ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第80話: ポチャ子(占い師)、新宿に降り立つ

 

 

 

 バシャバシャ、バシャバシャ、と。

 

 

 千賀子のバタ足が、風呂の湯を掻き混ぜる。何をしているかって、プールが無いので『神社』の湯船での水泳もどきである。

 

 普通にやると前進してしまうので、両手で縁を押さえながら、バタ足、バタ足、バタ足。

 

 神社の風呂は場所によって深い場所もあるので、そこなら、多少は足を動かしても足をぶつけることはない。

 

 

 とはいえ、やり難いのは変わらない。

 

 

 身体が動かないよう両腕で支えているせいで、普通に泳いでいるわけでもない。

 

 やっぱり、根本的に深さが足りないので、うっかり足をぶつけないよう気を使いながらの運動になる。

 

 肉体的に辛いというよりは、使い辛いダイエット器具を四苦八苦しながら使っている……といった感じだろうか。

 

 正直、運動とは別の理由でストレスが溜まる。なんというか、とても、もどかしい感覚だ。

 

 銭湯でやれば出禁間違いなしな迷惑行為だが、『神社』の風呂は実質千賀子だけの風呂なので、何をしようが問題ないのである。

 

 ちなみに、実は神社の風呂は温度を自由に変える事が出来る。

 

 知ったのはつい先日で、操作盤が小さいうえに浴室の内装に合わせた迷彩柄だったので、今まで気付かなかった。

 

 最初からあったらしいが、温度がちょうど良かったし掃除しなくても綺麗なままなので、千賀子は気に留めていなかったせいだ。

 

 ただ、迷彩柄に変えたのはつい最近とのこと。

 

 どうやら、ポチャ子→千賀子へのメタモルフォーゼが嫌な女神様が、千賀子に気付かれないようちょこっとだけ隠したらしい。

 

 感覚としては、もうちょっとデブ猫を眺めていたい……といった感じだろうか。

 

 見付かったら仕方なしという、変なところで潔いのは良いのだが、そもそも隠すなよと……まあ、言うだけ無駄である。

 

 

「ふぬぬぬ、ふぬぬぬ」

「その調子よ、本体の私。まるで、茹でられているウインナーのようだわ」

「それ、褒めてるつもり!?」

「褒めているわよ。ほら、気を逸らさない、底が浅いのだから、気を抜くと足をぶつけるわよ」

「ふぬぬぬぬ!!! 覚えていろよ、2号!」

 

 

 そのまま、バシャバシャ、バシャバシャ。

 

 定めていた時間を終えたのを確認した2号の手を借りて、風呂を出る。そこまで長い時間ではないが、酷使した足腰にはどうも力が入らない。

 

 その状態で、千賀子は脱衣所に置いてある姿見の前に立つ。

 

 鏡に映し出されるのは、そこかしこに贅肉が搭載された身体、誰が見てもポチャ子と呼んでも仕方がない体形であった。

 

 しかし、シミ一つ、ほくろ一つ、産毛一つ無いツルツルな身体は強烈にフェチズムを刺激し、特定の性癖の人達の脳を破壊するに足るダイナマイトボディ(肉)でもあった。

 

 

「う~ん、中々減らないなあ……」

 

 

 たぽんたぽん、ぽよんぽよん、もにゅんもにゅん。

 

 以前に比べて二回り近く大きい胸を手で弾ませながら、脇腹に載った贅肉をつまむ。ぶっちゃけると、以前と何かが変わったようには見えなかった。

 

 

「ダイエットを始めて一ヶ月も経っていないでしょ。焦れたところで結果は変わらないわよ、本体の私」

「でも、こんだけ毎日バタ足しているのに、痩せないのはなにか理由がある気がする……やっぱり、ご飯の食べ過ぎかな?」

「適正量の範囲内だから問題ないはずだけど……まあ、女の身体は脂肪が付きやすいから痩せるまで時間が掛かるのかもね」

 

 

 そんな千賀子に慰めの言葉を掛けつつ、2号は千賀子の頭にタオルを被せる。そして、手に持った別のタオルで千賀子の身体を拭いていく。

 

