ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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ハーメルンの方です


第73話: 名刺くん「あの、僕の事……いえ、なんでも……」

 

 

 けっこう知られていない話だが、日本の法律……いわゆる、『競馬法』によって競馬場の数は制限されている。

 

 それは中央競馬も地方競馬も違いはなく、基準こそ違うが、様々な理由から競馬場は廃止され、新しく作られたりしていた。

 

 まあ、様々な理由とは言っても、決め手となる大きな理由はだいたい決まっている。

 

 規定された最大数に達したことで、利益率の悪い競馬場や老朽化しているところから順次廃止、あるいは統合したり、移転したり。

 

 または、一周の距離が既定に達しない(地方競馬:一周1000m以上)という理由から、数多くの競馬場はその姿を消していった。

 

 

 ……そんな中で、だ。

 

 

 3号が言う、大阪岸和田にある競馬場の名は、『春木競馬場《はるきけいばじょう》』。

 

 その競馬場は、前述した理由とは異なる、珍しい原因(と、言えるほどではないけど)によって日本から姿を消すことになった競馬場である。

 

 

 いったい、どうして? 

 

 

 答えは、客のマナーがあまりにも悪過ぎて苦情が殺到し、『ギャンブル=悪』という風潮が強まり始めた世相も相まった結果、廃止された……というわけである。

 

 言っておくが、このマナーが悪いという話を、現代のレベルで考えてはいけない。

 

 様々な娯楽が生まれたことで地方競馬全体の利益が減少傾向にある中、曲がりなりにも黒字を出せていた競馬場の廃止を決定するに至るだけの、マナーの悪さである。

 

 

 ……いったい、何が起こっていたのかって? 

 

 

 まずは、遠方から来る客の違法駐車や違法駐輪の横行だろう。

 

 これは現代でも度々発生する問題だが、この頃の競馬客のガラの悪さは現代の比ではない。

 

 家の前に駐車して放置するばかりか、文句を言う家主に逆ギレして暴行事件を起こす例が多々発生していたというのだから。

 

 その次は、近隣住民とのトラブルだ。

 

 先述した違法駐車だけではなく、近くに住んでいる若い女性にちょっかいを掛けたり、子供の小遣いを恐喝して奪ったりなど、とにかく毎日のようにトラブルが起こっていたらしい。

 

 酷い例だと、所持金を全部使ったからという理由から民家に押し入り、電車代などを払わねば出て行かないと強盗紛いな行動を起こす者すらいたらしいのだから、もう末期である。

 

 また、施設自体の問題から発生するトラブルもあった。

 

 その代表的なのが、衛生の問題である。

 

 入場者数に比べてトイレ設備が十分ではなく、行列を嫌った客の一部が、そこかしこで小便をしたり(酷い場合は、大便も)、唾を吐いたりと、それはもう酷かったらしい。

 

 嘘か真か、糞尿の臭いが酷くて引っ越しせざるを得なかった者すら居たらしいのだから、もう廃止されるべくして廃止された競馬場と言っても過言ではないのかもしれない。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 さすがに自宅で話すことではないとのことで。

 

 冴陀等村の旅館に移動した千賀子は、2号に連れられた3号にエネルギーを補給してから、改めて話を聞くことになったわけだが。

 

 

「……それ、廃止した方が良いんじゃないの?」

 

 

 3号より、『春木競馬場』の話を改めて聞いた千賀子は、率直な意見を述べた。

 

 3号の言う通り、競馬場が廃止されば大勢の人達が仕事を失ったり、あるいは収入が減少したり……それは分かる。

 

 単純に、施設の職員だけではない。

 

 その施設に関係している人たちの収入もそうだし、その中でも馬を生産している牧場や、その牧場と取引をしている人たちは、影響が大きいだろう。

 

 一般的な商店とは違い、取引先が限定されている商売の弱点。ぶっちゃけてしまえば、閉鎖を機に廃業する者が出て来ても仕方がない……という事は、千賀子にも分かる。

 

