一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

6 / 10
おいしいご飯でほのぼのです。


六頁目

 

 

 

 △月ъ日

 

 今日はモンスターの襲撃があって大変だった。

 まさか階層主が18階層に誕生するなんて……最近のダンジョンは本当におかしい。

 

 あ、階層主っていうのは、特定の階層にのみ誕生するボスモンスターのことだ。一番弱いやつでも、レベル4以下の第二級冒険者では単独撃破はまず不可能な強さを誇る。アリーゼ達もパーティーで戦ったり、他の派閥と協力して討伐していた。 

 

 階層主は特定の階層にしか誕生しないんだけど……17階層の階層主が、なぜか18階層に生まれ落ちたのだ。しかも通常とは違う強化種で。

 17階層の階層主はゴライアス。身長7M(メドル。メートルと同じ)の灰褐色の肌色をした巨人だ。

 

 あれだ、進〇の巨人に出て来る主人公が変身する巨人みたいなやつ。全体的なルックスは向こうの方が遥かにカッコいいけど。ゴライアスは短足でゴリラ味があるし。

 

 ゴライアスは本来、レベル4相当の強さなんだけど、今回出てきた黒い肌のゴライアスはレベル5相当の強さがあった。通常種よりも身体能力が強化され、口から発する衝撃波攻撃の咆哮(ハウル)や、不死身かと思えるほどの再生能力を獲得していた。雄叫びで18階層全域からモンスターを集めることもしていたので、一対一で勝つならレベル6じゃないと厳しいと思う。

 

 

 ゴライアスはパワーはあるけど動きは鈍いし、デカい分動きもわかりやすい。行動パターンそのものは通常種から大きく乖離したものじゃないから、ゴライアスの攻撃を直で貰う者はそうはいないだろう。

 ただし、それは雑魚モンスター達からの妨害がなかったらの話だ。ゴライアスだけならどうにかなっても、他のモンスターに囲まれて逃げ場を失ってしまえば致命的。レベル2以下の冒険者では一撃でお陀仏だろう。

 

 だから私は集まってきた雑魚の対処をしていた。今は目立つことは出来ないし、適材適所ってやつだ。

 

 しかし状況は中々好転しない。戦力が足りないからだ。ロキ・ファミリアは帰還のために、随分前に18階層を出ている。残ったのはリヴィラの冒険者達とベル君達、ベル君救出隊の面子だけ。

 

 レベル4が2人に、レベル3が数人、あとはレベル2がほとんど。安定して勝つならレベル4があと数人か、もしくはレベル5が1人いれば、という感じ。

 

 アスフィとリオンが頑張ってるけど……なんかリオンの動きがおかしい。明らかに精彩を欠いている。致命的な攻撃は受けてないけど、あのままじゃ危ないかもしれない。

 5年前の時点でレベル5間近の状態、つまりはレベル4最上位の能力があるリオンなら、あの黒いゴライアス相手でも後れをとることはないはずなのに。

 

 遠目に見えたリオンの顔は酷いものだった。

 

 目の下には色濃くクマが残っており、精神的に大きく疲弊していることがわかる。戦いに集中しきれていないようで、いまいち視線が定まっていない。攻撃も回避もキレがなく、時間が経つごとに見ていてヒヤリとする場面が増えていく。

 

 

 どうして……いったいリオンに何があったっていうの?

 

 

 リオンの異常の原因はわからないけど、このまま勝つのは厳しいと言うことだけはわかった。いざとなったら私がゴライアスを倒すしかないだろう。

 

 今目立つのはよくないのはわかってるし、勇者(ブレイバー)にも迷惑をかけてしまう。下手したらリヴィラにはいられなくなってしまい、30階層に戻る羽目になるかもしれない。

 でも、それはここにいる冒険者達の命と釣り合うものじゃない。勇者(ブレイバー)には全力で謝って、あとはほとぼりが冷めるまで30階層に引き籠っていればいいのだ。

 

 

 なんてことを考えていた時だった。

 

 とうとうリオンがゴライアスの拳の直撃を受け、地面に叩きつけられてしまったのだ。ゴライアスはリオンの攻撃が鬱陶しかったようで、間髪入れずに追撃の咆哮(ハウル)を放とうとしている。

 

 リオンが危ない───!

