有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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剣王

スノードラゴンの一件から暫くは、特に何の変哲もない毎日を過ごしていた。

 

オーベールが居なくなった分空いた時間はニナと遊んだり依頼に行ったり。休みの日に家族で剣の手入れついでに街へお出かけに行ったり。ガルと釣りに行ったりしたこともある

 

勿論勉強も欠かさなかった、剣聖という立場を利用して商人の護衛に付き、ギルドでは得られない本を破格で譲ってもらう報酬を得たりしていた

 

スマホもゲームも無い世界でやって行けるのかと最初は不安だったが、生まれた時から触れてないとまぁそこまで違和感は無い

 

剣の修行に遊びに依頼に勉強にと…充実していればスマートフォン何て無かろうと人は伸び伸びと暮らしていけるものなのだ

 

ニナは上級剣士となり更に実力をぐんぐん伸ばして行き、俺抜きにしたら異例のスピード剣聖も見えてきているらしい…並ばれちゃうねこれじゃ

 

そんなある日、俺はガルに呼び出されていつもの修行場所では無い本道場へと来ていた。

 

いつもなら木剣の撃ち合う音や掛け声などが聞こえてくるのだが…その日は不気味な程に静かで、毎日のように入っている場所とは思えない緊張感があった

 

「…来たか」

 

扉を開ければ、奥にはいつものように傲岸不遜に座るガルと…その傍らにティモシーともう1人の剣帝が立っていた

 

「今日はどうしたんですか?他の皆が居ないようですけど…」

 

この広い道場に4人しか居ないというのは非常に稀だ。剣聖達は殆どの時間をここで過ごすし、聖地においてここが重要な中心地であることは間違いないからだ

 

そのままガルの前まで行き、片膝を着いて師の言葉を待つ

 

「お前に大事な用があってな、外させた」

 

の割には2人きりじゃないのか、じゃあ告白という線は無いな…やめとこう、何らかの方法で心を読めたら真っ二つにされてしまうかもしれん

 

「そうですか…その大事な用とは?」

 

ガルはいつもとは違う至極真面目な顔でこちらを見る。心の中を直接覗き込まれているような気がするが…今更この程度は動じない

 

「お前の剣は、既に剣聖の域にない」

 

放たれた言葉は短いが、その一言で俺は全てを理解した。これは恐らく剣王への昇格試験だ…だから他の剣聖を外させた

 

「はぁ…ったく、ギレーヌの次にこれを言うのが7歳たぁな…どうなってんだよティモシー」

 

「は…親としては冥利に尽きるかと」

 

ティモシーは軽く頭を下げてそう言ってくれる。嬉しいねぇ、パパにそこまで喜んで貰えるとわっちも頑張ったかいがあるでやんすよ

 

「ま、お前はそうだろうな…それでジノ、俺様が最初に光の太刀を教えた時…何て言った?」

 

ガルはほんの少し忌々しそうだった。ニナがまだ上級なのに弟子の息子が剣王にならんとしているのが面白くないのだろうか

 

「利き腕を無くせと…光の太刀を放つ際、片方に力が入り過ぎていては剣先がブレる為です」

 

剣とは鋭利な物で何かを切断する単純な動きだ、当然普通に振っても回避されるだけ。故に下から、横から、斜めから…あらゆる角度から放つことによってそれを補う技術、それこそが剣術の真髄だ

 

「そう…全ての闘気を注ぎ込み、真っ直ぐに放つ。単純だがこれが光の太刀の極意だ。この極意には剣神流の歴史が詰まっている」

 

ガルは剣の柄をコンと叩く…以前ガルから聞いた初代様から続く研究の成果。小細工が必要無かった初代様の剣術を、歴代の剣神が解明し…マニュアル化したのだ

 

「光の太刀は剣神流最高の技、他流派で言う所の奥義だ。

 その極意を習得したのに、優劣が出やがる。

 剣聖、剣王、剣帝、剣神…おかしな話だなぁ。同じ事をしてるだけなのに、強ぇ奴と弱ぇ奴がいやがるのはよぉ」

 

「その違いはなんだ?」

 

