病弱剣士がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか?   作:病弱系キャラクターすこ

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お祭りが楽しいから今日はもうモンスターの顔はみたくない。

「千都世さん?! どうしたのその怪我?!」

「あはは、異常事態イレギュラーと言っていいのかわかりませんが、インファントドラゴンの強化種と9階層で…………」

 

「い、一旦ポーションを取ってくるわ! もう少し待ってて!」

「ありがとうございます」

 

 なんだかんだ言って辛いからありがたいですねぇ……。

 あなたになら、ウチのベル君を任せてもいいかもしれない。

 

「これ早く飲んで!」

 

 ポーションを受け取りごくごくと飲みほす。

 世界から弱体化を受けて尚圧倒的天才な私は、この短期間で身体も治ってきているのだ。

 

 …………なんてことはなくフツーに重傷である。

 身体の動かし方を理解したから、それなりに動けるようになっているだけだ。

 当たり前だろ。

 こんなに身体がボロボロなんだからそう簡単に治る訳ないだろ。ポーションは奇跡を起こす薬でもなんでもないんだぞ。

 私の病気が癒えないことがそれを証明している。

 

 とは言っても、多少身体は楽になったような、なっていないような気がする。

 要するに気のせいってこと。

 なぜなら私の身体を蝕む病魔は去っていないから。こいつがどうにかなってくれないと楽になる訳ないだろ。常識的に考えてさ。

 

「あの、聖女様ってどこにいるか知りません?」

「きっと【ディアンケヒト・ファミリア】にあると思うんだけど、私もたまたま忘れ物を取りに来ただけだから……ごめんね」

「いえ、エイナさんがいてくれたおかげで治療できた訳ですし」

 

 天が創りたもうた私の身体を焼くとは、愚龍ごときが不敬な。

 思い出したらむかついてきた気がする。

 モンスター風情が調子に乗って私に襲いかかるから、ああやって首を刎ねられるんだよ。来世では私に会わないように努力しろよ? 

 

 それはともかく、聖女様はどこにいるのかわからないのかぁ……仕方ないね。

 

「傷はエイナさんからいただいた包帯やら何やらで隠せますし、全く動けないわけじゃないので歩いて【デイアンケヒト・ファミリア】まで向かいます」

 

 頑張って9階層から戻ってきたことで、怪我してる時の動き方みたいなのもわかったし。

 モンスターがうろついていない地上を歩くなんて余裕である。

 

「ダメだよ! そんな怪我してるんだから!」

「それはそうですけど……」

 

 今朝シルさんに聞いた話であるが、どうやら今日はお祭りらしい。

 モンスターを調教するのを見せてくれるとかなんとか。

 

 よくわからないけど、街が騒がしくなっていることを考えれば、かなりの盛り上がりを見せ当たるであろうことは、簡単に察せられる。そんなの見に行くしかない。

 うちの地元には祭りなんてものはなかったし、あったとしても多分行けなかったし。

 

 しかしながら、指をピシッと私に近づけたエイナさんは、それに! と続ける。

 

「千都世さん、服がダメになってるでしょ? そんな格好で街に出ちゃダメ」

「包帯ぐるぐる巻きにすれば大丈夫」

「ダメに決まってるでしょ?!」

 

 なら女性冒険者の格好も指摘して欲しい。

 都会に出てきたばかりだからわからないけど、多分ああいうのを痴女っていうんだと思います。ベルのお爺ちゃんに教えてもらった。『それもまたいい』とか言っていたが、私にはちょっと理解できなかった。

 ぽんぽん痛くなんないのかな? 

