序盤ボスの悪役貴族に転生したので裏ボスに媚び売ってたら婚約することになった件   作:三つ眼の荒木

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閑話 If anything can go wrong, it will.

 

「くそっ、想定外だったな。まさか私が転移されるなんて」

 

 迷宮と化した旅館を走りながら、今後の予定を考える。

 つまり、レベル上げの方法だ。

 

 レベル上げ、魔力量の増強はとにかく時間がかかる。最初はパワーレベリング、要は生徒会長に強い魔物を倒してもらい経験値を得る方法を考えたが、上手くいかなかった。原因は、生徒会長が倒した判定で俺には入ってこなかったのか、そもそもこの世界では誰かに戦ってもらって経験値を横取りするということができないのかだろう。

 

 イベント的に魔物を倒したことになっていないのも考えられる。なぜなら、道中に出てきた魔物は、正確には魔物ではない。

 

 というよりも今回の一連の事件は魔王軍は一切関わっていない。

 

 この旅館での出来事は『呪われた温泉旅館!○〇すると出られない?!』というサブクエストだ。魔王軍による魔界化の噂がある旅館にヒロインと訪れると、迷宮化し脱出できなくなるというイベントだ。

 旅館ではヒロインとの会話や迷路の攻略がメインで、様々な場所に行くとラッキースケベが見れるという人気のイベントでもある。

 

 つまり、好感度上げのクエスト、ラブコメイベントである。

 

 道中で出てくる魔物もゲーム内では倒すどころか、戦うことさえできない。

 しかし、俺はそのクエスト内での仕様に注目した。

 

 このイベントは結構長く作中では1か月近く閉じ込められることになる。

 しかし、旅館から脱出したらたった一夜しか経っておらず、その場所に旅館の姿は見当たらない、という少しホラー要素のあるエンディングになるのだ。

 

 俺はこの1カ月すごしたが一夜しか経っていないという所に注目した。

 

 パワーレベリングができないとなると、魔力量の増強はとにかく時間がかかる。アブファイル・ハイターに勝つためには数カ月の鍛錬を必要とするだろう。

 そこであえて、このイベントで旅館に軟禁され、だらだらと脱出を遅らせることでレベル上げを行う予定だ。

 

 そのために今すべきは会長にばれず女将と接触すること。

 

 今回の首謀者は魔王軍ではなくあの女将もとい、魔法使いなのだから。

 

 本来なら、女将が部屋へと案内した直後に魔法陣が床に浮かび、ヒロインがランダムに転移するという仕様だったはずだ。そこで、会長が転移されている間に女将と交渉するという手筈だったが、自分が転移されてしまったので、女将を探す手間ができてしまった。

 

 想定外の事態だがまだリカバリーできる。

 

 おそらく会長と出会ってしまったら再びはぐれることは不可能なので、会長に見つからず女将と接触する必要がある。女将のいる部屋は特定の順序で部屋を巡らないといけないので、まずは寝室を探さなくては。

 

 今回は想定外の事態が多い。今一度、気を引き締めて行動する必要がある。

 

 パワーレベリングができないこともそうだが、アイテムを奪われたのも想定外だった。折角スタミナ回復アイテムを買い込んだのにだ。

 

 一応、ゲーム内でもアイテムを奪われたという描写はあったがすっかり忘れていた。いや、このサブクエ自体数回しかやったことないし、ラッキースケベ用のイラスト回収のため途中からテキストは全スキップしてたからな。覚えてないのもしょうがないだろう。

 一応、救いがあるとしたらあの魔物たちは女将が作り出したものなので、この旅館のどこかに隠されている可能性はある。アイテムを奪う理由もメタ的な見方をするなら、ヒロインに浴衣を着せるためだしな。服はともかくアイテムを捨てる理由にはならないだろう。

 

 それにしても、魔王軍には悪いことをした。すっかり濡れ衣を着させてしまった。まぁ生徒会長もこの事件の真相が『時空間魔法を極めた魔法使いが、若者がイチャイチャしているのを見たかったという理由でカップルの男女を最高難度の時空間魔法で旅館に閉じ込めていた』とは思わないだろう。

 

 因みにラッキースケベを全て回収すると、ヒロインといい感じになり朝チュンを迎えることができるのだが、そうなると問答無用でゲームオーバーになる。というのも、魔法使いが解釈違いを起こし二人を封印してしまうからだ。このことから魔法使いは魔女ならぬ処女をこじらせた喪女と呼ばれている。

 

 などと考えていると、どこかで強力な魔力の反応がした。

 

 空間が歪んでいるので具体的な方向すら分からないが、十中八九会長だろう。

 俺がいなくなったので撤退ではなく、戦闘を選んだというところだろうか。

 

 そして、俺はある最悪の想定を思いつく。

 

 それは、会長が女将を殺してしまうという可能性だ。

 

 もし、殺してしまったらどうなるのだろうか。普通に考えたら魔法が解除され森の中に戻るが、この魔法は時空間魔法。魔法が暴走し永遠にここに閉じ込め(・・・・・・・・・・)られる(・・・)可能性はある。

 

 ……まぁ、最悪の想定だ。時空間魔法といっても魔力が尽きれば魔法は中断する……いや、違うな。確か、設定資料集では女将の魔力量は無限だったはずだ。時空間魔法を極めることで魔力が減らなくなったと書かれていた。

 

 そうなると、無限の魔力によりこの魔法は途切れることはない……

 

 いやいやいや、ありえない。

 

 そもそも、彼女はただのラブコメイベントとはいえ、設定上はかなりの実力者なはずだ。無限の魔力により数々の時空間魔法を使いこなすと設定資料集には書かれていた。無限の魔力なんて彼女以外に存在しない。魔法使いとしては作中一の実力者だろうとも考察されていたほどだ。

 

 それに、いざとなったら彼女も転移で逃げるだろう。

 

 懸念するとしたら、会長が使う【平服しなさい】は転移阻害の効果もあることだ。しかし、使うのは第二段階、つまり本気になってから。会長はとある条件を満たさないと決して本気を出さないし、女将もその頃には逃げているだろう。

 

 

 それに、すでに大きな魔力反応はなくなっている。

 

 

 いくら会長が強いからと言って、無限の魔力を持つ魔法使いをこんな一瞬で殺せるはずがない。

 転移されたと考えるのが妥当だろう。

 

 

 とにかく、今は会長に見つかるより早く彼女を探し出さなければ―――

 

 




マーフィーの法則
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