ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第96話: 誰もが知らなくても良い事

 

 

 

 お話が聞いたのか、それとも別の理由なのかは不明だが、あの後におやっさん達の親族が来ることはなかった。

 

 なので、千賀子の方から親族にいくらか()()()を兼ねて支払うことにした。

 

 千賀子としてはおやっさんの面倒を見ても良かったのだが、さすがに、そこまですると千賀子の一方的な身勝手だ。

 

 金に困って凶行に走ったとはいえ、親族の中には、ソレはソレとして、おやっさんの面倒はちゃんと見ると考えている者もいたので、それはちゃんと尊重するべきだと千賀子は思った。

 

 なので、千賀子としては、そのお金はおやっさんの面倒を見る資金として渡したつもりなだけで、他意はまったく無かったのだが……どういうわけか、滅茶苦茶怯えられてしまった。

 

 最初は千賀子の登場に怯えていたが、千賀子がお金を出したあたりで、よりいっそう怯えが酷くなった……心を読んでも恐怖でぐちゃぐちゃなので、結局分からないままとなった。

 

 ……さて、そんなこんなで、『山』の騒動はひと段落となったのだが……ここで、問題とまではいかないが、気になる事が一つ生まれた。

 

 それは、大阪万博が開かれた……との関係はなく、今生では『明日!? 上等!!』とかいう名前で連載されているボクシング漫画キャラの追悼式《ついとうしき》……とも関係ない。

 

 

 そう、まったく別の事。

 

 

 宗教法人として無事に登録されたわけだが、どういうわけか、見慣れぬ人たち……それも、東京の人と思われるスーツ姿の者たちが、チラホラ目撃されるようになった、ということだ。

 

 単純に何処そこの会社の人が出張に来ているだけ……と言われたらそんな感じだが、どうやら、そうでもない。

 

 現代の都会人にはあまり想像がつかないだろうが、この頃の地方というのは、現代よりもはるかに住民同士の関係性が強く、ぶっちゃけるとだいたい顔見知りである。

 

 そんな場所に、特定の会社に出入りしている様子もなく、何をしているのか分からないまま様々な場所で目撃されているとなれば……まあ、目立つわけだ。

 

 なにせ、その者たち……見た目はそんな感じでも、誰一人として名刺を受け取った者がいないばかりか、何処そこの会社に出入りしているといった目撃情報が皆無なのである。

 

 

 ……そんな目立つ人たちが、なにやら聞き込みをしている。内容は、『神社を探している』というもの。

 

 

 これが老人であったならば、まだ分かる。信心深い者なのだろうと思えるから。

 

 しかし、探している者たちは比較的若く(年配の者もいるけど)、わざわざ遠くから足を運ぶほどには見えず……言い方は悪いが、そこまで関心がなさそうにすら見えた。

 

 ただ、『仕事の一環』ということで、本気で探しているのは窺い知れた。

 

 だって、茶菓子(けっこう高級)を手土産に、片っ端から住宅を訪問して、何日も何日もかけて聞き込みをしているのだ。

 

 そう、観光地や観光名所なんて無いここには、ホテルや民宿なんてモノはない。

 

 だから、毎日毎日朝早くからやってきて、日が暮れるたびに県外に出て行くわけで……いったい、どんな仕事なのだろうかと誰もが首を傾げていた。

 

 神社なんて、それこそ役所に聞けばすぐに分かるのに……どうやら、役所の記録にすら残っていない、地域住民しか覚えていない、既に廃棄された神社すらも探しているようなのだ。

 

 仕事で探すにしても、とんでもない力の入れようである。仕事でなくとも、もはや道楽レベルの金の使い方である。

 

 そのうえ、客としてちゃんといろんな場所にお金を落としてくれる。不審な目で見る者はいたが、金払いはちゃんとしているので、邪険に扱われることは、今のところはなさそうであった。

 

 

