一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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いつも通りほのぼのです。


三頁目

 

 

 

 □月Ж日

 

 リヴィラの街に着いた。

 宿も確保出来たし、落ち着いてる今の内にここに至るまでの過程を書いておこう。

 

 道中は特に何事もなく……というわけにはいかなかった。

 いや、別に問題が起きたわけではない。むしろ、私にとって都合の良いイベントに遭遇したのだ。最近はチート転生者にあるまじき不運さを発揮していたが、ようやく運が向いてきたらしい。

 

 

 イベントに遭遇したのは21階層。そこで10人近くの冒険者達を発見した。彼らは大量のモンスターに袋小路に追い詰められ、半数は地に伏せ、残りの面子も大なり小なり傷を負っていて今にも全滅しそうな状況だった。

 見たところ、大半がレベル2ってところか。推測するに、前衛と後衛が分断されてしまい、魔導士を含めた後衛が真っ先に壊滅。前衛は残ったものの、気を失った仲間を抱えては逃げきれず、火力不足で大量のモンスターを処理することも出来ない。ジリ貧というやつだ。

 

 いつもなら『悲しいけど、ここってダンジョンなのよね』と涙を呑んでスルー……しない。近くの冒険者パーティーを探してここに誘導するか、冒険者達に見つからないようにモンスターの気をひいたりする程度だが、今回に限っては違った。

 私の直感が、この人達は助けた方がいいよ!と訴えかけていたのである。この、たまに発動する直感さんにはお世話になっているし、リヴィラの街に着く前に人間と会話してリハビリしておくのも悪くない。

 

 そう思った私は彼らを助けるべく、華麗にモンスターを蹴り殺してからヒーロー着地を決めた。

 

 

冒険者達「誰なんだあんた一体……?」

 

私「通りすがりの正義の使徒よ!さあ、ここは私に任せて逃げなさい!」

 

 

 って感じでかっこよく登場し、モンスターを蹴散らして彼らを救い出したのである。

 なお、逃げなさいと言ったが、彼らは逃げられる状態じゃなかったので、私がモンスターを倒しきるまでその場に留まっていた。ちょ、ちょっと恥ずかしい……。

 

 戦闘が終わってから、冒険者達に拾い物のポーションを使って最低限回復させ、詳しい話を聞くことになった。

 

 彼らはリヴィラの街の顔役、レベル3の冒険者でもあるボールスの子分らしく、今日は資金稼ぎのためにここまで降りてきたようだ。稼ぎ終えて帰ろうとしたところ、どっかの派閥のパーティーから怪物進呈(パス・パレード)(モンスターを他パーティーに押しつけるやつ)をされてしまった。

 その際、運悪く前衛と後衛が分断され、なんやかんやあって死にかけていたと……まぁ、おおよそ私の推測通りだな。

 

 しかし、私に助けられた彼らは運が良いが、私はもっと運が良い。ボールスの子分ならば、これで彼に恩を売ったことになる。うまく交渉すればリヴィラの街ではそれなりの待遇を受けられるかもしれない。

 元々、交渉材料となり得るものは用意して来たけど、これで駄目押しすれば交渉は間違いなく優位に進むだろう。直感さんに従ってよかったぁと思うわけ。

 

 

 疲弊した彼らを護衛し、誰一人欠けることなくリヴィラの街までたどり着くことが出来た。彼らのおかげでボールスともすんなり会うことが出来たし、思った通り交渉も順調に進んだ。

 こっちは所属しているファミリアも含め、個人情報の多くを晒さなかったので疑わしい目は向けられているが、荒くれ者には荒くれ者なりの仁義というものがある。子分を助けてもらったという事実に対し、ボールスは恩で報いてくれたわけだ。

 

 ……私が持ってきた交渉材料の影響も大きいけどね。

 

 深層のモンスターのドロップアイテム、同じく深層でのみ採取出来る鉱石等の貴重なアイテム。リヴィラの街の冒険者は精々レベル2か、高くてレベル3程度しかいない。深層のアイテム類は喉から手が出る程欲しいだろう。

 

 私が要求したものが多くなかったのも重要だ。数日分の滞在費用といくつかの情報のみ。こっちの詮索をするなとも言ったが、これはリヴィラの街なら常識。

 滞在費用は多めに貰えたし、情報収集ついでに久しぶりに人類の文化の中で過ごすのも悪くない。まぁ、ロキ・ファミリアが遠征から帰って来る間だけだけどね。

 