恐らくこの問いかけが剣王足りえるか否かを分ける。俺の全て、今まで振り続けた剣が正しかったのかどうか…ここで答えが出る

 

「【想い】です…願いや理想と言い換えても良いかもしれませんが」

 

「ほう…精神論か?お前がそんな事を言うとはな」

 

ガルはにやりと笑みを浮かべているが、ティモシーは若干焦っているように見えた。恐らく間違いだと思ったのだろう…だがこれは誤りでは無い筈だ、俺が積み重ねてきたこの剣の腕がそう語っている

 

「この4年と数月、ひたすらに剣の腕を磨きました。幾万と繰り返した光の太刀、途方もない撃ち合いの数…その中で最高の一振が出た瞬間があります」

 

「聞くまでもねぇが一応聞いてやる、それはいつだ?」

 

思い返せば、あの一撃は今出そうと思っても出せないだろう。それほどまでに洗練された光の太刀だった。初めて繰り出したにも関わらず、最高の一太刀だったのだ

 

「北帝と戦った時です。あの時僕は、上手く振ろうだとか、速く在ろうなどという気持ちは一切ありませんでした。あったのはただ、ニナを守りたい…死なせたくないという純粋な願い故です」

 

「技術の優劣等や、強さへの欲求は副産物でしかありません、剣をより高みへと上げる為に必要なのは想い…その先にある願いや理想を掴み取らんとする飢えです」

 

これが正解だという確信は無いが、紛れもなく俺が磨いて積み上げた剣の全てだ、存在意義と言ってもいい。人を殺す為の技術を、崇高たらしめる物だ

 

「誰かの為の剣というように聞こえるな、ニナを助ける…その時お前はニナの為に剣を振るった。それはつえぇが誰かに左右される剣だぞ」

 

「違います、大切な誰かを失いたくない。大切な物を零したくない…それは極めて利己的な欲望です。己が為と誰かの為、両立させてしまう願いに左右される要素はありません」

 

俺はガルの言葉に臆する事無く真っ直ぐ答える。剣神はその険しい表情に獰猛な笑顔を貼り付けて答えを出す

 

「…良い答えだ…俺様の考えるもんとは多少違うが、どちらが正しいかはこれから決まる事でしかねぇ…お前に剣王の称号を授けよう」

 

剣王。ティモシー達とギレーヌという人に次ぐ、四人目の高みに…俺は遂に到達したのだ

 

「お待ちください」

 

だが、その認可に待ったをかける男がいた

 

〜〜〜

 

「なんだ?ティモシー…ジノは剣王に相応しく無いって言いてぇのか?」

 

凄まじい気迫…自分の認可に異を唱えることなど許さない、そう言外に示すのには十分過ぎる程の圧力だ。道場が軋んでいる気さえする

 

「滅相もございません、ただ…剣王となるに剣技を見せないというのは…師匠としても不本意でありましょう」

 

だが、今日のティモシーはそれに屈する事は無かった。真っ直ぐにガルを見て、そう進言する。ガルはそれを聞いて心底驚いたように目を丸くすれば、直ぐに表情を和らげた

 

「はっ…そういう事かよ。お前も一端の親の顔をするようになったもんだ…良いぜ、好きにしな」

 

「感謝致します」

 

ティモシーは深々と頭を下げると、そのままゆっくりと俺の前に立つ。

厳しくも俺を慮る…親の表情をしている

 

「ジノ…お前は私の誇りだ」

 

何か怒られるのかと思ったが、いきなり褒められた…何だ?何が始まるんだ?

