序盤ボスの悪役貴族に転生したので裏ボスに媚び売ってたら婚約することになった件   作:三つ眼の荒木

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第二十一話 手袋は、魔力を込めて、顔面に 後編

 

 俺は3時間以上にもわたる情報収集(ほとんど愚痴)を聞き終えげっそりしながら寮に帰宅した。

 

 いや主観的な意見とは言ったが、ここまで彼女から評判が悪いとは思わなかった。

 

 俺はメモを軽く見返す。

 

≪アブファイル・ハイター侯爵子息について≫

・屑

・カス

・女の敵

・10股野郎

・男性器の擬人化

・家の力でモテてるのに勘違いしてるクソキショ●●●依存者

●●●(ピーー)

■■■■■■(ピーーーーー)

・昨年度の生徒会長で自身を優遇する校則ばかり作ったせいで校内の治安が最悪になった

・たいして強くないくせに上から目線で話してくるバカ

・金で新聞部買収してイケメン特集に自分を乗せるナルシスト変態野郎

・貴族の汚点

・あいつが当主になったら絶対没落する。というかしろ

……

 

 何度見てもひどい。いや、この世界の貴族にまともなやつはいないのか?

 それとも、子供が強力な力を持つとこうも穢れてしまうのだろうか。

 

 むしろ彼の情報よりその後に聞き出した生徒会の情報の方が有益だった。

 

≪生徒会について≫

・前年度はアブファイル・ハイター侯爵子息が生徒会長だった

・生徒会長が決まる時期は毎年3月頃

・今年はアブファイル・ハイター侯爵子息がユリ・スーン・アムストラクト公爵令嬢を推薦した

・生徒会メンバーが出会ったのは去年の3月頃

・いずれも会長の推薦でメンバーが決まった

・去年アブファイル・ハイター侯爵子息が制度化したクソみたいな制度を改正したばかり

・正直学園の膿だが彼女の婚約者のため排除することはできない

 

 後半は彼の内容になっているが、こちらの方が私にとっては重要な情報だった。

 

 特に『生徒会メンバーが出会ったのは去年の3月頃』『いずれも会長の推薦でメンバーが決まった』と知れたのは大きい。

 

 それに彼女(・・)の内容についても聞けたしな。

 

 方針は決まった。

 

 あとは準備をし実行するだけだ。

 

 出会うべき人物は二人。

 

 一人は初対面。それも主人公のヒロイン候補。

 そしてもう一人は、ユリ・スーン・アムストラクト生徒会長だ。

 

 

「ここ、よろしいですか?」

 

 さらに一週間後、食堂にて私はアブファイル・ハイター侯爵子息に話しかける。

 

「お前、ハイター様の前で失礼――「いい」

 

 隣で御付きをする生徒が私とハイターの間に入ろうとするが、彼はそれを制止した。そしてにこりと笑い座るように手で促す。

 

「勿論、光栄だよ。アイン・タレント君」

「ご厚意感謝いたします。アブファイル・ハイター侯爵子息殿」

 

 私は彼の目の前に座り真っすぐと目を見つめる。いや、睨みつける。

 

「ここは学び舎だ。堅苦しい呼び名は良そう。それに私だけ君呼びだと印象が悪そうだしな」

「ご安心ください。【消音】の魔法をかけているので聞かれることはありません」

 

 彼には本音で話したいからだ。

 

「準備がいいね。と言ってもここで君と秘密の話をしているという事実はばれてしまうが」

「まさか。私なんかが注目を浴びることはないでしょう」

「そうでもないさ。実際私は君の名を知っていた。有名だよ、君と生徒会長の関係は」

 

 彼は笑みと余裕を絶やさない。好青年のように私に話しかける。

 

「アムストラクト嬢とは懇意にしていてね。私なんかが畏れ多いがこれでも一応婚約者――「ハイター殿、【消音】の魔法はすでにかかっています。注目も浴びたくないでしょう。手短に、そして簡潔に申し上げます」

 

 彼の言葉を遮り早速本題を話し始める。

 

「アムストラクト家とハイター家の婚約は両家の親が決めたことでしょうか」

 

 私の質問に彼は一瞬、驚いたような表情を見せた。

 

「ああ。その通りだ」

「いつ頃からでしょうか」

「ほぼ一年前、3月頃だな」

「アムストラクト会長と出会ったのはいつごろでしょうか」

「同じ時期だよ。見合いで初めて出会った」

「その時、どのように――「タレント君、その質問に意味はあるのか?」

 

 次々と投げかける質問に淡々と答える彼だったが優しく言葉を遮る。

 

「君の言いたいことは分かるよ。本人たちの気持ちはどうなんだって奴だろう?タレント君、君はいくつだい?」

「12です」

「12でこの時期なら社交界もまだだろう。君は分からないのかもしれないが、貴族が籍を入れるということに本人の気持ちは関係ない。政治とはそういうものなんだよ」

 

 確かに貴族間の政治に関して私は詳しくない。しかし、その程度の事情は私でも予測できることだ。知っていてなお、私は質問を投げかける。

 

「私が未熟であることは認めましょう。この未熟な私に教えていただきたい。本人たちの気持ちはどうなんだと」

「そうだな。アムストラクト嬢は望んでいないかもしれない。しかし、もしかしたら望んでいるかもしれない。この気持ちは本人にしか分からないだろう。それとも君は彼女から何か聞かされたのかい」

「聞かされてはおりません」

「なら――「しかし、今聞くことはできましょう。アムストラクト生徒会長ではなく、貴方自身の本音を」

 

「……」

 