 

 そう思った瞬間、私は全力で駆けだしていた。

 

 瞬時にゴライアスへ接近し、巨躯を支える片方の足……その膝を容赦なくぶん殴った。膝が逆関節となってしまい、バランスを崩して頭が下がったゴライアスの顎を、下から再びぶん殴る。

 

 仰向けになって倒れていくゴライアスを横目に見ながら、地に伏せるリオンの傍へ降り立った。

 

 幸いにも冒険者達の注目は、膝と顎を破壊され、一時的な行動不能に陥ったゴライアスに集まっている。今の内にリオンを治療してしまおう。

 

 リオンはどうやらうまく受け身をとったらしく、辛うじて意識はあった。私がポーションをぶっかけると、のろのろと顔を上げ、焦点の定まらない瞳を私に向けながら何かを探し求めるように手を彷徨わせ始めた。明らかにいつものリオンじゃない……どうしてこんな……。

 

 そんなリオンが見ていられなかった。

 

 私は咄嗟に手を取り、勢いのままにリオンを引っ張りあげた。立ち上がったリオンの背中をパシッと叩く。

 

 この場の最高戦力はリオンなのだ。私があまり派手に動けない以上、彼女に頑張ってもらわないと困る。もっとシャキッとしてほしい。

 とはいえ、レベル7相当の私の動きをまともに認識出来る者はリヴィラにはいないだろう。ゴライアスの足元は砂が巻き上がって視界が悪いし、うまく動けば足元限定で妨害出来るかもしれない。

 アスフィとリオンと私。3人が主体となってゴライアスの注意をひけば、他の冒険者達がダメージを稼いでくれるはずだ。ベル君達もかなり頑張ってたし、うん、いけるいける!

 

 そんな感じのことをリオンに説明する。が、話を聞いていたのかいないのか、呆然とこちらを見つめるだけで動こうとしない。

 

 もうちょっと発破をかけないといけない。もう、世話が焼けるなぁリオンは。だから輝夜にポンコツエルフとか言われるんだよ。

 

 

「あんな図体だけのデカブツにやられるなんて、あんたらしくないわよ。勝負はまだまだこれから!ほら、気合入れていくわよ!リオン!」って。

 

 

 その後は先ほど言った通りの流れとなった。

 

 私の言葉が効いてくれたのかはわからないけど、リオンは調子を取り戻して獅子奮迅の活躍をしてくれた。昔はこの3人で戦うことも少なくなかったので、連携は特に問題なかった。アスフィからの視線が凄かったけど……たぶんバレてないはず。たぶん。

 

 最終的になんやかんやでゴライアスは倒せたんだけど……私の想定と違ったのは、ゴライアスに止めを刺したのがベル君だった、という点だろうか。思ったよりもゴライアスの再生能力が高く、これは私がやるしかないかと腹を括ったのだけど……まぁ、嬉しい誤算かな。

 

 

 ベル・クラネル。世界最速でレベル2になったというだけでも驚きなのに、レベル2でレベル5相当のゴライアスを倒してしまうなんて。そりゃあ、ゴライアスにもダメージの蓄積はあっただろうけど、最後の一撃はレベル2になりたての冒険者が出せる火力じゃなかった。

 

 冒険者になってまだ二ヶ月だよ!?

 ちょっと信じられない活躍ぶりだ。レベルだけならリヴィラにいる冒険者と同じはずなのに。

 

 あの魔法、ファイアボルトもおかしい。詠唱不要?いや、魔法名を唱えることが実質的な詠唱?『静寂』が使った超短文詠唱の魔法に似通ったものがある。

 威力は控え目とはいえ、一言だけで発動出来てしまう遠距離攻撃魔法。使い勝手も良いし、何らかのスキルでチャージしていたのか、ゴライアスの頭を吹き飛ばす威力を出していた。最後の一撃も同じスキルでチャージして威力を底上げしたんだろうね。

 

 おまけにヘファイストス・ファミリアのいい声をした赤髪のあんちゃんとは仲が良いし、主神であるヘスティア様とサポーターの少女からも明らかな好意を寄せられている。ハーレムでも作る気か?

 

 

 ……なんか、すごく主人公っぽいな。

 

 もしかして実はこの世界は何かの物語の一つ、ゲームや、漫画、小説の世界で、ベル君がその作品の主人公だったりする?主人公補正が働いているように見えるのは気のせい?