 

 私は孤高の一匹狼。

 決して群れたりしない。私の居場所は、人間の世界にはないのだから。

 

 

 

 

 □月±日

 

 必要な情報は得ることが出来た。

 とはいえ、お金にはまだ余裕がある。次いつ来るかわからないし、今の内にパーッと使ってしまうか。

 

 

 

 

 

 □月ω日

 

 今日は墓参りに行ってきた。

 いつもより豪勢なお供え物をしてきたぞ。

 

 

 

 

 

 □月η日

 

 お買い物楽しい。ご飯おいしい。

 明日はどーこへ行こうかなー。

 

 

 

 

 

 □月λ日

 

 お金がなくなっちゃう。どうしよう。

 

 

 

 

 

 □月∀日

 

 もうそろそろロキ・ファミリアも戻って来る。

 帰らないと……30階層に……。

 

 

 

 

 

 □月ш日

 

 きめた。私はきめたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □月л日

 

 少し期間が空いてしまった。

 生活環境が大きく変わってしまったので、色々とバタバタしていたのだ。

 

 早速本題から書くが、私はリヴィラの街で暮らすことになった。

 

 なに言うとんねん、しばくぞこら!と思われるだろうが、説明させてほしい。

 これにはバベルよりも深く、ダンジョンよりも高い理由があるのだ……逆だったかな……?

 

 

 情報収集も終わり、数日の滞在を終えたはずの私であったが……私はどうしても30階層へ戻ることが出来なかった。

 

 久しぶりに感じた文明の光、他者との会話、交流、他愛のない雑談。それらは、この世界に生まれ落ちてから数年間、孤独に生きて来た私にとってはあまりにも衝撃が強いものだったのだ。

 

 直球で言おう。

 

 

 『もう一人ぼっちはいやだあああああ!!』って感じ。

 

 

 孤高の一匹狼とか言ってすみませんでしたぁ!

 

 私は一人では生きていけないかよわい生き物なんですぅ。ここでの暮らしを体感した後に下層に戻って一人暮らしとか、寂しくて死んじゃう!人が作ったまともな料理を食べたいです。魔石は美味しくないんです。人魚ちゃんのライブだけでは癒せない悲しみがあるんですぅ!

 

 というわけで、私はこの街で暮らすことを決めた。

 

 幸い、私の正体バレの一番の要因となる『神』は迷宮内には基本的に入ってこない。うまくやれば、この街でなら人間として生きていくことが出来るはずだ。

 

 あ、神というのはガチの神である。むかーし地上に降りて来て、今はたくさんの神々が地上で人類と共に暮らしている。詳しい説明は省くが、神様達は下界の子の嘘……つまりは人の嘘を見抜くことが出来る。

 

 モンスターである私の嘘を見抜けるのかは不明だが、もしも見抜ける場合、私の正体なんてすぐにバレてしまうだろう。それに、冒険者は神から恩恵を授かることによって超人的な力を発揮するが、私には当然恩恵はない。恩恵なしで力があることが判明すれば、怪しまれること間違いなし。だから地上に出ることは出来ない。

 

 だが、神様達が迷宮内に入るのは禁忌とされている……必然的にリヴィラの街には神様は存在せず、私は正体を偽ることが簡単になる。最近出来るようになった変身を使って種族を変えれば、より確実に誤魔化せるだろう。

 

 

 そんなこんなで、決意を固めた私はボールスと交渉し、この街で暮らす権利を獲得したわけである。

 

 

 ボールスさんありがとー!

 私みたいな美少女が傍にいてくれて嬉しいでしょ?これからは私のことを娘のように可愛がってくれてもいいのよ?

 

 ばちこーん☆

 

 って言ったら溜息吐かれたわ。なんで?

