ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※暴力的な表現有り、注意要

今回は月末なので、寝る前にこっちも投稿


第95話: 売られた喧嘩は万倍返し、それは血の定め

 

 

 ──翌朝。

 

 

「お父さん、お母さん、お婆ちゃん、お話があります」

 

 

 さすがに夜も更けていたので話はそこそこに、手早く食事を取って就寝。

 

 そして翌朝、母が用意してくれた朝食に箸を伸ばしながら、千賀子はキッパリと告げた。

 

 

「朝食が終わったら、先方に殴り込みに行きます。キッチリ落とし前を付けてくるんで、心配せずに待っていてください」

 

 

 説明もくそも無い、千賀子の発言。父も母も思わず手を止めたぐらいの衝撃で、祖母だけは気にした様子もなく沢庵(たくあん)をかじっていた。

 

 そして、千賀子より告げられた家族からの反応は、綺麗なぐらいに別れていた。

 

 

「……程々にな。いいね、程々にだぞ」

 

 これは、父の意見。

 

 千賀子がやると決めたならば止めはしない。

 

 わざわざ、殴り込みに行くとまで明言したのだ。これはもう、どうやっても止まらないだろうとも思った……けれども、やりすぎるなよと釘を差した。

 

 

「そんなの、警察に任せればいいじゃないの。なんでわざわざそんな危ない事を?」

 

 これは、母の意見。

 

 母からすれば、女である千賀子が殴り合いとか正気の沙汰ではない。普通の子とは違うとは分かっていても、そういう問題ではない。

 

 千賀子がやることを真っ向から否定し、警察に任せた方が良いと、ちょっとズレた返答を──まあ、常識的な反応であった。

 

 

「……埋めるんなら、夜がええでよ。山奥に埋めてしまえば、見つからん」

 

 そんな中で、祖母の意見が一番過激であった。

 

 なにせ、暗に殺人に加えて死体遺棄までちゃんとやれと言っているのだ。元々反対していた母は、直ちに絶句するほどの破壊力であった。

 

 

「ちょ、母さん、さすがにそれは……」

「一線を超えたんは、向こうでよ。殴り返されんのが嫌なら、始めから殴らんかったらええでよ」

「しかし、それは……」

「アイツらは、すっかり戦争を忘れてボケた馬鹿でよ。若ぇ頃の爺さんなら、鉈を持って仲間集めて殴り込みに行くところでよぅ」

「そりゃあ、昔の親父だったら……いや、でも、昔と今は違うんだぞ」

「同じでよ、コケにしてナメくさった相手にゃあ、万倍で返す。そうされたくねぇから、昔は誰もさ一線ば超えんかった……それを、馬鹿どもはすっかり忘れとるんよ」

 

 

 これには止めなかった父も、思わずといった様子で苦言を呈した……が、祖母は素知らぬ顔をすると、千賀子を見やった。

 

 

「でんも、警察は馬鹿ではねえ。捕まらずに、やれるんか?」

「捕まらないどころか、逆に向こうの人達が頭オカシクなったと思わせられるよ」

「──んなら、目に物を見せてやれ」

 

 

 ギラリ、と。

 

 いつもの物静かな印象とは想像もつかない剣呑な空気を、祖母は放っていた。

 

 

「爺さんも、メソメソ泣く千賀子よりんも、胸張ってやり返した千賀子の方が喜ぶんよ」

「うん、分かった」

 

 

 それに対して、千賀子も……いや、祖母以上に、ギラギラとした熱気を放っていた。

 

 

「よりにもよって、怒髪天を突いた時の親父に似なくても……」

 

 

 その二人を尻目に、未だ絶句して停止したままの母と。

 

 変な所で祖父の気性が似てしまったと、血の繋がりを認識して嘆くしかない父の姿があった。

 

 

 

 

 

 ──そうして、場所は再び、おやっさん宅(本邸)。

 

 

 朝一番に連絡したおかげか、昨日と同じメンツが集まっていた。

 

