ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第90話: 千賀子(占い師)、新宿に降り立てない

 

 

「ところで、宇宙飛行士たちに持たせたお土産ってなに?」

「植木と、他が4点です」

「植木? 観葉植物とか、そういうの?」

「はい、見た目は枝葉の先端みたいなサイズです。植木鉢などに差して水と太陽光を与えると、だいたい15年後ぐらいには希少な実を付けます。主に金属や宝石なので、食べられませんけど」

「へぇ……え? 金属や宝石の実がなるの?」

「はい──あっ、正確に言えば、既に実はなっております。あくまでも希少な実をつけるのに15年掛かるという話であり、現在なっている実もまた金属と宝石です」

「なら、今できているそれを売ったらお金持ちになれるとか?」

「まあ、お金にはなるでしょうが、新たに実を付けるまで時間が掛かりますし、大きく実ってもゴルフボール大ぐらいです。途中で土を変えたり植えた場所から移動させたり、他にも世話の仕方を間違えると枯れてしまいますので、注意が必要ですね」

「ふ~ん、デリケートな植物なのね……金属って、鉄とかそういうのが成るの?」

「育て方にもよりますが、『無抵抗アルミニウム』や『斥力鉄』、『放電金属』などが実ります」

「……? なにそれ? それって危なくないの?」

「私どもの母星では、子供の御駄賃程度で買えるぐらいには普及した代物ですが、こっちでは……まあ、ガラスケースなどに入れてしまえば、見た目の変化はなくとも枯れてしまいますので、心配しなくとも大丈夫です」

「そう? それなら、いいんだけど……他の4つは?」

「そちらも似たようなモノです。正しく保管し正しく運用すれば良い未来を生み出す切っ掛けになりますが、後生大事に金庫などに入れてしまえば、見た目だけのガラクタになってしまいますので……」

「……なんで、そんなお土産にしたの?」

「スペース・ジョークでございます。これ、母星ではドッカンドッカン大笑いの鉄板ネタみたいなものですよ」

「えぇ……(呆れ)」

「ちなみに、渡した五つのお土産を特定の手順で処理をした後で一か所に集めると、異空間よりロボットを特殊召喚出来るそうです」

「はい? ロボット?」

「『グレート・ムーン・ロボテッカー』という名前だそうです」

「いや、そうじゃなくてね?」

「女神様が、『サプライズ』というやつで追加しました。私も詳しくは知りませんが、後輩のところから借りたそうです」

「後輩!? 女神様に先輩後輩ってのが存在していたの!? そちの方がとんでもなく驚くべき情報だよ、それ!?」

「女神様なりの遊び心でしょうかね」

「……そういえば前に女神様……『ジャイ&アント&ロボ』とかいう特撮ものを私と一緒に見ていたな……え、もしかして、影響されたの?」

「というより、マスターが見ていたからでは?」

「……私のせいなの、それ?」

 

 

 ──と、いう感じで、色々あった『お月様騒動(千賀子命名)』が終わってから、色々なことが起こった。

 

 

 まず、大々的に発表されたアポロ11号の功績によって、日本にも『アポロブーム』が本格的に到来した。

 

 やはり、目に見える形での結果……とりわけ、月面の映像というのは、たいへんなインパクトを人々に与えたようだ。

 

 当時の視聴率が50%を超え、老若男女を問わずテレビの前に集まっていたという逸話が生まれたぐらいには。

 

 それまで、そういうのが好きな層の間でしか流行っていなかった宇宙ブームは瞬く間に一般層へ広がり、様々なグッズも作られた。

 

 現代に続くロングセラー食品、『アポロチョコレート』が生まれたのも……他にも、玩具や、宇宙を題材にした子供向け商品も多数作られた。

 

 しかも、本当かどうかは不明だが、来年(1970年)に開かれる大阪万博には、月から持ち帰った石が展示されるという噂がどこからともなく流れ始めてすらいた。

 

 意図的に流したのか、偶発的に流れたのか、あるいは噂が噂を読んで生まれてしまったのか……定かではないが、とにかく、アポロブームの白熱っぷりは凄まじいものであった。

 

 

 他には、『美都黄門(みとこうもん)』が放送開始されたこと。

 

 

 千賀子の前世では老人だったが、この世界の黄門様は……なんと言えば良いのか、メスガキと称してもよいと思えるような小生意気な少女で、役職もお姫様である。

 

 内容は、前世と同じく世直しというか、旅をしつつ悪者を懲らしめるという部分は変わっていないが……そこに至るまでの過程が、ちょっと違う。

 

 ぶっちゃけると、ツンデレ(死語)みたいな感じだ。

 

