一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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新たな門出でほのぼのです。


八頁目

 

 

 △月※日

 

 リオン達が来て二日目。今日は勇者(ブレイバー)と話し合いをした。

 しかし、リオンの寝顔を見ながら起きるのも懐かしい。昔はよくリオンに抱きついたまま、一緒のベッドで寝たものだ。またこんな日が来るなんて……ちょっと感動。

 

 

 さて、午前中はリオンと打ち合わせだ。勇者(ブレイバー)にどの情報を伝えるのか、よく吟味しないといけない。

 

 リオン曰く、私がモンスターであることは信頼出来る人間の間でのみ共有すべきだ、とのこと。ロキ・ファミリアの勇者(ブレイバー)フィン・ディムナは信用出来るが、他派閥である以上、心の底から信頼するのはやめておいた方がいいらしい。彼らに教えるのは時期尚早だと。

 

 これには全面的に同意した。この世界でのモンスターと人類の関係性を考慮すれば、リオンの言ってることが正しいのは間違いない。

 

 故人と似ていようと、人型だろうと、モンスターは古来より人類に敵対してきた怪物にすぎない。最悪その場で戦闘に発展してもおかしくないし、仮にその場を脱することが出来たとしても、ロキ・ファミリアからオラリオ中に情報が広まったら、私は今後一生迷宮内で逃げ隠れする生活になってしまう。打ち明ける相手は慎重に選んだ方がいいだろう。

 

 みんながみんな、リオンのように受け入れてくれるわけじゃない。むしろ、受け入れてくれる人の方が圧倒的に少ないだろう。そのことを肝に銘じておかなければ。

 

 

 結局、勇者(ブレイバー)とはリオンが主体となって話すので、私は余計なことは言わないようにと命令された。なんでリオンが命令するの?と聞いたら、「今のあなたは私の後輩なのだから、先輩である私の言うことをきちんと聞きなさい」だって。

 

 一度死に、死体から生まれ直した私は5歳の子供。同様に、一度死んだのでアストレア・ファミリアでの経歴は一旦リセット。ゆえに、唯一の先輩であり年上であるリオンの言うことに従うべき、という理屈らしい。

 

 暴論じゃない?って思ったけど、私が五歳児であることは事実だからなぁ。リオンは今二十一歳だから、もはや親子と言っても過言ではないくらいに歳が離れている。試しに「リオンママ?」って言ったら凄い顔された。女の子がして良い顔じゃない……。

 

 

 そして、いよいよ勇者(ブレイバー)との話し合いが始まったんだけど……これは話し合いと言ってよいのだろうか。

 

「……一旦、話を整理させてくれないか」

 

 一通り話し合い(?)が終わると、勇者(ブレイバー)は頭痛を堪えるかのようにこめかみを押さえながら話し始めた。

 

「まず、彼女は紅の正花(スカーレット・ハーネル)で間違いない。ただ、記憶喪失であり、この5年間迷宮で暮らした結果、本来の性格から少し変わってしまったと」

 

「そうです」

 

「なるほど。まぁ、普通に暮らしていたって5年も経てば、誰でも多少なり性格に変化はあるだろう。それほどおかしな理由ではないね」

 

 そうそう。最近はだいぶ戻ったけど、アリーゼ達の記憶に欠落があるのは間違いないし、迷宮で暮らしたことも、結果としてアリーゼとは性格が違うのも、大体は合ってる。

 問題は次だ。

 

恩恵(ファルナ)がないのにステイタスを維持。それどころか、かつてよりも強くなったことや、種族を偽るようなスキルに関しては……なんだったかな?」

 

「下界の神秘です」

 

「下界の神秘、か……そうか……」

 

 若干ドヤ顔気味なリオンに比べ、勇者(ブレイバー)は微妙そうな顔をしていた。

 

 下界の神秘。つまりは、神々でさえ予測・把握出来ていない下界で起こる奇跡のような異常事態(イレギュラー)のことである。複数の冒険者の死体が集まって誕生したモンスター……前例はないだろうし、下界の神秘と言うのも間違いじゃない……かな?

