病弱剣士がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか?   作:病弱系キャラクターすこ

2 / 5
感想ありがとうございます。すごく嬉しいです。

昨日のうちにもう一話と思ったのですが、長くなってしまいダメでした。


転機と発作はいつも唐突。

 目が覚めた。

 時計を見れば時刻は午前4時ぴったり。空はまだ暗く、窓の外を見ても人の気配はない。

 少しの頭痛に吐き気、なんとなく平衡感覚がおかしい程度なので、今日は体調が良さそうである。これで体調がいいなどというのはおかしいと思うが、普段に比べれば比較的マシである。

 

 私の体調なんてどうでもいいのだ。問題は……

 

「ヘスティア様が同じベッドで横になって寝ているということ」

 

 私の持病はどうやら人に感染ることはほとんどないようで、私に感染ったっきり他に罹った人はいない。だから、同じベッドで寝ていてもそこまでの危険はないはずである。

 だったらなんで私にうつったんですか? 

 もしかして世界が私の才能に嫉妬しちゃった? それにしては代償大きすぎない? 私まだ何も悪いことしてないぜ? 

 

 胸元にガッチリ抱き寄せられていて抜け出すにも抜け出せない。

 アルバイトで疲れているだろうから、こんな時間から起こしたくない。さすがに申し訳なさすぎる。

 

「大丈夫……ボクが一緒にいてあげるから」

 

 …………さては私、夜中相当うなされていたな? 

 一緒の布団にいる事はあっても、こんなにホールドされてたり、寝言とはいえこんな事を言われたりしたのは初めてだ。

 うなされてる人のために一緒に寝てあげるとか、神様神様すぎませんか? 私惚れてもいいですか? 

 

 とはいえ、日課の素振りをしないわけにはいかない。

 これをしないと1日なんとなく気持ち悪いのだ。あ、気持ち悪いのは元からか! ははは、笑えないね。

 

 節々が痛む身体をゆっくりと起こし、神様の手を優しく解く。

 …………よし、起こしてない。完璧だ。

 ベッドの隅に横になっていたヘスティア様を中央の辺りに運んで、掛け布団を乗せてやれば完成。

 そこそこ移動して移動させてしたのに起こさない。私の才能が無駄に発揮されてる。

 

 さて、着替えて素振りしてきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ごっほごほ! げほげほ!」

 

 死にかけた。

 

 急に発作起こすのやめてもらっていいですか? 

 油断して薬を持ってきていなかったのが失敗だった。血は吐くし、目眩がひどくて倒れるし……最悪だ。ちょっと体調がいいと思ったらこれだよ。

 

「千都世? ……千都世大丈夫?!」

 

 発作疲れでぼけーとしながら座り込んでいると、ダンジョンに行く時の格好をしたベルが教会から出てきた。

 

「ん、まぁいつも通りさ。問題はありすぎるけど問題無いよ」

「…………ごめん」

「いやいや、君が謝る必要なんてないだろ」

 

 明らかに大丈夫じゃない人に大丈夫? って声をかけるくらいよくある。大丈夫って聞いて大丈夫じゃないって答えたやつは大丈夫だから気にしなくていい。

 

「はぁ……君はこれからダンジョンかい?」

「うん。お金がないことにはどうにもならないしね。それに……いや、なんでもない」

「そう? じゃあ手前まで送ってあげるよ」

 

 私は潜らないけどねと続けて笑う。

 刀を取って立ち上がり、乱れた服装を整える。素振りで乱れたんじゃなくて、発作で乱れた。おのれゆるさんぞ。

 

 

 

「人がいないだけですごい空気が変わるね」

「そうだねぇ。私はあんまり人が多いと大変だからこれくらいがちょうどいいよ」

「流石に少なすぎない?」

「人がたくさんいると、発作かあった時傍に避けにくいんだよね」

 

 そっかと、気の毒そうにこちらを見やる。

 そうなんだよ。だから私、外食とかも苦手なわけ。人がいるところで発作が起きるとだるいからね。

 なのになんでダンジョンに潜るかって? 余命を伸ばすためだよ! 