 口ではめっちゃぼろくそに言いつつも、何だかんだ手を貸したり、助けたり、庇ったり……前世の記憶があるので違和感がすごいけど、内容自体はとてもおもしろく、視聴率は好評のようだ。

 

 

 放送と言えば、『漢はつらいぜ!』もまた、おもしろい。

 

 

 戦うことでしか平穏を実感出来ない、虎の異名を持つ男が全国を渡り歩き、散らばる強敵たちと拳で語り合っていくという格闘ドラマだ。

 

 闘争の中でしか生きられない虎なのだが、本当はそんな暮らしから足を洗って光の中で生きたいのに、生まれ持った性分が許してくれない……そういうお話である。

 

 これもまた、前世のアレと妙に似ている部分があるおかげで違和感がすごいけど、内容自体はシリアス有り、ギャグ有り、ロマンス有りで、おもしろいのが腹立つという。

 

 他にも、アポロ計画に触発されたのか、それとも以前から作られる予定だったのかは知らないが、『宇宙開発事業団』なる組織ができたとのニュースが流れた。

 

 

 『宇宙開発事業団』とは、その名の通り、日本の宇宙開発を担う目的で日本政府が設立した特殊法人である。

 

 

 設立の目的は、『宇宙の開発、人工衛星や衛星打ち上げ用ロケットの開発、それに関係するその他諸々(要約)』であり、けっこう大々的にニュースで流れた。

 

 宇宙開発事業団と呼んでもピンと来ない人が多いだろうが、『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』の前身……と言えば、想像しやすいだろう。

 

 

 ……そして、これまた後に伝説的な番組となる、『8時だョ! 全員集合!』が始まったのも、この年からだ。

 

 

 ちなみに、この世界では『8時だョ! 集合いたせい!』という名前になっている。

 

 内容は……前世の千賀子も世代から外れている。何度か再放送で見たぐらいなのでほとんど覚えていないが、だいたい同じように思えた。

 

 感覚としては、『老いたベテラン芸能人という印象しかない芸能人の、デビューしたての若い頃!』を見て、『うわぁ、若いなあ……』と感想をこぼす感じだろうか。

 

 

 また、『スピードシンボリ』という馬が凱旋門賞に挑戦したのも、この年だ。

 

 

 結果としては24頭中10着に終わったが、ついに日本は凱旋門賞に挑戦できるにまでなったと健闘を称える言葉が多く、時代の先駆者と呼ぶ者もいた。

 

 ちなみに、道子パパが所有している馬にも話が出たらしく、道子を通じて相談されたが、千賀子は止めた方がいいと忠告していた。

 

 理由としては、声が掛けられた道子パパの馬は、かなりデリケートというか、人見知りだから。

 

 人嫌いというわけではないが、かなり敏感な性格で。

 

 上手くかみ合えばスピードシンボリにも引けを取らないのだが、輸送の距離や時間が長ければ長いほどコンディションが劇的に悪化するので、出たとしてもビリ争いになるかも……と、話しておいた。

 

 ほかにも、千葉県松戸市の市長(千賀子の前世においては、マツモトキヨシ創業者)発案のもとで『すぐやる課』が誕生した。

 

 流れとしては、この頃の松戸市は、毎年2万人というベースで人口が増加していた。

 

 インフラ整備などを急ピッチで進めていたが到底追い付かず、市民からの苦情に対応出来ないことが続き、いわゆる『お役所仕事』というイメージが根付いてしまっていた。

 

 この『すぐやる課』は、それまでのたらい回しを排除して迅速な解決を図るために誕生したのだが、このユニークな名前と実際にすぐに動いてくれたこともあって、その名は全国に広がったのであった。

 

 ほかには、あまりにも暴力的な学生運動を規制するために、『高校生の政治活動の禁止』の措置が取られたり。

 

 反戦運動こそ下火にはなったが、次から次に新たな理由を設けては反政府運動を行う団体への規制。

 

 手りゅう弾や火炎瓶などを自作して行動に移す若年層の存在に頭を悩ませる政府の姿や、公営住宅の家賃が40%近くもアップするということで役所に怒鳴り込む人々。

 

 漂白剤を使わないという話だったのに、実は一部の野菜にて着色や漂白がなされていて大問題になったり、とあるバス会社で大規模なストライキが起こったり、等々など。

 

 人類は始めて月面に降り立ったという大ニュースの陰には、毎日のようにどったんばったん、とんでもない事件が起こっては、過去の出来事として通り過ぎて行った。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とまあ、そんなこんなで、だ。

 

 

