ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ ポチャ子のパーセントは、ポチャ度のこと
 数字が高いほどポチャ子で、低くなれば千賀子になります


第85話: ポチャ子(55%)「んほ~、豚丼にキンキうめ~」

 

 

 

 北海道という場所は、先祖代々狭い範囲で血が受け継がれている……というのは、想像されるほど多くはない。

 

 まず、大正の終わりから昭和初期にかけて、開拓して一旗揚げてやるとやってきた移民たちの存在。

 

 戦後になって生じた大量の失業者や、戦地から戻ってきたは良いが仕事が見つからなかった者などが数多く移住を行い。

 

 合わせて、主流なエネルギーとして利用されていた石炭の採掘仕事によって、さらに多くの人達が入り込み。

 

 ぶっちゃけてしまえば、他の都道府県と同じく、1960年代後半にもなれば、相応に血も薄まっていたのである。

 

 なので、1960年代の北海道とは言っても、けっこう他所から来た人が多く、奥深い農村といった場所以外では、他の地方とそう変わらない状態であった。

 

 まあ、これは現代も昭和も同じだ。

 

 交流が盛んな都市部では他所からの流入者も多いが、交流の少ない山村では血が濃い。そこ全体がほとんど親戚(血の繋がりがある)という場所もあるだろう。

 

 ただ、それも今は昔。

 

 文明が発達し、発展が加速してゆけば、人は自ずとそこへ集まる。なにかあれば死者が出るような環境よりも、なにか起こってもなんとかなる環境を求めるのは当然のこと。

 

 そして、先祖代々受け継いだ土地だとしても、いくら未練があろうとも、土地に固執して命を落とすとなれば本末転倒もいいところである。

 

 

 ……そう、それで生計を立てられるのであれば、誰も売り払ったりはしない。

 

 

 実は、戦後の北海道……1950年代の北海道は冷害に何度も見舞われていて、農家の暮らしは非常に悪かった。

 

 それに加えて、戦後の農業政策である農作物の輸入自由化や、米の減反政策によって、農業者の離農は加速し続けていた。

 

 けれども、全体としては人口も多く、景気はけして悪くはなかった。

 

 何故かといえば、北海道には日本有数の炭鉱があり、自分のところの土地で農業をするよりも、出稼ぎに行った方がはるかに高給を得られたからだ。

 

 もちろん、リスクはある。

 

 けれども、それは農業も同じこと。

 

 特に、無理が利いて体力も回復力もある若手ほど、暗い先しか見えない畑仕事に拘るよりも、危険とはいえ高給を得られる炭鉱の仕事を求める割合が大きかった。

 

 これもまあ、時代の流れというやつだろう。あるいは、幾度となく繰り返された歴史を、また繰り返しているだけ、か。

 

 米などでは食っていけないと農業から酪農に変わったところも多く、けれども、全ての農家が酪農家に転身出来たかと言えば、そんな事もなく。

 

 土地は広いが勾配が急で開発や利用に適さない、利益を生み出せるほどに所有している土地が広くなく、また、設備の初期投資を用意出来ない、等々など。

 

 他には、炭鉱以外の、動ける若手の大半が東京を始めとして都会に行ってしまい、後を継ぐにしても政府の方針によって、そのまま継がせるには……という、様々な悪条件が重なることもあって。

 

 使い道のない土地を少しでも高く売って、新しい事業を始めるなり、第二の生活資金に回すなり、そういう事を考える者は当然ながら、いたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………と、同時に、だ。

 

 この頃から特に猛威を振るうようになった、悪名高き『原野商法』の危険性を、忘れてはいけない。

 

 

 『原野商法』とは。

 

 

 簡潔に言えば、開発も利用も難しい二束三文どころか売り物にすらならない土地を、さもこれから値上がりしますよ開発されますよと騙して売りつける手法のこと。

 

 例としては、『駅が近くに出来るので、今買わないとこの値段では売れませんよ』とか、『都市の開発区画に入っているので、ここに家を建てたら後は楽ですよ』とか。

 

 あるいは、『○○で有名な人も近くの土地を買った』とか、『芸能人の○○も、ここが狙い目って語っていますよ』とか。

 

