有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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龍神

不気味なほどの沈黙、護衛の仲間達も声を発さず…渓谷に吹く風の音だけが耳朶を叩く。

 

その原因は間違いなく目の前に居る男だという事は分かる…だが何故そこまで皆がこの男に怯えているのか理解は出来ない

 

確かにその佇まいは只者では無い。隙がない…という次元では無い、剣王になってからの周りの反応を見て相当な実力者になってしまったなぁ〜とか思っていたが…彼に勝てるビジョンは湧かない

 

更にその顔は険しく威圧的で、総合的に怯えて然るべきなのかもしれないが…敵意のようなものは感じない、殺気は微塵も放っていないしな

 

「…ジノ・ブリッツだな、聖地まで行く手間が省けた」

 

…俺の名前を知っている?何故だ、剣王というのはそんなに名が広まるものなのか?

 

男が口を開いた瞬間、エリナリーゼが得物に手をかける。いやいや、今のは別にそんな怪しいセリフでないでしょう

 

「そうですけど…貴方は?」

 

「…オルステッドだ、お前…何故目を逸らさない」

 

オルステッド…その名前を冠するのはこの世界で1人だ。かつてガルに聞いたことがある人知を超えた本当の化け物…あのガルでさえ大敗した七大列強第二位…龍神オルステッドだ

 

世界最強クラスに会えたのは光栄だが、何じゃその質問は…こっちを見るなっていう遠回しな言い方か?見た目に似合わずめちゃくちゃシャイなのかもしれない

 

「えーっと…あんまり目とか合わせない方が良い感じですか?」

 

「いや、平気ならば良い…この歳のお前はいつも剣を放り出して話も聞かずに逃げ出していたのでな」

 

良いのか…っていうかさっきから地味に話が読めない。この歳だとかいつもだとか…初対面だよな?昔会ってたとか?

 

てか何だその腰抜けは、剣王にまでなってそんな噂が立ってるならこの7年間はなんだったんだよ

 

「いつも…の意味は分からないですけど、僕としては初対面のつもりなんですが…違うんですか?」

 

「………」

 

無視?このタイミングで?1番気になる所でしょこれ、もしかして転生してるから世界が色々おかしくなってるのか?

 

「剣王になったというのは本当か?」

 

「え?あぁ…本当ですよ、一応証拠として剣神ガル・ファリオンにこれを授かりました」

 

腰から玉響を抜いてオルステッドに良く見えるようにする。それは偽物だ、とか言われたらどうしよう…ちょっとショックだ、この剣お気に入りだし

 

「玉響か…噂は虚偽では無いようだな」

 

まさか銘まで当てるとは…世界最強クラスになると知識も必要になってくるのか…まぁ偽物でなくて何よりだ

 

「何故剣の聖地を出た?それにその歳で剣王…実力も申し分無いように見える。何がお前をそこまで変えた」

 

何か…話し辛いなこの人!向こうの言い分ばっか通してきてこっちの話は必要無いと言わんばかりに切り捨てる…嫌な取り引き先と話してるみたいだ

 

「変えた…って、僕は別に劇的に変わったつもりは無いですよ。出来ることを精一杯やった結果です。師匠や両親…聖地の皆の協力ありきだとは思ってますけど」

 

「ニナ・ファリオンはどうした?置いてきたのか?」

 

その名前が出た瞬間、自分の中でこの人に対する警戒心が上がったのが分かる。俺だけではなくニナまで知っている…剣神の娘というだけで別に名を馳せて居ないはずなのに

 

「いや…答えなくていい、根底は変わっていないか。安心しろ、お前が思っている事にはならん」

 

俺の圧などものともせずにまた勝手に納得してしまう。俺がニナの身を案じたのが分かったのか…?というかマジで会話になんないなこの人、俺の接待スキルと酒で懐柔してやろうか

 

「…最後の質問だ」

 

それを言った途端オルステッドの雰囲気が変わるのを感じる。殺気が出ている訳では無いが、喉元まで出ているというのだろうか…必死に何かを抑えているような感じさえする

 

「ヒトガミという単語に聞き覚えは無いか?」

 

「ヒトガミ…?いえ、ありませんが…」

 

この世界の神か何かだろうか…あれ?てことはこれ宗教勧誘の話だったのか?やたら色々聞かれたのは悩みを聞き出そうとした的な?ヒト〇ゲなら知ってますとか言ったら怒られるかな

 

「…そうか、時間を取らせたな」

 

それだけ言うと興味を無くしたようにオルステッドはまた歩き出した。

 

そしてピクリとも動かない商隊を興味なさげに一瞥すると、俺の真横に来て再び口を開く

 

「ジノ・ブリッツ、俺と共に来る気は無いか?俺ならお前を更なる武の高みに連れて行く事が出来る」

 

