一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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エイプリルフールなのでほのぼのです。


七頁目

 

 

 △月>日

 

 今日はとうとうリオンとの面会を行った。

 さすがの私も緊張したけど……終わってみれば終始和やかな雰囲気で、まぁ成功といっていいんじゃないかと思う。

 

 最初に勇者(ブレイバー)と今後の相談をする予定だったけど、気を利かせてリオンとの面会を優先させてくれた。「積もる話もあるだろう。僕はボールスに相談することがあるから、今日は2人でゆっくりするといい」とのこと。サンキュー勇者(ブレイバー)

 

 それじゃあ、その時のことを書いていこうかな。

 

 

 さて、直感さんに従ってリオンには全て話すと決めているし、変装や変身は解いた方がいいだろう。そう思った私は、フードもマスクも脱いで、ヒューマン形態に戻ってからリオンが来るのを待った。

 

 周囲の部屋が無人なのと、宿そのものがぼろいのもあって壁が薄い。だから、足音でリオンが部屋の前に来たことはすぐにわかった……が、なぜか入ってこない。間違いなく扉の外にいるのに。

 リオンも色々思うことがあるんだろうなぁ、と思って待ってたけど、数分経っても入ってこないのでじれったくなって私の方から扉を開けた。

 

 最初はお互いに無言で見つめ合っていたけど、私は気になったことがあったので話しかけた。

 

「髪染めたんだ。ていうか切っちゃったの!?結構伸ばしてたのに、うわもったいない!」

 

「え、あ……その、変装のために……」

 

「そっか。まぁショートも似合ってるし、これはこれで悪くない……って、中で話しましょう?ほら、入って入って」

 

 入るように促したのに突っ立って固まっていたので、手を掴んで部屋に引き込んでさっと扉を閉める。そのままベッドに座らせ、私も隣に座って呆然としたままのリオンの顔をまじまじと見る。

 

 うむうむ、相変わらずの美少女っぷりね。髪色や髪の長さは変わったけど、顔の造形は5年前と全然変わってない。ちょっとクマが酷いし、やつれたように見えるけど。

 

「この前も思ったけど、もしかして具合悪いの?変な病気とかになってない?」

 

「い、いえ、これはちょっと寝不足なだけで……」

 

「ホント?ちゃんとご飯食べてる?ちょっと痩せたんじゃない?どれどれ……」

 

 リオンが固まっているのをいいことに、体中をペタペタ触って確かめる。胸は……相変わらず慎ましいサイズ。腰も細くて全体的に肉付きが薄い。

 でも、お尻はライラが褒めるくらいのほどよいお肉がついていたはず……が、お尻を触ろうとしたタイミングで再起動を果たしたリオンに制止されてしまった。惜しい!

 

「どさくさに紛れて何をしているのですか!?」

 

「ちょっとくらいいいじゃない。ちょっとだけ、ちょっと鷲掴みするだけだから」

 

「鷲掴みはちょっとではありません!ちょ、やめなさい!酔っぱらいみたいなことを言って……!くっ、なんて力だ!」

 

 腕力に差がありすぎるのか、私の腕を掴み上げるリオンの手はプルプルと震えている。このまま強引に触りに行ってもいいけど、さすがにやめておこう。 

 それにしても酔っ払い、酔っ払いか……。

 

「そういえば聞いたんだけど、リオンが酒場で働いてるって本当なの?」

 

「え?ええ、そうですが。『豊穣の女主人』という酒場で給仕をしています」

 

 リオンが酒場で働いているという噂は本当だったようだ。あの堅物で潔癖で真面目ちゃんなリオンが、酒場で給仕……し、信じられない。

 

「うちでは食べる専門だったリオンが給仕なんて……正直信じられないわ」

 

「な!?は、配膳はしていたでしょう!」

 

「そうだけど、戦闘以外不器用だったリオンが接客仕事なんて……ちょっと酔っ払いに絡まれただけでぶっ飛ばしたりしてない?怪我人を出してガネーシャ・ファミリアのお世話になったりは……」

 

「してません!……いえ、最初の頃は手が出ることもありましたが。今はなんとか……でないと、私がミア母さんにぶっ飛ばされる」

 

「ミア母さん?」

 

 ……ふむふむ、なるほど。『豊穣の女主人』の店主である『ミア・グランド』というドワーフの女性は相当な女傑らしく、所属している従業員達は彼女に頭が上がらないようだ。レベル4であるリオンすら拳骨一発でダウンするそうで、かなりの腕っぷしをお持ちらしい。

 

 ていうか、ミア・グランドってなんか聞き覚えがある名前なんだけど。具体的に言うと、フレイヤ・ファミリアの元団長がそんな名前だったような……気のせい?