 だが、同時に、廃止が決定されるだけの理由もまた、分かる。

 

 金が絡んだギャンブルなので、熱くなる気持ちは察せられる。しかし、それを抜きに考えても、あまりにマナーが悪い。

 

 どこか基準が(前世の)現代な部分がある千賀子だけでなく、この頃の基準で考える人たちからも苦情が出るぐらいとなれば、カウントされていない悪行は相当数あると思っていい。

 

 

 というか、うん。

 

 

 並ぶのが面倒だからと所かまわず大人が小便するのはヤバいし、電車賃を使ったからと民家に押し入るのもヤバいし、ヤバくない部分を探さなければならないくらいヤバい。

 

 そりゃあ、苦情が来るって。

 

 むしろ、黒字でも廃止に動かざるを得なかったあたり、ゴミカス客の自業自得、そんな客相手に商売している者たちの自業自得としか……まあ、そんな簡単な話ではないのだけれども。

 

 

「でもね、仕事がそっくり全部消えるってのは実際に体感しないと分からない世界だよ。特に、専門分野で働いている人ほど、その恐ろしさが分かるだろうね」

「でも、無くなったら無くなったで、別の仕事が生まれるんじゃないの?」

 

 

 しみじみと語る3号に千賀子がそう言えば、3号は……やれやれ、とため息をこぼした。

 

 

「別の仕事が生まれても、前の数には達しない。必ず、前よりも少なくなる。総数がマイナスにならないなら、何時の時代も求人数はうなぎ登りさ」

 

 

 言われてみて、「そうかな……そうかも」思わず納得した千賀子は、改めて3号にどうしてほしいのかを問う。

 

 

「──とりあえず、府知事の『佐東ギセン』さんと面会して、金は出すからと話を持ちかけたら良いと思うよ」

 

 

 すると、3号はあっけらかんとした様子で、そんな提案をする。当たり前のように府知事にアポを取れという3号に、千賀子は思わず頬をひきつらせた。

 

 

 ……内容の是非は別として、だ。

 

 

 地方競馬場の管理者は、基本的には各地方の自治体である。

 

 『春木競馬場』の場合は、大阪府都市競馬組合。つまり、大阪府が所有しているわけだが、競馬の開催権を持つのは他には岸和田市がある。

 

 しかし、最終的な決定権というか、権力という点で立場が上なのは府知事である。

 

 なので、府知事に連絡を取れという3号の言い分は分かる……分かるのだが、そんなに簡単にアポが取れる相手かと千賀子が思うのも、無理はない。

 

 なにせ、千賀子は世間一般的にはただの学生だ。

 

 道子というお金持ちの友人が居るとはいえ、千賀子自身にそういった大物とアポを取るコネは無い。

 

 なら、道子の手を借りれば良いのではと思うが……ぶっちゃけ、どうだろうか、いけるのだろうか? 

 

 

(……駄目元で聞いてみるか)

 

 

 とりあえず、聞いてみるだけ聞いてみよう。

 

 そう結論を出した千賀子は、道子へと連絡を取ったのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、その次の日曜日。

 

 

(道子ほんと人脈すげぇ……でも、これってどういうこと? 大阪の人ってこういうのが普通なのかな?)

 

 

 千賀子は、大阪府の……千賀子から見れば、特別豪華でもなければ歴史も感じない、蕎麦屋の一番奥の席に座っていた。

 

 なんでそんな場所に居るのか、話を簡単にまとめると、だ。

 

 道子に連絡を取った千賀子は、思いのほかあっさり府知事とのアポが取れた。

 

 あまりにもあっけなさ過ぎて、頼んだのは千賀子からだというのに、『え、マジで?』というぐらいであった。

 

 

 ただ、千賀子を不安にさせる事が三つ。

 

 

 一つは、千賀子がやろうとしている事に対して、道子から行われた事前の忠告。

 

 これまでとは違い、なんというか、こんこんと言い聞かせるかのような長い忠告だったことだ。

 

