一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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あったか陽気でほのぼのです。


九頁目

 

 

 ◇月∨日(2ページ目)

 

 さて、それじゃあ今に至る経緯を書いておこうか。

 数日分だし、ちょっと衝撃的なこともあったから今回は長くなるかもしれない。

 

 事の始まりは、ベル君達の戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わって少しした後にリオンがやって来たところから。

 

 

 リオンの用件は二つ。

 

 一つは、とある神様に正体バレに関する協力を取り付けたこと。何を隠そう、そのとある神様というのはヘスティア様のことらしい。

 この前のベル君救出隊に加えて、戦争遊戯(ウォーゲーム)でも協力したことから貸しは十分あった。大暴れした助っ人エルフはリオンのことだったみたいだ。なんとなくわかってたけど。

 そして、ヘスティア様はちゃらんぽらんが多い神々の中でもかなり信頼出来る神格者。少々怠惰な点はあるものの、アストレア様にも引けを取らない真っ当な神様である。

 

 そしてもう一つ。こっちは豊穣の女主人で働く件だ。店長さんの説得は順調そうだけど、やっぱり直接会わないと最終的な決定は出来ないと言われたらしい。なので、ヘスティア様と正体バレの実験をして、うまく行ったならそのまま面接に来てほしいそうだ。

 

 

 というわけで一度、着の身着のままでヘスティア・ファミリアにお邪魔することになった。

 

 あ、ボールスには許可は貰ってる。ていうかいつでも雇用契約は解消出来る。私の身元証明がアレだから元々強制力のある契約じゃなかったし、ボールス自身、厄介な匂いがする私を手放すのは惜しくないらしい。

 ロキ・ファミリアの勇者(ブレイバー)から「あれは君の手に負える相手じゃない」と忠告されていたことも影響している。ちょくちょくボールスと何か話していたのは知ってたけど、前々から勇者(ブレイバー)はこの状況になるのを想定していたのだろうか?

 

 話を戻す。

 

 深夜の訪問であったが、事前に話を通していたおかげか、ベル君と小人族(パルゥム)のサポーターちゃん(リリルカちゃんというらしい)が直々に館の門前で出迎えてくれた。そのまま使われていない空き部屋に案内され、挨拶もそこそこに私、リオン、ヘスティア様の3名だけで実験は行われたのである。

 なお、この場で知ったことは口外禁止、とヘスティア様に約束してあるそうだ。その辺は義理堅い神様なので大丈夫だろう、とのこと。もしもの時は……事情を話して見逃してもらうしかない。

 

 

 さて、まずは私を見てモンスターとわかるかどうか。これはすぐに答えが出た。

 

 ヘスティア様曰く、私の魂は一般的な人間と何も変わらないらしい。ということは、神様からの質問や、モンスターらしいところ(再生能力や魔石)を見せなければ正体はバレないわけだ。

 さらに幸運なことに、普通の冒険者と同じく恩恵(ファルナ)を授かっている気配もするみたい。これなら、力を使っても神々に違和感を持たれることはないだろう。

 

 実験はこれで終わりだったのだが……

 

「そう言えば、君の名前を聞いていなかったね。確か……アリー君、でよかったかな?ベル君から聞いたよ、あの黒いゴライアスとの戦いでは色々助けてくれたそうじゃないか!」

 

 「ボクの大切なベル君を助けてくれてありがとう!」そう言って眩しい笑顔を見せて来たヘスティア様に対して、あることを証明するために私は一つの嘘をついた。

 

「正義の使徒として当然のことですから!あ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私はアリーゼ・ローヴェルです。よろしくお願いします、ヘスティア様」と。

 

 正直、リオンが私をアリーゼだと思いこんでいる状況は、あまり良いものではないと感じていた。具体的に何がどうなるかはわからないけど、別人だと証明しておかないと悪いことが起きるような……そんな予感がしたのだ。直感さんも私と同意見っぽいし。

 

 私の魂が普通の人間と変わらない以上、ヘスティア様なら私の嘘を見抜けるはず。先の私の言葉が嘘だとわかれば、私がアリーゼでない証明になる。リオンも私を完全な別人だと認識してくれるだろう。

 

 

 しかし、ヘスティア様からの返答は予想外のものだった。

 

 ヘスティア様は普通に「アリーゼ君だね!こちらこそよろしく!」と返して来た。え、あからさまな嘘なのに何もツッコミないんですか?なんで?

