有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜   作:KEN・JACK

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修行開始

 

「私はタントリス・クルーエルと申します。お目にかかれて光栄です、剣王ジノ・ブリッツ殿」

 

あの後帰ってきたイゾルテの兄と4人で現在テーブルを囲み、顔合わせ会のような物を行っていた。目の前にはイゾルテとタントリスが座り、俺の横にはレイダが座っている

 

「お世話になります、タントリス殿…これからは共に暮らすのですから、称号になど囚われず気軽にジノとお呼びください」

 

「7歳で剣王、そしてこの謙虚さ…聞きしに勝る御仁のようだ、ほら!イゾルテも挨拶しなさい、歳も近いのだからきっと仲良くなれる」

 

タントリスはイゾルテと同じ髪と瞳の色をした好青年と言った感じだ、彼女に似て整った顔立ちをしてるし…モテるんだろうな

 

「兄上…先程も申し上げましたが私は先に顔合わせは済ませておりますので…」

 

タントリスに促されてイゾルテはバツが悪そうにそう返す。もっと頭ごなしに同居を反対されるかと思ったが、兄には強く出れないのだろうか

 

「そんな事言わずにきちんと挨拶しな、こういうのは最初にきちんとしとかないと後々響いてくるもんさね」

 

「…イゾルテ・クルーエルです。宜しくお願い致します」

 

レイダの後押しもあってか、渋々挨拶はしてくれた…だがやはり歓迎というムードは無い。まぁ7歳とは言え見知らぬ男が家に来るのだ、女の子としては頂けないのは理解出来る

 

「明日からはジノも一緒に鍛錬してもらう事になる…知ってると思うけど、この子は天才という言葉では測れない規格外の剣士。今は水神流を使えないけど、あっという間に抜かされてしまう事もあるだろう…2人とも心しておくんだよ」

 

2人に発破をかけるつもりなのだろうが、少し褒めすぎでは無かろうか。確かに剣神流も北神流も適性はあったけど…それで水神流が出来るとは限らない

 

「分かっておりますお祖母様、他の流派の王級剣士と共に高めあえる機会。無下にするつもりはございません」

 

タントリスはさも当然というように頷く。年下の俺に対してなんとまあ人が出来た方なのだろうか…イゾルテが聖級なら彼も王級クラスはあるのだろう

 

「…お言葉ですが、剣神流を使うならまだしも…水神流で私がこの方に遅れを取る事はありません。それを明日から証明致します」

 

だがイゾルテは対照的に手厳しい、たがまぁ実際水神流だけで考えればそうだろう。聖級の彼女と初級にすらなってない俺…実力は天と地の差だ

 

「珍しく言うじゃないか…年下に負けたのが余程悔しかったんだねぇ」

 

「剣王を前にしてその胆力…さすがイゾルテだ」

 

レイダとタントリスは満足そうだが…一緒に暮らして行く上で仲良く出来ないというのは致命的だ。何とかして彼女との距離を縮めないとな

 

「そうですね。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」

 

「…明日は今日のようには行きませんから」

 

出来るだろうか…

 

〜〜〜

 

次の日から水神流の鍛錬が始まった。

 

レイダの家は道場に隣接しており、朝起きてご飯を食べて支度したら直ぐに剣の修行が始められる環境にあった…ガルの家も本道場の近くだったし、神級の剣士は皆そうなのか?