 私は身体を少し冷やすだけで痛くなるのであんな薄着できないね。

 

 包帯ぐるぐる巻きで歩こうとした人間のセリフではない気がする。

 

「わかりました……では、ギルドで大人しく待っています」

「もう、しっかり待ってるんだよ?」

「はーい」

 

 

 

 

 

「【ディア・フラテール】」

 

 純白の暖かい光が私を包み込み、火傷や筋肉の損傷、骨折など先の戦闘で負った傷を全て癒した。

 

「本当にありがとうございます! 助かりました!」

「いえ、患者が来たら癒す。当然のことをしたまでです」

 

 私がお礼をしているのは、オラリオ最高の回復術師であるアミッド・テアサナーレ氏である。

 

 え? エイナさんに大人しくしておけって言われた? 

 ははは。私が大人しくギルドで待ってる訳ないだろ。

 さっさと回復してもらって祭りを回るのだ。

 

「それで、何があればあんなことになるんですか?」

「えっと……ダンジョンに潜っていたらインファントドラゴンの強化種と遭遇してしまって」

「私としては、病人がダンジョンに潜るべきではないと思いますが…………貴方の場合そうはいきませんから」

 

 できることなら私もダンジョンになんて潜らずに、村でかわいい嫁さんもらって、農業しながら剣を振るっていたいものである。

 まぁ、誰からかうつされたこの病気のせいで無理なんだけどね! 

 やれやれ、私の才能が半端じゃないから病気にしてバランス保とうとするのよくないぜ。

 

「そのぉ……私お祭り行きたいんですけど行ってもいいですか?」

 

 にっこり笑って元気よく質問した私。

 私ほど顔のいい人間に、こんなに素晴らしい笑顔でお願いされたら断れるわけないよね! 

 

「ダメに決まっているでしょう」

 

 …………ですよねー。

 

 

 

 

 

 

「お世話になりました!」

「あの、千都世さん」

「はい?」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】を出ようとすると、店番をしている方に止められてしまった。

 お金は払ったし、問題ないはずだけど。

 言いづらそうに視線を泳がせてから、胃を熱した様子で口を開く。

 

「その、脱走はまずいかと……」

「……」

 

 確かに先ほど主治医の聖女様に、入院? を言い渡された。

 しかし、私は怪我が治ってしまえばもう普段通りなのだ。死ぬほどだるいのはいつも通りであるし、頭痛で頭が割れそうなのもいつも通り。入院しても良くならないのは以前証明されているのだ。

 入院費とか治らないのに払わせようとしてくるから、仕方ない。私を入院させたいなら、この病呪いを治せるようにしてから出直してこい。

 

「ね? 戻りましょう? ほら、怖くないですよ〜」

 

 少々ぎこちない笑みを浮かべ、下から覗き込むようにして近づいてくる。

 私は猫か。

 

「お祭り終わったら【ステイタス】を更新してもらって、戻れたら戻ってきますので! ひとまずさよならー!」

「あっ! ちょっと! 待ってください!!」

 

 待てと言われて待つ脱獄者がどこにいるっ! 私はお祭りに行くんだ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! やっぱり出来立てのじゃが丸くんは温かくて美味しい」

「千都世さんってすごく美味しそうに食べますよね」

「そうですか? 私味がわからないので、とりあえずなんでも食べられますから」

 

 脱走して少し祭りを回っていたら、シルさんとばったり出会ったので一緒に回っている。

 悪いなベルくん。私、多分ベルくんがやりたかっであろうことやれてるわ。女の子とデートしたいとか言ってたもんね。

 

「でも、やっぱり男の私よりも、可愛い女性なシルさんが笑顔で美味しそうに食べていた方が人目を引きますね」

「ふふふ、そうですか?」

「それはもちろん」

 

 やっぱり女性の笑顔の方が、そう、華やかさがあるね。

 いくら私が美の女神とタメ張れるくらいには美人だとはいえ、どうやら私の笑みはひどく儚い感じがしてしまうらしく、客引きの効果は薄いんじゃないだろうか。

 

「あ、シルさん、私のじゃが丸くん一口食べますか?」

「えっといいんですか?」

「いいんですよ。はい、どうぞ」

 

 全然遠慮しなくていいんだけど。というか私、あんまり食べられなそうだから食べて? 

