ビューティダンガンロンパ女学園 咲き誇る花園と這い寄る絶望   作:カセットコンロォで焼いた豚

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第一章 エピローグ

 その無残な光景を見た後、私を含め各々モノクマに罵詈雑言を飛ばしていた気がする。しかし、アレの衝撃が大き過ぎて、何も考えず怒鳴っていただけだし、もちろん内容を覚えているわけでもない。

 

 学級裁判が閉廷してから結構な時間が経ち、現在時刻は19時。予定していたパーティは行われていないし、そんな事を口にする人は一人もいなかった。

 

 眠くもないのに、自室の床に寝転がっている。他のみんなはどうしているだろうか。

 

 くよくよしていては顔向けも出来ない、それは分かっているがいきなり元気を出せと言われても無理だ。人は殺されたら死ぬし、殺した人も死ぬ。現実だってそうだけど、でもそれは私たちのような女子高生の日常とは程遠い話であって。それが日常を侵食してきたら、こんな反応になってしまうのも無理はないはずだ。そして、今の私のように正当化しようとするのも、許されるはず。

 

「――――あ」

 

 インターホンが鳴る。正直今は誰とも会いたくないし、誰とも話したくないのだけど……申し訳なさが勝ってしまったので、起き上がり扉へと歩く。

 

「大丈夫?」

 

「あっ、伽前さん……」

 

 扉を開けた先には伽前さんがいた。今でこそ心配の気持ちは伝わるけど、彼女の表情の無さはこういう時ミスマッチだな。

 

「ご飯食べないの?もう食堂閉まるわよ」

 

「あっ、えと、じゃあ……食べます」

 

 伽前さんに促され食堂に向かうと、そこにはみんながいた。

 

「これは……?」

 

「全員、晩ご飯が今からなのよ。さっきまで呆けてたらしいわ」

 

「そりゃああんなんの後やからな、オレでも元気はなくなるわ」

 

「ウチも。でも、そげな状態でも晩ご飯作ってくれた亜弥には感謝やね」

 

「ううん、私ができるのはこれぐらいしか無いもの。それに、みんなのご飯がなくちゃ申し訳ないでしょ?」

 

「あはは、完全にお母さんじゃん。スケバンっぽさゼロばい」

 

「それは褒め言葉として受け取っていいのかしら……」

 

 気を紛らわすように、憂鬱を取っ払うように、元気な空気を作るために、皆が今までと同じ明るい会話を繰り広げる。でも、状況は最悪だ。心の底では他のことを考えているのは容易に分かる。

 

「よし、全員揃ったから食べるぞ。ワタシ様は待ちくたびれた!」

「耀ちゃん、箸が逆さだよ」

「こっ、これはワタシ様なりのジョークだ!いつも通り、へージョーシンだから、大丈夫だ!」

「……うん、そうだね。食べよう」

 

 松風さんも気を遣っているのはわかる。彼女の合図で各々が食事をスタートするが、その箸は重かった。

 

 特に酷いのは久岡さんだ。目も赤く腫れ、頬には涙の跡が残っている。彼女は私が知る限り、この場で一言も話していない。仲が良かったのだから仕方がないだろう。

 

 ……じゃあ私は?

 

 西田さんがあんな目にあったのに、客観的に評価して、自分は悲しみも怒りもしていない。こんな薄情な人間だったっけ。それとも、感覚が麻痺しただけ?

 

「あ――――違う」

 

「……?どうしたの、霧ヶ原」

 

 思わず箸をカランと落とす。

 

「違う、違う……違う違う違う違う違う!」

「落ち着いて霧ヶ原!一旦止まって!」

 

 何も思わないんじゃない、感覚が麻痺してるわけでもない。私は目を背けていただけだった。

 

 それを思い出した、それを知った、それに気付いてしまった。

 

 彼女を殺したのは、彼女を追い込んだのは……私だ!

 

 

「わた、私じゃ、ない……ちがう、ちがうの……」

 

 頭を押さえ嘆く私の元へ黄楊さんが近づき、背中を擦ってくれる。

 

「深呼吸だ、霧ヶ原。だいたい察しがつくから言わせてもらうと、それは正しい。悪いのはキミではなく、私達だ。

 どうせ自分が彼女を死に追いやったとでも思っているのだろう?おこがましいよ、それは。この生活を強いるモノクマが、フィングスタを殺しそれを隠しきれなかった彼女自身が、そして暴いた私たち全員が彼女を殺した。悪いのは君じゃない」

 

「……こればかりは黄楊殿と同じ意見でござる。無論、あのまま彼女の罪を公にしなければ死んでいたのは拙者たち。だがしかし、生きるために殺したというのも事実でござる。拙者は、霧ヶ原殿が一人で抱えることは無いと思うでござるよ」

 

「あれ〜?勝手にウチらも悪者にされてるけどさ、少なくともウチは悪いと思っとらんよ?それこそ戛戛の言う通り生きるためにやっただけだし。悪いとするなら彼女とモノクマ……とウチは思うよ?」

 

 心外だと言わんばかりに中谷さんは口を挟む。しかし彼女もまた、私を責めているわけではないようだ。

 

「オレもどっちかって言うとそっちやな。アイツがルールの下で殺人を犯したんなら、オレ等もルールの下で戦っただけや」

 

「どっちかって言うと……ってことは、ウチの意見に完全に賛成しとるわけや無いと?」

 

「ああ、だってルールに従っただけやろ?西田にも罪は無いって。ルールに従って脱出しようとして、ルールに従って死んだ。ソレだけや。悪いっちゅー話なら、その極悪非道なルールを作ったモノクマやろ」

 

「それだと死んだファングスタさんが報われないと思う。けど、私としてはそこは些細な問題。死者の無念ほどエゴが介入するものは無い、と思う。

 

 善悪を前提に考えないで、敵か味方かで考えればいい。悪を敵とみなすなら、それも答えだと思うけど。少なくとも私はみんなの味方でありたいよ」

 

「集団における価値観の相違は避けて通れない道だ。しかし今話すことでもなかったね、脱線するような言い回しをしてすまない。でも、それで霧ヶ原が少しは落ち着いたようだし何よりだ」

 

 どうやら、呆然と皆の考えを聞いているうちに、心も落ち着いていたらしい。改めてみんなに感謝を伝え、席に正しく座り直す。

 

 みんなにもそれぞれ思うことはあるんだろうし、今聞こえたのはそれのほんの一部に過ぎないだろう。でも、少なくともここの皆は私を肯定してくれた。それだけでちょっと嬉しくなった。

 

「あっ!みなさん、時間がヤバいですわ!」

 

「わ、わわわっ。い、いい急いで食べな、きゃ……」

 

 秋文字さんと入蠱さんが慌ただしく料理を駆け込み、ゴホゴホと咽る。それを見て少し空気が緩んだが、それでも一定の緊張感はあった。

 

 

 都合が良い……頭が単純かも知れないけど、さっきの肯定だけで私は落ち着けた。周りに流されやすい性格がいい働きをした、と思いたい。

 

 でも、本心に気付いたのは紛れもない事実だった。それを知った今、悲しみと怒りが沸々と底の方から湧いて出てきているのがわかる。このままでは泣き叫ぶってのも、なんとなく。

 

 すぐにでも立ち去りたかった私は料理を無理矢理押し込み、自分のベッドにダイブした。

 

 

「……ぁ。くそっ………くそ、くそ、くそっ……!」

 

 

 結局、その日は寝ることができなかった。

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