 

「あ、そういえば朝ごはん食べてないや……」

「私は朝から薬ガボガボ飲んだからお腹減ってない」

「それあんまり良くないんじゃ…………?」

 

 確かに、なるべく何か腹に入れてからとは言われた。まぁそんな余裕ないんですけどね。

 

「「っ?!」」

 

 見られていた。天から見下ろすような、こちらを慮ることなく無遠慮で傲慢な感じ。

 …………神様。ごめんなさい。私かベル、あるいは二人ともすでに他の神様から目をつけられていたみたいです。

 うーん、約束してから破綻するまでが早すぎるぜ。

 

 視線は私たちが気がついた事を察してか、すぐになくなったがすごい不快だった。

 他所の神が私のことあんまりジロジロ見てると病気うつすぞぼけ。

 私の事をよく見ていいのはヘスティア様と医者だけだよばーか! 

 

「あの……」

 

 そういえば、医神様は私の病状を見た時にひどく驚いていた。後悔とかそういう嫌なものを見てしまった的な感じ。

 私に病気をうつしたらしいベル母は、オラリオにいて医神様の世話になっていた? だからなんだと言って終えば、まぁそれまでではある。

 実は私もどうでもいい。

 

「ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって……!」

「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」

 

 ベルを送ったら帰りがけに朝食を買ってヘスティア様と食べようっと。

 私の人生においてひっじょーうに幸せな時間である。だが、じゃが丸くんは正直食べ飽きた。私それ食べ続けたら早死にしそうなんですが。

 

「あ、あのー」

「ん? 私ですか?」

 

 声をかけられて振り向けば、ヒューマンの少女…………? 

 んー? なーんか変な感じがする。

 

 白いブラウスと膝下まで丈のあるジャンパースカート、その上からエプロンを纏っている。光沢に乏しい薄鈍色の髪を後頭部でまとめ、ポニーテールみたいな髪型。

 瞳を覗き込めば、髪と同色で美しく輝いている。

 

 じっと観察してみたが、特におかしなところはなさそうである。私の思い過ごしか? 

 

「あの、私に何かついてますか?」

 

 下から上目遣いで、私を覗き込むように見る少女。ジロジロみすぎたようだ。

 人にやられて嫌な事はしない。これ対人関係で大切。

 対神関係なら話は別だけど。

 

「ああ、失礼しました。あまりに可愛らしい方だったのでうっかり」

「千都世?!」

「え?! そ、そうですか? ありがとうございます……」

 

 ベルは何言ってるの?! とばかりにこちらを見て、少女はわたわたと手を振り顔を赤く染めている。

 

「それで、私達に何か御用ですか?」

 

 私の質問にハッとした様子で、ベルに紫紺の色をした結晶を差し出す。

 

「これ、落としましたよ」

「え、『魔石』? あ、あれっ?」

 

 ほんとにー? 嘘ついてない? 私穴開けてないよ? これ受け取って怖いお兄さん達出てきたりしない? 大丈夫? 

 

「す、すいません。ありがとうございます」

「いえ、お気になさらないでください」

 

 ベルが縛った時の紐が緩んで落としたのかもしれないし、うん。気にしないでおこう。

 私は間違いなく全ての魔石を換金したけど。

 そう考えるとこの人の笑み怖い。なんでベルくんは何も疑わずに受け取れるんですか? 

 怖いお兄さん出てきたらどうするつもりだよ! 【フレイヤ・ファミリア】のお兄さんお姉さん方みたいなのが出てきたら、また地獄の鬼ごっこしなきゃいけなくなるだろ! 