 そして、昨日と同じく乱暴に腕を引かれ、昨日と同じ部屋に案内された千賀子は、昨日より明らかに不機嫌な様子の弁護士とテーブルを挟んで対面することになった。

 

 

「……まあ、いいでしょう。世間知らずなのは分かっていましたし、昨日の無礼な態度は水に流しましょう……そのかわり、分かっていますね?」

 

 

 さて、開口一番に弁護士が告げたのは、昨日と同じ契約書(譲渡の書類含め)と、追加の慰謝料が記された請求書である。

 

 

「また、警察沙汰になるのは、困るでしょう? あなたのお友達も、こんなつまらない事に首を何時までもツッコミ続けるわけにもいかんでしょ? なら、書きましょうよ、子供じゃないのですから」

 

 

 その言葉と共に、弁護士は──サッと、千賀子の眼前にそれらを突き出した。

 

 

「……なるほど、ナメられるって、こんだけコケにされるってことなのか。以前の私は、よくもまあこれでヘラヘラしていられたもんだ」

 

 

 それを見て、千賀子は──にっこりと笑みを浮かべると、手に取ったソレを破いた。それはもう、見せ付けるように、ゆっくりと。

 

 彼らにとって、予想外だったのだろう。

 

 弁護士もそうだが、前回と同じように脅しをしようとしていた男たちも、一瞬ばかりポカンと呆けた。

 

 

「──このガキぃ!! 女だからって甘く考えているんじゃねえぞ!!」

 

 

 だが、それも一瞬のこと。

 

 カッと怒りを露わにした男は、前回と同じく千賀子の髪を掴んだ──が、昨日と同じ事にならなかった。

 

 

「あっ、もう許すつもりないから」

 

 

 その言葉を言い終えるよりも前に千賀子の腕が、男の腕を叩いた──瞬間、ベキリと鈍い音を立てて、腕の間接が増えた。

 

 

「え?」

 

 

 ズブッと、皮膚を突き破って飛び出した白い骨は、血にまみれていた。

 

 

「それと、汚い手で触んないでくれない?」

 

 

 そして、その言葉と共に、男の指が頭から外された。

 

 その際、ぺきペキペキ、と指先の間接が全て逆に回り、骨の一部が皮膚より突き出た。

 

 これには、千賀子を除いた誰もが、目の前の光景を理解出来なかった。

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 巨大なハンマーで叩いたとか、爆発に巻き込まれたとかならともかく、千賀子の細い腕で軽く叩かれたかと思ったら、その腕がとんでもないことになったのだ。

 

 あまりにも非現実的な光景に、腕から出血している男も、腕が砕ける様を目の前にした他の人たちも、呆然するしかなかった。

 

 

「……、──っ、──っ!!?!」

 

 

 けれども、それも長くは続かない。

 

 それは、まさしく絶叫であった。

 

 人間は、これほどの大声を出せるのか……そう思わせるほどの大声は、直後に苦悶の色で満たされた。

 

 かつてない、激痛なのだろう。

 

 男の顔色は瞬く間に青白く、それでいて全身から一気に冷や汗が噴き出し……すぐに、声すら出せずにその場で膝をついて動けなくなった。

 

 

「なっ、なっ、なっ……」

 

 

 パク、パク、パク、と。

 

 酸欠に苦しむ近所のように唇を開いては閉じることしか出来ない者たちの中で、千賀子は笑みを浮かべたまま、優しい声色で告げた。

 

 

「この話は、貴方達の勘違いで終い。今後、絶対に蒸し返さない……それで、いいですね?」

「──な、何を言って……こ、これはれっきとした暴行だ! 傷害だ! け、警察に連絡を──」

 

 

 遅れて、ようやく我に返った弁護士の指示を聞いた一人が、慌てて踵をひるがえした──が、その足はすぐに止まった。

 

 

「ど、どうなっているんだ!?」

「開かないぞ!? なんでだ! この! この!」

「な、なんで!? どうして!?」

 