 

 しかも、最後にチャージしていた時は大鐘楼(グランドベル)のような鐘の音が鳴り響いていた。『静寂』の魔法も発動時は鐘の音がなるし……なーんかひっかかるわね。

 

 

 うーむ、今後も彼の活躍には注目だ。

 

 

 

 

 

 △月ы日

 

 今日は落ち着いた平和な一日だった。

 ロキ・ファミリアも去り、ベル君達も、リオンを含めたベル君救出隊も地上へ帰還していった。しばらくは平穏な日々となるだろう。

 

 

 まぁ、私は仕事をしてたんですけどね。

 

 最近のダンジョンが異常なのはボールスも危惧しているみたいで、近くの階層を巡回して情報収集するよう命令された。また黒いゴライアスみたいな異常事態が発生することも考慮する必要があるので、日帰り出来る階層限定だけど。

 

 最近は人魚ちゃんのライブに行けてないし、助けたセイレーンちゃんがどうなったかも気になる。可能であれば喋るモンスターの皆さんにも会いたい。

 

 

 が、結果としては人魚ちゃんにも喋るモンスターの皆さんにも会えなかった。各階層に特に異常は見当たらなかったし、悪い結果じゃないんだけど。

 

 少し気になったのは、時折どこからか視線を感じたことだろうか。正体は不明でも、私がボールスの護衛であることを知っている者はそれなりにいる。今は昔ほど隠密に徹しているわけじゃないし、誰かに見られても不思議ではない。

 でも姿が見えないのは不気味だ。なんか黒ローブの幽霊っぽいのもチラっと見かけたし、ちょっと怖い。住み慣れたダンジョンなのに、まるでまったく別の世界に来てしまったように感じた。

 

 

 あ、この前見たスキンヘッド野郎のことは報告したよ。

 

 リヴィラでは顔を見たことはないらしくて、余裕があったらそいつらのことも探っとけって。もっと情報が集まったら、勇者(ブレイバー)が来た時に高く売りつけるらしい。

 

 遠征でお金を使って大変なロキ・ファミリアには申し訳ないけど、リヴィラもゴライアスの迎撃で街の物資をだいぶ消耗したからね。今は色々と物入りなのだ。

 

 

 それにしても、喋るモンスターの皆さん、黒ローブの幽霊、闇派閥(イヴィルス)と繋がりがありそうなスキンヘッド野郎、ダンジョン内の異常の調査……結構やること多いな。私はこういう地道な調査は好き、でも得意ではないのよ。

 

 

 悪党を正面から叩きのめすのは大得意なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 △月ё日

 

 数日ぶりの日記だ。明日はいよいよ勇者とリオンが来る。

 とりあえずここ数日の進展を書いておこう。と言っても、情報収集はうまくいかなかったんだけどね。

 

 この前はボールスに許可を貰って、久しぶりに深層で修行して来たんだ。

 

 深層より上の階層ばかりにいると、どうしても腕が鈍っちゃうからね。現状の戦力を維持するだけでなく、向上させるためにも定期的な修行は必要なのだ。

 なお、アリーゼ達は闇派閥(イヴィルス)との戦いで対人戦の経験が豊富なので、その経験を引き継いでいる私は対モンスターとの戦闘経験を積むことを重視している。

 

 せっかく新調(?)した片手剣で無双したかったし。

 あと……個人的な事情もある。

 

 

 かつて30階層に現れた()()()

 骨の竜のような、あるいは恐竜のような姿をした新種のモンスター。5年前、30階層に突如として誕生し、その場にいたアストレア・ファミリアの団員と、闇派閥(イヴィルス)に与していたルドラ・ファミリアの団員達に襲い掛かった化物。

 

 耐久力は大したことなかったけど、魔法を跳ね返す特殊な『殻』を被っていて、圧倒的な攻撃力とスピードを持つ。当時レベル3だったうちの団員達はまともな抵抗すら出来ずに瞬殺され、レベル4の実力者だったアリーゼと輝夜、リオンも歯が立たなかった。

 アリーゼの最終的な実力は、火属性の付与魔法(エンチャント)で強化した上で第一級冒険者、つまりはレベル5に匹敵する戦闘力があった。

 

 それでも、命がけで特攻した上で一矢報いるのが精一杯。アイツは明らかに30階層にいていい強さのモンスターではなかった。

 

 総合的な能力値はレベル5相当だけど、能力値を攻撃とスピードに特化させている感じ。一対一なら、相性次第ではレベル6でも危ういかもしれない。

 特に、魔導士は一対一ではどうしようもないだろう。アイツの『殻』を破壊するには、内側から魔法を叩き込むしかない。必ず接近しないといけないのだから、魔導士が一対一で戦うのは自殺行為だ。

 

 リヴィラで集めた情報によれば、そのようなモンスターの情報は一切なかった。リオンが知らないはずがないし、何らかの理由でギルドから口外することを禁じられたのだろう。

 