 おまえは何処のお姫様かと言われそうだが、実質全部己なので、己の手で身体を拭いているも同然、何もおかしいことではなかった。

 

 あと、2号の言う通り、女性の方が基本的に身体に脂肪が付き易く、男性に比べて筋肉量が少ないので痩せにくい傾向にある。

 

 まあ、その分だけ食べる量も少ないので、あくまでも痩せにくい傾向にあるというだけで、ちゃんと節制して運動すれば性別に関係なく痩せていくのだけども。

 

 

 ──はい、愛し子よ、これを飲みなさい、元気になりますよ。

「ありがとう、女神様──ん? これってスポーツドリンクですか? なんだか懐かしい味ですね」

 ──疲れを取る女神特性ドリンクです。とても栄養がありますし、疲労回復に効果あります、さあ。

 

「女神様、分身の私が言うのもなんですけど、痩せさせるつもりあります? たぶん、痩せない理由それだと思いますけど?」

 ──でも、疲れは取れますよ? 

 

「悔しいけど、女神様の特性ドリンク、本当に疲れが取れるしどれだけ動いても翌日に疲れを全く残さないんだよなあ……」

「本体の私もさぁ、ちょっと欲望に忠実過ぎない?」

「そう言いつつ、当たり前のように下乳に顔を埋めてからの乳首吸おうとする誰得コンボ決めるの止めてもらえる?」

「オギャア、オギャア」

「己と同じ顔でオギャられても腹立つばかりなんだけど?」

 

 

 とりあえず、隙をついて太らせよう(つまり、体重維持)とする女神様の存在がネックであるのは確かであった。

 

 あと、やっぱり2号も……まあ、それはそれとして、だ。

 

 運動の結果は微々たるものだが、ちゃんと出ている。

 

 一般的なおデブとは違い、千賀子は筋肉が衰えているわけではない。つまり、同じ運動でも、消費できるカロリー量が違うし、そもそもの体力が違う。

 

 さすがに以前のような体形に戻ったわけではないが、ダイエットを始めた時に比べて、ちょっとだけ……角度を変えてみれば、痩せたと思えなくもない。

 

 

 その程度には、脂肪燃焼を行えているのであった。

 

 

 で、まあ、そんな感じで11月も終わりに近付いてきた千賀子だが……その日、千賀子はようやく占い師として都会に繰り出すことにした。

 

 おおよそ一ヶ月も間を置いたのは、前回の騒動……というか、ちょっと今は東京の空気がピリピリしていたので、そうした方が良いかもと考えたからである。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 1968年のこの頃は日本国内の大学にて、全学共闘会議という総称が後に付けられる、新左翼思想に傾倒した若年層たちが引き起こす運動が盛んであった。

 

 新左翼とは、言うなれば革命思想であり、その構成員は大学生や青年労働者らによって構成された、若い組織である。

 

 この者たちの活動目的や運動方針はそれぞれであるが、彼らはしばしば暴力的な行動を取り、一方的に学校や施設の一部を占拠するなどして、問題行動を起こした。

 

 そもそもの始まりは反政府や反米運動で、そこに反戦運動やら何やらが入り混じったことで、非常にカオスな団体になった者たちでもある。

 

 社会が豊かになるにつれて活動も下火になっていくのだが、この頃はそれこそ彼方此方《あちこち》で警察や機動隊とぶつかり合うぐらいに盛り上がっていた。

 

 

 実際、千賀子は一度ばかり様子を見に行ったのだが……なんというか、殺伐としていた。

 

 

 幸いにもその時は暴動こそ起こってはいなかったが、ヘルメットを被って角材を手に持った集団や、遠目にも剣呑な空気を醸し出している集団を見かけた。

 

 小学生の頃や、中学生の頃には見掛けなかった集団である。

 

 熱気こそ以前よりもあるわけだが、前に東京へ来た時よりもどこか物々しい空気が流れており、ちょっとこれは……と、千賀子が考えるのも致し方ないことであった。

 

 

 あと、なんというか、臭かった。

 

 

