ビューティダンガンロンパ女学園 咲き誇る花園と這い寄る絶望   作:カセットコンロォで焼いた豚

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第一章⑨

「あの、昨日の夜20時頃は何をされていましたか?」

 

 車田さんに見送られた後、取り敢えず食堂にいる人にもアリバイを聞くことになった。密室の謎は解けないので、凶器を持ち出せる人間を絞る方向で犯人を特定する。伽前さんの案だ。本当にすごい。

 

 伽前さんは今、三山さんに話を聞いている。対して私は―――

 

「ん?誰だっけ」

 

 ―――松風さんが不思議そうに聞き返す。まさか本当に忘れられている……!?ちょっと悲しいけど、話を聞くためにも名乗るしかないよね。

 

「霧ヶ原です。"それなり"の……」

 

「冗談、そんなに真面目に答えんなよ。んでワタシ様が昨日の夜何やってたか、だっけ。そんなの自室にいたに決まってるでしょ。アイツ以外頼れるやつもいないし」

 

 アイツと言い指をさしていたのは三山先生だった。本当に、いつの間に距離を縮めたのやら。

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんだよ!それ以上に何もないって!」

 

 取り敢えず松風さんの証言が正しいのであればアリバイは無いと思うけど……。

 

 視点はブレブレ、冷や汗はかいてるし顔もちょっと青い。完全になにか隠してそうな顔をしていた。

 

 しかしここで言及しても素直に答えるとは思えないので「ありがとうございます」とだけ言い残して引き下がることにした。

 

 

 

「戛戛さん、昨日の夜20時なんですが……」

 

「ああ、その時間帯は黄楊のヤツと話していたでござるよ。まぁ話していたというよりも言い争いだったけど……」

 

「ちなみに場所は?」

 

「ランドリーでござる。たまたま出くわしたが空気が最悪だったから、話題を振ったら馬が合わなくて結局喧嘩になったでござるよ」

 

「な、なるほど」

 

 喧嘩はともかく、20時のアリバイはあるってわけだ。一応黄楊さんにも確認はしなきゃだけど。

 

「ありがとうございました」

 

「ん、別に感謝されることでもござらん。調査も何もしてないんだからな。正直拙者のようなチビが動き回るのは邪魔になるだけでござるよ」

 

「……」

 

「なんて、ただサボるための口実でござるよ」

 

 おちゃらけた雰囲気でそう言う戛戛さんは、やっぱりどこかもどかしそうだった。

 

 

 

「そっちはどうだった?」

 

 食堂を出て伽前さんと情報共有をする。

 

 伽前さんいわく、三山先生は20時も食堂にいたそうだ。でも誰かを見かけたとかそういう事は無かったらしい。

 

「ゲームのアイデアに集中してたらしいわ。周りが見えなくなるなんてすごい集中力ね」

 

「天才ってやつ、ですね」

 

 天才といえ一言で片付けるのはあまり好きではないが、そうとしか言い表せない。あの人は、正真正銘の天才だ。

 

「じゃあ一旦二手に別れましょう。残りの時間も分からないから急がないと」

 

「はいっ!じゃあ私は校舎の方に行きますね!多分そっちに残ってる人もいると思うので」

 

「わかった。私はこのままこっちで調べるわ。あとで共有する」

 

 

 

 

「ん?うちは20時は購買部で色々と漁っとったよ。そこの入蠱を誘って」

 

「あ、はい、そうです。面白いものがみ、みつかるかもって……誘われましたっ!」

 

「な、なるほど」

 

購買部を覗いてみるとそこには中谷さんと入蠱さんがいた。話を聞く限りこの2人はアリバイがありそうだ。

 

「あっ、今『私たちはアリバイあるし犯人から外そう』とか思っとる顔しとったね。甘い!純愛ラブコメ並に甘ったるいばい!」

 

「よくわからない例えは置いといて……何が甘いんですか?」

 

 中谷さんは丸メガネをクイッと上げ、右手を前に突き出す。

 

「私たちが共犯の可能性を捨てようとしとったばい!」

 

「「!」」

 

 入蠱さんと私が顔を見合わせる。

 

「い、入蠱さんそうなんですか!?」

 

「ちちち、違いますっ!」

 

「えっ!違うんですか!?」

 

「違うんです!」

 

「違うのが違うんですかっ!?」

 

「ち、ちが……違いますってぇー!」

 

「まぁまぁ落ち着いて。あくまで可能性の1つたい」

 

 苦笑いで中谷さんが止めに入る。なんとか冷静になり、再び質問を続けれる状態まで落ち着いた。

 

「あの、ついでに聞いておきたいのですが、お二人の『超高校級の才能』を教えていただけますか?」

 

「……今必要〜?」

 

 少し空気がピリつく。中谷さんは笑っているが、目は全然笑っていなかった。入蠱さんもいつも通りに見えるが、しかし普段よりも警戒しているようだった。

 

「必要です。もしかしたら密室トリックに関係する才能かもしれませんし」

 

「……」

 

 長い沈黙だった。空気が重苦しくて「言いたくないなら言わなくて良い」という事すら口に出せそうに無く、ただただその場に立ち尽くすことしか出来ない。

 