 

「お二人はこんな朝早くから、ダンジョンへ行かれるんですか?」

「はい、ちょっと軽く行ってみようかなぁなんて……」

「私は行きませんよ。手前までの見送りです」

 

 私がくだらない事を考えている間に話は進んだようで、少女は私達に一言断ると店の中へと消えていった。

 

「で、彼女は何をしに?」

「聞いてなかったの?」

 

 逆に私が聞いてると思ったの? と返せば全然と答えられた。

 うーん、理解してくれている事を喜べばいいのか、それとも聞いてないと思われている事を悲しめばいいのか。

 

「これよかったら……。まだお店がやってなくて、賄いじゃないんですけど」

 

 店から戻ってきた店員さんは、二人分のパンとチーズを持ってきてくれた。

 ベルが遠慮したものの、良心が痛むとかなんとかで言いくるめられてしまったらしい。あれよあれよという間に、晩御飯はここで食べることとなってしまった。

 私外食苦手って話したばっかりじゃん? ねぇベル少年、私の聞いてる? 

 

 ……外食するならヘスティア様も一緒か? やっぱり私外食大好き。

 今日は調子がいいし、ダンジョンに潜ろうかな! 

 

「私、シル・フローヴァって言います、お二人は?」

 

 そういえば自己紹介がまだだった。お互いの名前も知らずに晩御飯行く約束するとかすごいな。これが接客スキル、あるいはキャッチスキルですか。やるな少女。

 

「僕……ベル・クラネルって言います。で、こっちが」

「自己紹介くらいできるよ……私は千都世と言います」

 

 よろしくお願いしますと言って笑えば、シルさんの方もニコラと笑って返してくれた。

 

 

 

 

 

「ふっ!」

 

 腰に差した刀をゴブリンの首に目掛けて一閃。

 叫び声を上げる間も無く一体を殺す。

 

『ギシャアアア!』

 

 仲間を殺されたことに怒ったのか、私を囲っていた総勢十数体のゴブリンは一斉に声を上げて襲いかかってくる。

 

 飛びかかってきたゴブリンの首を刺しそのまま身体を捻り、首をとばす。まずは一匹。

 首を刎ねた後隙を狙ってくるゴブリンの攻撃を、転がることで避ける。避けた先で同じようにゴブリンの首を狙う。まさか狙われるとは思わなかったのか、なんの抵抗もなく落とせた。

 背後に気配を感じたので咄嗟にしゃがみ込んで躱わし、カウンターを見舞う。

 

「ごっほ! げほ!」

 

 咳き込んだことにより、首を狙った一撃は頭を切り裂く。少し抵抗を感じたものの、ゴブリンは脳髄をぶちまけて崩れ落ちた。

 近くで驚愕に目を見開き固まった三体を一息に殺す。

 流れで近くにいたもう一体に目掛けて、なんの技術もなく力任せの一撃をはなつ。

 多少切れたが……やはり力任せは良くない。傷つけられ激昂したゴブリンの反撃をいなし、次は丁寧に首を落としてやった。

 

「ふぅ…………これで大体半分ってところか」

 

 しかしながら、ゴブリン達はこちらを恐れているようで連携などもはやない。一体が逃げ出したらそれに釣られて皆逃げそうである。

 ですが! 私がそんなことさせるわけないだろう? 

 

「全員黙って、私とヘスティア様の食事代になれ!」

 

 あとおまけにベルくん。

 

 

 

 

「私結構稼げましたよっと」

「7000ヴァリス?! すごい!」

「だろ? やはり私は天才だった」

 

 ゴブリンを皆殺しにした後、石を採取している最中に発作が起きて、コボルト達に囲まれたけど私は元気です。いや、病気です。

 

「そっちはどうだった?」

「僕は4400ヴァリス。千都世よりも少ない……」

「でもベル一人で稼いだ額としては最高じゃない? 自分のペースでやっていくのが重要だと思うよ」

 

 がっくりと項垂れるベルを軽く励まし、ホームへ帰る。

 7000もあれば、少なくとも今夜の食事は問題ないはず。

 ふ、ふふふ、ヘスティア様と初めての外食である。というか、オラリオに来てから初の外食ってやつでは? どうしよう、途端に緊張してきた。田舎者の私はオラリオの食事マナーとか知らないぞ。