 

「それ以外の情報に関しては教えられないと?」

 

「はい」

 

「……何一つとして言えないのかい?」

 

「30階層で起きたことはギルドから口外しないように厳命されています」

 

 より正確に言うと、口外禁止なのは『ジャガーノートに関連すること』だ。確かに、私の出生もジャガーノートに関連していると言えなくもないけど。

 

 

 ようするに、だ。

 

 アリーゼ・ローヴェルであることは一応認めるけど、それ以外の情報については何も教えられませんよ。これはギルドの命令だから、どうしようもないから納得してね、ということだ。

 

 なお、他の要求として、私の身柄はリオンが預かること。私が生存しているという情報は口外禁止、ロキ・ファミリア内で箝口令を敷くこと。私の情報を誰に話すかは全てリオンが決めるし、今後の私の扱いも全てリオンに一任することを要求した。

 

 

 話し合いというより、リオンが一方的に要求を突きつけているだけである。ほら、勇者(ブレイバー)も凄く困った顔してるわ。これ大丈夫?

 

 ……と思ったけど、意外なことにすんなりと要求は通った。

 

 もちろん、向こうからの要求もあったけど、それらの多くは私達としても望むところだったので文句はない。

 特に、対闇派閥(イヴィルス)関連の協力とかね。

 

 

「最後に確認だけど、ギルドには彼女のことを報告するのかい?」

 

「地上に戻り次第、私から直接報告します」

 

「隠す気はないんだね。念のために、後日こちらからもギルドに確認させてもらうよ」

 

 

 一応、この一方的な話し合いはうまくいったとは思う。

 

 とはいえ、あまりにも私達に都合の良すぎる内容ではあったので、さすがに不思議に思った私はツッコミを入れた。私に黙っているよう言っていたリオンも同じ気持ちだったようで、真意を探るように鋭い視線を勇者(ブレイバー)に向けている。

 

 そんな私達の視線を受け止め、彼は神妙な顔で語った。

 

 

 アストレア・ファミリアは、当時のオラリオにとって大きな希望の一つだった。迷宮攻略、そして都市の治安維持にも大きく貢献し、強大な闇派閥(イヴィルス)相手にも先陣を切って戦った。民の笑顔のために奮闘し、皆を照らす希望として多くの者から期待されていたファミリアだったのだ。

 ゆえに、突然の『アストレア・ファミリア壊滅』の報には多くの者が悲しみの涙を流した。当時、戦友として何度も共に戦ったフィン達、ロキ・ファミリアのメンバーも例外ではない、と。

 

 

「───最初は大いに戸惑ったよ。けど、ガレスも、リヴェリアも、そして僕も……どんな形であれ、君が生きていてくれたことは素直に良かったと、嬉しいと思っている。共に戦った戦友として、出来る限りの支援はさせてもらいたい。打算じゃないんだ、信じてほしい」

 

 君の時には、何もしてやれなかったしね───そう言って、最後にリオンに視線を移した勇者(ブレイバー)の瞳には、後悔と、大きな苦悩が垣間見えた気がした。

 

 

 

 勇者(ブレイバー)が帰った後、リオンも少し時間を置いて地上へと戻って行った。もっと一緒にいたかったけど、今のリオンにはやることがあるから仕方ないね。

 

 ギルドへの報告と交渉。勇者(ブレイバー)にはああ言ったけど、私達にロキ・ファミリアに対して命令権があるわけじゃない。神ウラノスと交渉して、正式にギルド側からロキ・ファミリアへ通達してもらう必要がある。

 

 

 正直、リオンにそんな交渉が出来るのか、という不安はあるのだけど……この5年間で色々と成長したみたいだし、今はあの娘を信じるしかない。

 

 

 

 

 

 △月Λ日

 

 二人が去ってから数日が過ぎた。

 最近はもっぱら迷宮内の各拠点を回って荷物整理をしている。いつ地上に行くことになるかわからないから、今の内に準備をしておくのだ。

 

 この前、地上に帰る前にリオンから頼まれたことがある。

 雇われ先の豊穣の女主人の店主さんを説得するから、そこで一緒に暮らしてほしい、と。

 

 

 豊穣の女主人には訳ありな人達が所属しているらしく、調理等の裏方に回れば神々や他の冒険者に探られることもないみたいだ。まぁ、5年前に色々とやらかして良い意味でも悪い意味でも有名人なリオンが活動出来ているんだから、そこなら私でも静かに暮らせるかもしれない。

 

 私はモンスターだし、地上で暮らすのは無理がある、と拒否しようとしたけど……リオンはどうしても私に近くにいて欲しいらしい。「まるでプロポーズみたいね!」って言ったら顔を赤くして怒りだした。ごめんって。

 

 正直、地上で暮らすのは私も望んでいるところでもある。

 