 今の私ならアイツにも負けない。一対一でバラバラに瞬殺してやる自信がある。

 でも、アイツが次にいつ、どこで誕生するのかわからない。30階層限定だったのか、何か特殊な条件が揃って初めて出現するモンスターなのか。

 

 わからないことだらけだ。

 

 

 

 

 

 37階層。白宮殿(ホワイトパレス)

 この階層には闘技場(コロシアム)と呼ばれる場所が存在する。

 

 ここではモンスターが一定の数まで無限に生み落とされ続け、延々と殺し合いを続けている。たとえレベル6であろうと、考えなしに単独でここに踏み込めば生きて帰ることは出来ないだろう。普通ならスルーする場所。

 

 私にとっても、長時間ここで戦い続けるのは非常に危険だ。だからこそ、修行の場としてはちょうど良いと言える。

 

 

「【アガリス・アルヴェシンス】!」

 

 火属性の付与魔法(エンチャント)を発動し、闘技場(コロシアム)の中を縦横無尽に駆け抜ける。

 

 ここでは立ち止まってはいけない。モンスターは死んでも即座に生まれるため、立ち止まっていればあっという間に囲まれてしまう。一体一体はレベル3~4程度の強さだが、それでも数があまりにも多い。タイミングが悪いと足元から生まれたり、背にした壁から生まれることもある。

 

 ゆえに立ち止まらない。常に移動し続け、モンスターの囲いを突破し続ける。

 

 【アガリス・アルヴェシンス】は火属性の付与魔法(エンチャント)だ。発動すると武具や手足に炎を纏い、これを活用することで攻撃力や機動力を上げることが出来る。

 

 たとえば、踏み込みの際に足元で炎を爆発させて超加速するとか。直線的な動きに限定すれば速度は随一。そしてその速度を維持したまま、スキルで強化された腕力で思いっきり剣を振ってぶった切る。これがアリーゼの戦闘スタイルだ。

 

 力と速度を上げてぶん殴る。

 なんともシンプルでわかりやすい。

 

 

 欠点としては、ちびっ子ちゃん……剣姫の風の付与魔法(エンチャント)と違って柔軟な動きは出来ず、空中機動も苦手なので足場がないと速度を活かせないこと。あと、防御力はほとんど強化出来ないので回避がとっても重要だ。加速中にカウンターを喰らうと大変なことになるわ。

 

 欠点は気合と根性と経験で補えば問題なし。この速度を維持したままの対応力を向上させるのが修行の目的だ。闘技場(コロシアム)ならモンスターがすぐに補充されるし、周囲の状況を把握し続ける必要があるので気が抜けない。精神的な鍛練としても適していると言えよう。

 

 

 私がここで修行しているのは、次に骨のアイツと相まみえた時のためでもある。

 

 アイツの異常な跳躍力を封じるには、アリーゼがやったように超至近距離での接近戦しかない。主な武器は、素早い爪と視界の外からくる尻尾。常に動き続け、視界を広く保たないと戦いにならない。ここの環境はその2点を鍛えるのに適している。

 

 

「がっ……!」

 

 油断した。壁に背をついてしまい、その瞬間に白骨の武器を持った骸骨戦士……スパルトイが生まれ落ちながら剣を背中に突き刺して来た。すぐさま距離を置いたが、太ももを思い切り貫かれて動きが鈍ったところを、すかさず巨漢のバーバリアンに殴り飛ばされる。

 

 空中で体勢を立て直し、着地と同時に周囲を切り払ってわらわら集まっていたモンスターを吹き飛ばす。そのあとは先ほどと同じ流れだ。

 

 傷は治さない。アイツとの戦いで回復している余裕はない。負傷したままでも戦い続けなければ死ぬだけだ。

 

 

 ……アイツと戦うことはもうないかもしれない。その時は、能力の差で一方的に私が勝てるかもしれない。こんな修行に意味はないのかもしれない。

 

 

 それでも私は修行を続ける。

 アイツとの因縁はまだ終わってない、いつか再び戦うことになる───そんな予感がするから。

 

 

 

 

 

 あ、これフラグだ!やっぱなし!前言撤回!

 別に戦いたいわけじゃないから!因縁は終わりました!

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。一般モンスター(修行中)。
アリーゼ達を殺したアイツと戦うことを想定し、定期的に闘技場で修行している。

漆黒のゴライアス戦では結構目立っていたが、本人は控え目にサポート出来たと思っている。

・万能者さん
なんかすっごい連携出来るんだけど、誰なのこの人……。
ヘルメス様に報告しておこう。

・疾風さん
疾風さんは既に少し錯乱している!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。