ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第75話: 一枚岩ではない、その言葉の意味

 

 

 とある料亭の、最奥にある一室。

 

 

 並べられたテーブルに置かれた豪勢な料理。それは一般家庭の数ヶ月分の月収にも匹敵するほどに金を掛けられていた。

 

 美食に慣れている者たちですら、思わず顔を綻ばせてしまうぐらいの、それはそれは手の込んだ料理の数々である。

 

 しかし、今宵……その場に集まった者たちの顔に、笑顔はなかった。

 

 心情的な理由があるのだろう。だが、それだけではない。単純に、お世辞にも一般人とは言い難い人相ばかりだっただけ。

 

 

 それも、そのはず。

 

 

 何故なら、その場に集まっている者たちは堅気の者たちではない。あらゆる犯罪に手を染めている……ヤクザと呼ばれている者たちであるからだ。

 

 そして、この頃のヤクザは現代に比べてはるかに勢力が強く、勢いもあった。まあ、現代は形を変えているだけで全く勢力は衰えていないのだけど……話を戻そう。

 

 現代では、ヤクザ(いわゆる、反社会的勢力)であることを臭わせただけで、警察が動いて即逮捕するぐらいに監視が厳しい。

 

 それはヤクザ達だけではない。

 

 ヤクザに協力……すなわち、ヤクザと分かっているうえで部屋を貸したり、サービスを提供したり、何かしらの仕事や援助を行った者も罪になる。

 

 昭和のこの頃(1960年代)も厳しかったし、さすがに大っぴらにヤクザを自称すれば警察が動くけど……また話が逸れたので、戻そう。

 

 

「──すまんな、待たせた」

 

 

 始まり予定時刻から遅れて10分程……この場のボスにあたる、皺の目立つ男が室内に入って来た。

 

 男の名は、大文字九郎《だいもんじ・くろう》。

 

 関西の反社会的勢力の中でも、その名が知られている組織であり、一代で『九郎会』をその地位まで高めた……鬼才の外道である。

 

 彼が、外道と言われる点は、敵対した相手に対していかなる手段を容赦なく用いる点

 

 誘拐や暴行なんてのは挨拶で、敵対した相手の家族を、そいつの目の前で生きたまま解体し、その肉片を生きたまま咀嚼させた後、部下たち総出の小便にて溺死させたぐらいだ。

 

 その際、死なせてくれと1万回唱えるまでは殺さぬと当人と約束し、本当に生かさず殺さずの拷問に掛けた後、お礼を告げさせたうえで溺死させたのだ。

 

 

 その行い、もはや人間にあらず。

 

 

 命乞いをする者の前で、満面の笑みで食事を行うこともある。力では勝てる者が大勢居るのに、誰も逆らわない理由の一つが、この非情さ。

 

 そのおぞましさ、顔色一つ変える非道の行いに、暴力に慣れている者たちですら恐れ、目に見えぬ恐怖にてヤクザたちを震え上がらせていた。

 

 また、この男には……理屈などでは説明出来ない、神憑り的な悪運の強さがある。

 

 いつもいつも、寸でのところで捕まらない。ギリギリのところで警察の手が届かず、取り逃がすこと、十数回。

 

 集まっているこの場の男たちは詳細を知っているが、知っていなければ、いくらなんでも話を盛りすぎ……そう思ってしまうほどに、九郎は神に愛されていた。

 

 そう、神に愛されている男なのだと、この場に居る誰もが信じるに足る実績を残し続けているからこそ、九郎会は一枚岩で居られているわけだが……で、だ。

 

 そんな男の……大文字九郎の登場に合わせて、彼の部下……というか、傘下の者たちが一斉に居住まいを正し、深々と頭を下げる。

 

 勝手な食事は御法度、ましてや、この世界においては『親分』という立場でもある九郎に対して、どんな時でもまず頭を下げて挨拶をするのが、常識であった。

 

 ……そんなヤクザ達を前に、九郎は「楽にせい」そう言いながら、手で合図をし……全員が顔を上げたのを見てから、改めて唇を開いた。

 

 

「『春木』の廃止が無くなるやもしれん」

 

 

 その言葉に、ざわっ、と場の空気が揺らいだ。

 

 声こそ出していないが、集まっているヤクザ達は動揺した。情報に目ざとい者にとっては既知の話だが、九郎が全員に告げたという事実に、改めて居住まいを正す。

 

 

 ……『春木』。それは、『春木競馬場』のこと。

 

 

 『九郎会』は、以前からそこにちょっかいを掛けていた。

 

 理由は色々あるが、結論から述べるなら、邪魔だったから。

 