『──と、いうわけなんだけど、話しても大丈夫かしら?』

「なんか怪しいから、知らないとだけ言っといて」

『そう? それなら、そうしとくけど、もしも向こうが調べたうえで聞いてきたら、どうしたらいいかしら?』

「神主である私が宗教上の理由で隠していたとでも言っといて。娘が誰にも言うなと厳命したと付け足せばいいから」

『分かった、そうします』

 

 

 ──それを家族より聞いた千賀子は、とりあえず、家族の他に、明美たちと道子たちにも口裏を合わせておくようお願いした。

 

 

 なんとなく、直感的に、知られたらけっこうな面倒事に発展しそうな気がしたからで、知らないままの方がお互いに良いだろうと思ったからだ。

 

 そのおかげか、今のところ、『山』にその人たちが来る気配はない。

 

 今後どうなるかは分からないが、神社の事がバレる可能性は低いだろう。

 

 なにせ、『山』の中がどうなっているかを知っている者は少ない。

 

 元の持ち主であったおやっさんが調べた限りでは、そんなモノは見つかっていないし、『神社』の存在も知らない。

 

 かなり昔におやっさんに、『神社』ができる前にあった『壊れた社』の事を話した覚えはあるけど、それは千賀子が中学生の頃の話だし、今のおやっさんはすっかりボケてしまっている。

 

 その際、たまたま近くにいた当時の従業員にも少しばかり話が伝わったけど、覚えている者は皆無だろう。

 

 その社があった場所までは話していないし、その時は誰も気に留めていなかったし……仮に覚えていたとしても、山の中をしらみつぶしに探すようなことはしないだろう。

 

 それに、だ。

 

 山の中すら把握出来ている者なんて千賀子以外いないのに、奥深い場所にある『神社』の存在を知っている者は、本当に数えられる程度しかいない。

 

 だからまあ、特に千賀子は不安を覚えることなく、それよりも重大な用事が出来たので、その話はそれで一旦終いにしたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、なんの用事なのかって? 

 

 

『ねえ、千賀子の知り合いにさ、腕っぷしの良い人とかいないかしら?』

「腕っぷし? 唐突に、なんでまた?」

 

 

 それは、明美から掛かってきた電話から始まった。

 

 内容は、まあ、色々と複雑で……簡潔にまとめると、だ。

 

 どこからか流れて来て町中の何処かに住みついているらしい乞食(こじき)が、どうにも子供たちから小遣いを取り上げているらしくて困っている……とのことだ。

 

 千賀子の前世でいえば、ホームレスというやつだ。

 

 この頃はまだホームレスなんて言葉はなく、そういう者を乞食だとか浮浪者だとかルンペン(ドイツ語で、浮浪者の意味)だとか呼んでいた。

 

 意味合い的には表面の言葉を変えただけで、実体や向けられる感情は欠片も変わっていないどころか、はぐらかしているだけなのだが、とにかく、この頃はそう呼ばれていた。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 それなら警察に行けば良いのではという話だが、複雑なのは、ここからだ。

 

 まず、その乞食だが、子供から取り上げる(つまり、強奪)金額があまりに少なすぎるせいで、警察も動きにくいらしい。

 

 やっていることは、窃盗や恐喝ではある。

 

 パトロールの回数を増やしてはくれているらしいのだが……言ってしまえば、被害は子供の小遣いだけだ。

 

 直接的な暴力を振るわれたわけでもないし、襲われたという人もいないので、それが現時点で出来る対策の限界なのだとか。

 

 そして、その乞食……どうも、傷痍軍人(しょういぐんじん)らしく、腕に包帯を巻いて、三角巾でこれ見よがしに吊り下げているらしい。

 

 

 ──傷痍軍人とは、戦争などで障害を負った軍人のこと。

 

 

 この頃は見掛ける頻度こそ減っているが、まだ、都会の駅などで物乞いをしている姿が目撃されていたりする。まあ、とある目的からそうしている者も……話を戻そう。

 

 

 そう、問題なのは、そこだ。

 

 

 あくまでも自称ではあるが、もしも事実ならば、警察としてはあまり強く出られないらしい。

 