 酷いのになると、実は細かく権利者が居て、建物一つ建てるには権利者全員の承諾が必要とかで、実質なにも出来ない土地……というのもあったとか。

 

 現代に至ってもまだ被害者が出るぐらいには有名な詐欺であり、特にこの頃(1970年前後)はそういった知識や警戒心を持っている者が皆無なこともあって、被害者が続出したのであった。

 

 で、だ。

 

 今さらながら、千賀子には土地に関する知識は皆無であり、そこらへんはまったくの素人である。

 

 

「……ええっと、大石さん、ですか?」

「──これは、お待たせして申し訳ありません。秋山千賀子様ですね?」

「あ、はい。えっと、待っていませんよ、ついさっき来たばかりなので」

「そう言っていただけると、気が楽になります。ここまで相当な長旅になったかと思いますが、大丈夫ですか? 私は昨日から先入りしておりますので疲れてはおりませんが、お疲れのようでしたら宿を取りますし、先方に連絡し、明日にしてもらうこともできますが」

「いえ、大丈夫です。特に疲れているわけではないです」

「そうですか。いや、羨ましい、私のような年寄りになると、どうにも気力だけでは……」

「体力だけあっても、何の意味も無い時だって多いですよ」

 

 

 それを知っている道子は、土地の売買契約の際に絶対に必要だろうと、道子の家に専属で雇われている、そういった事のプロである大石さんを派遣してくれた。

 

 大石さんの見た目は、まさしくナイスミドル。

 

 背も高く、上品な老人といった風貌であり、素人の千賀子から見ても、身嗜みにめちゃくちゃ気を使っている人なのだと察せられた。

 

 

 ……で、そんな彼と一緒に、目的地へと向かう。

 

 

 天気は快晴。気温は氷点下、キッチリ着込んでいる大石さんと同じく、今日の千賀子の恰好は分厚いコート。ちなみに、その中は『巫女服』である。

 

 北海道は、寒い。

 

 そして、千賀子は寒いのが嫌いである。

 

 いくら分厚いコートだとしても、冷気は容易く体温を奪ってゆく。ここまでのワープも兼ねての『巫女服』、寒さに対しても有効なソレを、着て来ない理由が千賀子にはない。

 

 さて、大石さん曰く、今日は移動しやすい絶好の天気らしい。

 

 言われてみれば、柔らかく吹く風こそ北風で冷たいが、幸運にも雪は混じっていない。雪に不慣れな二人、吹雪に見舞われてしまったら、風邪の一つや二つは引いてもおかしくはないだろう。

 

 まあ、今は降っていないだけで、見える範囲に雪が積もっていない場所を探す方が難しい状態……ボケーッとしていると、それだけで体調を崩してしまいそうだ。

 

 なので、早速出発する。場所は、札幌より少しばかりバスに揺られた先。

 

 この頃は現代のように……いや、ある意味、現代の北海道よりも活気はあるけど、交通に関するインフレが弱い。

 

 なので、現代ならば小一時間で行けるような場所でも倍以上時間が掛かったりするし、現代では開通している道も、この頃は存在していない。

 

 除雪車もそうだが、バスの性能だって同様で……朝早く出発した千賀子たちだが、目的の家に到着するまでには相応に日が高く上っていた。

 

 

「おお……デッカイ家だね」

「ここいらでは有数の地主とのことです」

 

 

 そうして、到着した件の家……すなわち、今回の商談相手の家は、とても大きな平屋であり、正門がある立派なお家であった。

 

 既に向こうの準備は出来ているのか、正門前の地面には大量の足跡がある。雪かきがなされているようで、他とは違って地面が確認出来た。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、入って早々……ちょこちょこっとトラブルが起こったが、割愛する──ん? 知りたいとな? 

