有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
後投稿している以上は初見さんが見えて、意味わからないのでは良くないというお声がありましたので、あらすじにざっくりと今までの流れを書き残しておきたいと思います
「…」
早朝、レイダとタントリスが見守る中…俺はイゾルテと向き合っていた
手には木剣を握り、俺は上段に、イゾルテは下段に剣を構えて静かにその時を待つ。
ガルが見たらいつまでお見合いしてるんだと文句を垂れるであろう時間が過ぎた頃、動き出したのは俺の方だった
剣神流を使わず、上段から振り下ろした剣はイゾルテの剣とぶつかり…そのまま受け流される。だが俺の体勢は崩れない
隙を縫うように顔面へと突き出された剣をこちらも同じように流せば、そのまま静かに流を使った剣戟が始まる
聖級の剣士が打ち合っているとは思えないほどに静かな剣戟は、互いの隙を見出すカウンター合戦。相手の流しにくい箇所を狙って上から、下から、横から…様々な攻撃の流し合い…しかし水の流れにも永遠は無い
「っ…!」
積み重ねられた差が俺に大きな隙を産む。まるで水が岩を削るかのように少しずつ崩されていた体勢が大きく崩れた時、イゾルテの剣が俺の手首を捉えた
「そこまで」
レイダの声で動きを止めた俺たちは少し距離を取って礼をする。タントリスには勝てるようになったが…イゾルテに対する勝率は3割ほどだった
「見事だよイゾルテ…もうじき水王の称号もあげれるだろうね」
「ありがとうございます」
腫れた手首をスクロールで治癒していると、イゾルテはレイダからお褒めの言葉を頂いていた
彼女の成長は俺から見ても分かった。レイダは俺が来てから慢心が無くなったと言っていたが、あまり関係無いのではないかと思う
「ジノ、あんたはもう水聖を名乗って構わないよ。まぁ名乗るなら剣王だろうけど、これで三大流派は全て聖級以上…恐ろしい話さね」
俺がアスラに来てから半年、遂に 水聖の称号を獲得した。レイダ曰く三大流派を全て聖級以上にしたものは歴史上でも数人らしい
その素質を持った男が十数年前居たらしいが…不真面目だったので出来なかったとレイダはぼやいていた
「おめでとうジノ、分かってはいたがやはり敵わないな!お前の才能は神から賜ったものに違いない」
タントリスはまるで自分の事のように喜んでくれた。後から来たガキに抜かれてこんなに賞賛出来るとは…なんという人間性だろうか
「私と並んだ、等と思わないでくださいね?ここで満足されると張り合いがありませんから」
イゾルテも一応祝福はしてくれているのだろう。この半年で仲良くなった…かどうか分からないが、ライバルっぽくはなれたと思う…多分
「まさか、戦績を見たらそんな自惚れは出来ませんよ…でもすぐ追いついて見せます」
とは言ったものの、イゾルテは強い。実際水神流で追いつけるのはまだ先の話になるだろう
「ジノ、あんたは今日から水聖として5つの奥義の修行に入ってもらうよ」
お祝いムードから一転、レイダは険しい顔をして俺にそう言い放つ。
5つの奥義…それは初代水神レイダルが編み出した水神流の極意と呼べる技という事らしい
剥奪剣、断界、凪、直瀑、無形…全てを収めた者は初代のみで、レイダルは更に魔術までも極めていたそうだ…化け物じゃん
「流をマスターするのに半年…先は長そうですね」
「そうでもないさ、普通はもっとかかるんだからね…あんたなら5つ全て使えるようになっても驚きやしないよ」
それは流石に無理だろう、少なくとも海竜王とか言う化け物を倒せる気はしないし
「さぁジノ!次は私と勝負してくれ、今日こそ勝ってみせる!」
タントリスが意気揚々と勝負を仕掛けてきたが、結局俺が勝ってその日の朝練は終了した
〜〜〜
俺は8歳になった。
前の世界での俺は8歳の時何をしていたかふと考えるが…多分ポケモンをしていたような気がする。寝ても醒めてもポケモン…それが今では歴史上数人しか居ないという剣士になってしまったのだから変な感じだ
「さて…今日は何をするかな…」
本日は休暇の日、普段剣を振ってばかりな分勉強や小遣い稼ぎの依頼にでも行きたい所ではあるが…
「ジノ、いますか?」
部屋でそんな事をうっすら考えていると、ノックと共にイゾルテの声が聞こえてくる。珍しいな、道場では話すが家でイゾルテが絡んでくる事は滅多にない
「どうしたんですか?」
扉を開けて外に出れば、そこには道着とも部屋着とも違う…言わば外行きの服に身を包んだイゾルテが立っていた。ほのかに香る甘い香りは香水だろうか
「休みの日というのは承知していますが、暇なら買い出しを手伝ってくれませんか?量が多くて1人では大変ですし、兄上の手を煩わせるのも忍びないので」
何だ、デートに誘われたのかと思ったぜ…いやでもなんでそんなお洒落してるんだ?買い物に行くだけだろ?