 それは一般の人達も同様らしく、有志の者が見回りしてくれているらしいが、極力近づくな、見掛けたら逃げろ、そう言うだけで、それ以上の事は消極的なのだとか。

 

 つまり、被害額が少額で、直接的に怪我を負わされた者もおらず、傷痍軍人で、乞食……現場を抑えたならばともかく、そうでもないのに注意するには、どうにも……とのこと。

 

 

 ──とはいえ、そんなのは当の子供たちには関係ない。

 

 

 被害額が少額だとしても、子供にとっては大金である小遣いを奪われるのは辛いことだし、今後もそれだけで済む保証は何一つない。

 

 中には『顔を覚えたからな』と脅された子もいるらしく、明美の弟の明くんも、『おまえ、銭湯の息子だろう?』と声を掛けられたらしい。

 

 おかげで、外に出るのを怖がる子供が出始めているらしく、明くんにいたっては、『自分のせいで、アイツが家に来たらどうしよう』と落ち込んでいることが多くなった……とのことだ。

 

 

『道子にも相談したんだけど、『さすがに、警察の意向を無視して動けない』って言われちゃって……ねえ、千賀子の方では、なんとか出来そうな伝手ってない?』

「う~ん、私を頼ってくれたのは嬉しいんだけど、どうして私に?」

『いや、だって、千賀子ってすごい不思議な人脈をもっているじゃん? もしかしたら、解決出来そうな人を知っているかなって』

「さすがに、そこまでの知り合いはいないかな」

『そっか……まあ、それもそうか。でも、明が本当に怖がっちゃってさ……さすがに、私も1日中一緒にいるわけにも行かないし、あんまり学校を休ませるわけにもいかないし……』

 

 

 巫女としての能力が仮に無くとも、声色からして困っている……そのうえ、不安なのが察せられる。

 

 実際、困っているのだろう。加えて、不安なのも分かる。

 

 この頃は現代に比べてはるかに軽犯罪が多いが、それでも、小学生から金を巻き上げるのは年齢問わず白い目で見られる。

 

 それを、その自称傷痍軍人は行っているのだ。それも、明確な脅しをして口封じまで……なのに、警察が頼りにならないときた。

 

 そりゃあ、困るし不安になって当たり前である。なにせ、相手は失う物などなにもない。

 

 その時ばかりはスカッとしても、夜間に放火してくる可能性だってあるし、最悪の凶行に走る可能性だって考え過ぎではない。

 

 

「……まあ、ちょっと知り合いに当たってみるよ」

『ごめんね、こんなお願いして』

「いいよ、気にしないで。よく考えたら、うちの家だって他人事じゃないかもだし」

『……ありがとう。こっちの方でもなにか進展があったら連絡するから』

 

 

 とりあえず、千賀子はそう言って明美との通話を切ると……『巫女服』に着替えて、早速その自称の人が出没するらしい辺りへ向かった。

 

 通常、住所どころか名前すら不定の人物を探すのは並大抵の作業ではない。

 

 しかし、千賀子の場合はそうではない。

 

 『サラスヴァティー』と『ククノチ』の権能を応用すれば、人探しなど朝飯前。たとえ相手が警察の目から逃れるために隠れ潜んでいたとしても、まったく問題ではないのだ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 今日はまだ警戒しているようで、山の麓の草陰の木陰にてグウグウと昼寝をしている例の男を、空の上より見付けた千賀子は、そのまま男の内面を読み取り──。

 

 

「……本当に、ただの自称じゃん」

 

 

 ──その、あまりにもあんまりなデタラメ具合に、思わず乾いた笑いがこぼれた。

 

 

 なにがどうデタラメなのかって、全てだ。

 

 まず、この自称傷痍軍人の男……幼少の頃からして自分が得をするためなら平気で嘘を付くし騙すし盗むし暴力を振るうしで、親からも見捨てられ、地元では相当に嫌われていたようだ。

 

 また、そもそもの話なのだが、この男は軍人経験が……あ、いや、いちおうはあるらしいが、実態はただ訓練を受けただけ。

 

