一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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今回もほのぼのです。


二頁目

 

 

 

 〇月Θ日

 

 51階層から戻って来て数日。

 拠点である30階層で、私はある実験を行っていた。

 

 『彼女』の遺品である片手剣を私の血で満ちた容器の中に沈め、浸透させるように魔力を込め続ける実験だ。

 

 

 これはあのクソモンスター……芋虫への対策実験である。

 芋虫が出現したのは51階層だが、あれは完全に未知のモンスターだ。この階層に現れないとも限らないし、何がきっかけで再戦することになるかはわからないのである。早急に対策を講じる必要があった。

 

 不壊属性の特殊武器で戦うのが一番だが……。

 さすがに貴重なものだし、迷宮内で拾うことは不可能だろう。よって、私は自身が使える魔法と武器を組み合わせて対策することにした。

 

 

 炎属性の付与魔法は、私が使える魔法の中でも最も使い勝手が良く、強力な効果を持った魔法だ。発動すると手足や武具に炎を纏い、この炎を利用することで攻撃力の強化や爆発的な加速を得ることが出来る。

 『彼女』の遺品である片手剣とも相性抜群で、スキルの相乗効果もあって実質的に一段階上の戦闘力、レベル8相当の力を発揮出来るようになる。

 

 私は魔法によって発生した炎を剣に一点集中させ、温度を極限まで上げることで剣そのものに高熱のオーラを纏わせようと思った。腐食液だろうがなんだろうが、剣に触れる前に熱で蒸発させてしまえばよい、という天才的な発想である。

 

 効果的だと確信しているのだが、この片手剣は第二等級武装だ。不壊属性のないこの剣では、あまりの高熱に刀身が耐えきれない。事実、深層で拾った同じ第二等級の武器は数秒も耐え切れずに溶けてしまった。

 

 腐食液への対策なのに、自分の魔法で溶かしてしまっては元も子もない。

 そこで私は、この剣そのものを自身の体の一部にすることを考えついた。

 

 そんなこと出来るの?と思うかもしれないが……私も出来るかどうかはわからない。でも、モンスターの中には生まれた時から武器を持っているようなやつがいる。深層に出るスパルトイとか。

 だからこうして私の血を浸透させ、さらに魔力を込めることでこの剣そのものを体に同化させる。私の体の一部となってしまえば、壊れても何度でも再生できる最強の剣が出来上がるだろう。

 

 まぁ、このやり方が正しいのかはわかってないけどね。

 ぶっちゃけフィーリングである。なんとかなれー!ってやつだ。

 

 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る!私だって頑張ってるんだから!

 

 

 そんな感じで、私は30階層にいる間は研究を続けることとなった。

 

 

 

 

 

 〇月Σ日

 

 今日は疲れた。

 色々ありすぎて頭が痛い。もう休もう。

 

 

 

 

 

 〇月Ω日

 

 先日は色々なことがあったので、今日改めて日記を書く。

 さて、何から書こうかな……。

 

 私は研究をしつつ、他の階層に隠していた武器庫に向かったのだが……悲しい事に、武器庫は崩落によって跡形もなくなっていた。迷宮内ではままあることだが、何もこんなタイミングで起きなくたっていいのに……。

 

 悲しみに沈んだ私は、心を癒すために人魚ちゃんの下へ向かった。 

 25階層から27階層、通称『水の迷都』を彷徨い歩き、無事に人魚ちゃんを発見していつも通り彼女を遠くから見守っていた……そこまではよかったのだ。

 

 問題が起きたのはライブの途中。

 おやつとして持ってきた魔石をポリポリ食べながら、人魚ちゃんのライブに夢中になっていた私は、背後から忍び寄る魔の手に気づかなかったのだ……。

 

 

 殺気に気づいた時には、既に私の周囲はモンスターに囲まれていた。

 

 アラクネの糸から始まった不意打ちを紙一重で回避した私に振り下ろされる、ガーゴイルの爪、リザードマンの剣。間髪入れずにセイレーンの羽根が雨あられのように降り注ぐ。

 態勢を整えるべく、多種多様なモンスターが繰り出す攻撃を避け、あるいは捌き続けていたのだが……私はすぐさま違和感に気づいた。

 

 モンスターの種類が多いこと?