 

「ありがとうございます。……あむ、あむ。んー、おいしい」

 

 受け取りやすいように差し出したじゃが丸くんに顔を近づけ、パクリとかわいく一口。

 もぐもぐと美味しそうに食べている。

 

 あ、そうやって食べる感じなのか。シルさんが気にしないのなら、私は別にどんな食べ方でも問題なし。

 シルさんが口をつけた部分を見ながらそんなことを考えていれば、ふと何かに気がついたようにハッとした表情をし、急に少し恥ずかしげな様子を見せると、キョロキョロと視線を彷徨わせ始めた。

 

 どうしました? と聞けばほんのりと頬を紅潮させ、上目遣いでこちらを見つめて言った。

 

「その、間接キス……ですね?」

「? ああ、確かに」

 

 言われて気がついた私の反応が微妙だったせいか、シルさんは私は恥ずかしいのにという感じで、少しむっとした雰囲気になった。

 

「私は()()()ってやつじゃないか? と思ったので」

「あーん?!」

 

 そんな反応をされると、私の方が心が汚れてる感じがするのはなぜなのか。

 

「……千都世さんもどうぞ」

「はい?」

「私だけ恥ずかしい思いをするのはダメです。千都世さんも恥ずかしくなってください!」

 

 そう言って、プルプルと体を震わせながらじゃが丸くんを差し出してくる。

 そこまでなるなら無理しなくてもいいんじゃ? 

 私がなかなか食べないことに痺れを切らしたのか、やけっぱちになったようで、どんどん私の口元にじゃが丸くんを近づけてきた。

 

「あーむ、もぐもぐ。…………美味しいですね」

「あ、千都世さん、私から視線を逸らしてどうかしましたか?」

「わかって言ってるんですよね? ……シルさんってちょっと悪い人ですね」

「ふふふ、悪い人? なんのことですか?」

 

 思ったよりも、通行人にもみられながらあーんってするの恥ずかしい。

 いや、きっと通行人は私たちのことを気にも留めていないんだろうけどさ。

 私もベルくんほどではないけど、もしかして女性に弱い?? 

 

 

 

 

 様々な食べ物をシルさんと分けながら食べ歩いていると、大きな悲鳴と共に突如として人波が割れ、植物型のモンスターが現れた。

 咄嗟にシルさんを抱えて飛び去ることでモンスターの突進攻撃を避ける。

 

「なっ、何が起きてるんですか?!」

「私も知りたいですね!」

 

 何が起きてる? 

 意味がわからない。街中でモンスターが暴れるなんてことあるのか? 

 

「…………モンスターが脱走したのかもしれません」

「……? ああ、なるほど。そういうことですか」

 

 シルさんの呟きに納得する。

 そう言えばこの祭りは怪物祭モンスターフィリアなんて名前だったな。

 なんの祭りか忘れて、雰囲気と食べ歩きを楽しんでた。

 

 こんな日に警備を怠って脱走されるとか、【ガネーシャ・ファミリア】の人たちやる気あるの? 

 美人みてたら脱走しちゃってた! なんてことだったりしない? 

 

「あの、シルさん」

「なんですか、千都世さん」

「あいつ、私たちの方見てません?」

「みてます。すごいみてきます」

「「…………」」

 

「「逃げろー!!!」」

 

 周りを見れば、楽しく騒いでいたオラリオの人は皆家に入ったのか、近くに誰もいなくなっている。窓や扉は固く閉じられ人の気配を感じにくいようにされており、いわゆるヘイトというものをを買わないよう工夫がされているようだ。

 

「都会人ってこんなに逃げるのが早いの?!」

「緊急事態には慣れてるんです! ……突進がきますよ!」

「…………っ! シルさん、少し失礼しますね!」

「えっ? あっ、わっ、きゃあ!」

 

 シルさんの姿勢を崩して横たえ、膝の下に腕を通し肩をしっかりと抱える。いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。

 モンスターの頭? を踏みつけることで突進を避け、屋根の上へと飛び移る。

 触れると同時に口が閉まり、あと少しでも反発が遅ければ二人仲良く食べられていた。

 

「シルさん、このモンスターの名前とかわかったりします?」

「私はモンスターに詳しくないので……すみません」

「いえ、お気になさらず。私もわからないので」

 

 なんだかよくわからないけど、どうにかなりそうかなぁ? 