 神様に恥をかかせるわけには行かないのだ。

 

「今からエイナさんに食事のマナー聞いてきた方がいいかな?」

「なんでそんな事を急に言い出したのか僕にはわからないけど、きっと聞きにいく必要ないと思うなぁ」

 

 そっかぁ。まぁなんとかなる。要するに周りの人間を見て真似すればいいだけだ。見て学ぶのは、私の得意分野。

 

「さぁ、クラネルくん! 早く帰って夕飯に行くぞ!」

「うわっ、走り出さないでよ! 僕追いつけないよ?!」

 

 

 

 

 

 ベル・クラネル

 Lv 1

 力:I96→H143

 耐久:I13→I42

 器用:H140→178

 敏捷:H189→G274

 魔力:I0

 

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

「あの、僕の上がり幅も充分おかしいと思うんですけど……千都世の方絶対何かおかしいですよ、神様!」

「君はボクが簡単な読み書きもできないなんて、そう思っているのかい?」

「い、いえっ! そういう事じゃなくて……でも!」

 

 はて、そんなにおかしい感じなのかい? というか、私より先にベルが見るのおかしくない? 

 自分のステイタスが記された用紙ではなく、私のを握りしめ震えるベルから用紙を引っ張り奪う。

 

「さてさて、どれだけ上がってるかな〜?」

 

 千都世

 Lv 1

 力:I31→H159

 耐久:I3→I6

 器用:D538→C674

 敏捷:G289→E403

 魔力:I0

 

 直感:H

 無我:F

《魔法》

【】

《スキル》

【明鏡止水】

 ・精神は乱れず、決して揺れることはない。

 ・精神力マインドを一定値に固定。

 ・戦闘時、見切りに大幅補正。

 

 ふむふむ。ふむふむ。

 

「まぁ、私の才能を以てすればこの程度……当然だぜ」

「震え声で言ってもなんの説得力もないよ?!」

 

 ベルが記入ミスを疑いたくなる気持ちもわかる。

 熟練度上昇トータル381。

 やはり私、大天才か? 

 耐久は相変わらず紙である。紙耐久である。ここまでくると、もはや笑えてくる。

 

「ベルも、昨日までとは比べられないくらい伸びてるね? なんかあった?」

「千都世の伸びを見ると感覚狂うけど、僕もすごい上がってるよね?!」

 

 200くらい上がってるね。今までボコボコにされてた分が加算されたのかな? いや、それはステイタス更新の仕組み的になさそう。じゃあ何って言われたらわからん。

 

「……ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる」

「へ、ヘスティア様?!」

 

 ベルとステイタスについて話していると、ヘスティア様は外套を羽織り、私たちの前から行ってしまう。

 いやいやいや、待て待て待て!? 待ってくださーい?! 

 

 事態を確認したら後は早かった。すぐさま追いかけ、教会を出るギリギリで、手を取る。

 

「ヘスティア様!」

「なんだい! 君たちは女の子と仲良くご飯食べてくればいいさ!」

「私、ヘスティア様も一緒だと思ってたんですけど!!!」

 

 手を握った私と顔を合わせようとせず、そっぽむいて言われてしまった。

 ああ、この世の終わりだ。

 

「う、うぅ……千都世くん、ボクが言いすぎたから、そんな顔しないでおくれよ」

 

 おろおろとしながら私の顔を見て、申し訳なさそうにするヘスティア様。そんな顔されたら私も申し訳なくなってきた。わがままを言うのはやめよう。

 

「ヘスティア様は打ち上げ……仕方ありません」

 

 あーあ、せっかくヘスティア様といけると思ったのに……私は残念だなぁ。

 …………そうか、今度連れて行ってあげればいいんだ! なぁんだ、簡単な事じゃないか! 私がたくさん稼いでいいお店で一緒にご飯を食べる。これでいいじゃん! 