 

 

 

 

 

 □月У日

 

 今日は30階層に行って荷物を取って来た。

 元々は数日だけ滞在して帰る予定だったからね。30階層の拠点は今後も利用するが、基本的には18階層で暮らすことになる。生活のために必要な物資や道具を持って来る必要があった。

 

 

 いや、しかし本当によかった。情勢が味方したとはいえ、身元不明の不審人物である私を受け入れてくれるなんて……。ボールスさんは神的にいい人。

 

 交渉材料として私が提示出来たのは、第一級冒険者の中でも上位の戦力のみ。

 単独で深層へ潜って貴重なアイテムを持って帰ることだって出来る。それは最初にこの街に来た際に渡したドロップアイテム等があったのである程度は信用して貰えた。

 

 これだけではちょっと厳しかったが……ここで最近の情勢が影響した。

 

 なんでも、ついこの前、リヴィラでレベル4の冒険者が殺害される事件が発生し、しかも妙なモンスターの大群まで現れててんやわんやの大騒ぎになったらしい。

 ロキ・ファミリアの冒険者がいたからどちらも解決されたものの、リヴィラの冒険者だけで対応するのは戦力的に難しかったようだ。

 

 この事件で、きな臭い空気を感じ取っていたボールスは、リヴィラの防衛のための戦力を欲していた。そこにちょうど、私という第一級冒険者並みの戦力が現れたのである。

 

 

 ボールス個人が自由に扱える第一級冒険者並みの戦力。

 しかも超絶美少女(ここ重要)。

 

 

 悩みに悩んでいたが、私の魅力に抗えなかったのだろう。

 

 交渉の結果、ボールスは私を雇い入れることにしてくれた。あくまで外部協力者という扱いで、ボールスの護衛や迷宮内での様々な雑用をこなすことになる。まぁ、私の能力なら大した苦労ではない。下層で一人暮らしすることと比べれば、なんてことない楽ちんな仕事だ。

 

 さらにさらに、ボールスは他の組織から私を守ってくれるらしい。

 

 身元不明だし、表に出したくない気持ちは大いにわかる。ギルドやガネーシャ・ファミリアあたりに突っつかれたくないんだろう。私もあまり派手に動きたくはないから、この辺はお互いの要求がうまく噛み合った形だ。

 他のファミリア等からの詮索はボールスが全てガードしてくれる。ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリア等の大きなファミリアとの交渉時は同席する必要があるが、基本的にはボールスの後ろで黙って突っ立ってればよいとのこと。

 

 最後にボールスは、目元を隠すマスクのようなアイテムを渡してくれた。ガネーシャ・ファミリアの下っ端団員が着けているようなマスクを黒くして、デザインを地味にしたものだ。

 

 なんでも、

 

 『お前は思ってることが顔に出るから被っとけ。それと、交渉の席以外でも人前では余計なことは喋るな。いいか?絶対喋るなよ?絶対だからな?』

 

 とのこと。

 

 

 まったく、私をなんだと思っているのか。

 『彼女』はファミリアの団長として様々な交渉事をこなしていたのだ。穴だらけとはいえ、記憶や経験を引き継いでいる私が交渉の席で失言をするはずがない。失礼しちゃうわ。

 

 

 しかしまぁ、私自身は五歳の幼女。

 それにこの前、謙虚になろうと誓ったばかりではないか。

 

 

 誠に遺憾ではあるが、ここはおとなしく雇い主の指示に従っておこう。

 

 

 

 

 

 □月◆日

 

 また面倒事が起きました。

 ……なんか最近おかしくない?ここ数年の穏やかな日々は一体なんだったのかと思ってしまう。

 

 準備を整え、いざ30階層を出ようとしたところ、奇妙な連中を目撃してしまって出るに出れなくなってしまった。

 そいつらは数人の冒険者で、リヴィラの街にいるようなちょっと柄の悪そうな連中だった。一人だけ、突出して強そうなスキンヘッドのデカい男がいたが、まぁそこまでは変なことじゃない。だからスルーしてリヴィラに戻ろうと思ったんだけど……。

 

 

 そいつら、モンスターを運んでいたんだよね。

 

 檻に入れられて運ばれていたのは一体のセイレーン。この前遭遇した喋るモンスターの中にもいたが、あっちとは別個体だ。でもこっちのセイレーンも、この前遭遇したセイレーンに勝るとも劣らない美少女だった。ズタボロで酷い状態だったけど。

 何だか嫌な予感がしたから、こっそり追いかけてそいつらの会話を聞いたんだけど……そこで聞いた情報がちょっと聞き捨てならないものだった。

 

 ()()()()()に運び込むだのなんだの言ってたが……その中で聞こえた『闇派閥』という単語。

 

 『闇派閥(イヴィルス)』っていうのは、簡単に言うなら悪いファミリアの集まりだ。

 