 

「お前が生まれた時は、いつかこのような時が来ると良いと…願っていたものだ…それがこんなに速く来るとは思わなかったがな」

 

「師匠や聖地の皆…そしてお父さんとお母さんのおかげです。誰が欠けても今の僕はありませんでした」

 

雰囲気に当てられているとかではなく、紛れもない本心だ…俺の成長にはこの七年関わった人の全て…まぁ7歳で気付くとこじゃないか

 

「相変わらず親としての自信を無くしに来る奴だ…私がお前に教える事が出来たのは何だったか、最早分からん」

 

親になったことは無いので分からないが…俺はいつだってティモシーの背を見て育った。精神はあんまり変わらない年齢かも知れないけど、愚直に俺とゼタを守らんと剣を振る姿は…まさに父親だった

 

「言葉で教えるだけが、親では無いですよ。どうなってもお父さんはお父さんです」

 

「…そうか、無粋な親ですまない」

 

ティモシーは目を伏せ、ほんの少し嬉しそうに笑う。

まぁ、そら二十代に親として接しろって難しいよな…ましてや初めての子供で

 

「おい、別に俺様は親子の劇を見せてくれって言った訳じゃねえんだぜ?さっさとしてくれ」

 

「あ…申し訳ありません」

 

おっと、そういえばガルの前だったな…せっかちなガルを待たせたら斬られかねん、済ませるとしようか

 

「本来剣王となるには同じレベルの剣聖と戦う事が必要となるが…生憎今のお前に釣り合う相手はおらん。故に私が相手をしよう」

 

それで剣帝と戦うのはおかしい気がするけど…まぁ居ないなら仕方ないか?別に勝たなくても良いだろうし…良いよね?負けて昇格無しとかないよね?

 

「…分かりました」

 

俺はもう1人の剣帝から木剣を受け取り、道場の中央へと移動する。

 

初めて剣を握った時も…同じ景色だったな、あの時は剣聖と戦って吹き飛ばされた。それが今では俺は剣王で、目の前には剣帝が立っている

 

「お前の全てを…父さんに見せてくれ」

 

今から打ち合うとは思えない優しい声音…そういえば、稽古稽古で親子らしい事はしてなかったな。

 

「はい…行きます」

 

俺は居合の、ティモシーは上段の構えを取る。勿論狙いは互いに光の太刀…剣神流を象徴する奥義で勝負を付けるのは必然だった

 

そのままじりじりと距離を詰める…見せるのは俺の全てだ、互いの制空権の直前、俺は円を発動する。オーベールに教わった闘気の配分、北神流のカウンター、そして光の太刀…この一刀に乗せるのだ

 

「はぁぁっ!」

 

「っ!!!」

 

そして、ティモシーの足が俺の円に触れた瞬間…ほぼ同時に剣が動く。

 

速度はティモシーが上、だがタイミングは俺の方が上だった。ティモシーは純粋な光の太刀を放つが、対する俺は光返し。本来加速し切る前の手首を狩る技である光返しの構えを取り、そのまま剣に乗せた闘気でパリィしようとする…が

 

(重い…!)

 

スノードラゴンの爪よりも遥かに重い太刀が俺の刀身に乗せられる。

あの時のようには行かず、逆に俺が後退してしまう程の衝撃で体勢を崩す

 

当然ティモシーはそこを追撃せんとする。だが、初撃程の速度と威力は無い即席の光の太刀…狙い通りだ

 

北神流の剣は搦手、心理戦を混じえる…打たせるべきと思わせた時、そこの揺らぎを狩る剣なのだから。

 

大袈裟に崩した状態を即座に立て直し、再度放たれる俺の光返し。だがそこで手首を貰えるほどティモシーは甘くなかった…俺の誘いに直前で気付いて見事に防がれる。

 

小細工は通じない。なら…文字通り全てを載せるしかもう道は残っていない…

 

2人とも再度光の太刀の構えを取る…次は互いに中段、剣神流の基本の型…どんな状況にも対応出来る構えだ。

 

そして同時に、今度こそ完璧に同時に放たれる光の太刀は最高速度に達した所でぶつかり合う…だがその状態ではティモシーには勝てない。

 

俺の持っていた木剣は砕け、そのまま吹き飛ばされた

 

「それまで」

 

ガルの言葉で試合が終わった事を感じ、俺は道場の床に背を付けて天井を仰ぎ見る。完敗だ…父の偉大さを感じさせられる立ち会いだった

 

「どうだティモシー…ジノは剣王か?」

 

「…つくづく私には過ぎた息子です」

 

言い終わると同時に、ティモシーの木剣が砕け散った

 

〜〜〜

 

「剣王の証に、この中から1本を授けよう…どれがいい?」

 