 

 

 その後もリオンの働きっぷりや、現在どのような生活をしているか聞いたけど……今のリオンは新しい居場所を見つけて、周囲の人間関係にも恵まれている。拾ってくれた親友がいて、楽しく愉快な同僚もいて、ミア母さんという見守ってくれる年上の大人もいる。

 

 ……うん、安心した。

 

「───荒くれ者が集まる酒場ですから、苦労がないとは言いませんが……なんですか?」

 

 話しの途中で私がリオンの頭に手を乗せると、不思議そうな顔を向けてくる。私がそのまま頭を撫で始めると、意味がわかってないリオンはさらに首をかしげて見つめて来た。

 

「褒めてるのよ」

 

「褒める?何を?」

 

「リオンが頑張ってるから。あんなことがあったのに、リオンは挫けず頑張ってるんだなーって。嬉しくなっちゃった」

 

「あ……」

 

「新しい居場所を見つけて、そこに馴染むための努力もしてる。リオンが接客なんて、昔じゃ全然想像出来なかった……団長である私としても、団員の成長は嬉しいし、褒めてあげたいって思ったのよ。まぁ、今は元団長だけど」

 

「………」

 

「リオン?」

 

 私の言葉に何を思ったのか、頭を撫でられるだけだったリオンの俯いた顔から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。止まる様子はなく、部屋の床、リオンの膝、そして固く握られた手の甲を濡らしていく。

 

 

 そこから始まったのは……リオンによる懺悔だった。

 

 皆を見殺しにして一人生き残ってしまったこと。希望を託されたのにもかかわらず、アストレア様をオラリオから追い出し、正義を捨て、復讐心に駆られるまま闇派閥(イヴィルス)に関わる者を虐殺。結局死にきれず、新たな居場所でのぬるま湯のような生活に居心地の良さを感じていること。

 

 ……私にもう一度会いたかったこと。会って……私に罰してほしかったと。何も成せず、真の正義を見つけることも出来ていない、今の腐ってしまった己を責めてほしい、裁いてほしいと。

 

 

「はぁ……」

 

「っ」

 

 話を聞いた私が溜息を吐くと、リオンは肩を震わせて深く俯く。その姿はまるで、裁きを待つ罪人のようにも、親に怒られてしまうことを恐れている、幼い子供の様にも見えた。

 

「そんなこと出来るわけないじゃない」

 

「あ………」

 

 だから私はリオンを抱きしめた。

 私が、私達が死んでからのリオンがどれほど苦労したのか。それを考えれば、責めるとか、裁くとか、そんな気は微塵も起きない。そもそも、私にそんな権利はない。

 

「リオンに託したことは今でも後悔してない。元々、前から私達皆で決めていたことだから。でも、残されたリオンがどう思うかは……もうちょっと考えないといけなかったわね。ごめんなさい」

 

「ち、違うんです……悪いのは私なんです、私が、弱いから……」

 

「リオンは悪くないわ。ううん、むしろ今までよく頑張った。リオンは偉い……だから謝らないで」

 

「アリーゼ……!わたし……わたしは……っ!!」

 

 声をあげて泣きじゃくるリオンを抱きしめたまま、私は空いた片手で、小さな子にするように頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

───私は正気に戻った!