 

 別に、千賀子にとってはの話だが、大したことではないのだ。

 

 事前に話を通していたのだが、それでも直前まで間違いと思っていたのか、大石さんを商談相手と勘違いし、千賀子の事を付き添いの孫娘かナニカだと……まあ、そういうトラブルだ。

 

 その際、大石さん、表には出さなかったけど内心ではかなり不愉快そうにしていた……まあ、それは致し方ない。

 

 事前に何度も連絡していたし、商談相手は女性であるというのも何度も告げていた。それで、コレだ。

 

 いくら見た目の印象で勘違いしやすいとはいえ、商談相手を意図的に間違えて対応するというのは非常に失礼な行為である。

 

 それも、個室などで行われたのであればまだしも、その場には商談相手の他に、自称関係者の人達が大勢集まっていた。

 

 大石さんからすれば、コケにされたも同然である。

 

 あくまでも千賀子の付き添いとはいえ、自分たち(道子たち)のことを軽く見ていると思われて……とはいえ、だ。

 

 

「大石さん、私は気にしていないから。向こうからすれば、二十歳にもなっていない小娘が来たって感じなんだし」

「しかし……」

「堅苦しい話はちゃっちゃと済ませよう。みんな、暇じゃないんだしさ」

 

 

 当の千賀子からそう言われてしまえば、大石さんは何も言えなかった。納得できるかは、別として。

 

 ただ、それでも、だ。

 

 そんな大石さんの怒り(表面上は隠しているけど)は、案内された部屋にて、千賀子がコートを脱いだ時点で霧散した。

 

 

 ──ザワザワッ、と。

 

 

 表面上は謝罪しつつも、どこか値踏みするように向けられていた視線が、一瞬で困惑と畏怖に変わり、ざわめきが生じる。

 

 それは、千賀子の恰好が巫女服……つまり、神職であることを察したから……ではない。

 

 というか、その程度のことでは彼らは欠片も怯まないし、姿勢を正したりもしない。

 

 何故なら、その程度の小細工など、よくあることだから。

 

 御立派でそれっぽい衣装で着飾りつつも、その目の奥に欲望をギラギラと燃え上がらせながら、土地だの何だの商談を持ちかけてくる者を幾度となく見て来たから。

 

 だからこそ、彼らは言葉を失くした。

 

 彼らが息を呑んだ理由は、千賀子より放たれる、言葉には出来ない『圧』であった。

 

 それは、けして威圧的なモノではないし、嫌なことではない。

 

 しかし、ただそこに居るだけで、『他とは違う』ということを言われずとも理解させられる、不思議な圧であった。

 

 それはまるで、樹齢何百年の大木を見て、己の弱さを理解させられるかのように。

 

 それはまるで、地平線の彼方にまで広がる海を見て、己の生きてきた世界の小ささを理解させられるかのように。

 

 それはまるで、天まで届かんばかりにそびえ立つ巨大な山を見て、人という生き物の限界を理解させられるかのように。

 

 ただ、そこに居るだけで。

 

 

 ──これは、本物だ。

 

 

 この場に居る誰もが理解した。

 

 なにがどう『本物』なのか、それを言葉で説明するのは、彼ら自身にも出来ない事ではある。

 

 けれども、それ以外の言葉を、『本物』という言葉以外を、彼らは思いつかなかった。

 

 そう、言葉にされなくても、姿を見たわけでなくとも、彼らは心底理解してしまったのだ。

 

 

(お、おい、どうするよ──っ!?)

(ど、どうするって、手筈通りだろ──っ!?)

(でも、それは二束三文の屑土地って話じゃ──っ!!)

(ば、馬鹿野郎! この娘っ子、ほんもんだぞ──っ!)

(じゃあ、どうしろってんだよ──っ!!)

(そうだ、それしか用意していないんだぞ──っ!!)

(な、なんとかしろよ! 俺は嫌だぞ、こんな──っ!!)