 それは、何時ぞやのごみ処理が追いつかなくて漂っていた悪臭とは違って……いや、まあ、臭いが漂ってくるところはあるけれども、車の所有者が毎日増え続けているからだ。

 

 また、この頃の車は、千賀子の知る現代の車よりも、排出されるガスに含まれる有害成分が多い。

 

 何故かって、日本において車の排気ガスの規制が始まったのは、1966年……すなわち、たった2年前のことだ。

 

 それまで、基本的に排気ガスは垂れ流しで……いや、まあ、厳密には規制が始まった後もだいたい垂れ流しなのだが、それだけではほとんど変わらない。

 

 有害成分を除去し浄化する、自動車排ガス浄化触媒が車に搭載されるのは、1970年代に入ってから。

 

 つまり、今はまだ実質的には垂れ流し。

 

 車が走るたび、現代では顔をしかめる量の排気ガスが、モクモクと吐き出されている。

 

 ぶっちゃけてしまえば、先天的に気管支の弱い人が養生のために田舎へ……という話も、なんら珍しくはないのが今の東京なのであった。

 

 ……そんなわけで、ほとぼりが冷めるのを待ちつつも、ちょっとヤル気が削がれた千賀子だが……それでも気を取り直して、再び新宿へと向かった。

 

 今度は様子見ではなく、ちゃんと占い屋を開くためだ。

 

 まあ、開くとは言っても、店舗を構えるわけではない。

 

 というか、店舗を構えるとなると手続きとか大変だし、思いつき程度のことで道子の手を借りるのは……うん。

 

 なので、千賀子はテーブルと椅子と……なんだろう、それっぽい水晶玉を用意し、後は顔や身体を隠して、どっしりと客を待つスタイルで勝負をすることにした。

 

 

 ……占い、出来たのかって? 

 

 

 やり方は知らないけど、巫女的シックスセンスでそれっぽく振る舞えば、それでいいのだ。

 

 本当に確実に当たる占いが出来るなら、とっくの昔から世界各国に囲われて超大事に扱われている。

 

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。

 

 占いの本質は、それを持って己の指針を定める理由の一つを作る事。要は、決断の切っ掛けや、心構えを作ることなのだ。

 

 良い結果が出たら、思い切ってやってみよう。

 

 悪い結果が出たら、そういう日もあると受け入れる。

 

 それこそが占いであり、信じる信じないも当人の勝手であり、嫌なら別に信じなくていい……というのが、千賀子なりの考えであった。

 

 

「……客、来るのかこれ?」

 

 

 と、いうわけで、だ。

 

 表通りは目立つし確実に警察が来るので、裏通りの……そう、あまり警察が立ち寄らず、人通りもほとんどない路地裏にて待ちスタイルを始めた千賀子だが、すぐに首を傾げた。

 

 後ろには機材が……というか、汚れた土管が数個放置されただけの空き地。

 

 周囲には住宅が立ち並んでいて、千賀子はちょうど、ポツンと建てられた街灯の下に居る。

 

 時刻は夜、深夜というのはまだ早い。

 

 しかし、この頃はまだ現代とは違って、24時間営業の店なんて皆無だし、そんなのやっても赤字にしかならないから、余計にやる人が少ない。

 

 というか、そういうのは繁華街などでやる事で、間違ってもこんな自宅に帰る道の途中でやるのが……話が逸れたので、戻そう。

 

 

(……まあ、ずっとニートみたいな生活していたわけだし、リハビリがてらにはちょうどいいか)

 

 

 もともと、『無職』からの脱却が目的であり、今回のコレはリハビリみたいなもので、金を稼ぐのはそこまでではない。

 

 というか、占い師で生計を立てられるとは千賀子自身思っていない。そもそも、占い師とは世間的には職業としてカウントされるのだろうか? 