 

 突然脈絡もなく何言ってんだお前、と思うだろう。だが白状する。この時の私は普通じゃなかった。リオンと会った時から、私は体のコントロールをほとんど放棄していた。私の行動も、言動も、純粋な私の意思じゃない。

 

 予想はしていたけど、やっぱりあれだ。アリーゼの魂残ってるわ。

 

 いや、魂じゃないかもしれない。精神、意思、思念、想い……そんな感じのものが残っているんだ。この時の私はアリーゼの意思のようなものに支配されていた。ううん、自分から体を明け渡したって言った方が正しいか。今はそうした方が良いと思ったんだ。

 

 

 しかしこれが後の大きな問題となった。

 

 なにせ、完全にアリーゼ本人っぽく振る舞ってしまったのである。これで「実は別人なんです!」って言っても信じて貰えるはずがない。

 

 案の定、落ち着いたリオンに色々と質問されたのだが、彼女はアリーゼが実は生きていて、今までどこかで隠れて暮らしていたと思っているらしい。

 あの、リオンの魔法でアリーゼの肉体は粉砕されてるんだけど……とはさすがに言えない。真面目なリオンのことだ、親友を自身の魔法で吹っ飛ばしたことはトラウマになっているに違いない。

 

 今までどこで何をしていたのか。なぜリヴィラで暮らしているのか。明らかにレベル4を超えるその力はなんなのか。生きていたのなら、どうして拠点……『星屑の庭』に、アストレア様の下へ戻ってこなかったのか。質問の嵐であった。

 

 

 一応、私はアリーゼじゃないよ、ただのアリーだよ、よく似た別人だよ、とは言ったのだけど、リオンはまったく信じてくれなかった。

 

 私の手を握って、「この手の温もりも、感触も、私は全て覚えている。あなたがアリーゼでないというのなら、いったいなんだと言うのですか。私を揶揄うのもいい加減にしなさい」って言われた。

 

 いやぁ、私からリオンの手を握ったことは何度もあったけど、リオンからは初めてかもしれない。びっくりした。

 

 

 さて、言葉で駄目なら明確な証拠を見せればいい話。

 

 全部説明するから、と言った私が魔石を見せるために服を脱ぎ始めたら、「なぜ脱ぐんですか!?」とわたわたしていた。私の裸なんて見慣れてるはずだけどなぁ。何度も一緒にお風呂に入ったのに、なんで今更恥ずかしがるんだろうか。

 

 しかし、私が胸元に露出させた魔石を見てからの反応は素早かった。

 

 瞬時に距離をとり、腰から小太刀の双葉を取り出して構えた。ここは狭い室内だから、木刀よりも取り回しの良い小太刀を選択したのだろう。黒いゴライアス戦でもわかってたけど、冒険者を引退しても戦いの勘は鈍っていないらしい。

 

 とはいえ、顔を見れば戦える状態でないことはすぐにわかった。目を見開いたリオンの視線は魔石に集まっており、小さな声で「嘘だ……」と言うのが聞こえた。 

 

 そして私は全てを説明した。

 さすがに転生者云々の話は出来なかったけど、それ以外はほぼ全て。 

 

 私が、アリーゼ達の死体を元にダンジョンによって作られたモンスターであること。記憶や経験、能力は引き継いでいるけど、彼女達の魂は(たぶん)この体には残ってないこと。今話している私はアリーゼの人格や記憶に多大な影響を受けているけど、決してアリーゼ本人ではないということ。

 

 ここにいるのは、ただのモンスターであると。

 

 

 しばし沈黙の時間が流れたが、私はリオンがどう動くか予想出来なくて冷や冷やしていた。「よくも私の仲間の体を!くたばれこのクソモンスターが!」と言って襲い掛かって来る可能性があった。ていうかこの可能性が一番高いと思ってた。だって事実だもん。何も反論出来ないよ。

 

 そうなったら、土下座して頑張って説得するか、それが無理なら30階層に逃げるしかない。

 

 けど、そうはならなかった。

 

 俯いていたリオンは小太刀を床に落とし、

 

「たとえあなたがモンスターでも、アリーゼ本人でなかったとしても、それでも……。もう一度アリーゼの声を聞けて、話すことが出来て、私は……私は、嬉しかったんです。どうしようもなく……!」

 

 そう言ってまた泣き始めてしまった。

 リオンはいつの間にか泣き虫になっていたらしい。

 

 

 しかしまぁ……あれだ。結局リオンは、私をアリーゼとは違う別人の誰かと認識することが出来なかった。昔のこともバッチリ覚えていて、容姿や声も同じで、話していても違和感がない。だからどうしてもアリーゼ本人だとしか思えないと。

 あえて言うなら、5年前よりも少し子供っぽいとは感じたようだ。どちらかと言うと大抗争よりも前の頃のアリーゼに近いらしい。言われてみればそんな感じかも?