 

 

 ゆえに、彼らは、目線のみで完全なる意思疎通を図るという、火事場の馬鹿力のようなことを行い、対策を練ろうとしていた。

 

 やっていることは、完全に奇跡である。

 

 この瞬間、彼らは間違いなくテレパシーを行い、頭の中だけで会話を成立させていた。

 

 しかし、当人たちからすれば、二度と体験したくない奇跡でもある。

 

 だって、彼らは例外なく冷や汗やら脂汗が顔中から噴き出している。「……あなた?」あまり事情を知らない妻や娘が、お茶と菓子を持って来たことにすら、気付いていない。

 

 気付いてはいないが、なにやら様子がおかしい事を察して訝しむ大石さん……その隣で、『巫女』の能力にて彼らの内心を感じ取った千賀子は……堪らず、苦笑した。

 

 

(う~ん、なにかしら騙しを入れて来るだろうって思っていたけど……素直と捉えれば良いか、マヌケと捉えれば良いか……)

 

 

 そう、千賀子は別に怒ってはいなかった。

 

 

 と、言うのも、だ。

 

 

 道子たちがどのように顔を繋いでこの場を用意してくれたかは知らないが、1960~70年代にて、この手の商談が行儀良く進むなんてことはほぼなかった。

 

 暴力を臭わせるなんて初手も初手、ヤクザであることを隠しもしない第三者が入り込んできたり、酒に酔わせて不平等な契約を結ばせたり、酷いモノだったらしい。

 

 眼前の彼らのように、村ぐるみ、地域ぐるみで詐欺に加担するところもあったらしく、監視カメラの無いこの頃では、ある意味やりたい放題な部分が多かった。

 

 

(……なるほど、表面上は土地の権利はこっちになるけど、工事や開発の際は彼らから了承を得る必要があって、実質何一つこっちから手を出せないけど金は向こうが得る……まあ、よくあるやり方ってやつなのかな?)

 

 

 戦々恐々といった様子で奇跡のテレパシーを行っている彼らより得た情報をまとめると、そんな感じ。

 

 実際、震える手で彼らより手渡された、今回の契約書を確認した大石さんは、今度はハッキリと不快感を露わにした。

 

 何故ならば、その内容は千賀子が彼らより読み取ったソレとだいたい同じだからだ。

 

 経験が浅ければギリギリ騙せるぐらいには巧妙な文章になっているようだが、大石さんは道子たちに雇われているプロ中のプロだ。

 

 サラッと目を通しただけでも内容の邪悪さに気付き、実質的に金を取られるだけの契約を結ばせようとしていることがハッキリわかってからは、それはもう視線がとんでもなく冷たくなっていた。

 

 当然、彼らもその事には気付いていた。こっそり廊下などから耳を澄ませていた人たちも、気付いてしまった。

 

 いざとなればシラを切って誤魔化すつもりだったのだろうが、千賀子を前にしてすっかり萎縮してしまったようで、誰も彼もが居心地悪そうに身体を小さくしていた。

 

 

「……事前の話とまったく違うのですが、これはどういうことですか?」

「いえ、その、それは……」

「お話にあった土地の名称と似ておりますが、まったく別。私の記憶が確かならば、ここに書かれている土地は僻地も僻地、開発はおろか人が入ることすら難しい場所では?」

「その、そうではなくて……」

「それだけでなく、ここに書かれている通りの契約ならば、千賀子様は何一つ手を出せずに金だけそちらに渡る結果となります……こんな詐欺同然の契約を交わすおつもりだったのですね?」

「…………」

 

 

 彼らは、何も言えなかった。

 

 しかし、その中でも比較的……いや、一番血気盛んな1人が、ごくりと唾を呑み込んで覚悟を固めると、怒鳴り、話を逸らそうと思い立った。

 

 

(──余計な事はしないでね、頼むから)

 

 

 けれども、それよりも前に、まっすぐ千賀子より視線を向けられて……いや、それだけではないが、とにかく、何も出来なくなった。

 

 

「……千賀子様、差し出がましい事だと存じておりますが、この話は断るべきかと」

「断るの?」

「はい、千賀子様に利がまったくございません。むしろ、非常に損をするだけかと」

「もともと、開発とかそういうのが目的じゃないよ?」

「それにしても、限度というモノがあります。金額も、事前の話とは違いますし」

「ふ~ん、まあ、それは彼らを見たら分かるけど……」

 

 

 そこで、千賀子は改めて眼前の彼らを見やる。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………事実だけを見るのであれば、彼らは未遂ではあるが立派な加害者である。

 

 