 困惑する私を余所に、リオンがすかさず「今、彼女は嘘をつきましたか?」と聞いたけど、

 

「え、嘘?いや、別に……嘘だったら、神であるボクにわからないはずがないよ」と。

 

 

 …………???????????

 

 

 頭が疑問符だらけになってしまった。

 

 思わず「間違えました!私はアリーゼじゃありません!アリーです!私の名前はアリーなんです!」と詰め寄った。が、ヘスティア様の返答は再び私の予想を裏切るものだった。

 

「い、いきなりなんだい!?アリーゼじゃないって……さっきの言葉に嘘はなかったし、君の名前はアリーゼで合ってるだろう?アリーっていうのは君の愛称なのかな?」

 

 

 ……実験の結果、私はアリーゼだったことが判明した。

 

 

 ───なわけあるかぁ!

 

 どういうことなの……どういうことなの!?アリーゼであることを否定する言葉は嘘認定される。というか、前提として私は神様から魂がアリーゼとして認識されているっぽい。

 

 試しに、私が「五歳です」「実はヒューマンじゃないんです」「アリーゼじゃないんです」と言っても、それは嘘として認定された。恐らく、アリーゼは享年十八歳で、種族はヒューマンで、アリーゼはアリーゼだから。事実、そう言ったら普通に真実認定されたし。

 

 ヘスティア様は「享年十八歳……え、享年なんだ……ん?」って呟きながら宇宙猫みたいな顔してたけど。

 

 私がアリーゼじゃないことを証明しようとしたのに、実験では逆に私がアリーゼであることが証明されてしまった。もしかして、私は自分を転生者だと思い込んでいるアリーゼだった……?わけがわからないよ。

 

 

 混乱する私と「これはどういう実験なのかな……?」と困惑顔のヘスティア様を置いて、唯一リオンだけは上機嫌だった。「やはりアリーゼだった。今は記憶が……」とかなんかぶつぶつ言ってたけど、私はそんなリオンを見てどうにも嫌な予感が拭えなかった。

 

 

 

 

 

 ◇月∨日(3ページ目)

 

 衝撃的なことがあった翌日。

 近くのやっすい宿にリオンと共に泊まった私は、早朝に豊穣の女主人へ面接に向かっていた。と言っても、泊まったのは豊穣の女主人と同じ西地区にある宿だ。歩いて数分程度で着いた。

 

 

 結論から言うなら、面接自体は何事もなく終わった。まさか店長さんがフレイヤ・ファミリアの元団長さんだとは思わなかったけど……どういう経緯でこうなったんだろう。

 面接が終わった後、どの程度動けるかの試験のようなことをされた。変身のスキル(スキルじゃないけど)のことを伝えたら、ついでに髪型も変えて伊達メガネでもすればバレやしないだろう、と言われてホールも試しにやってみることになった。

 

 試験官?は4人。

 

 茶髪の猫人(キャットピープル)のアーニャ・フローメル。

 ヒューマンのルノア・ファウスト。

 黒髪の猫人(キャットピープル)のクロエ・ロロ。

 リオンは贔屓目に評価する可能性があるので除外された。

 

 そして4人目は……

 

 

 「「あっ……」」

 

 

 薄鈍色(うすにびいろ)の髪をした少女、シル・フローヴァだ。

 

 彼女とは大抗争の時に、闇派閥(イヴィルス)との戦いで心が傷つき、悩んでいたアリーゼが話を聞いてもらった相手でもある。他にも、皆が疲弊する中で炊き出しを行い、さらには自暴自棄になっていた市民達を諭すように演説を行ったこともある。中々に肝っ玉の座った少女と言える。ただ……。

 

 「二人とも、どうかしましたか?」

 

 お見合い状態で固まっている私達を、リオンや他の皆さんが不思議そうに見つめて来る。

 

 

 いや、だってさ。大抗争は七年前だよ?目の前にいる少女は……そう、今も少女のままだ。何も変わっていない。第一級以上の冒険者なら、恩恵(ファルナ)のおかげで老化が遅くなって見た目が若いまま、ということもある。ロキ・ファミリアのフィン・ディムナなんかそうだ。

 けど彼女はただの一般人のヒューマンだったはず……いや、本当にそうなのか?アリーゼの直感ではまるで『人ではない』ような感じがしたけど。

 

 まさか彼女は……

 

「「人間じゃ……ない?あっ」」

 

 

 

