もしも源石氷晶にフロストノヴァの遺伝情報が遺されていたら   作:とむ

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登場人物の一人の名称が判明したため、オリジナル名から変更しました
シルニー→ペトロワ


雪の化身たち

 

 僕たちは、今から雪を降らせる。

 なんていうと感傷的に聞こえるけど、ただゲリラ作戦を行うだけだ。

 僕たちは、死ぬ。命と引き換えに数分間、数十分間を稼ぐ。

 

 その作戦の成果を祈って僕たちはスキットルをぶつけ合っている。スキットルの中には少しのお酒。

 

 ウォッカ。

 

 凍える体を温めてくれるらしい。お酒の中でも特にアルコールが強いからいつもは止められていたけど、今日は特別。

 

 そんな歳じゃないなんて言ってスネグは僕にお酒を飲ませるのを渋っていた。

 だけど少しくらい飲ませてやれ、なんてグラードが取り計らってくれた。さすが僕のもう一人の姉さんです。

 ペトロワも、いいじゃないかと言ってくれた。

 

 スネグはいつも明るくて、彼がいるだけで雰囲気が明るく喋りやすくなる。少し度がすぎて場を凍らせることもあるけど。さっきも、ロドスの前で冗談を口にして空気を凍らせていた。

 

 ペトロワは僕たちスノーデビルの中でも一番体が丈夫で、戦いでも頼りになる。低い声でいつも冷静だから実は最初、怖かった人。

 凍らせた敵を砕く姿から、アイスピッカーなんて呼ばれてる。

 僕も初めて見た時は、こっわぁ、なんて思ったけど。

 

 でもそのお陰で何度も命を救われた。

 

 ペトロワにも、グラードにも、スネグにも。

 

 そして、それも終わり。

 僕たちスノーデビルはここで散る。

 

 姐さんはアーツを使いすぎて意識を失ってしまった。

 僕たちをこの都市から逃すために、いくつも巨大な氷塊を作り出していた。

 その上僕たちに源石氷晶を渡して、アーツを分け与えている。いくら姐さんでも、流石に体に無茶をかけすぎていた。

 

 こんなこと、タルラさんにさえできない。

 

 それ程のアーツの使い手がいて、僕たちスノーデビル小隊はこの大地を生き残ってこれた。

 

 タルラさん達と組織を組んで感染者達が安心して暮らせるような世の中を目指していたはずなのに、レユニオンは大勢の被害者を産んでいた。

 

 最近のタルラさんは過激すぎる。姐さんと柔らかな笑顔で語り合っていた彼女がいつの間にか都市を落として感染者も、非感染者も大勢殺していた。

 レユニオンという組織もずいぶん変わってしまった。

 この間までは感染者が差別されない人らしく生きられる居場所だったのに、今では非感染者を差別し恨みを晴らすことに執心する組織となってしまった。

 

 スノーデビルは暴徒化した同胞と共に悪戯に被害を生み出していた訳じゃない。

 しかし、それを鎮静した訳でもない。

 自浄できる立ち位置にいながら僕たちは何もしてこなかった。

 

 だから姐さんは、落とし前をつけようとしていた。

 

 きっとタルラさんと戦えば姐さんが勝っていた。

 勝っていた、なのだ。

 今の姐さんは生命を維持することが精一杯。とても激しい戦闘に耐えられる体じゃない。度重なるアーツの過剰使用に体はボロボロになっている。

 それにこの動乱は姐さんの心を痛めつけた。

 チェルノボーグ陥落から始まった一件はこれまで以上に感染者の立場を貶めるきっかけになる。

 

 姐さんがタルラと対峙し、レユニオンを脱退するならスノーデビルも姐さんに着いて行っていた。

 僕たちスノーデビルはタルラさんに着いて行ってる訳じゃない。姐さんがタルラさんを信じているから、僕らも姐さんが信じる人を信じているだけ。

 僕たちをあの採掘場から導いてくれたのは、パトリオットさんと姐さんだ。

 

 そして、ここまで導いてくれたのは姐さんだ。

 

 だから、僕たちはその恩を返す必要がある。

 寿命が尽きるその瞬間を、少しでも幸福なものにしてあげたい。せめて最後は、心を許せる人と過ごしてほしい。

 

 きっとそれには命を投げ打つ価値がある。

 

「おいおいおい、辛気臭いぞ。初めての酒はどうだ?」

 

 思考に没頭していると、スネグが怪訝そうな顔でのぞいていた。

 

 思考の海から戻り、改めてスキットルへ意識を向ける。

 飲み口から香る強烈なアルコール臭に、思わず鼻をひくつかせた。

 

 せっかくお酒を飲む機会が目の前にあるのに、飲まないなんて選択肢はない。

 

 スネグも、グラードも心配そうに見ている。

 そんな子供を見るような目で見ないでほしい。

 

 一気に飲んでやる。僕だって大人になるんだ、お酒くらいどうってことない。

 

「ゴホッ」

 

 喉が! 焼ける!