 ダンジョンに潜る気がどんどん湧いてきくるぜ! 

 

「なら5000ヴァリスはヘスティア様に、これで美味しいもの食べてきてください」

「ええっ?! そんな! 悪いよ!」

「いいんです。気にしないでください。一緒に食べられないのは残念ですが、ヘスティア様にも美味しいものを食べて欲しいという眷属からの願いですから」

 

 そう言ってお金を渡しておく。

 私が持っていたらいつのまにか無くなっちゃうし。あると使いたくなるのがお金というもの。お金は人を狂わせるのだ。

 

「じゃ、じゃあ行ってくるね」

「「行ってらっしゃい。楽しんできてくださいね」」

 

 なぜかすごく微妙な表情をしたヘスティア様を、ベルと並んでしっかりと見送る。

 よし、私たちも行こうか。

 

 

 

 

 

 

「二名様入りまーす」

 

 シルさんに案内されて、私とベルはカウンター席に座らせられる。

 こんなことを言ったら失礼かもしれないが、食事のマナーとかなさそうな店である。スーツとか仕立てる必要がないようなので安心だ。

 

「アンタらがシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」

 

 どちらかといえば私は美人よりだ。ベルと同じにしないでほしい。

 

「なんでもアタシ達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか!」

 

 …………なんて事言ってくれてるんだ?! 私ぜんぜん食べないぞ?! 

 なぜって? 吐くからに決まってんだろ。

 匂いはどうなんだって? 慣れた。

 

 ベルお前食べられんのか? と思って横を見れば、店員のシルちゃんとお話ししちゃってて、私の視線には気がついていないようである。

 やはり男の友人よりも女の店員の方がいいのか。

 そんなことを思いつつ、メニューを開いてどんな料理があるのか眺める。どれも美味しそうであるが、周りの食べている量を見るとかなり多いので、間違いなくお持ち帰りコースである。

 

 いくらか悩んだ末に、ベルはパスタ。私はシチューとパンを頼んだ。

 シチュー美味しいよね。実は私の好物。

 酒はいるかと女将さんに聞かれたが断っておいた。医者からは何も言われていないが、病人が酒を飲まない方がいいのは自明である。

 

 ガッ! 

 

「「えっ?」」

 

 私とベルの前には酒が置かれた。断った意味はどこに? 

 私の分はベルか誰かに飲んでもらおうっと。

 

「楽しんでますか?」

「……圧倒されてます」

 

 いつの間にやってきたのか、シルさんがこちらに声をかけてくる。苦笑しつつ答えたベル。

 私も圧倒されている。人が多いし従業員は美人さんだ。

 あとは私の病気が治って、匂いも楽しめるようになれば最高である。

『聖女』様に診てもらって治らなかったから、もはや治らない気もするけど。

 

「お仕事はいいんですか?」

 

 エプロンを外し、壁際の丸椅子を持ってベルの隣に腰を下ろしたシルさんに、ベルが尋ねる。

 

「キッチンは忙しいけど、給仕の方は十分間に合ってますので」

 

 今は余裕もありますしと、笑って言う。

 

「あ、ならシルさんにこのお酒はあげます」

「千都世さん、もしかして私を酔わせる気ですか?」

 

 何言ってるんだ、そんなことするわけないだろ。

 シルさんが変なことを言ったせいで、従業員の方々からの視線が痛い。もはや殺気まである気がする。

 

「違いますよ。私、持病がありまして……恥ずかしながらお酒はあまり。出していただいたのに何もしないと言うのは申し訳ないので、良ければと」

「それは悪かったね」

「いえ、こちらこそ。せっかくお気遣いいただいたのに……申し訳なさでいっぱいです」

 

 私の言葉を聞いていた女将さんが、気の毒そうにこちらを見て謝る。

 なら飲んでやりなと、笑ってシルさんに示す。

 

「ご馳走様です」

「いえいえ、どうぞ」

 