 下層に現れないはずのモンスターがいること?

 第一級冒険者並みの強さのモンスターがいること?

 種が違うのに、なぜか熟練の冒険者並みの連携がとれていること?

 

 ……否。そこではない。私が気づいた最大の違和感は───

 

 

 『か、可愛い!!超可愛い!超美人!!あとでかい!!』

 

 

 ───そう!なんか滅茶苦茶可愛いモンスターがいることだ!

 

 

 ……この階層に大量にいるセイレーンやハーピィなど、人面、あるいは半身が人間と似通ったモンスターはそれなりにいる。私の推しの人魚ちゃんだってそうだ。

 ただ、基本的にこいつらは醜悪な顔をしている。あと臭い。凄く臭い。いや、臭くないモンスターなんてそんなにいないんだけどさ。

 

 しかし……ここにいる彼女達はどうだろうか。

 セイレーン、ハーピィ、ラミア、ついでに人魚ちゃん。彼女達はとんでもなく可愛い、あるいは美人な容姿をしている。セイレーンの羽からは何だかフローラルないい匂いもする。さらに、私の直感という名の美少女センサーは、鎧を着こんだあのアラクネも相当な美人であると告げていた。

 

 とはいえ、だ。

 如何に容姿が優れていても、モンスターはモンスター。色々と疑問はあるが、攻撃して来たのならこちらの対応は一つだけ、全員ぶっ殺して返り討ちにしてやることだ。

 

 私が態勢を整えて拳を構えると、モンスター達は警戒したように一斉に距離をとった。彼我の力量差を本能で感じ取っているのだろう。いざ、ビビッて及び腰になったモンスターに殴りかかろうとした……その時だった。

 

 戦いを止めるよう、制止する声がかけられたのである。

 声をかけたのはモンスターだ。モンスターが人間の言葉を喋ったのだ。

 

 

 喋ったああああああ!?

 君は喋れるフレンズなんだね!ってそうじゃない。

 

 

 私と臨戦態勢のモンスター達の間に割り込んできた可愛いハーピィは、紛れもなく人間の言葉を喋っている。なんなら、彼女の言葉に他のモンスターも人間の言葉で返している。

 混乱していたので話している内容ははっきりと覚えていないが、どうやら彼女は私が魔石を食べているところを目撃していたらしい。だから私達の同胞なんじゃないかーとかなんとか言ってたっぽい。まるで意味がわからんぞ!

 

 何が何だかわからなくなった私は、とりあえず足元を拳で爆砕して目晦ましをしてからすたこらさっさとその場を去ったのであった。

 

 ……何やってんだお前ぇ!と思うかもしれないが、これは仕方のないことなのだ。

 今でこそ冷静に当時を思い返しているが、あの時の私は大混乱状態だった。情報量が多すぎて脳がバグっていたのである。

 だって、冷静になって考えてみて欲しい。モンスターが人間の言葉で意思疎通が出来ているんだよ?明らかに知性のある会話が出来ているんだよ?これヤバくない?ヤバいでしょ(確信)。

 

 人間並みの知性があって、力も第一級冒険者並み。

 これだけでモンスターの脅威度はぐんと跳ね上がる。たとえばの話、他のモンスター達を統率して戦術的な行動をとったりするだけでも冒険者達にとってはとんでもない脅威となる。実際、彼らは異なる種族同士で組んで連携もとれていた。レベル6の冒険者一人くらいなら連携で潰せるだろう。やはりヤバい(ヤバい)。

 

 じゃあ殺しておけばよかったじゃん、となるのだが……私はある可能性に気づいてしまった。

 

 

 もしかしたら、彼らも私と同じように、中身は人間なんじゃないか、と。

 

 ……私は運良く人間と変わらぬ容姿に生まれたものの、彼らは完全にモンスターの見た目で生まれてしまった。私と同じように迷宮内の通常のモンスター達からは敵対視されるため、同じ境遇の者同士で集まってコミュニティを築き、私と同じように迷宮内でたくましく生きているのではないか、と。

 そう考えると、あの人魚ちゃんも怪しくなってくる。人魚ちゃんも同じく中身は人間で、彼らの中ではアイドルのような扱いを受けていた。彼らはあの人魚ちゃんの護衛としてあの場にいた可能性もある。

 私の外見は人間と変わりないし、彼らは同胞である人魚ちゃんを守るために襲い掛かって来たのではないだろうか?