 予想していなかったのか、彼は面を食らった表情をする。そして顔の下半分を手で隠しながら話し始めた。真の顔つきで。

 

「……消音の魔法はかかっているんだったな」

 

 先ほどまでの優しい話し方ではなく、威圧する荒々しい話し方だ。多くの生徒が彼を優等生だというが、きっと彼等にはこの表情を見せることはないのだろう。

 

「全く、口の回る餓鬼だ。本音だって?嫌に決まっているだろう?あのような女」

 

 彼はにやにやと笑いながら本音を吐露する。

 

「女は弱いからこそ意味があるというのに、私も不運な男だ。あのような男女と婚約させられるのだからな」

「つまり婚約には反対だと?」

「まさか!賛成だよ。アムストラクト家は王家の分家。王族の血がもらえれば、ハイター家はより大きく、より強くなる」

 

 まさしく政略結婚だ。

 

「しかし、どうせならもっと弱い女であれば最高だったがな。まぁ良い。子を作ればあの女などただの置物にすればいい。どれだけ腕が強くとも政治には適わん」

 

 私は彼のあまりにも自分勝手な発言に怒りを覚える。アウフガング先輩の噂は正しかったようだ。

 

「それにしても意外だったな。あの女も色を好むとは。それもこのような餓鬼……あぁ、安心しろ。私は愛人には寛容だぞ。子を作ることは許さんがな。

 さぁ、私の本音は言った。今度は君の本音を聞かせてもらおうか」

 

 私は大きく嘆息をつきながら魔道具をポケットにしまう。

 

「ありがとうございます。私はただきっかけが欲しかっただけです」

「きっかけ?」

「はい。きっかけ」

 

 そして立ち上がりながら【消音】の魔法を解き、手袋を脱ぐ。

 

 そして大きく振りかぶり

 魔力を込めて

 彼の顔面へと

 勢いよく放り投げた。

 

「先ほどからアムストラクト生徒会長に対して無礼な発言の数々!もう我慢できない!

 1年A組アイン・タレントは5年A組アブファイル・ハイターに決闘を申し込む!」

 

 急な大声に周囲の生徒の視線が集まる。

 彼等には異様に映っただろう。一年が上級生に向かって怒鳴りつけているのだから。

 

「ま、待ってくれ。これは何かの行き違い――「証拠ならここにあるが?」

 

 アブファイル・ハイターは顔に掛かった手袋を取り、優しい顔つきに変化して周囲に言い訳をしようとする。が、そうはさせない。『人剣連合』を倒したときに拝借した録音の魔道具を見せつける。

 

「勿論今、皆の前で聞かせてやってもいい!いや!しない理由はない――「待て」

 

 俺が再生させようとすると彼は一瞬イラついた表情をし止めるように言う。

 

「分かった。決闘を受けよう。その魔道具に証拠は入ってるとは思えないが、君にも面子はあるだろう。その決闘を受ける」

 

 面子を救ったのは私だけどな。

 

「最後に一つだけ」

 

 去り際、私は彼に苦言を呈す。

 

「会長が婚約を望んでいるかは分からないと言ったな。分かるに決まっているだろ。彼女の行動を考えれば一目瞭然だ。そのような発言を軽々しく言える時点でお前は負けていたんだよ」

「誰にだ?」

「会長にだよ。勿論、政治で」

 

 というよりむしろ、今回最も重要な事項はユリ・スーン・アムストラクト公爵令嬢の意図だった。

 

 彼女に勝利を約束したため、私が彼に勝つことはすでに決定事項だ。

 しかし、勝ち方は考える必要があった。

 

 もし、アムストラクト公爵令嬢がハイター侯爵子息との婚約に乗り気だった場合、盛大な勝ち方は望ましくない。ハイター侯爵子息を立てる必要があったからだ。

 

 しかし、今回の彼との質問でその線は薄くなる。

 

 もともとアムストラクト家は王家の分家。つまるところ王権一派。それに対してハイター家は反主流派貴族主義の名家だ。

 今回の婚約は王権側が何らかの理由で反主流派を飲み込み力を拡大させる必要があったと予測できる。一方でハイター家は王権派に寝返る代わり強大な権力を得る。

 

 実際、ハイター家はアムストラクト家との婚約が決まった時期と生徒会長になった時期が同時期だ。これも権力を得た一環だと考えられる。

 

 一方で同時期に彼女はザネ・アウフガング侯爵令嬢などの生徒会メンバーと面識を持っていることが分かる。

 そこで重要なのが彼女たちが何派なのか。アウフガング侯爵令嬢は自由主義派の貴族。つまり、王権派とも貴族主義とも違う別の一派となる。

 

 これは明らかにアムストラクト家の指針とは大きく離れている。つまり、この行動は彼女自身の意思によって行っている可能性が高い。

 ゲームでは身分的にややこしい勇者を次期生徒会長に選んだり、学園では彼女はかなり自由に動けているのだろう。

 

 彼女が家の方針と違う彼女たちを仲間にする理由で考えられるとしたら二つ。

 

 彼女自身は王権派ではない。

 または、ハイター家と敵対する貴族と交流を図りたかった。

 

 どちらにしろ彼女はアブファイル・ハイターとの婚約をあまり望んでいないことが分かるというわけだ。

 

 そして、その準備もしっかりと裏で進めていた。

 

 つまるところ、この決闘は何の忖度もいらない。

 

 正面からぶっ倒せば万事解決である。

 




優等生編、完です。次回からドキドキ!温泉旅館デート編――間違えた。決闘編が始まります。乞うご期待。
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