 ちょうど料理も運ばれてきたので、私は水、ベルとシルさんはエールで乾杯をする。

 うん、水美味しい。

 

「「いただきます」」

 

 おー、あったかくて美味しい。量が多いのもいいね。

 やっぱり温かい食事はとてもいい。冷めたシチューとか焼いてから時間の経ちすぎて萎れたパンよりも、出来立ての方が美味しいのは古代から言われているレベルで自明だ。

 これだけ美味しいと、たくさん量があってもペロリと食べきれそう。

 

 美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、このお店の事についてシルさんに教えてもらった。

 女将さんが一代で建てたもので、訳ありな従業員を集めてるとかなんとか。ベルが、シルさんは? と聞いていてすごいなと思いました。

 訳ありって聞いた上でそれを聞けるのはもはや才能だよ。

 ちなみにシルさんは労働環境が云々って言っていた。絶対何かあると私の直感が告げているけど、本人が否定するなら違うんだろう。

 

 世の中聞かなくていい事は結構あるのだ。

 ミアさんはどこの【ファミリア】に所属してたの? とか、黒猫の人がベルの事をすごい目で見てるのはなんなの? とか。

 

『……おい』

『おお、えれぇ上玉ッ』

『馬鹿、違えよエンブレムを見ろ』

『……げっ』

 

 シルさんとベルの会話を肴にパクパクと食べ進めていた私だが、二人の会話が止まり、周りの客達の話し声も質が変わったように感じられたので、食事の手を止める。

 

 顔を上げてみればアイズさんに、犬の人、その他大勢という感じで団体客が店に入ってきていた。

 どうやらお歴々は有名人らしい。

 よく【フレイヤ・ファミリア】は店先で変な事を言って暴れてるので割と知っているのだが、他のファミリアはほとんど知らない。

 

 正確には、ベルやエイナさんが教えてくれていたのだけど、正直興味がなかったのでもう忘れた。

 私、別に冒険者になりたくて来たわけじゃないしね。仕方ない仕方ない。

 

「千都世さん」

「はい?!」

 

 びっくりした、急に耳元で囁かないでほしい。もし驚いた拍子に発作が起きたらどうしてくれるんだ。

 

 ごめんなさいと、少し顔を赤らめ上目遣いで謝罪される。

 これ神様が言ってたあざと少女ってやつか? 

 

「ベルさんが固まっちゃって……」

 

 困った顔で言われ、ベルの方を見れば、百面相をしているところであった。

 赤くなったり紅潮したり放熱したりして、ついにはカウンターに顔を伏せてしまった。

 先ほどまでベルが向いていた方向を見れば、ちょうどアイズさんと向かい合う感じの席位置である事に気がつく。

 

「たぶん憧れの人がよく見える位置に座っちゃったので、舞い上がってるんだと思います」

「憧れ……もしかして」

 

 ゆっくりと私の耳に手を当て、ベルに見えないよう壁を作り、こしょこしょと囁く。

 それくすぐったいからやめてほしい。

 

「もしかして、アイズ・ヴァレンシュタインさんだったり……?」

「さぁ? この前助けられたみたいですけど、どうなんでしょうかねぇ」

 

 安心しろベル、私が君の名誉は守ったぞ(?)

 名言はしてないけど、こう言う会話した事ないんだ。明日から噂になってたらごめん。

 

 証拠にシルさんはふーんと言ってニヤニヤしている。

 ベルが揶揄われるのは確定してしまったらしい。ごめんなベルくん許してくれ。いざとなったら、私がヘスティア様大好きって言ってたとか、なんとか言って逃れてくれ。

 

 さて、これからいじられるであろうベルくんを肴に食事をと、そんな事を考えていたのがいけなかったのか、なんとなく体に違和感。

 

「けほっ」

 

 咳を押さえた手にはべっとりと血が。

 あ、やばい発作がきそう。

 

「あの……けほっ、ごめん、なさい、ちょっ、と外に……」

「わかりました……え? 千都世さん?」

 

 困惑しているシルさんを他所に、体調がどんどん悪くなっていく。

 ひとまず持っていた手拭いで、手についた血を拭き取る。

 

「えっ?! 血が!」

「お金は、ごっほごほ……戻ってきた、ら払います」

 

 いつまでも惚けた顔をして、机に伏せているベルは捨て置き、慌てるシルさんに断りを入れてから団体客の隙間を縫うようにして店を抜ける。

 私の発作が起きそうな時まで、アイズさんにお熱な視線送ってないでもらえるかな? 