 ありとあらゆる犯罪行為を行い、多くの一般人に多大な被害を与えたクソみたいな連中。7年前にはオラリオ中を巻き込む大抗争を引き起こし、結果として一般人どころか冒険者すらもたくさん亡くなるような凄惨な事件となってしまった。九柱の神が一斉に強制送還されたのも前代未聞だった。

 

 7年前の大抗争には私の肉体となった彼女達も参戦し、過程は色々あったが、大抗争そのものはオラリオの冒険者達、秩序側の勝利で終わった。

 とはいえ、闇派閥には生き残りもおり、そいつらを完全にやっつけるために彼女達は捜査を続けていた。まぁ、その結果として彼女達は全員、凄惨な最期を迎えてしまったのだが……。

 

 彼女達の記憶の影響もあるが、私個人としても闇派閥に対して良い感情は抱いていない。ていうか、好感を抱ける要素が一切ない。闇派閥は見つけ次第ぶっ飛ばすべき連中である。

 もしもあのスキンヘッド野郎が闇派閥で、何か悪い目的のためにモンスターを捕まえているとしたら……放置はしておけない。

 

 だが、今の私は表立って動けない。雇い主のボールスの指示もないし、勝手な行動をするのは……と、頭を悩ませている時だった。

 

 

 目が合った。檻の中の彼女と。

 そして彼女の口が僅かに動き──私は咄嗟に飛び出した。

 

 

 全力で走りつつ、こちらに気付いていないスキンヘッド野郎を死なない程度の力で殴り飛ばす。私を認識する前に、残った連中を殴って蹴って気絶させる。こいつら全員、自分が何をされたのかすら理解出来ないまま意識を失っただろう。てか、そうでなければ困る。

 

 私は檻を力づくで破壊し、疲弊して気絶してしまった彼女……セイレーンを抱え、以前に喋るモンスター達と出会った、人魚ちゃんのライブ会場(25階層)へ向かった。

 

 

 運よく他の冒険者達に出会うことなく、道中のモンスターも全て振り切って全速力で走り抜ける。ライブ会場に着くと、私はいつも人魚ちゃんが歌っていた水辺の近くにセイレーンを降ろした。

 そして、遠くの岩場の陰からこっそりこちらを見ている人魚ちゃんに対し、セイレーンを保護してくれるようにお願いしてその場を去った。

 

 

 ……今も考えている。

 

 本当に、あの対応は最善だったのか?ぶっ飛ばした連中が闇派閥なのか、あるいは闇派閥となんらかの繋がりがある犯罪者なのか、それはわからない。証拠はないし、もしかしたら私がやったことは完全に余計なことだったのかもしれない。

 

 でも、間違ってるとは思わない。

 だって、私は確かに見たんだ。

 

 

 あのセイレーンと目が合った時。

 彼女は確かにこう言ったんだ……『たすけて』って。

 

 

 だから、私は間違ったことをしたとは思ってない。

 

 ていうか、あれだ。私もモンスターなんだから、別に同胞?を助けたっていいじゃないか。私には人類の常識も冒険者の常識も関係ないもーん。思うがままに、自由に生きる。いいじゃない、チート転生者なんだから。

 

 

 いいじゃない

 モンスターを 助けても

 チート転生者 なんだから

             ありー

 

 

 ……あ、よくよく考えたら、あの場で人魚ちゃんときちんと話しておけばよかったのでは?

 

 別に急いでなかったし、詳しく事情を説明する時間はあったような……なんなら、あの場で喋るモンスター達のことを詳しく教えてもらう、チャンスだったのではないだろうか。

 

 

 ………。

 

 

 こ、今回はご縁がなかったということで……。

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。今は自称一般狼人(偽)。
人類の文明に敗北し、人間に紛れて暮らすことになった。
孤高の一匹狼(笑)。
他人と話す際は、言動や仕草が『彼女』に近いものに変換される。
ばちこーん☆

・ボールス
悩みに悩んだ末に主人公を雇い入れた。眼帯のおっさん。
ただし、あくまで外部協力者としてであって、身内扱いをしているわけではない。なにか問題を起こしたら即切り捨てるつもりでいる。

・セイレーンさん
生まれて間もない新人さん。
拙いが、生まれた時から言葉を話すことが出来る。人魚ちゃんが治療し、後に喋るモンスターの皆さんに保護された。

・スキンヘッド野郎
レベル4。意外と強い。
CV:浪川大輔の『団長』の指示で喋るモンスターを捕まえようとしていた。なんとか生きてる。

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