序盤ボスの悪役貴族に転生したので裏ボスに媚び売ってたら婚約することになった件 作:三つ眼の荒木
「うおっ!何してるん、ユリちゃん」
「自己嫌悪よ」
私が床を雑巾で拭いているとザネが生徒会室に入ってきた。
私は大きくため息をついて、紅茶がこぼれていたところを拭く。
ザネは私を避けるように奥へと進み自席へと座った。
「なんかよー分からんけど、ベリエルにでもさせたらええんちゃう?呼んだらいつでも駆けつけるやろ」
「いいのよ。戒めとしてやっているから」
彼には見苦しい様を見せてしまった。まさか私が感情的な発言をしてしまうなんて・・・・・・
私は乾いた雑巾でから拭きが終わると、魔法で手を綺麗にする。そして再奥の自席に腰をかけ、大きくため息をついた。
私はザネに先ほど決まったことを話す。
「あ、そういえばこの前話した計画の件だけれど、実家への帰省を少し早めるわ」
「ああ。別にええけどいつにするん」
「来週よ」
「来週?!これまた急やな」
「別の用事もできてね。その帰りに寄ることにしたの」
「でもええの?来週って屑とお茶会やったんやろ」
「ええ。けしかけようと思ったけれど・・・・・・あの調子なら問題ないわ」
アブファイル・ハイターがアイン・タレントとの決闘を避ける可能性があったため、こちらから釘を刺しておこうと思ってのことだったが、そんなことをする必要はなさそうだ。
アイン・タレントと私が旅行に出かけたという噂は少なからず広まるだろうし、アブファイル・ハイターの耳にも入るはず。婚約者として・・・・・・というよりは女好きの彼としては不愉快に思ってアイン・タレントを放っておかないだろう。
そんなことよりアイン・タレントだ。彼の目的は何なのか。全く予想がつかない。
ざっとまとめると
・場所は隣国の旅館、またはその近辺
・恋人のふりをする必要がある(旅館に行って不自然に思われないため?)
・今後の生徒会の動向、学園の治安に関わる。
全く予想がつかない。特に最初の二つ。誰がどう考えてもいらない要素だ。
私が悩んでいるとザネが話しかけてくる。
「さっきまでアイン君いたやろ」
「ええ。よく分かったわね」
「ユリちゃんが思い悩むなんて彼くらいしか原因ないで」
「本当にそうよ。彼のせいで計画は大幅に変更しないといけなくなったし・・・・・・私への想いは伝わったけど、何をしでかすか全く予想できないから不安だしでね」
私がため息をつくのと対象にザネは少し笑う。
「ええと思うけどな。最近のユリちゃんは人間味あるし。まぁ、この前計画を聞かされたときは何惚気とんねん思ったけどな」
「大真面目よ。彼がもし本当にアブファイル・ハイターに勝利した場合、そうするのが最も合理的と思っただけよ」
彼に絆されたとかではない。
私にとってアイン・タレントが大きな存在であることは認めるしかないけど、それ以上に大事な大義が私にはあるのだから。
「そんなユリちゃんに耳より情報!この前行ってたアイン君が『魔女』から何を買ったのか分かったで。知りたい?」
ザネがにっこり笑いながら周囲に消音の魔法をかける。
「知りたいけど・・・・・・ただじゃないんでしょう」
「勿論。ただ今回はお金じゃなくて情報。さっきまでここで何を話していたのかの情報や」
「他愛のない話よ」
「全然構わへんで。のろけ話も大歓迎や」
正直、言いたくない。というか彼女に言って事態が好転するとは到底思えないけれど、彼が何を買ったのかもかなり知りたかった。もしかしたら、1週間後何を計画しているか予測が立てれるかもしれない。
「絶対他言しないと誓う?」
「勿論!うちが言うと思うか?」
「ええ」
「ひどい!」
鳴き真似をするザネを横目に私は彼女に話していいか考える。
「まぁ、いいわ。少し知恵も借りたいと思っていたし。ただし他言したら縁を切るわ」
「おお・・・・・・そのレベルか。これは期待できるで」
私は、最大級の脅しをし先ほどまでの彼との会話を彼女に一通り話した。
「――ってことがあったの。どう思う?」
「どう思うって何も純粋におめでとうしか言うことないで」
ザネがパチパチと拍手をする。
「そういうのはよくて、彼の目的よ。ここで言うのが憚られることで、生徒会の動向や学園の治安に関わってくること。なにより表面上は恋人のふりをして旅館に行くよう偽装する必要がある・・・・・・見当もつかないわ」
「あー、なるほど。アイン君が何を買ったか知ったら予測つくと思うわ。彼が買ったのは3つ。
一つは魔道列車のチケット2席分。これはさっき言ってた隣国の旅館に行くためやろうね」
魔道列車。
最近完成したという少量の魔力で長距離間の移動が可能となった移動手段のことだ。隣国がどれのことを言っているかは分からないが、国境付近まで移動するようだろう。
「そして二つ目は魔光玉っていう魔道具や」
魔光玉。我が家の騎士にも支給していたはずだ。
「効果は魔力吸収量を増加させる、だったかしら」
魔光玉を身につけていると本来1年で成長するはずだった魔力が半年で得られるらしい。とはいってもある一定の魔力量になったら効果が薄れるらしいので、若手の騎士を育成する際のみ支給していると聞いたことがある。
「せやで。アイン君が買ったのは最高級のものやね。日々の魔力増加量は微々たるものやけど、屑との決闘に向けてすこしでも魔力を増やしたいんやろ。で、最後が問題なんやけど・・・・・・」
ザネは言いにくそうな顔をした。
「もったいぶらなくていいわよ」
「あー、スタミナールやね」
聞いたことのない名前だ。
「知らないわ。これも何かの魔道具?」
「魔道具やなくて薬やね、飲料型の」
「もしかして非合法の薬かしら。生徒会としてそれは見過ごせないけど」
「いや、別に非合法のものではないで。街でも売ってるみたいやし」
「じゃあ何の薬なのよ」
「その・・・・・・精力剤や」
「は?」
「いわゆる夜が元気になるっていうやつやね。結構有名らしいわ」
私はごくりとつばを飲み込む。
「つまり彼の目的って・・・・・・」
わ、私のから――
「・・・・・・12」
「へ?」
「彼が買った個数や。12本やないで。12ダース、つまり144本買ったらしい」
「ひゃっ?!」
144?!
「在庫ある分全部買ったみたいや。いやー、12歳やっけ。少し早い気もするけどお年頃やからね〜」
「え?ほ、本当に言ってるの?」
144って、毎日一本使っても3ヶ月以上かかるじゃない!
「マジや。まぁ、言いにくいことやけど
逃げようとするザネの首元をつかむ。さすがに彼女も逃げたくなるのだろう。この事実から推測できることは、期待の新星ともてはやしていた生徒が性欲を持て余している猿であると言っているようなものだからだ。
「ちょっと待ちなさい!ま、まだ分からないわ。彼は生徒会の今後の動向にも関わるって」
「そらそうやろ。ユリちゃんが妊娠したら流石に話変わってくるで」
「にっ!」
妊娠?!
「じゃ、じゃあ学園の治安ってどういうことよ」
「そりゃお腹大きくした生徒会長が1年生とイチャイチャしとったら風紀が乱れるに決まってるで」
「~~~っ!」
144という人外の数字に青ざめていた顔が急速に熱をおびてくる。
「か、彼の目的って」
「間違いない。ユリちゃんとの初夜や」
この世界では15才から成人です。
学園は5年制で、早くて12才から入ることができます。婚約している貴族は卒業後結婚するケースがほとんどです。