 

「おい、すげー美人が出てくぞ」

「いつからいたんだ?」

「そんなことより食い逃げか?」

「あの嬢ちゃん死んだな」

 

 そんな言葉を聞き流し店から出ると、今出来る全速力で外へ出た。

 死んだな? おうとも、文字通りしっかり死にそうだよ馬鹿野郎。あと私は男だ馬鹿野郎。

 

 店からそこそこ離れた路地に座り込み、胸をぎゅっと押さえる。

 無理やり走ってきたのは間違いだった気がする。

 

「げっほげほ! ごほごほ! ……ごっほ! ひゅっ、ごほ! ごほ!」

 

 吐き気がないことが幸いか……まぁ咳き込みすぎて吐きそうだけど。

 さっき食べてたもの全部戻したくはない。処理も面倒だし。

 今日はヘスティア様と来なくてよかった。来てたら迷惑かけていたところだぜ。

 

 頭がガンガンとして割れるように痛い。手足は痺れて動かないし、だんだんと周囲の音は遠くなり消えて、耳鳴りがひどい。視界はモノクロになって、今にも意識を失いそうだ。

 

 ああ辛い。

 

 ───いくらか経って、手足が動くようになったので薬を呷る。即効性はないからまだ当分辛いけど。

 ないよりはマシだ。薬飲むだけでなんとなく和らいだ気がするしね。

 

 

 

 

「すみません、突然飛び出しちゃって」

「そうだにゃ! お前らが飛び出したせいでミア母ちゃん激お…………おみゃー、大丈夫かにゃ?」

「はい、おかげさまで」

 

 店員さんによれば、お店はそろそろ閉店というところのようで、人はもうまばら。ピーク時に発作が起きたことから、かなりの時間苦しんだことが伺えるね。

 最悪だよ。まったく。

 

「千都世さん、戻ってこられたんですね……その、顔色が悪いようですけど、何かありましたか?」

 

 戻ってきた私に気付いたようで、シルさんが心配そうに話しかけてくれた。何かあったといえばあったが、いつも通りといえばいつも通りである。

 なんとなく笑って誤魔化した。

 持病の難病の発作が起きて死にかけてました! ははは! 

 とかほぼ初対面で言えるわけない。

 聞いた側もなんで答えるべきかわからないだろうしね。

 

「料理、持って帰ることってできますか? 申し訳ないのですが、ちょっとこれ以上は食べられないので……」

「それなら私やっておきましたよ」

「あ、ありがとうございます。本当はあったかいうちに食べたかったんですけど……」

「気にしないでください」

 

 シルさんに頭を下げ、ふと思う。

 

「あの、ベルはどこに?」

「その…………急に飛び出しちゃって、どこにいるのかわかりません」

 

 は? 食い逃げはまずいですよベルくん。神様の名前に泥を塗ることになる。とりあえず、私が立て替えておこうか。

 

「なんでアンタが消えたのか聞かないけど、飯はしっかり食べな!」

「わかりました。連れもいなくなってしまったのに、気を遣っていただいてありがとうございます」

「次来る時はあの小僧に食い逃げはやめろっていておくにゃ」

 

 は、はは。しっかり言っておきまーす。

 二人分のお金を払い、外へ出る。後で返してもらうっと。

 

「ごちそうさまでした。また必ず来ます」

「ふふふ、約束ですよ」

 

 さて、食い逃げベルくんでも迎えに行こうかな。




質問、感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。