ティモシーからも認められ、俺はガルの自室へと招かれていた。

 

目の前に並べられた三本の剣は、剣神七本剣と呼ばれるガルの魔剣コレクションである…ここ数年で剣に詳しくなったからわかるが、これは凄まじい…

 

「では、これで」

 

俺はその中から1本の剣を選んで手に取る。

 

「玉響か…何となくお前はそれじゃねえかと思ったよ」

 

それは青い刀身を持った美しい刀だった。三本の中では少し小ぶりで、まだ成長途中の俺でも振りやすそうだ

 

「そいつに練られた魔力は闘気によって反応してその刀身の性質を変える。基本的に闘気を全部込める剣神流には対してメリットはねぇが…器用なお前なら使いこなせるだろう」

 

「ありがとうございます」

 

なるほど、面白い性能だが慣れるまで多少の時間がかかりそうだ…まぁそれはこれからゆっくりと試して行けばいいか

 

「剣帝どもの手前言ってねえが、お前はこれで免許皆伝だ。俺様が伝えられる事は全て伝えた」

 

そしてあまりにもぬるっと免許皆伝の事実が伝えられる。なら剣帝なのでは?と思ったが、ティモシーに勝つまでは俺もそこまで名乗る気は無い

 

「別に剣帝でもいいんだけどな、そうなりゃギレーヌっていう剣王に勝ってもらわなきゃならん。何処にいるか分かんねぇのが難点だ」

 

「いえ、今の自分が剣帝だとは思っていませんから…これで十分です」

 

大事なのは称号ではなく、どう強くなるかだ。とはいえ剣王の称号とこの魔剣があれば生きていくのには十分だと感じるからとは…ガルには言えないな

 

「そうかよ…それでお前、これからどうするつもりなんだ?」

 

「どうするって…何ですか?」

 

とりあえずゼタには報告しないといけないだろうけど…ガルの質問の意図が読めない。逐一報告する義務あったっけ?

 

「あん?お前ずっと読み書きとか地図とか見てたじゃねえか…外に憧れがあるんだろ?ならタイミング的に今が丁度良いとか思わねえのか?」

 

なるほど、そういう事か…まさかガルがそこまで俺の事を考えてくれてるとは思わなかった。

 

だが言われて見ればそうだ…勉強も終わり、今では人間語は完璧。獣神語も問題ない程度にはした。そして剣王の認可にその証たる魔剣…旅立てない要素は無い

 

「言われてみればそうですね…」

 

「まぁ好きにすりゃ良い。お前はもう剣王だ、誰も止めやしねえんだから…けどな」

 

ガルはその言葉に少し含みを持たせる。好きにすれば良いと言った手前違和感は凄いが…師の言葉だ、聞かない訳には行かない

 

「旅立つなら、その事はニナには伝えるな」

 

〜〜〜

 

「ただいま」

 

「あら、今日は早いのね…」

 

家の扉を開けて、家事をするゼタに声をかければ…ゼタはこちらを振り向いて動きが止まる。その目は俺の腰に携えられた剣に向いていた

 

「そう…そうなのね…おめでとうジノ…」

 

ゼタはゆっくりとこちらに歩み寄れば、俺を優しく抱き締める。久しぶりに感じる母のぬくもりだ。少し恥ずかしいが今は享受しておくとしよう

 

「お母さんのおかげだよ、ありがとう」

 

「私は何もしてないわ。ジノが頑張ったからよ…他の誰でも無い、貴方の力なの。もっと胸を張って」

 

言いながら、ゼタの腕に力が篭もる。母は言っていた…今は幸せだけれど、剣王になれなかった悔しさはずっと残っていると。

 

その夢を俺に託してくれた、それに答えたいと思ったのが…俺がこの世界で剣に本気になろうと思ったきっかけだった。それが今日叶ったのだ

 

「7歳でこんなに親孝行されちゃったら、お母さん困っちゃうじゃない」

 

「これくらいで困ってたらだめだよ、僕はまだまだ強くなるんだから」

 

俺が茶化すように言うと、ゼタは少し潤んだ目を拭ってくすりと笑う。

 