 とりあえず首を落とせば殺せるとは思うんだけど……首ってどこにある? 

 それに加えてなんというか、私を狙っているというよりもシルさんを狙っている感じがする。

 気のせい? 

 視線というか、意識というか、そういうものが私の方にはあまり向けられている気がしない。

 

「シルさん、そこで少し止まっていてもらってもいいですか?」

「え? はい、わかりました」

 

 シルさんに一言伝えて、モンスターを観察しながら少し距離を取る。

 はてさて、私とシルさん、どっちの方を注視してるかなっと。

 

 私がシルさんから離れようとしても、一瞬たりともこちらに意識を向けることなくシルさんの方を向いている。

 

「ち、千都世さん? 私の事置いていきませんよね? すごくみられている気がするんですけど!」

「大丈夫です。見捨てませんよ」

「じゃあ早く戻ってきてください!」

「はーい」

 

 どうやって殺すか考えながらシルさんの元へと戻る。 

 噂によれば、モンスターと私のレベルが違いすぎると、刃が通らないことがあるらしい。そんなのは技術がない者の言い訳だと思っていたが、()()()()()()()だとしたら万が一がある。

 切れなかったら逃げればいいが、いざという時は……。

 

 シルさんの肩に柔く手を置き、にっこり笑って伝える。

 

「死ぬ時は一緒ですよ」

「私、そういうのはもっとロマンチックな場面で聞きたかったです」

「今も十分、危機的で劇的で物語的な状況ですよ」

 

 こういうのは、こんなシーンに憧れていたベルくんの役目だと思うが、私に御鉢が回ってきたのなら仕方ない。

 多分ベルはベルで誰かと逃げてるだろう。私の勘がそう言っている。

 ……まさかヘスティア様じゃないよね? 

 

 屋根の上から見渡した感じ、それなりに近くで戦っている冒険者はいるようだし、このままシルさんを抱えて『鬼ごっこ』しても余裕がありそう。

 物語の英雄なら、ヒロインを守りながらすごい戦いをするんだろうけど、残念ながら私はいつ爆発するかわからない爆弾付きな訳で。

 

 ボロボロになりながら愛を叫んだり、大技から庇って死にかけたり、なんていうロマンチックなやり取りなど生まれる余地がない。

 

 死ぬ時はそんなことする前に私が発作で死ぬ。

 

 故に私とロマンチシズムに浸りたいのならば、事が始まる前に済ませなければいけないということである。

 

「ごほっごほっ」

「千都世さん? ……血?!」

「ああ、気にしないでください。けほっ……いつも通りですから」

 

 そう、つまりこういうこと。

 

 ひどく震えて痙攣し始めた手で口元を抑える。

 そうすることでシルさんには血を見せないようにしたものの、隠し切れる訳もなく気づかれてしまった。

 

 いつも通りの発作とはいえ、何度起きようと慣れることはない。

 身体全身を駆け回る激痛と目眩によって平衡感覚が失われる。

 

「千都世さん?! な、何が?」

「だ、だいじょ、うぶなの、ごほっ少し離れてくださ、い」

 

 今日ってもしかして厄日? 

 野生の強化種インファントドラゴンに絡まれ、這々の体で地上に帰って来てお祭りに行けば、よくわからないモンスターに絡まれる。さらに発作? 