 まず、面会を設けることは出来たが、危険であることは認識し、生半可な覚悟なら手を出さない方が良い……という忠告から始まり。

 

『春木競馬場』の廃止に関して、暴力を辞さない者たちが動いている可能性が極めて高いということ。

 

 客のマナーがあまりに悪過ぎるという理由は、確かに否定出来ない。

 

 だが、『春木競馬場』は地方公営競馬において、常に黒字を維持し続けている稀有な競馬場……それでもなお廃止に動く。

 

 赤字ですら、廃止に動くまでに順序を守ってせねばならない。

 

 なのに、黒字の公営を廃止に動くというのは、相当な勢力が動いていると見て間違いないだろうという。

 

 要は『とにかく、気を付けろ』という話であった。

 

 

 ……二つ目は、待ち合わせ場所が大阪府庁とかではなく、中心からけっこう離れた場所にある、小さな蕎麦屋だったことだ。

 

 

 しかも、時間帯は夜の22時。

 

 千賀子のような年齢の子が出歩けば一発で補導されるような時間帯に、探せばいっぱい見付けられるような蕎麦屋を場所に選ぶのか。

 

 しかも、貸切じゃない。

 

 店内には、こんな時間だというのに客がいっぱいで、あらかじめ予約していたらしい奥の席しか空いていなくて……なんだろう、不安要素しか感じなかった。

 

 そして、三つ目の、一番千賀子を不安にさせたのは……話し合い(交渉とも言う)の場なので、己が向かうのがスジだろうと告げた千賀子に対して。

 

 

『じゃあ、例の巫女服をぜったいに着て行ってね』

『面談中は、私たちではなく、女神様と相談して』

『困った事があれば、とにかく女神様に聞いてね』

 

 

 と、2号と3号から強く、条件を提示され……そうでなければ参加しない方が良いとまで言われたことだろう。

 

 正直、そう言われた瞬間、千賀子は『え、銃撃でもされるの!?』と、ドタキャンしたい気持ちになった。

 

 でもまあ、己にはワープ能力もあるし、神通力もある。最悪、ナニカをされる前に逃げられるだろう。

 

 そのようにして己を鼓舞し、店に到着したのは今から5分前。

 

 せめてナメられないようにと精一杯に心を奮い立たせ、『おう、やんのか!?』的な気合を入れて、佐東ギセン府知事を待っている……のだが。

 

 

(……来ないな、日程間違えたか?)

 

 

 約束の時刻を15分も過ぎているのに姿を見せない事に、千賀子はどうしたらいいのか分からなかった。

 

 なにせ、相手は府知事だ。

 

 なにかしらのトラブルが有って遅れている可能性は十分にあるし、そういう役職であり、立場なのは千賀子も分かっている。

 

 だからまあ、約束の時刻に来ない事に対して、そこまで千賀子は怒ってはいなかった。

 

 ただ、同時に、道子繋がりとはいえ、小娘相手だからとわざと遅れて来ている可能性も0ではないので……う~ん、どうしたものか。

 

 

(……女神様、どうしたらいいですかね、これ?)

 

 

 とりあえず、2号と3号から言われた通り、傍の……というか、現在進行形で己の頭を撫でたり、何処からともなく取り出した桃を口元に差し出したりしている女神様へと尋ねた。

 

 

 ──オイシイヨ、コレアマイ、ホッペタカワイイ

 

 

 だというのに、女神様と来たらまるで人の話を聞いていない。いや、まあ、なんとなくそうなるんじゃないかなとは思っていた。

 

 だって、女神様は千賀子以外には欠片の興味も抱いていないし。

 

 千賀子からの相談も、愛し子である千賀子を愛でることに意識が向かい過ぎて、あまり耳に入らない……本末転倒というのは、この事か。

 

 

(う~ん、2号と3号に連絡しても、女神様に聞けとしか返って来ないし、その女神様はこんな調子だし……どうしたものか)

 

 

 差し出された桃の切れ端を食べれば、その度に全身の手をぐにゃぐにゃケイレンさせている女神様の姿が……いや、本当に、どうするの、コレ? 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、更に少しばかり時が流れて、22時30分。

 

 

 完全にすっぽかされたと考えるべきか、ヤバいトラブルが生じて本当に来られなくなっているか……判断に迫られている千賀子だが、ここでもう一つ。

 

 

(……な、なんか、周りのお客さんたち、様子がおかしくない? 気のせいか? 気のせいだと判断して良いのか?)