「今日はご馳走にしないとね…お米あったかしら」

 

「ごめんお母さん…それと、話したいことがあるんだ」

 

急いで食材を確認しようとするゼタを呼び止める。するとゼタは少し寂しそうな表情を浮かべた…七年俺の母親をやっているのだ、俺が何を言い出すか分かったのだろう

 

「いや…何でもないよ、今日は沢山お米が食べたいな」

 

良く考えればまだ7歳だ、母親にこんな顔をさせてまで…焦る様な時間では無い。ニナの事もあるし、もう少し聖地で居ても良いじゃないか、それで大きくなってニナと2人で旅をするんだ。きっと凄く楽しくてー

 

「ダメよ」

 

そんな俺の心を読んだかのように、ゼタはそう言い放つ。

 

「私の事なんて気にしちゃダメ、ずっとジノが外の世界に憧れてたのを知ってる。私のせいでジノのしたい事が遅れるなんて、それが私にとって1番辛い」

 

「寂しいって気持ちはあるけど…ジノが凄いスピードで成長していくのを見て、私だってこの時が普通より早く来るのはずっと覚悟してきた…だから大丈夫」

 

「お母さん…」

 

そもそもの話、俺が気にする事が野暮だったのかもしれない。気を使って聖地に残った所で、ずるずると期間が伸び続けるだけだ

 

子は親の元を離れる…当たり前の事を理解出来ていなかったのは俺の方だったかもしれない

 

「分かった…ありがとう…」

 

「その代わり、たまには顔を見せに帰ってくること!そのまま帰ってこないとかになったら…そうね、兄さんに探させるわ」

 

うーん、それは怖いな…手足の一二本落として連行されてしまいそうだ

 

 

〜〜〜

 

翌朝、俺はティモシーとゼタと共に街の出口へと赴いていた

 

勿論俺は旅の装いに魔剣を携えている。今日は記念すべき旅立ちの日だ

 

「風邪ひかないようにね、何かあったらいつでも帰ってきて良いのよ?何があってもお母さんはジノの味方だからね」

 

「うん…ありがとう、たまには顔を見せに来るよ」

 

ゼタは笑顔で見送ってくれているが、その目は腫れている。別れの時に涙を見せないように先に出し尽くしたと言わんばかりである

 

「剣の修行は怠るな、私が言った言葉を覚えているな」

 

「一日の遅れを取り返すのに三日かかる…だよね?剣王にまでなったのに、今更サボれないよ」

 

ティモシーは満足気に頷けば、それ以上は何も無かった。やはり父親はこうだな、別れの時もあっさりとしているもんだ

 

「あ、それと兄さんから伝言よ【達者でな】だって」

 

仮にも直弟子の旅立ちに何と素っ気ない…いや、あのガルが言伝までしたのだ。気にかけてくれている方だと思っておこう

 

「2人とも、今まで本当にありがとう。手紙はちゃんと出すから、お母さんはお父さんに読んであげてね」

 

ティモシーは少しムッとしていたが反論は無い。読めないお前が悪いんだからな、悔しかったら勉強したまえよ

 

「それじゃあ!」

 

それだけ言い残すと、俺は馬に飛び乗って剣の聖地を後にした

 

2人は、俺が見えなくなるまで手を振っていた

 

〜ニナ視点〜

 

昨日、ジノが剣王になったらしい

 

最初ジノを見た時は、大人しい赤ちゃんだという印象だった。

 

師匠…というかお父さんの妹さんのゼタおばさんの息子が生まれたと聞いて見に行った時、私にちょっかいを出されても全く動じなかった事を覚えている

 

そんな彼は、天才だった

 

言葉は私以上に巧みに話すし、剣の腕も比較にならなかった。

 

天才だとか、流石は剣神の娘だとか…持て囃されていた私でさえ遠く及ばない才能…正直嫉妬さえも覚えないほどだった

 

それに彼は…凄くかっこいい。

 

強くて、優しくて、私の事を第一に考えてくれるその姿は年下には見えないし…前に洞窟に閉じ込められた時にしてくれたあの指輪をはめる動作には、心臓が鳴りっぱなしだったのを覚えている