 

「さて…ずっとあたしが剣を教えてやれればいいが、水神という立場は如何せん忙しくてね…悪いけど教えてやれるのは朝のうちだけだからね。ビシバシ行くよ」

 

早朝、道着に着替えた俺、イゾルテ、タントリスは道場にて正座して居た。目の前には仕事着なのか昨日と同じ格好のレイダが立っていた

 

剣神とは違うんだなという失礼な言葉を口に出すことは無かったが、そもそも流派のトップに毎日教えて貰えるのが極めて贅沢なのだ。ガルは基本やりたいようにしてたけどね

 

「ジノも大体は知ってるだろうけど、水神流の剣は守りの剣…剣神流みたいな攻めの剣とは対極に位置する。それは基本となる【流】を軸にした…ってあんた程の剣士に論理を説明したって仕方ないね」

 

口で説明する時間は惜しいというように、レイダは後ろに置いていた木剣をこちらに投げて寄越す。同時にレイダ自身も木剣を拾い上げて言う

 

「打ってきな、光の太刀を使っていい…本気でね」

 

「…よろしいのですか?」

 

無論、レイダの心配をした訳では無い。彼女が老婆の姿をした怪物だという事は理解している…殺し合いなら100回やれば100回レイダに殺される事は明白だ

 

だが水神流を学ぶ時に剣神流を使うのは如何なものかという事だ。剣王とはいえ今は水神流の初級剣士なんだし

 

「まだ何も教えてないんだ、構いやしないよ」

 

「かしこまりました」

 

許可を得れば遠慮する事は無い。俺は立ち上がればレイダに向き合い、いつもの居合の構えを取る…勿論勝てないからと言って負けるつもりで剣を振る気は無い。殺す気で行かせてもらう

 

「剣王の光の太刀を間近で見られるとは…!」

 

タントリスは興奮しているが、イゾルテはやはり憎々しげだ。自分に恥をかかせた他流派の奥義…まぁそりゃ嫌いになるよね

 

いつものように精神を研ぎ澄ませ、剣に闘気を集中させて行く。試合と違って全力で打ち込むだけだ…120パーセントの奴をぶち込ませて貰うとしよう

 

「…光の太刀」

 

道場の床が爆ぜたかのような爆音と共に、俺の肉体が、剣が光と化す。

腰から抜き放たれたその剣は真っ直ぐにレイダの喉元へと向かい…

 

それを防ぐべく重ねられた剣が、ぬるりと俺の光の太刀の威力を殺した

 

あまりにも気味の悪い感触。必ず殺すべく作られた光の太刀が、意味の無い振りに変えられた事を察した次の瞬間

 

「あだっ!?」

 

無防備になった俺の首筋に木剣が振り下ろされた

 

「とまぁ、これが流だよ。光の太刀が無効化されたのは初めてかい?」

 

「…そうですけど、叩く必要ありました?」

 

「覚えるには痛みが一番だからねぇ」

 

穏やかに見えてもやはりこの人も剣士なのだ…こういう所がある。

俺は打たれた首筋を抑えながら立ち上がる

 

にしても見事な技だった…北神流のカウンターなら俺も使えるけど、何かこう頭一つ上の受け技っていう感じだな

 

「流石は師匠!見事な流でした!ジノも素晴らしい光の太刀だった!」

 

タントリスは興奮冷めやらぬといったように拍手をし、イゾルテもレイダの技に見惚れているようだった…やはり基本と言えど水神の技は規格外なのだろう

 

「本来流は上級で教えるものだけど…基礎なんて今更だろうし、当分は流を習得することを目標にって感じかね」

 

てことは流は剣神流で言う所の無音の太刀的な感じの技なんだな…無音

の太刀はずっと見てたからすぐ出来たけど、これは感じも違うし難しそうだ

 

「分かりました、精進します」

 

「なに、あんたならすぐ使えるようになるさね…次はタントリス、ジノの剣を受けときな、いい経験になるよ」

 

イゾルテは昨日俺の光の太刀を受けているからという事で、タントリスが俺の一撃を受け流す事になった。イゾルテの兄という事で王級以上を見込んで本気で放ったらタントリスが吹き飛んだ

 

後から聞いたらタントリスは上級らしかった…先に言ってよ…加減したのに…

 

〜〜〜

 

日中は基本的に水帝が中心となって門下生を鍛えているという形だった。

 

レイダは水神の仕事があるから顔を出すのは終盤らしく、俺も水帝から技を習う機会が必然的に多かった

 

