序盤ボスの悪役貴族に転生したので裏ボスに媚び売ってたら婚約することになった件   作:三つ眼の荒木

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第一話 どうやら俺は悪役貴族だった件

「この私が平民ごときに……」

「メアリスの呪いをとかせてもらう」

 

 倒れた体勢で悪態をつく悪役貴族アイン・タレントの懐を勇者ユーマが探る。そして一つの宝玉を彼から奪い取った。ユーマがすぐに宝玉を砕くと、近くに立っているメアリス・ブリアンから魔力があふれ出す。

 

「魔力が……戻った!」

「やっぱりお前がメアリスを呪っていたんだな」

「くっ!こいつが悪いんだ。私をコケにしたこいつが……」

 

 恨み言をつぶやく彼に生徒の集団が近寄ってきた。

 

「事情は聞かせてもらいました。ここから先は生徒会が引き受けましょう」

 

 上級生がアインの両腕を掴み強制的に立ち上がらせる。

 

「やめろ!私はタレント伯爵家だぞ!」

 

 アインは腕を振るい暴れるが、ユーマに倒された直後という事もあり上級生はびくともしなかった。

 

「タレント伯爵子息アイン殿、ここは学園ですよ。階級は実力を伴ってこそ意味のあるものです」

 

 ユーマの背後から歩いてくる女性の鶴の一声により辺りが静寂に包まれる。アインだけが青ざめた顔で彼女の名前をつぶやいた。

 

「あ、アムストラクト公爵令嬢……」

 

 生徒会長である彼女はこの学園で絶対の権力を有している。逆らうことができないと悟ったアインは力がぬけうなだれた。

 

「ユーマ殿。今回はありがとうございました。彼はしかるべき機関に渡し厳粛に処罰します」

 

 アインは闘技場の出口へと引きずられていく。

 勇者ユーマと生徒会長の邂逅により物語の第一章は終わりを迎えた。

 

 

 という記憶を思い出した。

 前世の俺がやっていたゲームの記憶だ。そしてこれから起こる未来の記憶でもある。

 

「坊ちゃま!痛む部分はありますか?」

「セバス……」

 

 ベッドの傍らには執事であるセバスが俺の心配をしていた。

 全く同じだ。彼もゲームに出ていた。といっても一言二言程度しか話さない脇役だったが。

 

「何が起こっているんだ?」

「乗馬の訓練中に落馬し頭を打ったのです。回復魔法をかけたため治ったはずですが……痛む部分はありますか?」

 

 独り言で呟いただけだったがセバスに聞こえており何が起こったかを答えた。その記憶もある。しかし、俺の頭の中には別人の記憶もあるのだ。おそらく前世の自分の記憶が。

 

 理解はできる。

 

 その記憶は前世でやっていたゲーム『転移物語-煌都学園魔王討伐部-』の世界観と全く同じだ。そして俺はそのゲームの中では一面ボスの役割を担っていた。

 

 しかし、感情が追い付かない。というより心が二つあるような感覚だ。

 前世の『俺』と現世のアイン・タレントとしての『私』。二つの感情が入り乱れていて落ち着かない。

 

 そんな時部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「アインちゃん!大丈夫?」

「母上!」

 

 入ってきたのはアインの両親だった。母親が勢いよく走ってきて抱き着いてくる。というかちゃん呼びなんだ……

 

「痛いところはない?」

「大丈夫だよ。何ともない」

「だから言っただろう。アインなら大丈夫だと。

 なにせ他の家からも神童と呼ばれているからな」

 

 それはただのお世辞だ。伯爵家の子供が少し早めに魔法が使えたからもてはやしているだけだろう。

 

 前世の記憶を見る前までは何とも思わなかったが、親ばかといった印象の両親だ。そして彼らの根幹にあるものは徹底的な貴族主義。選良思想。そんな彼らに甘やかされて育った俺はまさに噛ませ犬として完璧な序盤ボスだったのだろう。

 

 しかし、認めない。前世の俺は認めてもアインとしての『私』が認めることはできなかった。

 

 なぜ貴族が統治するのか。それは貴族が優秀な魔法剣士の血統だからだ。

 

 前世のように平和な世界ならともかく、この魔王がいる弱肉強食の世界では実力こそすべて。民を守るために私たち貴族は庶民の上に立っているのだ。

 

 しかし、このゲームは最後に魔王が倒され平和な世界がやってくる。そのため今の自分の考えが古くなっていくことは知っている。

 

 それでも私はこのタレント家の血統に、そして民を守ってきた先祖に誇りを持っている。少なくとも序盤のボスとして倒されていいわけがない。

 

 回避しなくてはならない。ゲームの主人公に倒されるという未来を。

 いや、それだけではない。

 

 俺が倒された後、学園は魔王軍側からの刺客により様々な事件が起こっていく。

 

 その事件に巻き込まれて死んでしまっては意味がない。

 

「父上、一つ質問があります」

「どうした?」

「半年後に入学する学園には絶対入学しなければならないのですか」

「ああ。これは貴族としての義務と言っても過言ではない。

 立派な魔法剣士になるために学園で鍛錬を積む必要がある。

 勿論それだけではない。様々な貴族の子と交流を深めることで貴族間でのつながりも作ることができるのだ」

 

 学園への入学はやはり回避することはできない。

 

 つまり5年間、正確には主人公が魔王を倒すまでの3年間の学園生活を安全に過ごす必要がある。

 

「寂しい気持ちはわかる。しかしアインが貴族として立派になるためには――」

「父上、お願いがあります」

 

 俺は父親の話を遮って話しかける。

 父親はいつもと違う息子の様子に少し驚いていた。

 

「入学試験までにゴーレムを召喚できる魔法士を講師として我が家に呼ぶことは可能ですか?」

「う、うむ。可能だがどうして……」

「勿論立派な貴族になるためですよ。安心してください。半年後学園に首席で合格します」

 

 生き残るだけじゃない。持っている前世の記憶、知識、全てを活用して、タレント家の一員として貴族としての役割を全うする。

 

 これはゲームではない。俺の人生なのだから。

 

 

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