 

彼に追い付きたくて、更に修行を頑張った

 

彼にもドキドキして欲しくて、髪型を変えてみたり、好物を作ってみたりした

 

彼と一緒に居たくて、友達とも少し疎遠になった

 

いつしか心の大部分をジノで埋め尽くされてしまった私は、心のどこかでずっと一緒に居るものなのだと…自分勝手にそう思っていた

 

今日は剣王のお祝いを渡すのだ、街で会った金髪の長耳族の冒険者のお姉さんに教えてもらって作ったお守りを…

 

「どこに行くんだ?ニナ」

 

「お父さん…?」

 

道場を抜けた一本道に、父が立っていた。

 

剣の聖地を代表する剣神、この雪に包まれた場所で最強の称号を欲しいままにする…偉大な父だ

 

だからこそ違和感があった。父が私の行動を気にかけた事など無かったからだ…勿論剣の修行を見に来たりはするが、それ以外の時間には干渉された記憶は無い

 

「どこって…ジノの所だけど…」

 

「アイツならもう居ねえぞ、今朝旅立ったからな」

 

最初、私は父が何を言ってるか分からなかった。旅立った?ジノが?何で?私に何も言わないで?

 

「嘘…だよね?だって、ジノはいつも私に…」

 

「俺様が止めたんだ、ニナには伝えんなってな」

 

理解出来ない、いやしたくなかったのかもしれない。いつも私の隣で笑って、私を守ってくれた存在が遠くに行ってしまった事に

 

「どうしてそんな事したの…?」

 

知っていれば私も付いて行った。ジノは剣王だから幾らでもお金を稼げるし、私だって上級だ…足でまといにはならない

 

「お前が付いて行くとか言い出さねぇようにだ」

 

「それの何がっ…!」

 

言い終わる前に、父の剣が私の喉元に突き付けられていた。剣神の動きは、私には全く見えなかった

 

「ニナお前、いつまでアイツにお守りしてもらう気だ?ジノは今程度の動きなら反応してきた筈だ。何ならカウンターしてくるやもしれねぇぞ?」

 

その言葉に、私は反論出来なかった。ジノと私では…格が違うのだ。

でもそれで良いと思っていた…スピードは違えどジノと一緒に強くなって、成長して…結ばれればそれで良いと

 

「別に付いて行きたいなら行けば良いぜ?その代わり二度と剣神流の剣士は名乗らせねぇ。聖地も出禁だ」

 

「だが俺様は…今のお前とジノが釣り合ってるとは全く思ってねえけどな」

 

その言葉は、私が気付かないようにしていた本心を抉る一言だった。

ジノに守ってもらう度、ジノとの差が開く度に…これで良いと甘える自分の心の奥底に…燻る炎がある事を

 

「ニナ…お前は何の為に剣を取った?最初に俺様に言った言葉を忘れちまったのか?」

 

数年前の記憶…初めて父に木剣を渡された日の事が蘇る。

 

【私は、お父さんみたいな凄い剣士になります!】

 

「…すみません、剣神様。私が間違っていました」

 

絞り出すように出た言葉は、自分でも何とも酷いと思える謝罪の言葉だった。

 

「…悔しいか、ニナ」

 

 

「……はいっ…!」

 

父は剣を鞘へと収めながらそう尋ねてくる。それと同時に重く苦しいものが胸から上がり、大粒の涙となって流れ出す。

 

それは焦がれる程に想った人に追いつく事の出来ない不甲斐なさか…

ずっと自分を守るために蓋をしてきた自尊心の反発か

 

「お前はまだまだ伸びる…明日からの稽古は俺様が付ける」

 

「あいつの隣に立てるような…最高の女になって見せろ」

 

私は決めた。もう彼の後ろを歩くだけの女にはならない。

 

彼の背中を守り、共に肩を並べて頼ってもらえる存在になるように…その為だけに剣を振るうのだ

 

「よろしくお願いします!!!」

 

剣の聖地に、凛々しい剣士の声が響き渡った

 

【第一章】剣の聖地編〜完〜

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