 

 その後も頑張って説明したけど、

 

「どう考えても別人なわけないでしょう。いえ、納得は出来ませんが、嘘を吐いているとも思えませんし……今はそういうことにしておきます」だって。

 

 『なにか事情があるんでしょう?私はわかってますよ』とでも言いたげなドヤ顔を披露された。こ、このポンコツエルフがよぉ……!でも一度こうなったリオンは簡単に意見を曲げないので、仕方なく今回は諦めた。

 

 

 その後もリオンとの話は続いた。

 

 珍しくテンション爆上げで喋りまくるリオンの姿はレアだった。怒って顔を赤くしながら早口でなんか語ることはよくあったけど、それとはまたちょっと違う感じ。

 まるで、離れ離れになっていたご主人と再会して、嬉しくて尻尾ブンブンしてる犬みたいだ。リオンはエルフじゃなくて犬人(シアンスロープ)だったのかな?

 

 私の話も聞きたいみたいなので、主にダンジョンでの暮らしの様子を聞かせてあげた。

 

 5年間のほとんどは30階層で暮らしていたと伝えたら、物凄く複雑そうな顔をされた。まぁ、アリーゼ達が死んだ場所だからね。まさかそこで暮らしてたなんて想像してなかっただろう。

 遺品の回収で訪れたこともあるそうなので、タイミングによってはそこで再会していた可能性もあるしね。「もっとよく調べていれば……!」ってめっちゃ後悔してた。

 

 あと、アリーゼの片手剣を持っていったことを謝ったら、気にしないでいいと言われた。「元々あなたの物なのだから、気にする必要はないでしょう」と。いや、だからアリーゼじゃないんだって。

 調子にのって剣を抜いて見せたら、さすがに見た目にドン引きされたけど。やっぱりグロいよね、これ。怒られなかっただけマシと思っておこう……。

 

 そんな感じで概ね楽しく過ごせたけど、単独で深層に行って修行していることを話したらブチ切れた。今の私がレベル7相当の戦闘力を持っていることも伝えたけど、それでも単独で深層に行くなんて自殺行為だ、今後一切単独で深層へ行くのは禁止です、と言われてしまったよ。

 

 でも、これはかつて30階層で戦ったアイツ対策の修行なんだよー、と伝えたら、神妙な顔でアイツについて教えてもらった。

 

 アイツには『ジャガーノート』という名前があるらしい。

 

 ギルド側でも神ウラノスとフェルズ?とかいう人しか知らないらしく、リオンはジャガーノートについての口外を禁じられているようだ。やっぱり、だからジャガーノートについての情報が一切集まらなかったわけだ。

 

 うーん、しかし話が止まらない。リオンだけじゃない、私も話したいことがいっぱいあるんだ。明日はこうしていられないだろうし、今日の内に話せるだけ話してしまおう。

 

 よーし!今夜は寝かさないぞー!夜通しお喋りだー!

 

 ……と思ったけど、夕飯を食べたらリオンはすぐに寝てしまった。なんか疲労が溜まってたみたいだし、あれだけ泣いたから体力を消費したのだろう。

 

 

 ちょっと残念だけど……まぁいいか。

 これからは、いくらでも時間はあるんだもの。

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。どう考えてもアリーゼとしか思えないけどアリーゼではないと主張する一般モンスター(五歳児)。
自分の中にアリーゼの意思が残っていることを自覚した。肉体の主導権は主人公にあるけど、出来るだけアリーゼの意思は尊重したいと思っている。

その結果、疾風さんとの邂逅で盛大にやらかした。

・疾風さん
またの名をリュー・リオン。アリーゼからリオンと呼ばれていた。
精神的にだいぶ回復したけど、罪悪感等が完全に消えたわけじゃない。むしろ悪化している部分も多く、今後もメンタルケアが必要。シルさんがんばって!

しばらくは何を言っても主人公のことをアリーゼと認識し続ける。

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