能力で、植物を通じてその者たちの行き先を見る。

 

 『サラスヴァティー』の能力で、こうなるに至る物事の流れを読む。

 

 そして、神通力を使い……不法投棄されたゴミを、その者たちの下へと一気に送り返した。

 

 そう、ゴミを、だ。

 

 さすがに殺すつもりはないが、関係企業の建物や、関係者の自宅などは排油に土砂に……ゴミ塗れで、下手すれば引っ越しを余儀なくされるだろうが……自業自得というものだ。

 

 

「ええっと、次は……」

 

 

 ゴミが無くなったのを確認してから、ヌシとして『力』を送り……地面に浸みこんだ汚染物質を浄化し終えたのを感じ取った千賀子は……さて、と気を取り直すと。

 

 

「……困った時は、道子に連絡しよう」

 

 

 とりあえず、こういう相談が出来そうな友人に声を掛けてみることにしたのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………で、自宅にて。

 

 

『……う~ん、さすがに、そういう土地を持っている人とは中々接点が無いから』

「え、道子でも無理?」

『無理ってわけじゃないけど……ものすごく回りくどい方法になるかもね~。交渉は年単位になるのを覚悟することになるよ~』

 

 

 電話してみれば、『さすがにちょっと……』と言われてしまった。

 

 曰く、『そういう土地を持っている人は、基本的に昔ながらのコミュニティに属している人が多く、外部の者に売る事は滅多にない』とのことらしい。

 

 排他的と言うほどではないが、余所者には売らない、というやつだろう。

 

 でも、それなら道子も半ば地元民みたいなものだし、大丈夫なのでは……と思ったが、どうやら道子でもアウト判定らしく、話ぐらいは聞いてくれるだろうけど、それだけ……らしい。

 

 

「そっか、道子でも無理なら仕方がない、この話はこれで──」

 

 

 まあ、それなら、それでいい。

 

 女神様に対する言い訳が出来るし、大金を使う時はゆっくりと時間を掛けて悩んでから決めるのが道理──。

 

 

『え? 明美も同じ事を言ったの~?』

 

 

 ──と、思っていたら、まさかのインターセプト。

 

 て、いうか、明美? 

 

 

「なんで明美? 明美の家って、そんなに土地とか持っていたの?」

 

 

 意味が分からず尋ねれば、『あ~、そっか、そうだよね~』電話口の向こうから、不思議に思うのも分かるよと言わんばかりな声色が。

 

 

『あんまり知られていないけど、明美のところの銭湯ってけっこう歴史があるんだよ~』

「え、本当に? 私、全然知らなかったんだけど?」

『そりゃあ、わざわざ言わないからね~。私たちのような人たちを除けば、知っているのは本当に古くから居る地元民ぐらいじゃないかな~』

「そ、そうなんだ」

『そうだよ~、銭湯を始める前を含めれば、すっごい古くからの地元民なんだよ~。だから、明美に相談してみるといいよ~』

「そっか……ありがとう」

『どういたしまして~』

 

 

 そうして、電話を切って……それじゃあ、明美に電話しようかと思った途端、電話が掛かって来た。

 

 

『──ごめんね~、聞きそびれちゃっていた事があったの~』

 

 

 出たら、先ほど電話を切ったばかりの道子からだった。

 

 

『テイトオーの次回出走だけどね~、菊花賞に出そうって話が出ているのだけど、千賀子の考えではどう思う?』

「……たしか、3000mぐらい走るレースだっけ?」

『うん、ダービーを走りきれたわけだし、二冠を目指してみようって……』

「悪い事は言わないから、止めた方がいいよ。たぶん、下から数えた方が早い順位になると思う」

『え、そうなの?』

 

 

 けっこう、素で驚いているのが、受話器の向こうから感じ取れた。

 

 

「あの子、たぶんだけど2400mぐらいが全力で走りきれる限界だと思う。それ以上となると、順当に息が持たないかも」

『……そっか~、分かったわ~。調教師の人に伝えておくからね~』

「うん、お願いね」

 

 

 千賀子としては、大事なのはテイトオーである。

 

 走って勝ち目があるならともかく、直感的に『あっ、無理だこれ……』と思ってしまうようなレースには出て欲しくなかった。

 

 

 ……そうして、だ。

 

 

 道子からの電話も終わり、さて、明美の家の電話番号は……と、一つ一つ思い出している──そんな時であった。

 

 再び、電話のベルが鳴った。

 

 また、道子が何か言い忘れたのか……そう思って出てみれば、違った。

 

 

『あ、こんにちは、明美です。千賀子は居ますか?』

 

 

 なんと、電話を掛けて来たのは、たった今電話を掛けようと思っていた明美からだった。

 

 

「どうしたの? 何か用なの?」

『あ、千賀子なんだ。ちょうど良いわ、千賀子に聞きたい事があるのよ』

 

 

 実に奇遇である。これ幸い……と思ったが、まずは明美からの用件が先だと思った千賀子が、先を促せば、だ。

 

 

『実は、うちのお爺ちゃんの知り合いの家と会社がね、いきなり泥やらゴミやらがばら撒かれたうえに、廃油か何かが混ざっていたとかで酷い事になっているらしいのだけど、千賀子は何か知っているかしら?』

 

 

 そんな話をされたので。

 

 

「さあ、知らないわね。なんか悪い事をやりすぎたんじゃないかしら?」

『え、あ、そう? それなら、仕方ないかな』

「そうそう、その程度で済んで良かったって思わなきゃ」

 

 

 千賀子は、素知らぬ顔で誤魔化すのであった。

 

 

 

 

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