 いざ戦地へという直前で終戦を迎えたらしく、まともに銃を撃った経験すらないし、訓練も第二次末期も末期なので、付け焼刃程度のモノ。

 

 戦後は元軍人ということで同情を誘って仕事に就いたまでは良いのだが、生来の性質はまったく変わっていないので、何処に行っても最後はトラブルを起こして職場を去っている。

 

 しかも、ただ去っているだけではない。

 

 どうやら、当人曰く『別れの駄賃』というやつで、金目の物を

 

 少しばかり盗んでは、次の職まで食いつなぐ……というのを繰り返していたようなのだ。

 

 

 ……戦後のドタバタは、とにかく人手が足りなかった。

 

 

 多少身元が不詳だったり経歴に傷が付いていても、選ばなければ仕事は山ほどあったし、次から次に渡り歩くことができていた──が、それも、東京オリンピックが終わるまで。

 

 その頃になると、さすがに雇う側も身元をある程度調べるようになる。いわゆる、履歴書の提示を必須にし始めるわけだ。

 

 とにかく人手が欲しいところはまだまだそうでもないが、それでも、そういう業界は横の繋がりが非常に強い。

 

 と、なれば……必然的に、この男の悪評がその業界の中で認知され始めるわけで……そうなれば、転がり落ちるのは早い。

 

 ただでさえ門前払いどころか警察を呼ばれかねないような立場だったのに、これまで頼みの綱だった業界からも爪弾きされるようになれば……結果が、これである。

 

 

(腕の包帯も小道具で、人前では足を引きずるようにして歩くけど、実際はただの演技……ここまで外道だと、もはや対話は不可能ね……)

 

 

 するり、と。

 

 空より降り立った千賀子は、グウグウといびきを掻いている男の傍へと向かい──風下ゆえに、漂ってくる悪臭を嗅ぎ取り、少しばかり顔をしかめた。

 

 

 ……そりゃあ、そうだ。

 

 

 まともに風呂に入れないばかりか、見つかるのを恐れているから、身体を身綺麗にするために川にも行かない。

 

 おかげで、相当な悪臭である。元々、そういうのが平気な性質でもあるから、余計に。

 

 相手が本当に傷痍軍人で、困窮するあまりこうなってしまったのであればまたしも……少なくとも、千賀子にとっては害しか与えない存在にしか見えなかった。

 

 

(……でもまあ、明くんも怖がっているし……そもそも、こいつがこうなっているのはガチで生来の性格が原因だしなあ……)

 

 

 というか、既に害を与えられている状態であった。

 

 

(あ~……ヤバイな、この人。ヤクザの顔にも泥を塗ったの? 隠れているの、これは警察だけが理由じゃないな……あ~、駄目だこりゃ、放っておくと、どんなとばっちりを受けるかわかったもんじゃない……)

 

 

 千賀子自身は何もされていないが、既に友人(の、家族)には手を出されているし……面倒を見る義理もなければ恩も無いし、同情する点も全く無い。

 

 そう、普通の人とは違い、千賀子は相手の心も読み取れる。

 

 この男は騙した相手への罪悪感はおろか、子供に暴力を振るうことにも欠片の罪悪感を覚えない。あるのは、あくまでも己だけ。

 

 実際、この男が原因で死を選ぶほどの心の傷を負った者はいる。

 

 そして、この男はそれを知ったうえで、『あ、死んだの?』としか思わない人間であり、なんなら、死ぬ前にもう一回やっておきたかったなとすら考える人間である。

 

 そんな男が、直接その手で人を殺していないのは、そういうタイミングが合わなかったからなのと、人を殺せば警察が本気で捜査を始めるからで、そうなれば最悪極刑……という、自己保身の結果でしかない。

 

 言い換えれば、利益を得られて、警察などにバレないと確信が持てれば、この男は一切の躊躇(ちゅうちょ)なく手に掛ける……たまたま人を手に掛けていないだけの人間というわけだ。

 

 

(……じゃあ、仕方ないか)

 

 

 そう、これはもう、仕方ないなと千賀子は諦めた。

 

 