 会いたい人、行きたい場所はいっぱいあるし、闇派閥(イヴィルス)がほぼ壊滅したこの5年でオラリオがどう変わったかを見たい。

 7年前に亡くなった知り合いのお墓にも行きたいしね……。

 

 

 ただ、私の正体バレ問題をどうにかしないといけない。人間相手なら魔石さえ見せなければどうとでもなるけど、魂を観測する神様相手だと誤魔化し切れるかわからない。

 

 こればっかりは一度試してみないと何とも言えない。そう伝えたら、信頼出来る神様に心当たりがあるから少し待っててほしいと言われた。

 

 なんでも、その神様と眷属には貸しがあるので、それを盾にお願いすればなんとか行けるかもしれないらしい。「あの方達を巻き込むのは気が進みませんが……やむを得ません」と、ちょっと苦い顔をしていた。

 無理に地上で暮らす必要はないし、リヴィラで暮らしつつ、たまーにこっそり地上に出るくらいでも私はいいんだけどね、って言ったら全力で反対された。

 こんなところにいつまでもあなたを置いておくわけにはいかない、と。こんなところって……そんなに酷い場所じゃないと思うんだけどなぁ。

 

 

 そんなわけで、地上に持っていくための荷物を選別してるってわけ。リヴィラに移り住んだ時とは違って、地上で暮らすことになったら迷宮に潜る機会も減るだろうから。

 

 

 いつになるか分からないけど、地上で暮らせる日が待ち遠しいわね。

 

 

 

 

 

 △月П日

 

 今日はリオンが来た。どうやらギルド側との交渉が終わったらしい。

 

 ジャガーノートの件と同じく、私のことは神ウラノスとフェルズという人のみが把握し、他のギルド職員にも詳細は伝えられない。これで私のことでギルドに問い合わせがあっても情報が漏れることはほぼないと言っていい。

 

 その代わり、神ウラノスからも要求があった。

 

 一つは、リオンと同じくジャガーノートについての口外禁止。もう一つは、私と一対一で話がしたいらしい。相手は神ウラノスではなく、フェルズという人物になるようだ。

 

 対談の日時は追って連絡するらしい。対談場所だけ指定されたんだけど、場所は『歌姫の憩いの場』。そこに『あなたが救った歌姫が迎えに行く』とのこと。

 

 リオンは「どこかの酒場の名前ですか?」と首を捻っていたものの、私には一発でわかった。

 

 これあれでしょ?25階層のライブ会場のことでしょ?人魚もセイレーンも歌う系のモンスターだもんね。あの二人の外見なら、まさに歌姫という表現が適している。あと、私が助けたセイレーンちゃんもいるようだ。生きてて嬉しい。

 

 ……おいおいおい、全部バレてるじゃん!

 

 フェルズさんは喋るモンスターのこと知ってるんだ。てことは喋るモンスターの皆さんとギルドは繋がりがある……?あ、でも神ウラノスとフェルズさんしか知らない可能性もあるのか。

 もしもあの時戦ったモンスターさん達から「私が魔石を食べていた」件を聞いていたなら、私の正体を知った上で話がしたい、ということになる。

 

 

 リオンにわからないように伝えて来たってことは、とりあえず他には内緒で私個人とお話がしたいってことかな。これはちょっと覚悟しておいた方がよさそうだ。

 

 

 

 

 

 △月℃日

 

 荷物の整理も終わった。

 今は復活したゴライアスをしばき倒したり、ボールスの子分連中に付き合って下層で魔石を集めたりして暇つぶしをしている。

 

 今のリヴィラは戦争遊戯(ウォーゲーム)の話題で持ち切りだ。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)っていうのは、ルールを決めた上で行われるファミリア同士の決闘だ。遊戯と付いてはいるけど、勝敗によって片方のファミリアの存亡が決まるのだから、当人達にとっては本物の戦争に等しい戦いと言える。

 

 大体の場合、敗北したファミリアは団員も資材も何もかも奪われる。そして、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加するアポロン・ファミリアは、先の要素を利用してファミリアを拡大して来た連中らしい。

 対するはヘスティア・ファミリア。つまりは、黒いゴライアス戦で一緒に戦ったベル君が所属しているところだ。ヘスティア・ファミリアはベル君しか所属していない零細ファミリアである。

 

 ……え、なにやってんの?どんな対戦形式になるかはわからないけど、レベル2のベル君一人じゃ勝負にならないよ。アポロン・ファミリアは百人超えてるらしいし……いったい何がどうなってるんだ。

 

 気になることはいっぱいあるし、ベル君や神ヘスティアのことも心配ではあるけど……私に出来ることは何もない。申し訳ないけど、18階層から応援だけさせてもらうよ。

 

 

 最近はリオンも来ないし、やることがなくて暇だ。

 

 あー!深層に行きたい!修行したい!剣姫ちゃんみたいにウダイオス単独討伐とかやってみたかったのになー!