 確実に厄日だ。祭日とは思えない。

 

「ん、んん。すー、ふー。はぁ、大丈夫です。心配おかけしました」

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

 

 シルさんに心配をかけるわけにはいかないので、気合いでなんとか呼吸を整え誤魔化す。

 実際のところは眩暈やら呼吸困難やら吐き気やらで酷い。

 大丈夫じゃないけど、大丈夫。

 そう、いつも通りだ。

 聖女様に会った後でよかった。じゃなきゃ死んでたかもしれない。

 

「あの花? はどこを切れば殺せると思いますか?」

「…………細切れとか、どうですか?」

「なるほど……細切れですね」

 

 聞いておいて悪いが、そりゃ細切れにすれば死ぬのは当然だよ? 

 さて、どうしようかと考えようとした時。 

 

「っ?!」

 

 花から触手が伸び、鞭のようにこちらへと向かってくる。

 触手は私を狙うことをせず、一直線にシルさんを目掛けて突き進んでいく。

 させるわけにはいかない。

 

 先ほどと同じように片腕でシルさんを回収して、空いている方の腕で刀を振るい触手の攻撃を受け流し避ける。

 

 なるほど、見た目通りの硬さか。

 

 この接触でわかったことは、触手は筋に逆らわずに撫でれば苦もなく切れる。逆らおうとするとそれなりに抵抗がありそうだ、ということ。

 普通の植物と変わらないみたいだ。

 この刀は今日だけでも相当酷使しているし、今までも素人知識での手入れしかしていないので、無理することはできない。

 無闇矢鱈に剣を叩きつけるなんて愚かなことはせずに、流れに沿って切るべきか。

 

「落ちますね」

「えっ? わ、きゃあああ──ー?!」

 

 触手をいなしきると、崩れ落ちるようにして屋根から落下する。

 シルさんの焦った声が聞こえたが、別に問題ない。恩恵が無かったころも、これくらいの高さからベルを抱えて飛び降りていたのでうまく着地できる。

 

「なんでシルさんが狙われるか、心当たりは?」

「な、ないです! 私今日はお祭りに来ただけですから!」

 

 屋根から屋根へ、道から道へと追撃を交わしながらシルさんに聞く。

 

 私ではなくてシルさんが狙われる理由。

 健康? いや、それなら街の人間誰彼構わず襲われるはず。

 武器の有無? これも同上。

 性別? 同上。

 食べ物の匂いでもなければ、恩恵の有無でもあるまい。なら何だ? 

 

「…………何か魔道具を持たされたとか、魔法や呪いをかけられた可能性は?」

「…………ありません」

「そうですか。ならなんで狙われてるんでしょうね?」

 

 私とシルさんの違いを考えた時に、魔法とか呪いとかそういうものに反応しているのかと思ったが、どうやらそういうわけではなさそうだ。

 じゃあなんで? という話になるが……まぁいいさ。

 

「あの、体調大丈夫ですか?」

 

 腕の中に収まっているシルさんは、触手による攻撃を掻い潜り迎撃し逃げ回っている私に尋ねてくる。

 

「男は身体を張ってなんぼって教わったので。これくらい余裕です」

 

 触手による攻撃は速いといえば速いが、避けられないほどの速さではない。何より刃が通じないなんてことがないので、どれだけ私が死にかけだろうと殺せないことは絶対にない。

 

「……まさかこいつも火を吹いたりしないよね」

「え?」

 

 流石に吹かないと信じたい。

 あの見た目から火を吹かれたら私は何を信じればいいのかわからない。

 先ほど既に、インファントドラゴンに火を吹かれてやられかけているのだ。そう何度もやられるのはいやだ。

 そんな不安が少し溢れてしまった。

 

「……ちょっと怖いので、向こうの冒険者に協力してもらいます」

「【ロキ・ファミリア】ですか」

「あれが」

 

 確かに金髪の女性はいたとは思ったが……あれはアイズさんか。いまいち顔を覚えられていなかった。

 ま、私たちの【ファミリア】は弱小。大手な【ファミリア】である【ロキ・ファミリア】と関わることなんてそうそうない。顔を覚えられてなくても仕方ないね。

 私の好きなタイプの顔でもないし。

 