 

 

 ……少々トラブルはあったものの、とりあえずあの場は二人で適当に誤魔化して事なきを得た。試験自体も問題なく、それどころか即戦力として受け入れられて、私は晴れて豊穣の女主人で働くことが決まったのである。

 まぁ、当然と言えば当然。私にはアリーゼ達の知識と経験があるんだから。中には酒場でのバイト経験を持つ人もいたので、調理から接客まで何でもござれ。食べる専門のリオンとは格が違うってことよ。

 

 

 その日の夜。

 

 今はまだ営業時間なんだけど、私は18階層に荷物を取りに行く必要があるので、来週から現場に入る予定。先ほどまでは皆の働きぶりをちょこちょこと眺めていたんだけど……考え事をしたくてお店の裏庭に来ていた。

 

 ……本当にこのままで良いのだろうか。

 

 ここなら目立つことなく静かに暮らせるし、リオンと一緒にいることが出来る。店長は第一級冒険者の中でも最上位クラスの力がありそうだし、他の店員もシルさん以外は腕の立つ実力者揃いだ。下手な中堅ファミリアよりも戦力は上と言っていい。

 お店の皆とも打ち解けたし、性格的に相性が悪そうな娘もいない。うまくやっていけるんじゃないか、とは思ってる。

 

 でも、私はリオンに世話になってばかりだ。住む家も、働く場所も、正体バレの実験だってそう。頼りっぱなしは何だか落ち着かない。

 それに……リオンはちょっと過保護すぎる気がする。私を完全にアリーゼだと認識しているくせに、庇護する対象として見ているような。このままだと、迷宮探索も、闇派閥(イヴィルス)との戦いへ行くことも禁止されて、一生リオンの管理下に置かれてしまうような……いや、さすがにそれはないかな?

 

 そして最後に一つ。

 これはちょっと曖昧な感覚で、なんて表現したらいいかわからないんだけど……。

 

 リオンは今、立ち止まっている状態だ。五年前の件で心が傷つき、どこに進めばいいのかわからなくなってしまって、命を捨てようとした時にシルさんに拾われ……ここで暮らすことで、心を癒している状態。進んでばっかりだと疲れちゃうから、立ち止まって休んだり、過去を省みるのは全然悪いことじゃない。

 でも、私と再会してからのリオンは違う。私をアリーゼの代わりにして、精神的な拠り所にすることで過去に戻ろうとしている気がする。まるで、五年前に何も起きなかった、本当は何も失っていなかったと、そう思い込もうとしているというか……うーん、なんて言えばいいんだろう。わからん。

 

 

 ───と言った話を、仕事をサボって抜け出して来たシルさんに相談したわけよ。いやぁ、七年前もそうだけど、彼女には何だかアストレア様と似たような雰囲気があってついつい話してしまうんだよね。

 

 さて、シルさんも最近のリオンからは少し良くないものを感じていたようで……前より明るくなったように見えるけど、それは五年前に精神状態が戻ろうとしているからではないか。この五年で、心が癒され、回復し、成長する過程で得たものを全て手放そうとしているように感じると。ふむふむ。

 

 

「あなたはやっぱり、アリーゼさんではないんですね」

 

 ふんふん頷いていると、こちらをジッと見つめていたシルさんに言われた。どうしてわかったんだろう。ヘスティア様は私の嘘を見抜けなかったのに。

 私がそう聞くと、シルさんは「私も確信があったわけじゃないんですけど」と言って語りだした。

 

「私が見ても、あなたのことはアリーゼさんと同一人物にしか見えなかった……でも、よく見ると違和感があったんです」

 

 違和感?見た目は全く同じはずだけど……やっぱり魂か?

 

「まるで……そう。幼く、無垢な()を、より大きく、力強い()が覆い隠しているような。いえ、隠しているというより、包み込んで守ってあげているような、そんな感じがしたんです」

 

 それはつまり、私の魂がアリーゼの魂に包み込まれている、ということだろうか。

 なるほど、普通の神様には表面にあるアリーゼの魂しか感じ取れないから、私をアリーゼだと誤認している状態なわけか。ヘスティア様が私の嘘を見抜けなかったのもそういうことなのか?

