有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
相手:娘のパパの息子
「それで…お花畑ってどこにあるの?」
「そんなに遠くないらしいけど…歩いたらちょっと時間かかるかも」
俺は頭の中で受付のお姉さんから見せてもらった地図を思い出す。
前にオーベールと戦った森の近くにある洞窟の奥に咲いているらしい
この世界の洞窟と聞けば危険な匂いがするが、聞いた話によるとガルが一昔前に住み着いていた魔物を全滅させてからはてんで安心らしい
たまにスノウウルフが来るのは、逃げ込んだ獲物を追いかけていた時に入り込んでしまうそうだ
にしても…全滅させたってなんだ?生態系に影響を及ぼしてんじゃん…まぁでもチョーシに乗ってるやつが居るな…とか言いそうではある
「ニナ、今から洞窟に入るけど…洞窟は視界も悪いし足場も不安定だから森以上に注意しないとダメだよ」
「分かってるよ、大きな蜘蛛とか芋虫とか出たり、弓矢とか岩が飛んできたりするんでしょ?」
「それは迷宮だね」
街の近くにそんな地獄があってはおちおち生活も出来ないだろ…とは思ったが、この世界にはどこぞのアビスみたいに迷宮の近くで拠点として機能してる都市もある事を思い出す…すげえな
「さあ、気を引き締めていくよ」
「楽しみだね!」
そして洞窟に到着する。注意して欲しい俺とは裏腹に、ニナはワクワクを隠しきれないようだった。俺もちょっと楽しみではあるが…ニナには危ない目にあって欲しくない
「ニナ、さっきも言ったけど…」
「大丈夫だよ、北帝より危ない事なんて無いでしょ?何かあったらジノが守ってくれるんだし」
そう言われれば返す言葉もない。確かにオーベール以上の危険がこの洞窟に潜んでいることはどう考えても無いだろう…俺に全幅の信頼を置いてくれるのは嬉しいが、いつでも俺が守れるわけじゃない
とはいえニナはまだ9歳だ、これから少しずつ学んでいけば良いと思ってしまう俺も居た
「今日はそれでいいけど、言うことはちゃんと聞いてね?」
「はーい」
中身が20代だからか…どうしてもこの歳の女の子に強くは出れない。
大事になる前にどっかできちんと教えてあげないとな
〜〜〜
松明を焚き、暗い洞窟を進んでいく。
ニナも入口では息巻いていたものの、いざ入ると雰囲気とその暗さに臆してしまったのか、俺の松明を持っていない方の手を両手で握っている…いや、それ俺もニナも剣振れないけど…
「ね、ねぇジノ…剣で切れない魔物とか出ないよね?」
五分くらい進んだ頃だろうか、不意にニナがそんな事を聞いてくる。
最初はお化けを怖がってるのかと思ったが…そう言えば迷宮の御伽噺に剣が当たらない魔物とかの話があったな
こんな世界だから多分幽鬼とかの魔物なんだろう。ミリス神聖国とか言うところがそんな感じの退魔の魔法を使うとか本にあったし
「流石に無いんじゃないかな、出るならEランクを受ける人達がこの洞窟に入れないよ」
「そ…そうだよね、出るわけないよね!」
一応は納得したようだが、手は離してくれなかった。ニナにとって剣術は全てだし、それが通用しないってなるとそりゃ不安にもなるか
「ふふ…じゃあニナにとっておきの技をお見せしよう」
暗くてどこから何が来るのか分からないこの状況。しかも危険は少ない…前から実践しようとしていた事をやってみよう、ついでにニナの不安も取れるかもしれないしね
「技…?剣神流の技なら全部知ってるよ?」
「今からやるのは剣神流の技じゃないよ、というか剣術でも無い」
ニナに手を離してもらって少し距離を置けば、松明を壁に立てかけて精神を研ぎ澄ませる。これはいつも使っている闘気の応用だ…身にまとっている闘気を少しずつ広げていく
「これ…闘気?そんなに広げても意味無いんじゃ…」
ニナもそろそろ上級だとガルは言っていた。闘気を理解出来てはいるみたいだが、これは分からないようだ
ずっと思っていた…闘気を使い始めた頃から、闘気とは所謂あれなんじゃないかって…♠
そのまま俺は闘気の形を整えて、半径4m程の円を形作る…俺の戦いは基本剣の間合いだしこれで十分(つーかこれが限界)
「どう?出来てる?」
「確かに綺麗な円になってるけど…これ何の役に立つの?」
分かってないなニナは…この技術の凄さと尊さが全然分かってないよ
「それじゃあ、何か動いてみて」