 昔は少しばかり入り込んで稼ごうとしたが、馬というのは生き物であるがゆえに、どうにも失敗する事がある。

 

 管理も人間に比べて大変だし、昔は桜……そう、国や軍の目がまだあった時期を見ていたので、リスクが高いと手を引いていた。

 

 戦後になってから食い込もうかと思ったが、先述の通り、馬というのは言う事を聞かないのが普通だ。

 

 下手な八百長をやれば、事はそこだけに収まらない。

 

 また、馬主たちの繋がりも、下手に手を入れたら火傷しかねないので、静観していた。

 

 

 ……それに比べて、競輪場の方はずいぶんと手を入れやすかった。

 

 

 人の方が扱いは簡単だし、操作もしやすい。動物特有のトラブルを心配する必要もないし、色々と食い込む事が出来た。

 

 すると、邪魔になるのは……だ。

 

 なので、色々と裏から手を回していたわけだ。

 

 幸いにも、その足がかりとなる悪評は、向こうの客が勝手に色々と起こしてくれていたので、そこらへんに手を入れる必要がなくて、後は適当なところで静観しておけば良い……そう、考えていた。

 

 

「ワシも探したんだがな……どうやら、佐東のやつに取り入っているやつがいる」

 

 

 だが、そうも言っていられなくなった。

 

 

「やつめ、どういうわけか、ワシらの脅しがまったく堪えておらん。死ぬことに、いや、むしろ、ワシらに殺される方がマシだと言わんばかりの態度だった」

 

 

 何故なら、単純な利益は春木競馬場の方が大きいからだ。

 

 また、関わっている人たちもそうだが、歴史的な長さも向こうが上だ。規模も向こうの方があるわけなのだから、何もしなかったら競輪場も廃止されてしまう。

 

 そうなれば、大損どころの話ではない。

 

 これまで掛けた金額と時間は、九郎会が傾くぐらいだ。新たに攻勢を掛けるのは手間が掛かりすぎるし……何処の誰かは知らないが、このまま放置するわけにはいかない。

 

 

「ただのハッタリであるならば、それで良い。だが、ハッタリではなく、本心からそちらの方がマシだと思っているのならば……ワシは、それがどうも腑に落ちない」

 

 

 静かに……唇を湿らせる程度に、九郎は酒をあおる。

 

 

「ワシらよりも、恐ろしいのだ。ワシらに殺されるよりも、そいつに殺される方を恐れている……気になるとは、思わんか?」

 

 

 そして、カツン、と音を立てておちょこを置いた。

 

 

「──目障りだと、思わんか?」

 

 

 その言葉に、場の空気が張り詰めたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………千賀子が持つ、普段はあまり使い所のない『変身:ククノチ』だが、使い所さえ合えば、これ以上ないぐらいに役立つ能力を持っている。

 

 たとえば……市道に柵を作る場合だ。

 

 『ククノチ』は、木の神。

 

 植物を生やすなんて楽勝であり、やろうと思えばコンクリートやアスファルトに穴をあけ、戦車すら持ち上げる木々を生やすことが出来る。

 

 また、形も変幻自在。

 

 枝の太さや葉の枚数を調整し、幹をグネグネと変形させたり絡み合わせることで壁を作ったり、文字や絵も形作ることが出来る。

 

 人の手でやろうとするならば、熟練した技術を持つ職人が必要だろう。

 

 また、薬液を使ったり炙ったりして少しずつ形を変える必要があるのだが、それもまた相当に根気がいるし、1mの柵を作るだけでも長時間掛かるだろう。

 

 だが、しかし。

 

 『ククノチ』の力は、そんな労力を無に変える。特に、『巫女服』によって、その力を大幅に増大させている、今の状態では。

 

 異形になった千賀子が念じるだけで、草木がアスファルトを突き破り、シュルシュルと蛇のように絡み合い、あっという間に天然の柵が形成されてゆく。

 

 

 ──時刻は、深夜。ひゅるりと、冬の冷気が暗闇の向こうから流れてくる。

 

 

 現代とは違い、この頃の夜(特に、冬場は)というのは本当に静かだ。

 

 繁華街ですら、営業している店が皆無な夜の闇の中で……『ククノチ』の姿となった千賀子は、音を立てないようゆっくりと柵を作ってゆく。

 

 なんの柵かって、それは市道の……新たに指定されるルート、馬の散歩道として利用され、コースを隔てるための柵である。

 

 この柵は、そんじゃそこらの木製の柵ではない。

 

 というのも、この柵は生きている。それも、ただの植物的に生きているというレベルではない。

 