 交通費などの金銭的な損失や時間の損失など、既に被害は出ている。しかし、ここで彼らを責めたところで、警察は大して動かないだろう。

 

 どうせ、『言った』、『言っていない』の水掛け論になるだけだし……土地関係のトラブルとなれば警察も面倒臭がって、場合によっては、地元民である彼らの味方になる可能性もある。

 

 ……と、なれば、だ。

 

 

「こんな小細工無しで、使っていない土地を私に譲るなら、事前の話通りの金額を支払うけど、どう?」

 

「──えっ!?」

「──えっ!?」

「──えっ!?」

 

 

 千賀子の提案に、彼らだけでなく大石さんも、それどころか、耳を澄ませていた者たちも思わず目を見開いた。

 

 

「ち、千賀子様……その、本気ですか? 本当に、タダで貰っても負債にしかなりませんよ?」

「いいよ、別に。さすがに細々と区切られた土地ならタダでもいらないけど、そうじゃないんでしょ?」

 

 

 慌てて止めに入る大石さんを手で制した千賀子が視線で促せば、彼らは互いに顔を見合わせ……少しばかり顔色を良くして、一様に頷いた。

 

 

「いちおう、私共が持っている土地自体はそのような……その、そこの方の言う通り、重機はおろか、人が入るだけでも大変な場所なので何も出来ませんが……いいんですか?」

「いいわよ、そういう開発とかするつもりはないし……ていうか、なんでそんな場所の権利なんて持っているの?」

「その、詳しくは俺も知りません。明治の時に色々あったとかで……あの、本当に?」

「くどい。売りたいの? 売りたくないの? どっち?」

「それは……」

 

 

 言いよどむ彼らに、千賀子は……ジッと、彼らを見つめる。

 

 

「炭鉱、これからどんどん落ち目になるわよ。今が頂点、こっから微妙に上がることはあっても、基本的には下がりっぱなしになると思った方がいいわよ」

「──っ!?」

 

 

 ギョッと目を見開く彼ら(あと、大石さんも)を尻目に、千賀子はキッパリ告げた。

 

 

「これからは、石油とガスの時代よ。石炭産業はあと10年15年はなんとかやれるけど、問題はそこから……貴方たち、炭鉱が閉鎖された後を考えたことはある?」

「…………」

「貴方達も、本当は薄々分かっているのでしょ? 以前に比べて石炭の値段が低く、昔のような羽振りの良い話を聞かなくなってきているように、ね」

「…………」

 

 

 彼らは、何も言えなかった。

 

 何故なら、今の北海道は、千賀子の言う通り炭鉱で食っているから。

 

 直接的にしろ、間接的にしろ、炭鉱が……そう、石炭がもたらす利益によって金が循環し、それが北海道の経済を回している。

 

 冷害が続いたことで酪農家などに転身した、彼らの知り合いも語っていた……以前に比べて活気がなくなってきているという話。

 

 今はまだ、いい。

 

 しかし、5年後、10年後、彼らの内の誰一人として、今より良くなっている想像ができない。曖昧な姿勢しか見せない国の姿に、不安を募らせている者たちは多い。

 

 

「私としては、ビルを建てたりとか工場を建てたりとか、そんな予定は今のところはないの。ただ、ここでまとまったお金を得て閉鎖した後に備えるか、それとも話をお流れにするか……最後にもう一度聞きましょう」

 

 

 その言葉と共に、千賀子は……今までで一番強く、ハッキリと、彼らの目を見つめる。

 

 

「売るの? 売らないの? どっち?」

 

 

 そう問えば、彼らは目を瞬かせながら、もう一度ばかり顔を見合わせ……深く、頷くと。

 

 

「……改めて契約書を作ります。このたびは、大変無礼かつ失礼な事を仕出かしてしまい、申し訳ありませんでした」

「気にしなくていいわよ。それで、どれぐらいで出来上がりそう?」

「その、勝手を言って申し訳ないのですが、一週間か二週間ぐらいの時間を貰えたら……」

「じゃあ、それでいいわ」

 

 

 そう、千賀子に向かって謝罪をしたのであった。

 

 

 

 

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