 

 アリーゼの魂しか見えてないから、アリーゼであることを否定する言葉が嘘と認定されてしまう、と。

 

「アリーゼさんだけではありませんよ。他にも無数の()が、あなたとアリーゼさんの間を繋いでくれている。でも、みんな欠片しかないんです。アリーゼさんだけでは、きっと形を保てなくなって消えてしまう……」

 

 ……それはいつまで続くんだろう。話を聞く限り、アリーゼ達も結構いっぱいいっぱいみたいに感じるけど。

 

「それは……わかりません。いつか力尽きて散ってしまうのか。それとも、あなたと溶け合って一部になるのか。誰にもわからないと思います」

 

「こんなの初めて見ました。フフッ、面白いですね」そう言って楽しそうに笑うシルさんは、何だか妙に艶っぽい。

 

 ところで、もう隠す気ないですよね?

 

「なんのことでしょうか?私もアリーさんも、今は人間の女の子。それでいいじゃないですか」

 

 アッハイ。

 

 ま、まぁいいや。リオンのことに話を戻そう。

 

 色々考えたけど、やっぱり私がリオンから離れるのが一番良いと思うんだよね。一旦、距離を置いた方がいいっていうか。リオンもしばらくすれば頭が冷えるだろうし。

 

 

 でも私は18階層には戻りたくない。絶対にだ。

 

 うおおおおおおお!地上最高!リヴィラより物価が安い!屋台いっぱい!出店いっぱい!人もたくさんいるし賑やかで楽しい!ここから地下に戻るとか……どういう拷問だよ!リヴィラにいたせいで先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)だって観れなかったんだからね!むさ苦しいおっさんだらけのリヴィラには戻りたくねぇよぉ!うおおおおん!

 

「そういうわけで、ここを出て私は私の力で新しい居場所を探すわ。ミアさんとリオンにはよろしく言っておいてね!頼んだわよシルさん!それじゃ!」

 

「えっ、今すぐ行くんですか!?もう夜だし、せめて明日の朝とか……」

 

「決心が鈍るから無理ね!あと、こんな土壇場で辞めたらあの店長さんに怒られそうで怖いわ!あとで謝りに来るから、今回は代わりに伝えておいて!お願いねー!」

 

「私も無理ですよ!引き留められなかった私がミア母さんに怒られ……ってちょっと!待ってくださいよー!」

 

 

「アリーさんのおバカー!!」というシルさんの悲痛な声に心を痛めつつも、私は意気揚々と夜の街に繰り出したのであった!

 

 

 

 

 

 ◇月∨日(4ページ目)

 

 こうしてシルさんの尊い犠牲の元、豊穣の女主人を飛び出した私はオラリオ中を回った。

 夜だったけど、街は随分と賑やかだった。五年前よりもずっと治安はよくなっていて、見知った顔もチラホラあって、皆が笑顔で……なんだか涙が出そうになってしまった。

 

 

 そんな感じで、久しぶりに一夜を寝ずに過ごした私は、次なる住居と仕事を求めて街中を彷徨っていた。

 

 そして屋台で食べ歩きしながら朝食を取っていた時、とある噂を耳にしたのである。

 あのアポロン・ファミリアに大勝利したヘスティア・ファミリアが、新たなる団員を絶賛募集していると。

 

 これだ!と思った。ヘスティア様は良い神様だし、この前の実験で私の事情もある程度把握している。団員も皆いい子ばっかりだ。

 アポロン・ファミリアとの戦争遊戯(ウォーゲーム)でレベル3にランクアップしたベル君のことも気になってたし……さすがに、正体に関してはバレないように気をつける必要があるけど。

 

 

 そんなこんなで、私はヘスティア・ファミリアの団員募集に参加。見事、入団を果たして今に至るのである。

 ……まさかヘスティア・ファミリアにあんな借金があるとは思ってなかったけどね。

 

 

 二億ヴァリスって第一級冒険者が使う最高級の武装と同等以上の金額だよ。そりゃ皆逃げるわ。

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。地上で自由を手に入れた知性ある一般モンスター。
バイトに採用された当日に脱走した女。現在は借金まみれの小規模ファミリアに所属している。

ベル君に恋愛感情は持っていないが、近所のお姉さんみたいな感じで距離感が近いので、ロリ二人(神1、小人族1)からは警戒されている。

・シルさん
豊穣の女主人の一般美少女店員。
主人公が普通の人間ではないこと、アリーゼではないことを見抜いた。決してロリ巨乳神の目が節穴だったわけではない。

実は、モンスターであることまではわかっていない。まだ人間の範疇だと思ってる。

後でミアさんに怒られた。

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