くるりと後ろを向いてニナに動くように指示すれば、ニナは理解出来ないと言うように左手を上げる…そう、この円の範囲ならば見なくても分かるのだ
「左手を上げた」
「え?凄い!なんで分かったの!?」
その後も背を向けたままニナの動きを的確に当て続け、この円の素晴らしさを十分にご理解頂いた。けど普通に疲れたのでそのまま歩く事は出来なかった…まだ〇ブナガのようには行かないな
「闘気の応用だよ、身体を強化する方じゃなくて状況把握に配分するって感じかな?」
「…?ごめん、全然分かんない…」
理解はされなかったがすっかり恐怖が薄れたニナと奥へと進んで行けば、開けた場所へと辿り着く。恐らくここがこの洞窟の最奥だ
「あ、もしかしてあれがアイスアザレア?」
僅かな陽の光が差し込んでいるその場所に寄り添うように、まるで薄氷のような美しい色をした花が咲き誇っていた。それを見たニナが指を指して尋ねてくる
「聞いてた話と一致するし…多分そうだね、それじゃあ花束にする分くらい摘んで帰ろうか」
この花は寒い所でしか咲かない為にこの辺りの特産品として有名だ。全部摘むのは良くないけど、依頼分より多く貰っても稼げるかもしれない
そんな事を考えながら花に近づこうとした瞬間、轟音と共に岩壁をぶち抜いて…俺たちの何倍もの体躯を持った巨大な影が現れる
「ゴガァアアァアア!!!!」
それは先程ギルドでSランクの依頼に指定されていた…スノードラゴンだった
〜〜〜
「ニナ!」
俺の声でニナも同時に抜剣し、左右から同時にスノウドラゴンに襲いかかる。竜はまるで羽虫でも見るかのようにこちらを見下ろせば、煩わしそうに尾を薙ぎ払う
こちらに利があるのは小回りだ、迫り来る尾をニナは跳躍で、俺はスライディングで回避すれば、2人の剣がスノードラゴンの鱗と衝突する
「ギャアアアアア!!」
ニナの剣は鱗が剥がれる程度だったが、俺の光の太刀はヤツの肉を割いた。まずは機動力を削ぐべく右の翼爪辺りを狙ったが…正解だ、明らかにバランスが崩れた
「ごめんジノ…私じゃ傷付けれない…!」
「大丈夫、今ので奴に脅威だと認識させられた…そのまま注意を逸らして欲しい」
「…分かった!」
ニナを気遣った訳じゃなく、そう言ったヘイト管理は必要だ。〇ンハンもそうだったし…でも出来ればニナが脅威じゃないと思われる前に決着を付けたい
そしてまた同時に俺とニナは左右から襲い掛かる。だが次は左右逆…傷付いていない方を俺が、傷付いている方をニナが攻撃する。
竜の知能ではまだ俺とニナ、どちらが脅威となるか見抜くことは出来ない。苦し紛れに左の翼爪を立てて俺に振り下ろすが…愚行だ
「光返し」
爪を剣で滑らせるようにしていなせば、そのままカウンターの光の太刀を返す。本来はこういう使い方では無いが、北神流と合わせたオリジナルだ
そして今度はニナも正確に俺の傷跡に剣先を滑らせたようで、右の傷が更に深くなっていた…これで前足の役割を果たしていた翼爪が使い物にならなくなった
「よし、これでだいぶ楽になった…後は安全に攻められる所を攻めて…」
ニナに指示を出していた時、スノードラゴンの様子に違和感を覚える。
何かが高まっていく…そんな予感がしたのだ
「ジノ?」
ニナはそれに気付いてないようだったが、そこで俺の脳内に唐突に御伽噺のワンシーンが思い浮かぶ…スノードラゴンは高度な【水の魔術】を使うと
「危ない!」
思い出した時には既に奴の周りに巨大な水球が出来ていた。
凄まじい勢いで迫り来る水弾を、咄嗟にニナに飛びかかって何とか回避したが…そのまま水弾は岩壁にクレーターを作り出す、なんちゅう威力だ…
「うぅ…ありがとうジノ…」
ニナは咄嗟の事で混乱しているが、大した怪我は無い。それより次だ…奴がこのままなりふり構わず魔術を使えば、このまま生き埋めになる可能性だってある
急いで身体を起こし、スノードラゴンの方を見れば…なんと奴は口に冷気をチャージしていた。そのまま行けば起こることは一つだ、ドラゴンの十八番であるブレスが飛んでくる
「くそっ…!仕方ないっ!」
光の太刀でもこの距離は間に合わない、そう判断した俺は持っていた剣を…投げた。ティモシーが見たら泡吹いて倒れそうだが、破れかぶれではなくれっきとした北神流の技だ
「グギャアアアアア!!」
闘気をサービスした俺の剣は正確に奴のチャージしていた口内へと吸い込まれていき、刺さると同時に冷気が爆散する。死んだかと思ったが流石はドラゴン、まだ息があるようでのたうち回っている
「ニナ頼む!」