(こいつの面倒見てくれる人なんていないし、今ですら大して金を持っていない子供の事で苛立っているっぽいし……ていうか、コイツ、マジで色々と調べているっていうか……明美のことも犯してやろうって思っているのか……なら、いいや)

 

 

 そう結論を出した千賀子は……『ククノチ』に変身し、その指先よりニョキニョキと鈴蘭《スズラン》を咲かせると……それを、男の口元に伸ばしたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………明くんを含めた、地元の子供たちの顔から不安が消えたのは、この翌日からであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、それからまた、少しばかり時が流れた頃。

 

 

「──ああ、秋山さん、お待ちしていました。ひとまず、中で休まれますか?」

「いえ、大丈夫です。先に、ハマノパレードの様子を見せて──っと、これ、お土産です」

「おお、これはご丁寧に──いや、これは、菊の形が綺麗ですな、こんな綺麗な和菓子は始めて見ました」

「なんでも、万博で開かれた和菓子の品評会で大賞を取ったやつらしいです。みんなで食べてください」

「重ね重ねすみません、良いお話というわけでもないのに……ありがたく、ちょうだい致します」

 

 

 場所は、北海道。

 

 前回訪れた時とは違って雪もすっかり溶けて、本州よりもかなり涼しい夏の暑さを感じる……そんな時期に千賀子は……茶菓口《さかぐち》調教師に挨拶をした。

 

 千賀子が訪れた理由は、千賀子が購入した『ハマノパレード』のこと。

 

 成長するにつれて相当な悍馬《かんば》(暴れ馬、制御しにくい、気象の荒い馬のこと)になったらしく、今後の事で相談したいと連絡があったからだ。

 

 場所が場所なので、出来るならばという話だったが……千賀子の場合は移動費0円なので、特に困ることはない。

 

 いちおう、道子には話を通しているが、必要になりそうならまた後で連絡するということにした……で、だ。

 

 

「……は~、なるほど、たしかに、中々の暴れっぷりですね」

「はい、ご覧の通り……色々と手を尽くしてはいるのですが……」

「でも、小柄で華奢な分だけ、とても軽快ね。今にも馬房の柵を飛び越えそうだわ」

「はは、そう言ってもらえると……あの──」

「大丈夫、金を返せなんて言わないから。そういうのもわかったうえで買い取ったのだから」

「……重ね重ね、申し訳ありません」

 

 

 深々と頭を下げる茶菓口調教師に、千賀子は苦笑いで済ませた。

 

 興奮状態……というほどではないが、馬房にてドッタンバッタンと落ち着きのないハマノパレードのその姿は、確かに茶菓口調教師が不安を覚えるのも致し方ないものであった。

 

 と、いうのも、だ。

 

 競走馬という性質上、負けん気の強さはけしてマイナスではなく、むしろプラスに働く場合が多く、関係者からもそのように評価をされやすい。

 

 とはいえ、騎手の命令を聞かなかったり、日常の世話すら難儀するレベルの気の強さともなれば、話が変わってくる。

 

 上手く制御出来たなら良いのだが、そう簡単な話ではなく……最悪、競走馬としての最低限の基準(ゲートをちゃんと通れるか、など)をクリアできないともなれば……というわけだ。

 

 

「……とりあえず、中に入らせてもらうわね」

「え!? や、そりゃあ、危ないですよ!」

「大丈夫、大丈夫」

 

 

 だって──チラリと、千賀子と目が合った小柄な馬──ハマノパレードは、それまでの暴れっぷりが演技だったかのように、ビクッと震え──おとなしくなった。

 

 

「動物はやっぱり、上下関係を教えてからだから。こういうのは、最初が肝心だもの」

 

 

 けれども、千賀子は──にっこりと笑うと、出入り口を封鎖している柵に手を掛けたのであった。

 

 ちなみに、柵に手を掛けた瞬間、ハマノパレードはプフフンとちょっと震えた感じの鳴き声をあげたりしたが……動揺した茶菓口調教師の耳には届いていなかった。

 

 

 

 

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