 

 と、そんなこんなで色々な考えが頭をよぎってしまい、ついにパンクした私の脳みそは撤退を選択したわけだ。

 

 今後再び彼らと出会った時、私はどうすべきか。

 一晩悩んだが、結局はっきりとした答えは出なかった。ただ、次に会った時、彼らが攻撃せずに最初から対話という手段を選んできた場合は……とりあえず話を聞いてみようと思う。

 

 だって私の方が強いからね!

 

 彼らが『ヒャッハー!一緒に人類ぶっ潰そうぜ!』とか言ってきたら私が彼らを潰せばいいだけだ。『人類と仲良くしたい。平和が一番!ラブ&ピース!』と言ってきたら……まぁ、出来る限りで協力はしよう。強者ゆえの特権である。選択権は私にあるのだ、過剰に悩む必要なんてない。

 

 

 私ってば天才☆

 可愛い上に頭も良いなんて、天は二物を与えちゃったかぁ……。

 

 

 

 

 

 〇月д日

 

 喋るモンスター達との遭遇から幾日か経った。

 最近は色々と慌ただしい日々だったので、休息のために30階層にとどまっていた。まぁ、ほとんど研究していたので休めたかというとそうでもないんだが。

 

 しかし、その甲斐あって研究は終了した。結果は大成功。

 

 片手剣の強度は私の肉体と同等となったようで、どれだけ温度を上げても溶けるようなことはない。さすがに物理的な強度は不壊属性程ではないが、私が魔力を込めれば瞬時に再生可能だ。

 これであの虫野郎と戦うことになっても前のような悲惨なことにはならない。次はぎったんぎったんのボコボコにしてくれるわ!

 

 だがしかし……非常に大きな問題が一つある。

 

 

 見た目がキモくなった。

 

 ……何を言ってるんだお前は、と思うだろうが聞いてほしい。

 この片手剣はシンプルな装飾が施された、刀身が細身の両刃の片手剣である。しかし、今私の手にある剣は見た目ががらりと変わってしまっていた。

 

 形状こそほとんど変わっていないものの、赤かった柄はどす黒くなり、刀身は血のように赤黒い色に染まっている。しかも、柄から剣先まで赤い血管のようなものが薄っすらと纏わりついており、脈打つように明滅していた。

 

 ……ふ、ふぇぇ……キモいよぉ、グロいよぉ……。

 実験は成功してほしかったけど、こんな見た目にはなってほしくなかった。前の見た目が気に入ってたのに。どうしてこうなった……。

 

 くそが!こうなったのも全部あの芋虫のせいだ!

 このでけぇ害虫が!お前ら一匹残らず駆逐してやる!

 

 私はすぐさま準備を整え、虫共に逆襲するべく51階層へと向かった……が、すぐに引き返すことになった。理由は簡単、再びロキ・ファミリアの遠征と被ってしまったからである。

 

 

 なんだよ、もぉおおおお!またかよおおおお!!

 

 

 と、焦りに焦ったが、今回は30階層を出る寸前に気づくことが出来たので、彼らから逃げ回ることにはならなかった。ロキ・ファミリアもあの虫共にリベンジしに行くんだろう。悔しいが、今回は彼らに手柄を譲ろうではないか。

 

 

 虫共、私はお前達を許そう。だがあいつらが許すかな?精々覚悟しておくといい。

 

 

 

 

 

 〇月ξ日

 

 ロキ・ファミリアの遠征を陰ながら見送った次の日。

 私はここ最近起こった出来事を考慮した結果、18階層へ行くことにした。

 

 墓参りではない。情報収集を目的として18階層にある冒険者の街、リヴィラへ向かうのだ。

 

 あの新種の芋虫モンスターといい、喋るモンスターといい、最近の私は対応が後手後手に回ってしまっているように感じる。迷宮内に暮らしている以上、地上の冒険者達より内部の構造に詳しいという利点はあるのだが、やはり私一人では集められる情報にも限界がある。