「お前は剣王だから仕方ないが…相手の隙に敏感すぎるな、それでは水神流の技は冴えない。誘い、受け流し、崩した所を刺す…どれだけ上達しようともここだけは変わることが無い…覚えておけ」

 

と、水帝に言われることもしばしば。北神流の時は特に違和感無かったが、流石に剣王くらいにまで習得すると真反対の水神流は中々覚えにくかった。とはいえよく見て、よく食らっていれば少しずつ分かってくる

 

「おっ…今の出来てたんじゃないか?」

 

ペアになって流の訓練をしていると、不意に何かを掴んだような感覚が訪れる。

 

相手の剣をガードするのでは無く、水が岩を避けて流れるようにエネルギーを違う場所へと流す…なるほど、流とは良く言ったものだ

 

「流石は剣王様ですね、もう習得してしまったのですか?」

 

すると、いつの間にかイゾルテが背後に立っていた。わざわざ俺の特訓を見に来たのだろうか…聖級だからちょっと離れた所でしてたのに…

 

「いや…まだまだですよ、確実に成功する訳じゃないですし」

 

「そうですね…今の流では貴方の光の太刀は到底受け流せないでしょう」

 

褒められてんのか貶されてんのか分かんないな…だがイゾルテが言う事に間違いは無い。今のでは俺どころか剣聖の光の太刀も受け流せないだろうからな

 

「それで…どうしたんですか?」

 

「次は模擬戦なので…お師匠様から模擬戦は貴方と行うようにと命じられていますから」

 

なるほど、レイダは俺とイゾルテを好敵手にしたいんだったな…今の俺では水神流のみで彼女といい勝負が出来るとは思えないが…まぁいい、相手が強ければ強いほど成長するのが模擬戦だ

 

「分かりました、よろしくお願いします」

 

結果は言うまでもなく惨敗だった。

 

光の太刀も北神流も封じられた俺は剣の振り方を知っているだけのやつに成り下がってしまい、ついぞイゾルテに一太刀も浴びせられる事は無かった

 

「ぐぬぬ…」

 

「言ったでしょう?昨日のようには行かないと」

 

倒れ伏す俺に、イゾルテは誇らしげにそう言い放つ…俺剣神流使ってねーし!とか小学生みたいなことを言う事は出来るが、今は水神流を学んでいるという環境だ…そこを言い訳には出来ない

 

「…もう一度お願いします」

 

「いい心がけですね、お相手しましょう」

 

だがこのままやられっぱなしというのも癪に障る。せめて一泡吹かせてやらんとぐっすり寝ることは出来ないだろう

 

再度イゾルテと向き合い、様々な角度から剣を打ち込むが…見事に流されて打ち込めば打ち込むほど不利になっていく…だが先程と同じようには行かない

 

「ここっ!」

 

「あっ!」

 

体勢を崩して好機と見たイゾルテに、無音の太刀を放って木剣を弾き飛ばす。光の太刀ほどド派手じゃないからバレないだろう…北神流の誘剣も使ったけど1回位いいよね?

 

 

「ちょっ…今剣神流使いましたね!?」

 

「今のが剣神流だと?ははっ、お戯れを」

 

「この…良くもいけしゃあしゃあと…!」

 

イゾルテには気付かれたようだが、シラを切り通してしまおう。闘気もそんなに込めてないし、確固たる証拠は無いはずだ

 

「水神流にカウンター以外で今の剣速を出せる技はありません!」

 

「技という程では無いでしょう?おや、僕にはなんてこと無い物が水聖殿には技に見えてしまうのですか?」

 

「急に私が流せなくなる訳ないでしょう!?」

 

はは、諦めたまえイゾルテ女史。証拠が無い以上君が踏み込める所では無いのだよ…というようにのらりくらりと躱していたのだが

 

「随分と仲が良いようだな」

 

「「あ…」」

 

水帝の接近に気付かず、情けないことに罰を与えられてしまうのだった

 

〜〜〜

 