 

 何故なら、何時の間にか閉められた襖を、誰も開けられなかったからだ。

 

 そう、本来ならば鍵などないそれは、子供の力でも容易く開けられる。そうでなくとも、大人が蹴りを入れただけで溝から外れるぐらいなのに……誰も、開けられない。

 

 体重を掛けて、血管が盛り上がるぐらいの力を入れても。

 

 足首を痛めるぐらいに力を入れて蹴っても、体当たりしても。

 

 部屋の外に、廊下に出られない。誰かと大声を出して呼んでも、人が近付いてくる気配は皆無であった。

 

 信じ難い状況に、誰しもが困惑と混乱と……沸々と沸き起こり始める恐怖に、焦燥感を露わにし始めた。

 

 

「この話は、貴方達の勘違いで終い。今後、絶対に蒸し返さない。それで、いいですね?」

 

 

 そんな中で、千賀子だけは、先ほどと変わらず優しく……今の状況など関係ないと言わんばかりに、同じ言葉を告げた。

 

 

「お、お前か!? お前がなにかやったのか!?」

 

 

 そうなれば、必然的に疑惑の目は千賀子へ──だが、そこから更なる追及がなされることは、なかった。

 

 

「この話は、貴方達の勘違いで終い」

 

 

 何故ならば、たった今疑惑の目で千賀子を見やった……そう、昨日、千賀子の腕をテーブルに何度も叩きつけた男の顔面が、テーブルに叩きつけられたからである。

 

 

「今後は絶対に蒸し返さない、いいですね?」

 

 

 それも、一度だけではない。

 

 何度も、何度も、何度も。

 

 どういうわけか、男は両腕を高く伸ばしたまま抵抗しない。鼻が曲がり、歯も折れて、鮮血がテーブルに付着してゆくのに、ピンと腕を伸ばしたまま、されるがまま。

 

 

「返事は?」

 

 ──ゴッ!! 

 

「返事は?」

 

 ──ゴッ!! 

 

「返事は?」

 

 ──ゴッ!! 

 

「返事は?」

 

 ──ゴッ!! 

 

「……なるほど、返事をするつもりはない、と」

 

 

 年齢制限が無ければモザイクが掛かるような有様となった男をそのままに千賀子は、こほん、と一つ咳を入れると……改めて、ニッコリと笑う。

 

 

「この話は、貴方達の勘違い。今後は、絶対に蒸し返さない。おやっさんの親族だから、この程度で許してやっていることを忘れちゃ駄目よ? この期に及んで、おやっさんにやつ当たりするつもりなら……ね、覚悟しないとね、次は止めないからね」

 

 

 順々に、恐怖に引きつって動けなくなっている彼ら彼女らの目を見つめながら……っと。

 

 

「こ、こんな事をして、タダで済むと思っ──ぷひゃ」

 

 

 唯一、辛うじて強気な態度を崩さなかった弁護士の顔面に、千賀子は拳を叩き込んだ。

 

 神通力によって何倍にも高められた威力は、弁護士の鼻を曲げ、顔の骨を砕き、奥歯まで衝撃でヒビが入るほどで、弁護士は一発で意識が飛んだ──。

 

 

「焚きつけたおまえは、違うぞ」

「──ぎぃえええ!??!?」

「おやっさんを裏切ったおまえは、特に許さん」

「いだぃいだい、いだだあいいいいいあああ!?!?!?」

「泣こうが喚こうが、絶対に許さん。無事に済むと思うなよ、糞野郎」

 

 

 ──ところを、千賀子はその頬を抓って無理やり覚醒させた。

 

 

 意識が飛んだとしても、関係ない。ビキビキと、皮膚がちぎれて裂ける痛みに、弁護士にはもはや先ほどの強気は欠片も残っていなかった。

 

 そう、千賀子は既に、この騒動のきっかけがなんだったのかを、この場にいる全員より読み取っていた。

 