 

 

 ……たぶん、されないだろうなあ、と千賀子は思う。

 

 

 職業なんてのは、結局のところ、世間が認めている物に限られる。

 

 職業によって人の貴賤《きせん》は決まらないという綺麗事がある。そりゃあ、『人間』というカテゴリーで見たら、同じではある。

 

 だが、現実として貴賤はある。大なり小なり、あれこれもっともらしい理屈を付けて、それを正当化する。

 

 そして、この頃の世間の目には、収入を得ていようが無職と大して扱いが変わらず、銀行は冷たい目で見て来るし、住む所も同様の目を向けて相手にしてくれない事が多いのだ。

 

 なので、自称占い師として活動を始めた千賀子だが、実質的にはまだ無職。世知辛い話だが、それが今の千賀子の立場なのであった。

 

 

 ……まあ、千賀子自身は特に焦燥感があるわけでもないし、不安も無いので、気楽なものだけど。

 

 

 だいたい、なんだかんだ引きこもり続けていたので、少しでも外に身体を慣らそう……という、人によってはふざけんなと殴りかかれそうな目的なのだ。

 

 初日からアレコレ考えるよりも、とりあえずはジッと座って待つ、そういう忍耐に慣れるのが先だろう。

 

 と、千賀子は考え、モコモコな巨大毛布をほっかむりのようにして、千賀子はぼんやりと静かな暗闇の向こうを見つめるのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………が、しかし、そんなふうにして、そろそろココアでも飲もうかと考え始めた千賀子の下に。

 

 

「──あの、占い屋さん、ですか?」

 

 

 まさか、初日にして客が来るとは、当の千賀子ですら考えていなかった。

 

 視線を上げれば、そこには……なんだろうか、薄幸そうな風貌の男性が居た。

 

 華奢とまではいかないが、痩せているぐらいには見える。

 

 そう見えるのは背が高いからなのだろう。千賀子が座っているからなのだろうけど、目測で180cm代後半はあるように見えた。

 

 ただ、千賀子の注意を引き付けるのはそこではない。

 

 それよりも気になるのは、その男の目。まるで、三日は徹夜をしているかのような、夜でも目立つ黒いクマ。そして、真っ赤に充血した瞳が千賀子を見下ろしていた。

 

 

「はい、占い屋ですよ。寒いので、この恰好でごめんなさい」

「あ、いえ……」

「占ってほしいのであれば、どうぞ。一回1000円です」

 

 

 視線で、対面に置かれた椅子への着席を促す。

 

 客商売をなめているのかと怒られそうな態度だが、年末まで一ヶ月を切っている。巫女であろうとも、寒いモノは寒いのだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ただ、この頃の客商売というのは現代よりもはるかに自由で、客側も、そういう店なのかと受け入れる不思議な度量があった。

 

 良くも悪くも経済の勢いが凄まじいので、『嫌なら他を当たれ』がお互いに通じた時期だからなのだが……まあ、それはいい。

 

 

「……ガラスの玉で占うのですか?」

 

 

 占いを受けること事態が、初めてなのだろう。

 

 胡散臭いというよりは、何もかもが初めてなのでどれもが興味深い……そんな目をしていた。

 

 

「ん~、別にそういうわけじゃないですけど……まあ、手相《てそう》を見せてもらえますか?」

「手相? そんなものを見るのか?」

 

 

 首を傾げる男に構わず掌を見せるよう促せば、男は千賀子へ掌を差し出した。

 

 ……まあ、水晶玉をガラスの玉と言うぐらいなのだから、それは察していたけど……さて、と。

 

 

(……うぉ、すげえ。この人、ものすごく頭良い人だ)

 

 

 早速、巫女的シックスセンスにて、男の情報というか、彼自身が自覚していない内面や能力を探ってみた千賀子だが……ん? 

 

 

 ──何時から、そんな事が出来るようになったのかって? 

 

 

 巫女的シックスセンス、神通力の応用力を軽く考えてはいけない(戒め)。

 

 出来ないことはどう足掻いても出来ない応用力の無さなのが『神通力』だが、出来る範囲であれば本当に応用力があるのもまた、『神通力』なのだ。

 

 

(平均30とかのパラメーターで、だいたい70越えって……特に、理系の数値がどれも80を超えている……)

 

 

 そして、そんな巫女的シックスセンスにて把握した男の能力は……ひとえに、天才である。

 

 最少が1で、最大100。

 

 80越えがどれぐらい凄いのかって、一つでも80を超えた者を地元では一度しか見掛けたことがないぐらい。

 