「……なーんてね!別にそこまで隠す才能でもないばい!教えちゃる教えちゃる!」

 

「ほんとですか!?」

 

「あ、すみません……私は、その……まだ覚悟が……」

 

「あ、いえ、私が無理を言っているだけなので」

 

「……でも、この事件に関係はしてない、です。それだけは言えます。この才能も、使う機会は無いですし」

 

 自嘲気味に言っているが真剣だった。簡単に信用すべきではないのに、信じたくなるほどに。

 

「えっと、うちの才能は『超高校級の探偵』!」

 

「「た、探偵!?」」

 

「あぁでも待って!うちは殺人は管轄外やけん!うちは風俗犯……特に"未成年の性犯罪"をメインに探偵をやってるけん、役にはたてんのよ。DSCは690だし」

 

 DSCがどーとかはよくわからないが、取り敢えず管轄外というのは十分に伝わった。でもまさかホンモノの探偵に出会えるだなんて……。

 

「一応女学園(こっち)の方の性犯罪の監視も兼ねてスカウトされたけど、こんな事態になっちゃどげんもこげんもなかけん……とにかく、謎を解いて黒幕を見つけて、さっさとこんなところ脱出ばい!」

 

「あの、管轄外ってのはわかってるんですけど推理とかに手を貸してくれたりしませんか……?」

 

「うちは別にいいとよ?でも、そうやって安易に信用しすぎるのはやめといたほうがいいよ。うちらの中の"誰か"が殺したってのは事実やけん」

 

「……そう、ですね。自分で考えてみます」

 

「うんっ!さっきはああ言ったけどうちも考えてはみるけんね!」

 

「わ、私は何もできないです、けど……お、応援してます!あ、あと、は、犯人じゃないってだけは、言えます!」

 

 二人に激励されながら購買部を後にする。ちょっと話し込んでしまったから急がないとな。

 

 

 

 

「ああ、私は戛戛と口論してたね、ランドリーで。でもまさかファングスタが死ぬとはね。しかもそんな死に方とは……。流石にテンションも上がらないし苛立ちさえ覚えるよ」

 

 玄関ホールの、鉄の蓋にもたれかかる黄楊さんにある程度現状を説明すると、相当落ち込んでいた。やっぱりみんなそれぞれ思うところがあるのだろう。私は『解決しなきゃいけない』という使命感に駆られているが、いざこれが終わったら……いや、今は目の前に集中だ。

 

「ありがとうございました」

 

「おや、それだけでいいのかい?」

 

「まぁ、今はみんなに聞いて回っているので」

 

「そうか、引き止めて済まなかったね。ただ1つだけいい情報を共有しておこうと思って」

 

「……?」

 

 黄楊さんは鉄の蓋から離れ、私の耳元で囁く。

 

「会話の節々から感じた限りだと今朝死んだと思ってるっぽいけど、もしかするとファングスタが死んたのは『今朝じゃない』かもしれないよ」

 

「えっ……!?」

 

「私はそこまでしか教えない。可能性の押しつけは偏った思考への誘導になりかねないからね。そっちはそっちで頑張って調査してくれたまえ」

 

 左手をひらひらと振りながら去っていく。死んだのは『今朝じゃない』かもしれない?どういうこと?訳が分からない。

 

 私はつっかえた謎を放ったまま、他に人がいないかを探しにさらに進んだ。

 

 

 

 

「……こっちはこれ以上誰もいない、か」

 

 体育館まで行き着いたがそれまでに誰ともすれ違わなかった為、他の人は全員寄宿舎にいるのだろう。一旦戻るか。

 

「……ん?」

 

 引き返そうとした時だった。体育館の入口横に何かがおいてあった。

 

「タオル……と、この水筒は西田さんのですね」

 

 水筒を持ってみると思ったよりも軽く、中が空っぽなのがわかった。ちなみに久岡さんと西田さんの水筒は同じものだが、久岡さんの水筒は落としたりぶつけたりで傷まみれになっているので西田さんのというのがわかった。

 

「でもこのタオルは誰のでしょうか……」

 

 いつも久岡さんが使っているのは赤のラインが入ったもの、西田さんは黄色だ。しかし、このタオルは黒のライン。あの2人はいつも洗って毎日同じタオルを使っているはずだから、別の人のものか、それとも……。

 

 そう考えている時だった。急にアナウンスが鳴り始める。まさか……っ!

 

 

 

『あーあー、聞こえる?そろそろ待ちくたびれ過ぎてしなしなだからさ……始めちゃおうよ、始めちゃうよ?始めますよ!

 

 お待ちかねの!学級裁判!

 

 学校エリア1Fにある赤い扉の先に集合ね!来なかったらおしおきが待ってるよ!

 

 ひさびさでどっきどきの学級裁判……ワクワクしちゃうね!』

 

 

 

 それは、愉快な殺意の言葉だった。

 

「まだ情報共有ができてない……!しかも、証拠だって足りないのに!どうしよう……どうすれば……!」

 

 いや、考えても仕方がない。ここに立ったままだと処刑(おしおき)がやってくるだけだ。私は覚悟も決まっていないおぼつかない足取りで、地獄を目指した。

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