「構いませんが…買い物に行くのに随分かわいい格好をしてますね、何か予定でも?」
「クルーエル家の者として相応の身なりをしているだけです。貴方も同行頂けるならきちんとした服装でお願いします」
なるほど…言われてみればまぁ確かに水神の家系だし下手な格好は出来ないか。
「分かりました、少し待っていてください」
まぁ男として無難な格好くらい揃えてますとも、女にモテるためには服装、髪型、眉毛、そして清潔感に話術だ…これさえ備えておけば顔の優劣などある程度カバー出来る
「お待たせしました」
「…まぁいいでしょう、まずは日用品からです」
服を着替えて外に出れば、一応はイゾルテチェックもクリア出来たようだ。少し間があったのが気になるが、本を買うためにケチらずに服に回しといて良かったぜ
アスラの商店街というのは、聖地の街とは比べ物にならない賑わいだ。
扱っている物の質や量が高いのは勿論。人の数というのも桁違い
もう慣れはしたが7年間田舎暮らしをしていた俺は当初かなり戸惑った覚えがある
「買う物はここにメモしているのですが…字は読めますか?」
バカにされてるのか?と思ったがそういえばこの世界は識字率が日本基準では無いのだった。ましてや剣の聖地から出てきた田舎のガキだ、読めないと思われてもおかしくは無い
「読めますよ、一応獣神語も」
「え?凄いですね…聖地は教育にも力を入れているのですか?」
「まぁ…場合によっては」
まさか、人間語も読めない人が殆どである。なので合間を縫って勉強していた俺がその場合である。異端だったとは言わないでいいだろう
「手分けしたい所ですが、ジノに任せたら時間がかかりそうなので荷物持ちをお願いします」
「いや…まぁ否定はできないか…」
買い出しを手伝えと言われたのは今日が初めてだ、故にどこに何があるか正確に把握はしてない。文字が読めても時間はかかるだろう
イゾルテの買い出しスキルは見事なものだった。多忙なレイダに変わって常に家のことをしてくれていたのがよく分かる…
俺も掃除くらいなら手伝っているが、もっと綺麗にしてと怒られてばかりなので…貢献度に関しては比べるべくもない
「ちょっとくらいならお菓子とかを買っても構いませんよ?」
ふとイゾルテがそんな事を言い始める。子供扱いされているのだろうか…いやまぁ実際イゾルテからしたら生意気な弟みたいなポジションなのかもしれない
「大丈夫ですよ、お師匠様からお給金を頂いてますから」
とはいえ多分イゾルテのお小遣いよりは貰っているのだ、気を使われてもこちらが困ってしまう
「そうなのですか?剣を教えて貰ってお金まで貰えるなんて…何かちょっとズルいですね」
そう言うとイゾルテが可愛くむくれる。実際水神流の実力は彼女の方が上だし気持ちは分かるけど、旅の途中で依頼されてる身だからね
その後も他愛の無い会話をしながら買い出しを続けていると、騒がしい商店街の中でも一際大きな声が響き渡る
「誰か止めてくれ!傷付けるんじゃねぇぞ!」
声の方を見れば、何らかのトラブルで興奮した馬が暴走しているようだった、まぁ今更馬程度でどうこうなる事は無いが…危ないのは危ないな
「危ない!」
俺が呑気な事を考えていると、急にイゾルテが駆け出す。その先には転けてしまった…妹だろうか、それを何とか起き上がらせようとする小さな男の子の姿があった。運悪くそこには馬が向かってきており…非常に危険だ
「しまっ…!」
だが帯剣していないのを忘れていたようで、剣を抜こうとしたイゾルテの右手が空を切る。流石のイゾルテも剣無しでは暴れ馬の相手は出来ない
「すみません、借ります!」
「ておい!坊主!危ねぇぞ!」
武器を売っている商店から剣を拝借して地面を蹴る。馬も速いが剣王の踏み込み程では無い