 

 お腹の底に熱く痺れるような感触が伝わってくる。

 甘くも辛くもない。想像していたような、舌の上がビリビリするようなものでもない。無味な液体だ。

 しかしアルコールの匂いの中に、微かにバニラの甘い匂いがする。

 

「バニラルートビアの方が美味しいですよ」

「ええ……これは中々買えないんだぞ? 酒好きそうなロドスの猫も飛び上がるほど美味いやつなのにあれよりも下かよ」

「初めてはそんなものよ。でも、これであなたも大人入りね」

「ああ……お前も、雪の化身だ」

 

 不意に。ペトロワが欲しかった言葉をくれた。

 僕はスノーデビルの中で年齢も実力も下だから、少しだけ疎外感を感じていた。

 暖かい仲間に囲まれてなんて身勝手な感想なんだと思う。けれど暖かいからこそみんなに迷惑をかけているように気分になってしまう。

 誰にも打ち明けていない悩みだった。

 

 それでもペトロワには見抜かれていたみたいだ。

 胸の奥がじんとして、瞼の裏に滲み出る雪解け水を隠したくて、スキットルをわざとらしく煽る。

 

 お酒は苦くて喉が熱くなるだけで、美味しくなんてなかった。

 

「でも、暖かくなります」

「はは。だろう。アルコールが血流を早めて体温を高めるようにしてるんだ。俺らの命を燃やしてくれるんだ。最後まで……」

 

 スネグが僕の肩に腕を回して、語りかける。

 

「……実を言うと、お前には生きて欲しいんだ」

「……」

「そうね。……あなたはこれから色んな経験ができるもの。勉強をして本当にやりたいことが見つかったり……お酒が美味しいと思えるようになったりね」

「勉強の次がそれかよ」

「くはは、我らにとって酒は欠かせぬもの。それにグラードの言う通り、まだお前には未来がある」

 

 スネグに同調して、グラードも、ペトロワも僕を作戦から外そうとする。

 

 分かっている。僕にも生きていて欲しいのだろう。僕が若いから。

 スノーデビルのみんなも、口には出さないけど視線で訴えてくる。お前の好きなようにしろと。

 

「……いやです」

 

 僕が口を開くと、みんなはじっと僕を見つめる。僕の話を真剣に聞いてくれている。

 やっぱりみんなは暖かい。

 仲間のことを精一杯尊重してくれる。

 

 それに甘えて僕は好きなようにする。

 

「僕が姐さんの役に立ちたくて、残るんです」

「……ははっ、お前も立派なスノーデビルだよ!」

「それに僕が一番アーツを使えるんですからね」

「さっきは無理だって騒いでたくせに言うじゃねえか」

「さっきので冷気を操るコツを掴みました」

 

 スノーデビルの中で、僕は姐さんの次に氷結のアーツが得意だ。

 

 とはいっても、氷結効果のあるアーツを打ち出したり手で触れた面を少しずつ凍らせるくらい。

 姐さんみたいに、アーツに触れただけで氷像になるほどの出力はない。

 外気温を変えるほどの規模も出せない。

 それでも、僕のアーツが当たれば重装備の上からでも凍傷を引き起こし、何度か当たれば凍らせる事もできる。

 凍らせた敵はペトロワが砕いてくれる。

 

 それに、姐さんを救出するために地面の一部を凍らせることで冷気収束のコツを掴んだ。

 今までよりも早く、厳冬のように相手の熱を奪うことができそうだ。

 

「僕とアイスピッカーで、黒蓑も近衛局も砕いてやります」

「ペトロワ、こいつは頼もしいな!」

「ああ」

 

 スネグはばんばんと僕の肩を叩いて、ペトロワの方へ押し出した。

 

「お前ら、最後のウォッカは楽しんだか?」

 

 僕たちは、これから死ぬ。

 

「レムビリトンからここまで、お前らと共に過ごせて本当に楽しかった」

 

 でもそれは無駄死にじゃない。

 

「最後に姐さんと旦那の幸せを祈って盃を交わそう」

 

 僕たちの命をかけて姐さんを助けることができる。

 

「――、お前が音頭を取れ!」

 

 スネグが僕を名指しする。

 そういえば、これが初めての乾杯になるのかな。

 