「え?嫌ですけど…」

 

いや、確かにこの人に付いていけば強くはなれるだろう。だがさっきの問答で分かった…こんな気難しい人の弟子になれば多分あんまり楽しくない。俺は楽しく強くなりたいのだ

 

「…………そうか」

 

あれ?何かシュンとしてる?いや流石に気のせいか、かの龍神ともあろう者がこんな雑な勧誘を断られただけで落ち込む筈は無いし

 

その後オルステッドはこちらを振り向くことなく、俺達とは逆の…聖地の方へと消えていった

 

ニナの事は少し心配だが、何となくあの人が聖地の皆に何かする事は無いだろうと…何故かそう思えた

 

〜〜〜

 

「全く…生きた心地がしませんでしたわ、良くあれとまともに話せましたわね」

 

「そんなに怖かったですか?まぁ高圧的ではありましたけど」

 

「ええ、あれは龍神というより悪神に近いと思いましたもの」

 

オルステッドが居なくなって止まっていた時が動き出したかのように皆が息を吐いた後、再び進行を開始した。

 

口を揃えて俺の事を肝が据わってるとか流石剣王だとか言っていたが…どうも皆と俺の中で彼に対する印象が違いすぎる。皆恐怖の権化とでも言うような印象の悪さだった

 

皆が見ている龍神と俺が見ている龍神が別物とまで思える程だ。だが外見の特徴は差異がない…不思議なこともあるもんだね

 

その後は特にトラブルらしいトラブルも無かった。北方大地を抜けてしまえば気候も穏やかになり、魔物の強さも遥かに下がったのが分かる。

 

エリナリーゼもここまで来れば後は大して気をつけることはないとの事だった

 

「ん…なんですか?これ」

 

長閑な道を進んでいれば、何やら青白く光る石版のようなものが目に入る。何やら七つの紋様が円形に並んでいるようだが

 

「それは七大列強の石碑ですわね、色んな所にあるから珍しいものでもありませんわよ」

 

これは現在の七大列強を示すためのものであるらしく、その人物を象徴するマークのようなものが浮かび上がっているらしい

 

先程の龍神が…これか、なにやら皆が言うせいで禍々しいように感じるな

 

「あ、これ剣神流のマークだ」

 

「六位は剣神ですから当然ですわね」

 

話には聞いていたがウチの師匠は本当に世界で六番目に強いらしい。だが列強上位と下位には大きな差があり、5位以下に関しては同等の実力者が結構いるという話だったな…俗に言う神級という人達だ

 

「良いですね…こういうの、いつか僕もここに名前を刻みたいです」

 

「その歳で剣王ならいつかは刻めるのではありませんの?でもマークが変わらなければあまり目立ちはしないかもしれませんわね」

 

ふむ…確かに言われてみればそうだな。このまま順当に強くなってガルを倒せば七大列強にはなれるだろう…けど多分それならマークは変わらないだろうな、俺のメインは剣神流だし

 

「…デザイン変更はどこに申し立てればいいんですか?」

 

「さぁ…何せずっと前からあるから変更出来るかどうかなんて分かりませんわ。でも、そういう事を考えるのはなってからの方が良いと思いますわよ」

 

それもそうだな、申し立て出来るのかは知らんが考えておこう。

一目でジノ・ブリッツだと分かるようなカッチョイイやつをな

 

〜〜〜

 

「いようしご苦労だったお前ら!途中悪魔みてぇな奴にあったが荷物も俺も無事だ!また聖地に向かう時が来たら頼むぞ!」

 

そんなこんなで俺達はアスラ王国の首都アルスに到着した。

 

2ヶ月にも及ぶ長旅であったが…その疲れを忘れてしまう程、俺は景色に圧倒されていた

 

この世界の中枢と呼ばれているだけあって、クソでかい城に進撃の巨〇みたいなデカい壁がそびえている。

 

けど城壁の外は結構雑多な町並が広がっていた…皇居の周りに大阪の繁華街があるみたいな感じなんだろう。確か城の名前はシルバーパレスだ…心の怪盗が入りそうな城だな

 

「報酬はいつも通りギルドを通じて受け取ってくれ。ジノ、お前には本を1冊くれてやる、それでいいな?」

 

「良いんですか?!さっすがトリネゴさん!」

 

なんやかんや言いながらこの人は毎回報酬をくれるのだ。まぁそれだけ剣王という名前の価値を理解してくれているという事でもある…ありがたい話だぜ

 

後は関所を通れば任務は終了。いや〜嬉しいね、これでやっとふかふかのベッドで寝れるってもんだ…いや、先に仕事探さなきゃか。金も無限にある訳じゃないしな

 

さて…異世界の最もでかい国…堪能させていただこう

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