 

 

 

 

 

 △月Ф日

 

 【速報】ヘスティア・ファミリア大勝利。

 

 おめでとー!私はベル君なら勝てるって信じてたよ!

 

 

 ……はい、私は噓をつきました。

 

 なんか直前になってヘスティア・ファミリアの人数が増えたらしいけど、それでも追加メンバーの中にレベル3以上はいなかった。

 アポロン・ファミリアは百人を超える大所帯で、レベル3は一人だけどレベル2は結構いる。それに残りの大半がレベル1だったとしても、数の差でやはりアポロン・ファミリアが圧勝しているのだ。

 

 対戦形式は『攻城戦』。人数の差がもろに響く形式だ。これでベル君達が勝てる可能性なんて皆無と言っても過言ではないはず……どういうことだろう?

 

 

 噂によると、なんか敵から裏切り者が出たとか、謎の助っ人エルフが無双してたとか、ベル君が向こうの団長であるレベル3の男を一対一で倒したとか。

 

 

 ……助っ人エルフ?

 

 なんだか嫌な予感が……いや、良い予感?ダメだ。なにかが起こる予感はするけど良いのか悪いのかわからない。直感さんも判定に困っているようだ。

 

 

 うーむ……わからん。わからんから寝よう。

 朝起きたら天才的な閃きが舞い降りるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇月∨日(1ページ目)

 

 最近はバタバタしていて日記が書けていなかった。

 あ~、ベッドもお布団もふかふかで寝心地最高なんじゃ~……リヴィラの宿も悪くなかったけどね。あそこ壁薄いしぼろいし、さすがに環境では勝てないよ。

 

 

 あ、今日からヘスティア・ファミリア所属となりました!

 アリーです!正義の使徒やってます!得意なことは悪党をぶっ飛ばすこと!趣味は悪党をぶっ飛ばすことです!よろしくお願いしまーす!

 

 

 ……突然何を言っとるんだお前は?って思うだろうから、簡単に説明しよう!

 

 私は現在地上で暮らしているのだ!

 

 本当は豊穣の女主人でリオンと暮らす予定だったんだけど、色々あったのと、直感さんに従って今は『竈火(かまど)の館』ってところで暮らしているよ。

 ここはアポロン・ファミリアの拠点を戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝利したヘスティア・ファミリアが奪取して、改装した新たな拠点なのだ。

 

 で、私はここに居候させてもらっているというわけ。

 

 恩恵(ファルナ)こそ授かってないけど、所属としては一応ヘスティア・ファミリア。主な仕事は、ダンジョンについての知識や戦い方の指導だ。

 大剣も刀もナイフも、アリーゼ達の知識と経験があるのでバッチリ!戦場での小人族(パルゥム)の立ち回りだって教えられるんだよ!

 おまけに美人で強いなんて……こんな完璧な先生他にいないよ?

 

 

 ……リオンはめっちゃ寂しそうにしてたけどね。

 

 でもまぁ、会おうと思えばいつでも会える。皆で食事しに行くこともあるし、暇な日は私の方から会いに行ってもいい。だからそんなに寂しがらなくともいいと思うのよ。

 

 

 しっかし、豊穣の女主人にいたシルって女の子。

 ……あの娘とは七年前の大抗争の時にも会ってるはずなんだけど、ヒューマンなのに容姿に全く変化がないのはどういうことだろうか。

 

 昔会った時のアリーゼの直感が正しいのなら……たぶん、そういうことなんだろう。神様にも色々あるんだねぇ。

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。地上進出を遂げた一般モンスター兼先生(幼女)。
色々と思う所があってリューさんとの同居を拒否った。どうしてそうなったかは多分次回語られる。

ベル君強化フラグと女装フラグが建ちました。

・リューさん
我らがポンコツエルフ。『疾風』の二つ名を持つ。
頑張って一緒に暮らすために動いていたのに、勝手なことをした主人公にキレた。

・シルさん
豊穣の女主人の店員。ヒューマンの少女らしい。
アリーゼとは昔会ったことがあるが、なにやら只者ではない様子。

人の嘘を見抜く力があるらしいぞ!
いったい何者なんだ……?

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