 皆んなと一緒になれた感覚がより強まる。

 僕も皆んなも、気持ちは同じだ。

 

「僕たちは雪の化身! 視界を覆い隠すのは激しい雪だ! 冬を隠して、道を開くんだ!」

「乾杯!」

『乾杯』

 

 それから僕たちは持ち場について、近衛局と黒蓑と戦った。

 

 無線から聞こえる声はどんどん少なくなってくる。

 雪が、散ってゆく。

 

 それは僕たちも同じで、グラードは既にいない。

 

 スネグの体にはいくつも矢が刺さっている。

 ペトロワなんて全身の至る所に矢が刺さって、サボテンみたいになっている。

 

 それでも僕たちは倒れない。

 

 1秒でも時間を稼いで姐さんが逃げ切る可能性を1%でも上げるために。

 パトリオットさんと暖かな最期を迎えられるように。

 

 不意に、姐さんから預かった懐の源石氷晶が強く冷気を放った。

 

 源石氷晶。僕たちはこの源石のおかげでアーツが強力になっていた。

 ただそこにあるだけで、僕のアーツが一撃で敵を凍らせるくらいに強くなり周りの気温を白い息が出るくらいまで下げる。

 この源石は、姐さんの一部と言っても過言じゃない。

 姐さんの、力の一部。

 ――それを体に取り込めば、より強力なアーツが使える筈。

 

 ただ、それをしたら死ぬ時期が早まるだろう。源石の粉塵を吸い込んだだけでも融合率が高まって、感染が進行する。

 確実に死ぬ病を進めるから、源石を直接体内に取り込むなんて今までは誰もやってこなかった。

 

 でも、僕は?

 

 今ここで死ぬなら、最後に悪あがきをするのも悪くはないんじゃないか?

 最後に姐さんと共に在れるなら、むしろ光栄だ。

 足を引っ張る僕が、出来損ないのアーツが、二人を、姐さんを助けられるならこの命捨てたって惜しくない。

 

 自然と、懐の源石を掴み取っていた。

 

 そうしている間にも黒蓑達が僕らを包囲している。

 時間も隙もない。

 少しでも動いたら僕らの命はない。その瞬間に殺さられるだろう確信がある。

 

 隙、少しでも隙があれば。

 

 これを心臓に刺して、源石粒子を一気に体に巡らせて、アーツを全力で解放できる。

 きっと氷山を生み出せる。

 この都市の一角を、周囲の敵を僕の命と共に凍らせることができる。

 

「ここは我々近衛局の管轄だ」

 

 近衛局?

 なんだ、僕たちに話している訳じゃない。黒蓑とは仲間じゃないのか?

 

 今この一瞬だけは黒蓑と近衛局の意識がこちらに向いていない。

 

 ここを逃す手はない。

 握っていた源石氷晶を勢いよく胸に突き立てる。

 幸い僕に視線は集中していない。

 

 より深く、より血液を回して。

 

「おい何を……まさか!」

 

 スネグが気がついたみたいだけど、もう遅い。

 僕の体はかつてないほど冷気に満ち溢れている。

 

 源石氷晶の潜在能力を最大限引き出すためにより深くねじ込む。痛みはもはや麻痺している。傷口が生まれたそばから凍っていくから出血ですぐに死ぬことはないだろう。

 

 胸にすっぽりと埋め込んだ源石氷晶が、僕と一体化していく。

 

「ぐっ……うぅぅぁ」

 

 強烈な倦怠感。異物に体が驚いて、全身の細胞が沸騰するほどに熱い。冷たい。

 一瞬意識が途切れそうで、気合いでなんとか前を向く。

 身体中の神経を意識を保つことに集中する。せめてアーツを解放しなければ。

 

「構えぇ!」

「ここは僕がっ」

 

 身体中の冷気を両手に集中させる。

 そしてそれを解放させ――。

 

「――っ」

 

 ――あれ。

 なんで真っ暗なんだ。

 近衛局は? スネグは、ペトロワは?

 

 みんな、どこに行ったの。

 僕は、どこにいるの。

 ねえ。一人は寂しいよ。

 

 ああ。きっとこれは姐さんを一人にしてしまった罰だ。

 レユニオンが暴徒化する前に、僕が何かをするべきだったんだ。

 

 ごめんね姐さん。一人にさせちゃって。

 

 せめて、姐さんが幸せな最後を迎えられますように。

 心の底から、祈っています。

 

 

 

 

 

本筋とは関係のない、フロストノヴァ(スノーデビル君)がドクターや他オペレーターと仲良くする話は必要?

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