「……う~ん、ボルでは勝てないと思う。たぶん、13……いや、15着ぐらいになる気がする」

『そうなの~? それじゃあ、出走は止めておくの~?』

「私としてはそうしたいけど、特に問題も無いのにダービー馬を菊花賞に出さないというのは、中々に批判されるじゃん?」

『ん~、まあ、あまり良い目では見られないかもね~。なんだかんだ言っても~、二冠を取れるかってみんな期待はするだろうし~』

「そうなんだよね……」

 

 

 電話の向こうにいる道子に、千賀子はため息と共に愚痴をこぼした。

 

 ボルとは、ダイシンボルガードのこと。長いので、千賀子は最近、そう読んでいる。

 

 電話の内容は、11月の中頃に行われる『菊花賞』への出走の是非だ。

 

 千賀子としては、勝ち目は皆無だし、輸送によるダメージもあるし、12月にやる『有馬記念』にのみ絞って走らせた方が良いのでは……と、考えている。 

 

 しかし、ダイシンボルガードは、ダービー馬だ。

 

 良くも悪くも注目を集めるし、できるならば出走してほしいと道子パパを通じて話が千賀子の下へと来るぐらいには、特別な立場にある。

 

 

「……ボルも石多厩務員さんも、ヤル気十分気合MAXだったからなあ……もしかしたら、勝てるかもしれない」

 

 

 しばし悩んだ千賀子は、結局、『直前で少しでも体調を崩したり異常が起きたら出走取り消し』という条件で、菊花賞出走を許可したのであった。

 

 ……なお、結果は15着であった。

 

 これまた千賀子としては、怪我さえしていなかったら良かったのだが、調教師や石多厩務員から頭を下げられた時はかなり驚いた。

 

 最終的に決めたのは己だし、ボルも調子が良かった。それでも負けたのであれば、これはもう仕方がないことなのだろう……と千賀子が言ったおかげか、何処となくホッとした様子であった。

 

 ……で、気付けば12月も半ばを過ぎた。

 

 すっかり夏の暑さはおろか秋口の涼しさも過ぎ去り、ちらほらと雪を見掛けるようになったあたりで……千賀子は、気付いてしまった。

 

 

「……私ってば、まだ無職のままじゃん!!!」

 

 

 そう、色々あってすっかり忘れていたが、千賀子は定職に就かないまま無職タイムを継続中である。

 

 そういうわりには山の中を走り回ってダイエットしたり。

 

 月面にて旗を立てまくって、脂肪を燃焼しまくったり。

 

 北海道の人の手が入っていない土地を『ククノチ』パワーで開拓したり。

 

 まったく何もしていないどころか、今年も色々やったなあといった感じで大変だった……なんかダイエットばかりしていたような気がするけど、とにかく、大変だった。

 

 でも、無職である。残念ながら、社会的な信用度は低い。

 

 一時期は占い師になったが、界隈の嫌がらせを受けて辞めてからはそれっきり……とばっちりで放水をくらってしまったのも、足を遠ざける理由の一つだった。

 

 しかし、それも今は昔のこと。

 

 嫌がらせをする側とて暇ではない。千賀子にばかりかまって自分たちの仕事を疎かにすれば、困るのは自分たちだ。

 

 つまり、言い換えれば今は嫌がらせなどされない。

 

 おそらく、すっかり姿を見せなくなった千賀子のことなど忘れて、客を探しているだろう。

 

 

「──ヨシッ! どうかな?」

「ブカブカですよ、もう少し体形に合ったサイズはなかったのですか、マスター」

「いや、デブだった時の服だし、これはこれで体形が隠れるから……」

「ああ、たしかに、お胸はとくに柔らかいですからね、今のマスターは」

「いや、胸だけじゃなくて……まあいいや、とにかく行ってくる! 今年は自営業のままで年越ししたいのだ!」

 

 

 そう、判断した千賀子は、久しぶりに着る占い師の服のブカブカさに、己のダイエットがいかに成功したのかを実感しつつ……『東京』へと向かったのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、結果はと言うと。

 

 

「──あれ? 本体の私? 戻ってくるの早くない?」

「……前に使っていた場所、新築を建てている途中で、もう使えなくなっちゃってた」

「……それなら、違う場所を探せばいいじゃないの」

「なんか歩いていると、どっかの劇団と、どっかの劇団が乱闘騒ぎを起こしているところに遭遇しちゃって……」

「えぇ……」

「他にも、学生同士の殴り合いとか、チンピラと一般人の争い現場に遭遇しちゃったり……」

「本体の私ってば、変な所でけっこう運が悪い……悪くない?」

「私って、占い師とか向いていないのかな?」

「本体の私が向いていなかったら、この世の占い師の9割ぐらいが向いていないことになるわよ」

 

 

 また、上手くいかなかったのであった。

 

 

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