「はぁぁぁぁっ!」
こちらの位置も把握出来ていないような悪あがき、そんなものに上級クラスのニナが阻まれる訳もなく。真っ直ぐな一太刀が、竜の頭にトドメを刺した
〜〜〜
「まさか出れなくなるとは…」
記念すべき初依頼でスノードラゴンを討伐しましたわーい…で終わると思ったのだが、まさか奴の死体が出口を塞いでしまうとは思わなかった
スノードラゴンがぶち破って来た方から出ようとしたのだが、そこも落石で塞がっている始末で…現状立ち往生である
「私が一撃で絶命させなかったからだよね…」
まぁそれもあるけど、動き回る竜に対してとなると俺でも難しい。ニナに非は無いだろう
「いや、俺が場所を考えてなかったのが悪いよ。ギルドにはこの洞窟に行く事を伝えてるんだし…待ってたら助けが来るから大丈夫」
バラして退けようかと思ったが、うっかり冷気を溜め込む器官を傷付けて破裂でもしたら大変だ…治癒も出来ないから死にかねない。多分ガルならこれくらい切り飛ばせるし、気長に待つとしよう
「花は無事だし、取り敢えず持って帰る分取っちゃうね」
ニナは暇つぶしとでも言うように、奇跡的に無事だったアイスアザレアを採取しだした。これって依頼達成になるのだろうか
いや…それよりこのドラゴンだ。こんな所にスノードラゴンが降りてくる何ておかしい。依頼に記載された場所とも大きく離れているのにも関わらず…何で現れたんだ?
ガルの第二の試練なのかと思ったが…それにしてはネタばらしが遅すぎる。それにこいつならオーベールの方が格段に強い筈だ
誰かがこっちに来るように送り込んだ?それとも何かから逃げてきたのか…?ドラゴンが逃げるようなヤツがこの近くに…?
「ジノ!ねえってば!」
「あぁごめん、どうしたの?」
死体を見て物思いに耽っていると、後ろから急にニナに話しかけられる。振り返って目を合わせると、彼女は少し顔を赤らめて
「はいこれ、同じ日だから私が初めてって事でも良いよね?」
それはアイスアザレアを使って器用に作られた指輪だった。そういえばオーベールに指輪を貰った時にぼやいたんだったな
「くれるの?」
「うん…丁度道場の女の子達の間で流行ってたから私も作れるんだ。あ、要らないなら捨ててくれて良いよ!?オーベールさんのに比べたらお金にもならないし…」
あぁ…ダメだな、こういうのは良くないと思ってたけど…ニナが最近可愛すぎる。だがこんな事をされてはこちらも正当防衛という奴だろう
俺はニナから指輪を受け取ると、すぐさま膝を付き…彼女の左手を取れば、その薬指に花の指輪をそっとはめる
「うぇえ!?ちょ、ちょっとジノなにやって…!」
「悪しき竜は倒されました姫。遅くなって申し訳ありません…こんな不甲斐ない私ではありますが、やはり貴女は世界で一番美しい御方だ。どうか私と踊って頂けませんか?」
なんとまぁクサイセリフではあるが、この世界の女の子は何故かこういうのが好きなのだ…まぁ本気のセリフじゃないけどね
「ぷっ…あはははは!なにそれ!私は姫じゃないし一緒に倒したじゃん!それに踊りなんてした事ないし!」
顔を真っ赤にしていたニナは、俺の言葉を聞いて思わず吹き出す。笑顔が似合う女の子は良いね…見てるだけでこちらも楽しくなる
「そうでも無いよ、囚われのお姫様を助けて…最後は一緒になって踊る。御伽噺っていうのはそう決まってるんだ」
少なくとも前の世界ではそうだった。それをなぞる必要は無いけれど、それが皆どこかで望む事だったんだと思う
「まぁ…そう言われたら状況は近いかも…?じゃあ踊りはどうするの?姫も英雄も踊る事が出来ない時は?」
さらっと踊れない事にされたが、そこは突っ込まないでおこう…実際踊りなんてした事ない
「踊れるじゃん、ほらこれ」
そう言って俺は腰の剣を抜く、最近出来てなかった撃ち合い稽古…上級クラスになったニナとなら真剣でも問題ないだろう
「剣って…まさか撃ち合いの事を踊りって言ってるの?そんな御伽噺聞いた事ないけど…」
「聞いた事なくても良いんだよ…これは僕らだけにしか出来ない冒険の話なんだから、そこに剣が無い何て有り得ないでしょ?」
俺とニナの絆は、間違いなく剣が導き、育んだ物だ。だから似つかわしくなくても、場違いでも…そこには剣があるべきだと俺は思う
「私達だけの…うん、そうだね…それが良い」
ニナは言葉の意味を噛み砕くように頷けば、少し照れ臭そうに俺の目を見てはにかんだ
その稽古は、ガルが来るまで終わらなかった