 地面から直接伸びているのはただ固定しているのではなく、他の植物と同じく大地の奥深くに……そう、タンポポの根のように伸びている。

 

 つまり、柵を切り取られたりしても、時間と共に自己修復してしまうという、保守いらずのヤベー柵なのだ。

 

 しかも、柵自体の強度も滅茶苦茶高く、耐火性能も信じられないレベルに高い。見た目はただの木製の柵に見えるが、その中身はまったくの別物なのだ。

 

 鋼鉄とまではいかなくとも、車がノンストップでぶつかっても留めてしまうだけでなく、柵の下で焚き火をしたとしても、せいぜい焦げるぐらいという、トンデモ材質なのだ。

 

 ……で、だ

 

 そんな代物を用意出来るのも、そんな芸当をやれるのも、千賀子だけだし、そんな光景をポンポン他者に見せるわけにはいかないので、千賀子1人での作業となっている。

 

 

 いったい、どうしてそんな時刻に?

 

 

 それは、佐東府知事(を始めとして関係者一同)より、超特急で道路整備の許可を貰うかわりに、条件をいくつか付け足されたからだ。

 

 

 一つ、整備(この場合、工事?)を行うのは、夜間に限る。

 

 日中は人通りも多く、下手に道路の一部を占領してしまうと、ただでさえ混雑などで苦情が出ているところから、さらに苦情が追加されてしまう。

 

 反対派(つまり、廃止派)の主張を後押ししてしまうし、心情的にも反感を買う可能性が極めて高いので、夜間にやってほしい……とのことだ。

 

 

 二つ、整備の際、極力物音を立てないように努めること。

 

 どうしても音が出てしまうのは分かるが、それでも夜間に行うので、極力物音を立てないよう注意しながら作業を行ってほしい。

 

 また、道路の舗装を剥がした際には朝までに元に戻すか、作業時間を考慮して無理ならば、出来うる限り元の状態に近付けた状態にしてほしい……とのこと。

 

 

 三つ、出来うる限り、道路の舗装を壊さないように、とのこと。

 

 ……いや、まあ、うん、要求自体は正しい。作業が夜で、素人である千賀子がやるとなれば、心配するのは分かる。

 

 ただ、ちょっとばかり、嫌がらせの意図があるのだろうかとも思ってしまう。初手からして、脅し以上も視野に入れてきた相手だし。

 

 でも、『巫女服』状態にて佐東府知事の内心を読んだ限り、そういうつもりは皆無であった。

 

 むしろ、逆だ。

 

 やると決めた以上は、やるつもりのようで。

 

 佐東府知事なりにメリットを周囲に提示し、反対派(住民・議員・問わず)の切り崩しに動いているようだ。

 

 そう考えたら、この三つの条件は当然だろう。

 

 夜間の内に誰にも気付かれずに柵を設置(それも、テキトーではなく)してしまえば、反対派の主張の一つである子供の安全が確保される。

 

 ネックとなる工事費用も、とあるスジからの親切な寄付によって賄われ、市の財政には一切の負担が無い。

 

 地面の舗装を極力傷付けないようにすれば、そこも同様。見た目も、丁寧な処置だ。

 

 さすがに、目に見える形で対策しているのに、それすら認めないという強硬な考えの者は少数派のようで。

 

 実際、日中にて柵の状態を確認し、これだけ頑丈で手間を掛けている物を設置してくれているのかと驚き、もうしばらくは様子を見るべきではと静観の構えを取る者が現れているらしい。

 

 そこには、それまで毎日のように現れていた、『問題のある競馬客』とのトラブルが減ったから……という理由もある。

 

 まったくの0というわけではないが、以前から幾度となく雑談に上がっていた要注意人物が数名ほど姿を見かけなくなった……それだけでも、住民たちは考えるのだ。

 

 ――行政は何事も初動が遅いけど、動き出したらちゃんとやってくれるのか、と。

 

 元々、競馬場廃止に対して住民たちが動いた理由は、行政が何時まで経っても対応してくれず、場当たり的な対処しかしてくれなかったから……という部分が大きい。

 

 また、迷惑な競馬客の被害を、全員が受けていたわけではなく……廃止になれば路頭に迷う人が居る、つまり、自分たちが路頭に迷わせることに、抵抗感を覚える者が現れるのも必然で。

 

 1人、また1人。

 

 是非とも続けてほしい『存続派』と、このまま対策をしてくれたら廃止しなくても良いのではという『穏健派』と。

 

 対策をしようが関係ない、低俗なギャンブルなどここには不要だと考える『廃止派』の三つに、住民たちは別れて行くのであった。

 

 

 