「貴方のせいですからね…」

 

「突っかかってきたのはそっちじゃないですか」

 

稽古中に喧嘩をしていた罰として、俺とイゾルテは修行終わりに道場の掃除を命じられていた。この広い道場を修行終わりに2人で掃除するのは中々に骨が折れる

 

イゾルテは俺が悪い事にしたいようだが…まぁ今回に関してはお互い様では無かろうか

 

「…どうして旅に出てまで水神流を習うのですか?貴方には剣王の位もあるし、北聖の認可もあるのでしょう?」

 

最初は黙々と手を動かしていたイゾルテだったが、暇になったのか唐突に話しかけに来る。驚いたな、話したくもない位かと思ってたのに

 

「何故と聞かれたら難しいですけどね…別に目的のある旅では無かったし…強いて言うなら僕が強くなると喜んでくれる人が居るからですかね?」

 

思い返すのは両親とガル…そしてニナの顔。7年間毎日居たからいざ会わないとなると変な感じだ…小学校を卒業した気分に近いな

 

「意外ですね、剣神流はひたすら自分の為に強くなるものだと思っていました」

 

まぁ確かにそういう人が殆どだったかも知れない。ガルも己の為に剣を振るえといつも言っていたし…その真意を捉えていた人は少なかったけど

 

「イゾルテは…何故剣を振るうのですか?」

 

水神の孫だったから、と言われたらそれまでかもしれないが…それを言うなら俺だって剣帝の子だからという風になってしまう。だがそれだけが理由では無い筈だ…それだけならここまで本気になる事は出来ない

 

「そんな難しい事を考えながら修行しているのですね」

 

「いや…別にいつも考えてる訳じゃないですけど、剣王になる時に師匠に聞かれた事があったので」

 

ガルに聞かれた事はこういう事では無かったが、本質的には似たような質問だろう。

 

「…恩返しですよ、兄上と…お祖母様に対しての」

 

恩返し…ガルが聞いたらなんと言うだろうか、きっと甘っちょろいとか言うんだろうな。けれど剣神流と水神流を同じ尺度で見るのもまた違うはずだ

 

「お気づきかと思いますが、私と兄上には両親が居ません。名誉の死だったと聞いています…小さい私は理解できなかったですけどね」

 

レイダと暮らしている時点でそうでは無いかと感じていたが、やはりそうだったか…少し不躾な質問だったかもしれない

 

「すみません、配慮が無かったですね」

 

「いつか分かる事ですから、お気になさらず」

 

イゾルテは本当に気にしていないというようにそのまま話を続ける

 

「生活はお祖母様が居たので困りませんでしたが…私の世話をしてくれたのは兄上です。兄上とお祖母様無くして今の私は有り得ません」

 

そういう事なら師であるレイダだけではなく、階級が下のタントリスに頭が上がらないのも納得出来る。

 

「ですが兄上は…剣術の方がその…あまり得意では無いので。私が2人に何か返せるとしたら…剣しか無いのです。水神流を極め、2人を安心させたい…それが私の剣の全てです」

 

確かに…今朝も吹き飛んでたしな。あれがイゾルテであれば防ぎきれずとも致命傷を避ける位は出来るだろう…戦闘続行可能かはともかく

 

「少し話しすぎましたね…剣王殿には退屈だったでしょう」

 

「いえ、とても立派な志だと思います」

 

剣士という括りの中にも、様々な想いを持ち、理由があるのだと気付かされた…異世界から来て場所が聖地だからと、そんななし崩しで剣を振る俺は不純なのかもしれない

 

勿論ゼタやティモシーに喜んで欲しいという気持ちに嘘は無いが、それでも…イゾルテの純粋な想いには遠く及ばないと感じた

 

「この位で良いでしょう…兄上とお祖母様も待ってますから、帰りましょうか」

 

日も落ちて暗くなって来たので、掃除用具を片付けて家に戻った

 

イゾルテの事が少し分かった気がした

 

 

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