 そこでリヴィラの街だ。あそこは冒険者の中でも荒くれ者が集う街であり、身元不明の不審な人間が一人二人入ったところで誰も気にしない。脛に疵がある者が多いので、互いに詮索することはタブーとなっているのも都合が良い。

 

 

 さて、ではどうやって変装するか。

 最初は顔に包帯を巻くとか、眼帯とかマスクとかで誤魔化そうと思ったのだが、これだけだと万が一があるので今までは尻込みして行けなかった。

 だが今は違う。なにせ私はキメラ型(?)のモンスター。ボディの素材となった彼女達の能力が使えるならば、彼女達の容姿を肉体に反映させることも出来るのではないか、とある日思いついた。

 

 この考えは間違ってなかった。大きく肉体を変形させることは出来ないものの、素材となった彼女達の容姿の一部を再現することが出来たのだ。

 

 水面に映る私の頭には、狼人の耳が生えている。

 尻尾もモフモフだぞ!狼っ娘だぞ!

 がおー!食べちゃうぞー!

 

 

 ……ちょっと落ち着こう。

 

 

 とりあえず片目が隠れるように顔に包帯巻いてー、フード被ってー……よし、出来た。

 

 顔の造形は変わってないけど、ヒューマンであった『彼女』とは種族がそもそも違うから、ただのそっくりさんで済むはずだ。まさに完璧な変装である。

 

 しかも狼人としての特性が強く出ているのか、嗅覚を始めとして五感が以前よりも鋭くなった。これは大きな発見だ。他の種族特性も試してみたが、エルフなら魔力、ドワーフなら身体能力が強化された。

 アマゾネスは……なんか闘争本能が強くなった気がする。あとムラムラしやすい。小人族はさすがに無理だった。体の大きさそのものは変えられないらしい。

 

 変装以外にも色々使い道がある変形……変身?能力だが、良いことばかりじゃない。

 

 私が一番使い勝手が良いと思っている炎属性の付与魔法だが、どうやらヒューマン以外の特性を発揮している時は使用出来ないようなのだ。逆に、付与魔法の効果中も他の種族に切り替えられない。これは大きなデメリットだ。

 たとえばの話、ドワーフの特性で身体能力を強化するよりも、付与魔法を使った方が総合的な戦闘力は遥かに強化される。エルフの特性で魔力を強化しても、私はそもそも付与魔法を使った上での近接戦がメインだから使いづらい。アマゾネスと小人族は論外。

 

 恐らくだが、これは素材となった彼女達の力関係や比率が影響していると思う。

 彼女達は十人。その内『彼女』を含めた五人がヒューマン。狼人、エルフ、ドワーフ、アマゾネス、小人族は各一人ずつだ。レベル4もヒューマンの二人だけ。そして私のベースはヒューマンの『彼女』。これが原因ではないかと思う。

 

 しかしそうすると、まともに使えるのは狼人くらいか。

 五感が強化されるから、気配察知能力が飛躍的に向上する。単独行動がメインの私にとっては非常にありがたい能力だ。

 ついでだから、この姿の時は剣は使わずに素手か拾った武器のみで戦うようにしよう。『彼女』の剣は……見た目がアレだし、基本的には使わない方がいいかな。深層でソロ限定なら使える、ってところか。

 

 さて、準備は整ったし、早速リヴィラに向かうとしますか。

 ロキ・ファミリアは遠征でしばらく戻らないだろうし、数日は滞在出来るかも。

 

 

 ……人と会話するなんて何年ぶりだろう。大丈夫かなぁ……

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。自称一般キメラ型モンスターの幼女。
フィーリングで生きている。考えすぎると頭痛がするので深く考えない。
今は狼の耳と尻尾が生えている。
かわいい。てんさい。のうきん。あほ。

・喋るモンスターの皆さん
過激派が先制攻撃しちゃった。人魚ちゃんは終始不安そうな顔で見守っていたし、ハーピィちゃんを含める穏健派は話し合いで済ませたかった。
結局主人公ちゃんからは攻撃されなかったので、次はなんとか穏便に話し合いが出来ないかと思っている。


愚者さんに存在が知られました。
疾風さんは自分以外の誰かが墓参りに来ている事を知りました。
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