青春珍道中   作:安部礼司

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予告通り、何とか年末に出すことが出来ました(少し短めですが…)。

来年も不定期&亀更新ではありますがよろしくお願いします。


第五話

 合唱祭まで一週間を切った。最近は生徒会のメンバーでさえ執行部の仕事よりも自分のクラスの練習に専念するようになっている。俺もその流れに乗り最近はあまり会計の仕事をやっていない。というよりも「誰も会計書類を持ち込まなくなったので仕事が無くなった」と表現した方がより的確に俺の状態を表している。

 さて、そんな中今日も今日とて練習なのだが、今日は少しだけ練習環境が異なっている。昔からの伝統(?)らしいが、合唱祭直前になると生徒『全員が』同じ場所で練習する通称“土手練”が行われる。文字通り土手にて行われる練習で、学校の裏にある川の土手で生徒全員が集まりクラス毎に練習をしている。何故この練習方法が生まれたのか詳細は不明だが、一番有力な説は「ライバルの事を意識するため」らしい。

 …しかし、俺としては「先生方の賭けのため、一度同じように先生方を集める」という裏の目標があるようにも思える。先生方は別に自分のクラスに賭ける必要性はないし、先生方全員がすべてのクラスを見に行っているわけではない。おまけにさっきから何人かの先生方が自分のメモ帳に何か書きながら考え込んでいる。考え過ぎなのだろうか?

 

 「何考え込んでるの?」

 「ん?いや、世の中穿った見方をすれば色々醜い事も見えてくるなと実感してた」

 「下らない上に意味わからない事言ってるんじゃないよ。ほら、早く練習場所に行くよ」

 

 相変わらず口が悪いクラスの友人に苦笑いしつつ、自分の練習場所に向かった。

 

――――――――――

Side 原田

 やばいやばいやばい…

 今の俺は恐らく入学初日に遅刻した時よりも焦っている。賭け事は苦手だし、どうせオヤジは歌がそんな上手くないはずだからと高をくくって自分のクラスが勝つことに賭けたのだが…

 

 「(なんであんなに合唱上手いんだよ!)」

 

 予想以上に他のクラスが上手い。いや、俺たちが決して下手とは思っていない。しかし、なんか想像以上に他のクラスが上手い気がする。

 別にこの合唱祭自体に興味は無い。そもそも歌唱力で俺らの結束力とかを確かめられるわけでもないし、こんなもんは個人の能力で決まるものだ。…そんなこと言ったら、大体の学内行事を否定するものだが。

 けど、『それはそれ。これはこれ』の原理だ。今回はヤバい。負けるとヤバい。ただでさえ最近出費が増えているにもかかわらず、ここでオヤジへの借金返済なんてきたら…

 

 「(欲しいものが買えない!)」

 

 こうなったら仕方がない。俺が今回の合唱祭を率いるかのように活躍するしか俺の活路はない!

Side 原田 end

 

 

 

Side 木ノ原

 …?なんか向こうから聞き覚えのある声がするような?原田君かな。

 

 「うるさい奴がいるな。あれじゃあ合唱じゃなくてカラオケだな」「たしかに。でもカラオケでもあれは…」「どこだあれ?…8組か」「敵じゃねぇな」

 

 あ・・ハハハ。やっぱり原田君だね。今度は何がスイッチだったのかな?

 生徒会役員じゃないのに生徒会室に入り浸っている彼だけれども、ボクは気に入っている。…いや人として、ね。元気が良いムードメーカーだし、空気を緩める感じの役回りだからね。あーいった感じのキャラが居ないと仕事ばかりの生徒会って感じになっちゃうもんね。

 役員皆にはまだ内緒にしているけれど、僕には生徒会の理想像がある。『生徒が誰でも足を運びやすい生徒会』。この第一歩は、まず彼のような部外者が生徒会室に居る事からだと思う。上の学年の新垣先輩や川島先輩もそうだけど、二人だけの限定された人じゃなくて、もっと色んな人が生徒会室に行きやすい雰囲気を創る事が必要なんだ。そうすれば生徒全員の声が聴けるし、その中から意見を取り出す事が出来れば本当の意味で『学生主体』の学校が実現できる。

 

 「(良い発想だと思うんだけどなぁ…)」

 

 思わずため息をついちゃった。最初は皆ぎこちなかったけど、徐々に楽しい雰囲気に生徒会室は変わっていった。これなら急がなくても僕の理想は叶うのかなぁって思ったけど…。

 

 「(確かに、会計は忙しいんだろうけど…。何もあそこまで怒らなくても良かったんじゃないのかなぁ)」

 

 でも、相澤君が主張していたことは正しい。何事にも節度を持つことは大切だし、そもそも彼が頑張って仕事をしている中で妨害するように騒いでは可哀想だ。けど…

 

 「…ちょう!…ぃちょう!!・・・会長ってば!!!」

 「っ!?ひゃい!?」

 「『ひゃい!?』じゃない!練習中だよ!もう…ポケーっとしてるのは授業中だけにしてよね!」

 

 そうだった、練習中だった!

 

 「うぅ…はぃ。ごめんなさい」

 

 クスクスと皆の苦笑いが聞こえる中で、ボクは真っ赤になりながら練習に加わった。

Side 木ノ原 end

 

 

 

Side 川島

 「…ふぅ。じゃあ今日は時間だからここまでね。各自私が個人的に言ったところをもう一回整理してね。今度同じ間違いしても指摘しないから」

 

 私が言い終わる前にだらけた奴は要注意ね。きっと話を聞いてないし、下手な奴だから。

 

 「ちーちゃん、お疲れ。全パートの指導大変だったでしょう?」

 

 私も大変だったよ~。と、愚痴をこぼしているガッキー。

 

 「まぁね。でも私の場合後輩への指導とかもやってるし、そもそもこっちが本業だからね。あんたの場合楽器が本業でしょ?」

 「うん。でも男子の音階わかる人で頼みやすい人が私ぐらいしか居ないしさ。音感が有るっていうのも考え物だよね」

 「でも持ってた方が良いでしょ?大変かもしれないけど、持ってるのと持ってないのじゃあ結構差がつくよ」

 

 でも~。と呟くコイツに対して心の中でため息をつく。絶対音感を持ちながら楽器の道を選んだ彼女に対し、私はゼロから合唱への道を選んだ。ここの部活の指導はスパルタで有名だったけれども、それでも私はこれを続けたくて今までやっている。

 「合唱は個人の資質」だとか「クラスの一体感」だとか言っている奴が居るけれども、私はどれも正しくは無いと考えている。間違っているわけでは無いのだろうけど、それは物事の一側面でしかない。

 合唱は、努力の成果だ。

 全くの素人からやり始めた私からすれば、この一言に尽きる。努力を続けてきた者にはそれ相応の評価がされる。逆に個人の資質だけでどうにかなると考えている奴は、いつか追い越されるかそもそも努力すら放棄している奴だろう。スポーツや勉強も同じかもしれないが、少なくとも合唱はそうなのだと私は信じている。

 

 「本番まであと少しなんだから、そのくらいの疲労は我慢しなさい。それよりも疲れたなら、まりまり誘ってどっか行かない?甘いものが食べたい」

 「あ!それ良い!」

 

 いつものメンツで騒げば、私もコイツも少しは落ち着くだろ。そう考えつつ小走りに先を急ぐガッキーの背中を追いかけた。

 




最後に皆さん、良いお年を。
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