 その一度とは、道子パパだ。だが、80を超えていたのは一つだけ。

 

 あくまでも千賀子の体感だが、80以降は努力だけではどう足掻いても辿り着けない、持って生まれた才覚が無ければ至れない領域なのだろう。

 

 

(あ~、でも不器用っていうか、低いのは本当に低いな……下手すれば小学生レベルに低いのもあるわ……)

 

 

 まあ、それでも、一般人は30から高くても50までなので、長所が凄すぎて短所が目立たないという典型的な尖った天才系だが……で、だ。

 

 

「……ん~、とりあえず、現在結婚を考えているお相手の女性ですけど、ガッツリ浮気していますね、これ」

「え──っ」

「貴方からうっすらと感じ取れる、髪がふわふわの癖毛の女性、目尻にほくろ、手の甲にもほくろありますよね?」

「えっ? えっ?」

「親密な間柄にある……特にエッチしちゃうと精気が互いの身体に残留するんですよ、一時的に。それは、当人の精気にも残るのですよ」

「えっ? えっ? えっ?」

「貴方、彼女さんと3,4カ月はエッチしてませんよね? 他所の男とエッチした形跡だらけの精気が、貴方にうっすらこびりついていますよ」

「………………」

「つまり、貴方に辛うじてへばりついている女性の精気には、貴方以外の精気が濃厚に残っている感じでして……手応えからして、相当長く浮気しまくってますね、これ」

 

 

 初手の爆弾発言を受けて、男は絶句する。

 

 

「なので、その人との結婚は止めた方が良いっすよ。下手すると、貴方の子だとして他所の男の子を育てることになりますよ」

 

 

 だが、構わず千賀子は続けた。

 

 

「いっそのこと仕事を止めて縁を切った方が良いかもしれませんね。その女性と結婚したところで、相手はそりゃあもう幸せになれますけど、貴方はそうなりませんし」

 

「既成事実作られる可能性高いので、相手の女性からエッチを誘われても乗っちゃ駄目ですよ、その人もう妊娠しているので、責任を押し付ける気まんまんです」

 

「相手の男性は……あ~、とにかく今の職場は駄目。もう、居る時間が長ければ長いほど、貴方にとっては害にしかならない。スパッと辞めた方が良いよ、嫌な感じしかしないから」

 

「貴方は誤解されやすい人だけど、能力は本当に高い。いや、もう、貴方はそこに居ない方が良いよ、もっと別な場所とかに行った方が良いから」

 

「力士に時計修理、裁縫屋に道路工事させるようなものだから。根本的に、そこでは貴方の能力が発揮されな……え、教師に嫌われて、家が貧乏だったから、今のところしか就職出来なかったって?」

 

 

 とりあえず、男が抱えている悩みというか、抑えていた憤りというか、そういうのを一通り聞いた千賀子は。

 

 

「……じゃあ、明日知り合いに聞いてみるから。とりあえず、明日の同じ時間ぐらいにもっかい来て」

 

 

 自分の事は置いといて、これだけの能力を持っている人が悪意のままに食い物にされ続けるのは、あまりにも可哀想だと思ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、それから二週間後。

 

 

『千賀子~、紹介してくれた人の事だけど、本当に凄いわね~。パパが出資している会社の人からの話だけど、こんなに覚えが早い人は始めてだって喜んでいたらしいわよ~』

「そ、そう……凄いとは思っていたけど、思っていたよりも凄かったんだ、あの人……」

 

 

 道子を通じてヘッドハンティングされる形で移ったその人だが、早くも能力の片鱗が見え始めたらしく、千賀子はかなり感謝される事となった。

 

 なお、この男は後に『光触媒』に関する分野にて多大に貢献し、後に出版する自叙伝《じじょでん》にて。

 

 

『わが生涯における大きな転機は、おそらく三つ。一つは、父の死。二つは、生涯の付き合いとなる妻と出会えた日。そして三つ目は、私がこの道に入るキッカケとなった、とある占い師との出会いだろう』

 

 

 そんな言葉を記すのだが……あいにく、この時の千賀子には知る由もない、未来の話であった。

 

 

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