そのままイゾルテと馬の間に入り込めば、馬は勢いのままその蹄をこちらに振り下ろさんと前足を高く上げる
「流」
その蹄を剣で受けて流せば、そのまま手綱を掴んで飛び乗り…何とか落ち着かせることが出来た…やってて良かった冒険者ってとこだな
「大丈夫ですか?」
「………た、助かりました。ありがとうございます」
イゾルテは緊張が解けたのか謎のタイムラグがあったが、一応は無事なようだ。少し顔が赤い気がするが…急に走ったからだろう
遅れてぱちぱちと周りから拍手と賞賛が送られる。やめなって、褒めても何も出ねぇやい
「ありがとうお兄ちゃんお姉ちゃん!凄くかっこよかったよ!」
すると助けた男の子からもお礼の声を頂けた。後ろにいた女の子もその男の子の背中にしがみついて羨望の眼差しを向けられている…気がする
「妹さんですか?」
イゾルテが男の子に尋ねると、男の子はこくこくと頷く。暴れ馬が居る状況でよくぞ逃げなかった…彼は戦士だな
「これからも妹さんの事を守ってあげてくださいね、きっと頼りにしてると思いますから」
「はい!」
イゾルテに頭を撫でられた少年はいい返事をした後、もう一度頭を下げて妹と二人で帰って行った。
彼女が剣を持ってないことを忘れるほど必死だったのが何となく分かった
「いや〜助かりました…もしかしてですが、貴方様は【幼剣王】様で…?」
するとタイミングを見計らっていたかのように先程叫んだ商人が現れる。なんだその称号は、要件を掻い摘んで言うのがめちゃくちゃ上手いやつか?
「我々が誰かなどどうでも良いでしょう、貴方…自分がどれだけ危険な事をしたのか分かっているのですか?」
「も、勿論でございます!後日改めてお礼もさせて頂きますので…」
イゾルテが凄むと、腰が低かった商人が更に小さくなる…攻撃が随分当たりにくそうになったな
「あの…幼剣王ってなんですか?」
「ご存知ないので?北聖の認可を持つ小人族の剣王が、最近水聖の認可も得た。その唯一無二を称してと…少し前から有名ですが」
小人族…ってなんとまぁ失礼な!いやでも確かに8歳でこの経歴は異常だとしたら、小人族扱いなのもうなずける…最近背も伸びたんだけどな
「小人族…ふふ…」
イゾルテは俺が小人族扱いされたのが随分お気に召したようで、小さく笑みを零していた…皆して失礼なやつだ…
「そうなんですね…ま、まぁ次から気を付けてくださいよ。僕らみたいなのが常に居るとは限りませんから」
釘を刺して馬を返せば、商人は何度も頭を下げながら消えていった。
「すみません勝手に使って…幾らですか?」
「馬鹿言え、幼剣王様に人助けに使って頂いたんだ。金なんて取らねえよ。好きに使ってくれ」
何と気のいいおっちゃんだろうか…とはいえ玉響があるから使い道は薄そうだ。まぁ予備に持っておくとしよう
でもやっぱ幼剣王なんだな
〜〜〜
「今日はありがとうございました、色々と助けて貰って」
「いつもお世話になってますからね、当然ですよ」
買い物を終えて家に帰ると、イゾルテがお礼を言ってくる。
どうせ何をするか決めあぐねていた事だし、なんやかんやイゾルテと話すのも楽しかった。良い休日だったのではなかろうか
「その…そう!買い出し!お手隙ならまた…手伝ってもらっていいですか?」
少し言いにくそうに続けた言葉は、別になんて事の無い事だった。それくらいなら暇ではなくても手伝うというのに…律儀だな全く
「いつでも言ってください、余程の予定が無い限りはお供しますから」
居候の身だ、家のことをしなくてはという気持ちはずっとあった…それが買い出しであると言うのなら幾らでも付き合おうでは無いか
「ありがとうございます…今日はジノの好物を作りましょうか。助けてもらったお礼です」
嬉しそうに笑うイゾルテの顔を見て、何故かニナの事を思い出したのだった