「当たりそうです!」

「当たらないように避けていますし、当たりそうなのは弾いているので当たりませんよ。安心して私に抱えられていてください」

 

 よく考えたらシルさんは酒場の看板娘だった。あんまり危ない目に合わせるべきではないんだけど…………。

 私も体調的に余裕がないんだ。後でベルがたくさんお店で食べるので少し我慢して欲しい。

 

 エルフにアマゾネス二人、アイズさん。四人見えた。

 花と私の距離はまだ遠い。もう少し引きつけてから上に跳んで、エルフの少女の魔法に合わせて花をぶつける。

 

「人?!」

「こいつもまとめて吹き飛ばせますか?」

「そんな急な?! レフィーヤいける?!」

 

 アマゾネスの少女がエルフの少女に尋ねると、詠唱を止めることなく力強い頷きが返ってきた。

 私が連れてきたモンスターと同じモンスターを相手に、こちらも手こずっていたようで、善人それなりに負傷しているようだ。

 打開策としてエルフの少女の魔法を放とうという場面だろう。我ながらタイミングがいい。

 

「【吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールヴ】!」

「詠唱終わったわよ!」

 

 私とモンスター、魔法の範囲を考えると……ここ! 

 

「シルさん、飛びます!」

「はい?!」

 

 刀を腰に納め、シルさんをしっかりと抱きしめて跳び上がる。

 

「【ウィンフィンブルヴェトル】!」

 

 エルフの少女が魔法名を叫ぶと同時、莫大な寒気が場を制圧する。

 生み出された吹雪は、白銀を太陽の光に反射させながらモンスターへと襲いかかる。囚われまいと身体を捻り暴れるものの、そんなものをもろともせずに先から芯へと瞬く間に氷漬けにしていく。

 

 ついには動きを止め、出来上がったのは趣味の悪いモンスターの氷晶のオブジェクト。

 ピシリとヒビが入れば、モンスターは砕け灰となった。

 キラキラと舞っている氷の粒はとても美しく、つい見惚れてしまうほどである。

 

「…………シルさんとくっついていなかったら、私凍ってましたね」

「多分ですけど、私も一緒に氷漬けになってましたよ」

 

 チラリと足下を見れば、足の指先の辺りまで魔法で生み出された氷は迫ってきており、私の着地した屋根の位置がもう少し前であったら氷漬けであった。

 

「……死ぬ時は一緒だって言ったのは氷漬けになるってことですか?」

「……私とシルさんが氷漬けになって死んだら、随分と綺麗な氷像になるでしょうね」

 

 ジトっとした目でみられているが、私もまさか凍ると思ってなかった。

 魔法すごい。

 

「……随分と危険な目に合わせましたが、最後までシルさんを傷つけることは許さなかったということで、どうか許してくれませんか?」

 

 私の情けない懇願にシルさんは、ふふっと表情を崩すとイタズラっぽく笑って私の唇に指を当てる。

 

「最後まで私を守ってくれたので許します」

 

 だから、そう言って顔を一瞬伏せてから一言。

 

「また、一緒に遊びましょうね?」

「それは……是非よろしくお願いします」

 

 その顔はずるいと思うな。




千都世くんの今日のスケジュール

ダンジョン

推定Lv3〜4の強化種インファントドラゴンと戦闘
唐突な発作と、隠し球の『かえんほうしゃ』で死にかける

這々の体でギルドに戻る

エイナさんとの約束を破り【ディアンケヒト・ファミリア】へ

聖女様に回復してもらい入院の指示を受ける

本日二度目の約束破って脱走

シルさんとお祭り楽しむ

なんかよくわからない草のモンスターと戦う

【ロキ・ファミリア】とからむ

オラトリアに関わる予定はない。
もしかしたら赤髪の女とは戦うかも?才能のゴリ押しでどうにかしてくれるはず。

よろしければ感想をよろしくお願いします。
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