 

 

 不安というよりは、いや、不安は相変わらずだが、だんだんと困惑の面が大きく……なんとも表現し難い異変が起こっていた。

 

 具体的には、1人、また1人、ポツポツと涙を零して泣き始めた

 

 しかも、先ほどまでは喧騒に満ちていたというのに、何時の間にか店内は静まり返り……ブツブツと、呟いているのが聞こえるぐらいになっている。

 

 

(……許してください? ありがとうございます? うん? なにそれ? どういうこと?)

 

 

 発言の意図は分からないが、客の誰も彼もがそのような呟きを繰り返し、中には、カウンターテーブルに何度も額を打ち付けている者すら居た。

 

 なんだろうか、この場に居る全員が泣き上戸の類なのだろうか? 

 

 可能性の一つとして女神様に視線を向けるが、女神様は相変わらず、千賀子を愛でる事に忙しく……う~ん、とんでもなく怪しいが、何かをした様子は……っと、その時であった。

 

 

「……遅れてしまって申し訳ない」

 

 

 ガラガラ、と。年配の男が謝罪の言葉と共に1人で入って来た。

 

 この頃ではまあよくある、建て付けが悪くなっている木製のガラス引き戸を後ろ手に閉めて……その視線が、千賀子へと留まる。

 

 

「……貴女が、秋山千賀子さん、だね?」

「はい、そうですけど、貴方が佐東──んん!?」

 

 

 その言葉に、千賀子はようやく来たのかと視線を向け──直後、目を瞬かせた。

 

 

「……そ、その、大丈夫ですか? 顔色が悪いように見えますが」

 

 

 何故なら、やってきた府知事の顔色は死人のように青白く、目は窪み、まるで一ヶ月ぐらいギリギリ生命を維持出来る程度の絶食をしていたかのような有様だったからで。

 

 千賀子でなくとも、怒りよりも前に困惑が、その次に心配してしまうぐらいに、やつれていたから。

 

 

「え、あ、ああ、気にしないでくれ」

 

 

 でも、佐東府知事はそんな千賀子の心配を他所に、何処となく身体をふらつかせながら、千賀子の対面に腰を下ろすと。

 

 

「遅れて来て申し訳ないが、前置きは無しにしよう。まず、貴女はどうしたいのか、私に何をしてほしいのかを話してほしい」

 

 

 そのまま、話を進めたのであった。

 

 

 

 

 

 







※ 愛し子とのイチャイチャタイムを、愛し子の友人でもない人間に邪魔されたので、愛し子に気付かれないよう『メッ!』をしています。なお、目的の人物は他の人達に比べて超軽めです。



 内容は女神基準では優しめ、その人物が店に入ってから千賀子を害そうとする寸前の時間をループするだけ。

 昔のアニメであった、エンドレスエイトみたいな感じです。

 現在、最長で約15億時間、最短で約7億時間ループ中。発狂しても即座に回復し、自殺しても即座に最初に戻されます。

 既に、客たちの記憶は膨大な時間に押し潰され、この店の中の事しか存在せず、自分の名前はおろか、自分がどうやって生きて来たのかすら覚えていません。

 覚えているのは、『(どうか)許してください』、『(神様)ありがとうございます』の二つだけで、その意味すらも忘れてしまっています。

 ちなみに、府知事にはそのような『メッ!』はしていません。ただ、姿が激変する程度の、『メッ!』ではありますけど。


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