 ……さて、そんな住民たちの考えを他所に、千賀子は……以前よりも重く感じるようになった身体に鞭打って、作業を続けていた。

 

 

 理由は、二つある。

 

 

 一つは、体力の消耗だ。

 

 とんでもない早さで……それこそ、3億円を持って行く前に、作業してもOKの許可を出してくれたのだが、それでも圧倒的に時間が足りなかった。

 

 なんで時間が足りないのかって、それはもうすぐ大学が始まるので、それまでにある程度の区切りを付けておきたいからという……で、だ。

 いくら常人より体力はある千賀子でも、だ。

 

 日中は高校に通い(まだ卒業していない)、夜間は道路整備(『装備:巫女服』)や競馬場のコースを行い。

 

 その合間合間に、明美の下へ様子を伺いに行ったり、冴陀等村の様子を見に行ったり、ロウシに挨拶しに行ったり、家の手伝いをしたり、兎にも角にもまともに休む暇がないのだ。

 

 何時ぞやの海難救助の時に比べて瞬発的な負担ははるかに小さいものの、継続時間がはるかに長い。

 

 そこに加えて、睡眠不足という肉体的な疲労が積み重なったこともあって、真綿で首を絞められるが如く、ジワジワと千賀子は消耗していたのであった。

 

 

 二つ目は、精神的な消耗。

 

 『ククノチ』状態(装備:巫女服)での集中作業を行うのは滅多に無いので気付かなかったが、どうも気力というモノをごそっと消費するようだ。

 

 おそらく、細かくコントロールが必要な草木の成長、道路を極力破損させないよう細心の注意を払って作業をしたりするせいなのだろうが……それを差し引いても、『ククノチ』の力は燃費が悪い。

 

 これが、周りを考えずにズガッとアスファルトを突き破っても良いという話ならば、はるかに負担も軽いのだが……そう。

 

 例えるならば、だ。

 

 砂場から、砂を一つまみするのは簡単だ。だが、一つまみ分の砂を、ショベルカーで掬い上げろと言われたら、難しい。

 

 同様に、砂山を壊すだけならば蹴飛ばすだけで十分だが、砂山を崩すことなく穴を開けろとなれば、手間と時間と集中力を必要とする。

 

 千賀子がやっているのは、この穴を開ける作業に等しく……まあ、うん。

 

 

(女神様がなんであんなに大雑把なのか、ほんの僅かばかり分かってしまうのが辛い……)

 

 

 そういう意味での精神的なダメージがあるのもまた、消耗に拍車を掛けていた。

 

 いちおう、2号が手伝いに、3号は一時的に消耗を抑えるために分身を解除しているが……それでも、平常とは言い難いコンディションが続いていた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だから、千賀子は気付けなかった。そして、タイミングも悪い意味で奇跡的であった。

 

 その時、高校卒業を明日に控えた千賀子は、何回目かの情報交換も兼ねて佐東府知事と顔合わせをしていたのだが……その時、『巫女服』を着ていなかった。

 

 

 理由は、大きく二つある。

 

 第一目標として定めていた、作業の区切りもまた、目前だったから。

 

 明日の卒業式に、顔色を悪くして出るわけにはいかないので、少しでも消耗を抑えたかったから。

 

 この二つの理由から、また、さすがにもう佐東府知事に悪意が無いのは分かっていたので、千賀子は油断していた。

 

 

 ――だから、それを防ぐ事ができなかった。

 

 

 これは、千賀子自身が知る由もないことだが……『巫女服』によって、周囲の意識や心、己に向けられる悪意を無意識に感じ取り、それを女神様が感じ取った結果に起こる、概念的ボディガード現象が、この時は起こらなかった。

 

 何故なら、意識的にしろ無意識的にしろ、千賀子が何も感じなければ、女神様は何もしないから。

 

 そう、事件は、本来ならば絶対に起こってはいけない場所で起こった。

 

 庁舎の一室で、いつものように情報交換をしようとしていた時に――唐突に部屋に入って来た、帽子などで顔を隠した1人の男。

 

 

「なんだね君は? ここは使用中だよ」

 

 

 男の入室に気付いた佐東府知事が椅子から立ち上がって注意を――すると同時に、男は素早く懐から――取り出した銃を、佐東府知事に向けた。

 

 ぎょっ、と。

 

 驚いて硬直する佐東府知事へ向かって、引き金が引かれ――が、その瞬間――彼の身体は真横に突き飛ばされ、代わりに現れた千賀子に向かって――放たれた弾丸が、千賀子の身体に穴を開け――鮮血が飛び散ったのであった。

 

 

 

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