 おやっさんの親族は、事業に失敗したり投資に失敗したり、ギャンブルに注ぎ込んだり、分不相応の買い物をして借金したり……それはまあ、駄目だけど、千賀子としてはいい。

 

 許せないのは、この弁護士は、全てをわかったうえで……そう、正式な手順で千賀子の手に渡っているのを知っているうえで、此度のコレを焚きつけた。

 

 理由は、この弁護士が懇意にしている、とある企業との密約。要は、キックバックである。

 

 それを得るために、犯罪同然の方法で書類にサインさせようとしたり、弁護士という立場を使って警察を利用したり、千賀子から手放させようとした。

 

 

「──自分はここまでされるようなことはって? 何を言っているの、社会的に私を殺そうとしたでしょ? なら、覚悟しないとね、やりかえされる覚悟を」

 

 

 それを分かっているからこそ、千賀子は、この弁護士だけは欠片も許す気にはなれなかったし、この程度で終わらせるつもりもなかった。

 

 

「なんで、私があんたの考える相応の仕返しに合わせなければならないの? 骨の髄まで、自分が上から物事を決める立場にあると思い込んでなければ出ない考えね……ますます、やる気がでてきたわ」

 

 

 なにせ、終わらせるべきだろうという仏心も、弁護士の内心を読み取れば、自然と消えていくのだから……まあ、仕方がないことなのだ。

 

 

「そんなに、あの山が欲しかったのね……いいわ、それじゃあ、連れて行ってあげる。胸いっぱい、山の新鮮な空気を吸わせてあげる、私ってば優しいでしょ?」

 

 

 千賀子の前では、言葉だけの反省など無意味。今をやり過ごせばどのような反撃をするか考えている時点で、弁護士の末路は決まっていた。

 

 

「それじゃあね。そのうち、またおやっさんのお見舞いに行くから……ね?」

 

 

 その言葉と共に──千賀子と、弁護士が部屋から消える。

 

 後には、激痛に呻くばかりの男と、ピクリとも動けなくなっている男と……声一つ出せないまま、もう外に出られるようになった事にも気付いていない者たちが、残されたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 仮に、何もされなかった者たちが、心を奮い立たせて警察に駆け込んだところで、彼ら彼女らの望む形にはならない。

 

 何故なら、その時間、千賀子とまったく同じ姿形をした2号が、テイトオーに乗ってパッカパッカと大通りを歩いているからだ。

 

 表向きは、ダービー馬の湯治に来ているついでに散歩させている……といった感じである。

 

 競馬に詳しくない人でも、『ダービー馬』という肩書の元競走馬が近くに来ているとなれば、一目見ておこうと思うモノ。

 

 おかげで、千賀子のアリバイは完璧であり、目撃情報はそれこそ三桁を超える。

 

 そんな中で、熱心に被害を訴えれば……逆に、頭がおかしくなっているのではと疑われるぐらいで、下手しなくとも、『先日のアレも、もしや妄想の……』という罠を千賀子は張っているのであった。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 その時の被害届を出す際に動いた弁護士がいたなら少しは話が違ったのかもしれない……が、しかし。

 

 仕事で遠方に向かうという伝言を残して連絡が取れなくなっているため、被害を訴えれば訴えるほど、逆効果になるようになっていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………なお、この日より、しばらく後。

 

 

 夜の山の麓にて、『出られない、出してくれ、お願いだ、出してくれ』と訴える幽霊が現れるという怪談話が生まれるのだが、真偽のほどは定かではない。

 

 それも、日を追うごとに増えているという噂も広まったが、それもすぐに無くなった。幽霊の目撃情報が、一つも現れなくなったからだ。

 

 それが、とある企業の役員の集団失踪の後だということに……気付く者は、一人として現れることはなく。

 

 失踪事件は少しばかり世間を騒がせたが、『夜逃げでもしたのだろう』という噂が流れるとあっという間に鎮静化し……昭和の時代の中で、ひっそりを忘れ去られたのであった。

 

 

 






※ 女神様が動くよりマシ案件
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